磁石のほとんどが金属でできているというイメージをもつ方も多いのではないでしょうか。しかし磁石は金属だけでなく、さまざまな材料を混ぜられてつくられます。ここでは、車や家電品などあらゆるところで活躍する金属以外の磁石の種類について特徴や用途をご紹介します。
■磁石の材料は金属だけじゃない
皆さん良くご存じの高性能磁石の原材料は、主に鉄、ネオジム、サマリウム、コバルトなどです。これらの金属磁性粉末を成形して焼き固めた磁石を「焼結磁石」と言います。市場に流通している多くの高性能磁石は、このような方法でつくられるため、「磁石=金属」といったイメージをもつ方は多いかもしれません。しかし、金属以外の材料を使った磁石もあります。
磁性粉末を他の材料と混ぜ合わせてつくった磁石のことを「ボンド磁石」と言います。このボンド磁石の材料に使用される原料は、プラスチックや樹脂、あるいはゴムといった金属でないものが用いられます。また、金属以外の磁石の種類は、大きく分けて「プラスチックマグネット」「ラバーマグネット」という2種類です。
プラスチックマグネットは、その名の通り磁性原料にプラスチックを混合して溶かし、成形した磁石のことです。磁力は金属のみでつくられた焼結磁石と比べて劣りますが、金型に合わせてどんな形に成形することができます。そのため形の自由度が高く、複雑な形状をした精密機械にも使用される点が特徴です。
ラバーマグネットとは、磁性原料にゴムを混合し、薄くシート状にした磁石です。こちらも焼結磁石に比べて磁力は劣りますが、柔らかくて折り曲げやすいため、カッターやハサミでも加工しやすい特徴があります。そのため一般家庭でも多く用いられているようです。
ここではプラスチックマグネットとラバーマグネットの特徴について詳しく紹介します。
■プラスチックマグネット
磁性原料(金属)とプラスチックを混ぜて成形するマグネットです。プラマグとも呼ばれ、磁性原料の種類や成型時の極性付与の有無などによって、いくつかの種類に分けられます。
・原材料によって特徴が異なる
プラマグに使用される磁性原料は、フェライト系と希土類系を含めて4種類に分けられます。
【フェライト系】
フェライトは、酸化鉄を主成分とした磁性原料です。生産時のコストが安く汎用性も高いため、一般的に広く普及しています。そのため使ったことがある方も多いかもしれません。
【ネオジム系】
ネオジム、鉄、ホウ素(ボロン)を主原料とした希土類系プラスチック磁石です。磁気性に優れていることから、フェライト系のものよりも小さくつくることができます。高温や錆びに弱いため、エポキシ樹脂コーティングなどの表面処理が必要となります。
【サマコバ系】
サマコバと呼ばれるサマリウムコバルトを主原料にした希土類系プラスチック磁石です。ネオジム系に次いで磁力が高いため、マグネットの小型化が可能です。やはりエポキシ樹脂コーティングなどの表面処理が必要となります。
【サマコバ鉄窒素系】
こちらはサマリウムコバルトや鉄、窒素を主な原料とした希土類系プラスチック磁石です。近年扱われるが多くなった磁石で、磁力が高くコストパフォーマンスに優れています。
・プラスチックマグネットの配向
磁石の磁力特性には、「等方性」と「異方性」の2種類があります。この違いは磁化容易軸の配向性、つまりどの方向に着磁するかによって分けられます。
●等方性…どの方向にも着磁する。磁力は比較的弱い。
●異方性…一定方向のみに着磁する。等方性と比べて磁力が強い。
異方性磁石は、成形の過程で磁場を発生させてつくることができます。一般的に原料の中には無数の結晶が存在しており、それぞれS極とN極の方向をもっています。その状態で成形した場合、結晶の分子配列がさまざまな方向を向いたままなので、着磁方向は限定されません。しかし成形過程で磁場を発生させることで、分子が一定方向を向いて整列することが可能です。異方性磁石はそのまま着磁方向を固定させてつくられます。
・さまざまな用途で使用が可能
プラスチックマグネットの大きな特徴として、寸法精度が高く複雑な形状の製品もつくるという点が挙げられます。そのため用途が広く、自動車業界やOA機器、医療機器やスマートフォンといったさまざまな分野で活用されています。
■ラバーマグネット
磁性原料と合成ゴムを混合・成形したラバーマグネットは、プラスチックマグネットとは異なる特性をもっています。
・柔軟性のあるシート状の磁石
合成ゴムと混ぜる磁性原料は、フェライト磁石、ネオジム磁石の粉末を用いますが、柔軟性をもっている特徴はいずれも共通しています。いずれの原料でも帯状、またはシート状の薄い形状となるため、加工しやすい磁石です。
・ラバーマグネットの特徴
形状自由度が高く、切断や穴あけなどの加工も容易です。製品を購入した後にカッターやハサミで好きな形状にカットすることができ、印刷にも対応できます。
しかしプラスチックマグネットや焼結磁石と比べて磁力が弱くなるため、磁力を利用する用途はある程度限られてきます。また原材料にゴムを使用していることから耐熱性が低く、80~100度以上の使用には向いていません。
・ラバー磁石の用途
ラバー磁石は、プラスチックマグネットと比べてよりさまざまな形に対応できるため、工業産業製品のほかにも一般家庭で使用するマグネットといった、身近な製品に多く利用されています。
フェライトを利用したラバーマグネットの身近な例は、自動車の初心者マークやステッカーです。また冷蔵庫のパッキンやマグネット広告、文房具としても利用されています。
ネオジムを使用したラバーマグネットは、センサーや磁気シールド、小型モーターなどが挙げられます。ほかにも複雑な形状をしたスピーカーや健康グッズなどにも活用されているようです。
磁石は使用する原材料によっていくつかの種類に分けられます。金属以外の材料を使用した場合も、プラスチックとゴムで特性が異なるため、用途によって使い分けることが可能です。それぞれの特徴を踏まえた上で最適なものを選んでみてください。