永久磁石は、周囲の環境にかかわらず常に磁気を帯びていますが、それでも何らかの原因によって劣化することはあります。そのため、使い続けていると磁力が弱まり、本来の力を発揮できなくなる可能性があるのです。磁石が劣化する原因とその対処法には、どのようなものがあるのでしょうか。
■磁石が劣化する原因
磁石の劣化とは、磁力の低下(減磁)や腐食などがあげられます。こちらでは、磁石の劣化が起こる原因について見ていきましょう。
・経年による劣化
永久磁石とはいえ、どのようなものもある程度年数が経過すると減磁していきます。減磁の速さは磁石の種類によって異なっています。例えば、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石、フェライト磁石などは比較的経年による減磁が緩やかです。一方で、アルニコ磁石は減磁しやすいとされており、取り扱いには注意が必要でしょう。
このような減磁の大小は保磁力の違いによって決まり、保磁力が大きければ経年による減磁は小さくなるのです。保磁力とは、磁性体が磁化した状態から逆向きの磁場を作り、磁化が0になるときの磁場の強さを指します。この値が大きければ、磁力が減衰するのに大きな磁場を要するため、磁力が減衰しにくいと考えられているのです。
・外部の影響によるもの
磁石の劣化は経年による減磁だけではなく、外部の磁界に影響を受けて減磁するパターンもあります。外部の磁場が強力であればその分減磁は大きくなり、磁石の保磁力が小さい場合も減磁しやすいでしょう。
これは、磁石が持つ磁化の方向と逆方向に外部磁界が働いたときに減磁する磁石の性質によるものです。前述したように、保磁力が小さいことは小さな磁場でも磁化が0になることを指すため、減磁しやすいといえます。磁場のある状態で磁石を使う場合は、あらかじめ保磁力の大きなものを選ぶことをおすすめします。
・温度の上昇による劣化
磁石は温度の変化によっても磁力が変化し、その温度は磁石の種類によって違いがあります。高温になった場合には磁力は減衰していきますが、一定温度を超えない範囲であれば、温度を下げることで元の磁力を取り戻せる場合が多いです。
一定温度を超えた高温になってしまうと、磁石は常温に戻っても元の磁力に回復しないか、磁力を完全に失います。磁力を完全に失うラインの温度はキュリー温度と呼ばれ、キュリー温度を超えて磁石を使用した場合、磁力が元に戻ることはありません。キュリー温度は磁石によって異なり、アルニコ磁石で850℃、サマリウムコバルト磁石で800℃、フェライト磁石では450℃程度とされています。ネオジム磁石は比較的熱に弱いため、320℃程度となっています。
・そのほかの原因
上記以外で、磁石が劣化し減磁する原因として腐食があげられます。磁石の素材が酸化して錆ができ、錆の部分にある磁石の原子の磁極がバラバラになることで、保磁力を保てなくなってしまうのです。ただし、フェライト磁石は原料が酸化鉄であるため、錆に強いとされています。
また、衝撃が加わった場合も原子の磁極の向きが崩れるため、減磁の原因になります。そのほか、磁石の内部で本来の磁場と逆方向の磁場(減磁界)が生じ、自己減磁を起こす場合もあるようです。
■弱くなった磁石は回復させる方法がある
減磁してしまった磁石は、元の磁力を取り戻せるのでしょうか。結論をいうと、取り戻すことは可能です。その方法は、磁力が強い別の磁石に吸着させるだけで取り戻すことができます。これにより、原子の磁極の向きが一定にそろい、磁力が回復するのです。これは、磁力を持たない釘などに磁石を近づけると磁力を持つのと同じ原理で、磁力を発生させています。
また、着磁と呼ばれるコイルを巻いて電流を流すことで、磁力を回復させることが可能です。磁石は、もともと磁力を持っていない状態から作り、磁場に触れることで磁力を持つようになります。コイルと電流によって、同じように磁力を作りだしているのです。
■磁石の保管方法
磁石の磁力を維持したまま保管する方法について紹介します。比較的簡単にできる方法は、磁性体である鉄製品などに磁石を吸着させた状態のままにしておくことです。この状態にすることで、常に安定した磁気回路を保つことができ、減磁が起きにくくなります。
また、ある程度磁力がある磁石はそのまま放置すると、クリップや画鋲などの小物を引き付けてしまい、危険な状態になってしまうかもしれません。こういった危険を回避するためにも、鉄製品などに吸着させた状態を保つことで安全といえます。そのほか腐食を防止するためには、湿度が低い環境で密閉容器に保管し、腐食が進みにくい状態にするのが良いでしょう。
■磁石の劣化を防ぐための処理
次は、磁石の劣化防ぐための加工処理について紹介します。腐食や傷から守る加工処理は、主に磁石の表面に施す2種類の方法があります。
・メッキを施す
磁石にはメッキ加工が施されることがあり、これらのメッキの材料として以下の2つの素材が代表的です。
※ニッケルメッキ
ニッケルは比較的硬い金属であり、傷がつきにくいことから磁石を傷から守ってくれます。また耐食性にも優れているため、錆から守る役割も果たします。特に腐食しやすいネオジム磁石のメッキには、ニッケルが使用されていることがほとんどです。
※亜鉛メッキ
亜鉛も優れた耐食性を誇ることから、磁石の簡易メッキによく用いられています。ネオジム磁石に加えて、磁石の磁力を増幅させる役割をもつヨーク(継鉄)のメッキにも適しているでしょう。また、耐食性をより強化するためにクロメート処理が施されるのが一般的です。
・表面にコート処理をする
磁石の表面加工処理には、金属でのメッキ以外に以下のような方法で行う場合もあります。
※エポキシコート
エポキシ樹脂を使用して磁石をコーティングするもので、硬さがあり傷がつきにくいため、磁石のコート処理に適しています。耐食性にも優れており、素材に密着しやすいことから、はがれも防ぐことができるのです。エポキシコートは、ネオジム磁石においてニッケルメッキと併用されることもあります。
※ナイロンコート
ナイロンに関しても耐食性に優れていることから、ネオジム磁石のコーティングによく用いられています。衝撃にも強い性質を持つため、フェライト磁石やサマリウムコバルト磁石のように破損しやすい磁石にも有効といえるでしょう。
磁石が持つ磁力は永遠に同じ状態で続くものではなく、少しずつ劣化していくものです。上記で紹介したような原因があげられますが、磁力を回復させる方法や保護する方法もあります。製品などに使用する場合は、劣化に関しても考慮に入れておくことをおすすめします。