磁石にはいくつかの種類が存在し、使い勝手やコストなどの要素をふまえて、製品に適したものが選ばれます。今回は、磁石の種類の中で広く使用されているフェライト磁石について説明します。
■世界中で広く使用される酸化鉄を用いた磁石
フェライト磁石とは、酸化鉄を用いて製造される磁石。コストパフォーマンスに優れ、世界中で広く用いられています。学校の授業などで見られるU字型磁石や、ホワイトボードなどに使用するカラーマグネットに使用されているため、日常生活で目にすることも多いでしょう。フェライト磁石の原料となる酸化鉄は腐食に強く、錆びる心配はほぼありません。また、安定した磁気特性を持っているため、屋外などの過酷な状況や高温下でも磁力が弱まることがないのも特徴です。ただし、低温にはやや弱く、-30℃を下回る環境下では磁力が低下する可能性があります。
■フェライト磁石の特徴
では次に、フェライト磁石が持つ主な特徴についてあげていきます。
・安価で生産しやすい
フェライト磁石が広く普及している理由には、使い勝手や安定性に加えて、製造過程で生じるメリットがあります。まず、フェライト磁石の原料は資源として豊富であり、特に酸化鉄に関しては鉄工業で生じた鉄くずを使用して製造できるため、材料費がとても安価です。さらに、酸化鉄はもともと酸化した状態であるため、製造過程での酸化を気にする必要がなく、生産しやすいこともメリット。たとえば、ネオジム磁石は酸化防止のためのメッキをしていないと、空気に触れることで品質に影響が出ますが、フェライト磁石はすでに酸化している状態と同じため、空気に触れても問題ありません。
・陶器に似た性質を持っている
フェライト磁石は、基本的に陶器の原料のセラミックという仲間である磁石の粉を圧縮して焼き固めて成型します。そのため性質としては陶器に似ており、比較的割れや欠けが生じることが難点です。角や外周りが欠けたり、衝撃で割れたりといったことも考えられます。
・磁石の粉末を混ぜることでさまざまな素材が磁石にできる
フェライト磁石は、原料となる粉末を混ぜ合わせる素材によって、その素材の性質と磁石の特性を合わせ持った物質に生成することが可能です。
・プラスチックマグネット
フェライト磁石の粉末にプラスチックや熱可塑性樹脂を混ぜ込むと、さまざまな形に成型することができます。これにより、複雑な形状にすることも可能です。また、プラスチックの性質により割れたり欠けたりといった現象も起こりません。
・ラバーマグネット
ラバーマグネットは、フェライト磁石の粉末と合成ゴムを混ぜ合わせて製造します。合成ゴムの性質を持つことから柔軟性に優れ、切断などの加工を行うのも簡単です。帯状のものはパッキンなどに、シート状のものはステッカーなどに用いられます。
■素材のフェライトは日本で生まれた
フェライト磁石のルーツは、1930年(昭和5年)にさかのぼります。東京工業大学の博士であった加藤与五郎氏と武井武氏が金属酸化物に存在する磁性を発見し、フェライト磁石の前身であるOP磁石の開発にこぎつけました。その後、永久磁石のほかにトランスのコアとなるソフトフェライトも開発され、その技術を工業に活かすべく、東京電気化学工業(現TDK)が誕生したのです。同社の功績により、ソフトフェライトはラジオや無線通信機、テレビのブラウン管、テープレコーダーやビデオデッキの磁気ヘッドなどに使われるようになり、一方、ハードフェライトと呼ばれるフェライト磁石は、それまでのMK鋼やKS鋼という金属磁石に代わって、各種スピーカー、モーター、電子レンジなど工業用、家電用に幅広く普及して行きました。
フェライト磁石の用途は非常に幅広く、現在私たちが使っている電化製品などにもよく用いられています。コストパフォーマンスや安定性に優れ、さまざまな素材と混ぜ合わせることも可能ですから、工夫次第で用途はさらに広がっていくでしょう。