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地磁気と方位磁石

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<地球は大きな磁石>

地球の回転軸の中心近くには、とても大きな棒磁石があると考えてください。たしかに、北極をS極、南極をN極として地球を取り巻くように大量の「磁力線」が流れています。

それとともに地球の表面にも磁気の通り道があってその方向は磁力線の流れに一致しています。それを「地磁気」と呼んでいます。そのため、方位磁石(コンパス)を地表におくと磁力線の流れに沿ってN極が必ず北極の方角を向くことになります。実際には、地球の回転軸を一本の棒磁石と考えると北極がS極、南極がN極になります。そのため、方位磁石では、その逆のN極が北側に、S極が南側に引き付けられて、それぞれの方位を指すことになるのです。

 

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地球の磁気分布(日本極地研究振興会)

 

<地磁気極と磁極>

前図のように、地磁気の形、分布は地球の中心に磁石を置いた仮想の双極子モデルで説明されますが、実は棒磁石の軸(磁軸)は地球の自転軸と約9度ずれています。

この棒磁石の軸が地表面と交わる点を、北半球側は「地磁気北極(北磁軸極)」、南半球側は「地磁気南極(南磁軸極)」といいます。実際は地球上の多数の点で地磁気の強さを測定し、その測定した分布が、その棒磁石の分布と最もよく一致する地球の棒磁石のN極とS極が地磁気極です。

ただし、磁軸は常にわずかに動いているため、例えば北磁軸極は年間40kmほど少しずつ北西に移動していることが知られていて、現在は、北磁軸極は北緯79.5度、西経71.6度のグリーンランド北西部にあり、南磁軸極は南緯79.5度、東経108.4度の南極大陸の氷原上にあります。また、磁軸極は日常的にわずかに楕円を描いて位置が変化しています。磁軸は真っすぐな線ではないということです。

一方、「磁極」とは、地磁気の磁力線が鉛直下向き(伏角が+90°)または磁力線が鉛直上向き(伏角がー90°)の地点のことで、それぞれ、「磁北極(北磁極)」、「磁南極(南磁極)」といいます。実際に測定して決定されます。

現在の北磁極はカナダのエルズミア島にあり、北極点から南に約400km離れた地点に位置しています。北磁極は毎年数km単位で移動していることから、その正確な位置は常に更新されなくてはなりません。地殻下にある液体の鉄が動くことで地球の磁場が変化し、北磁極も移動するのです。

以上のように、地磁気極(磁軸極)と磁極の位置はわずかに異なっています。地磁気極(磁軸極)と磁極という用語はよく似ていてまぎらわしいのですが、違いを覚えておいてください。

 

<地磁気の要素(成分)>

地磁気の成分は、「偏角、伏角、全磁力、水平分力、鉛直分力」の5種類で表現されます。特に、真北と磁北のずれを表す「偏角」は、方位磁石と地図の向きを合わせるために利用され、私たちの生活に直結する重要な情報です。例えば、国土地理院の電子地形図25000には偏角が記載されており、磁北と地図の向きとを正確に合わせることができます。地磁気は、大きさと方向を持つベクトル量ですので、ある場所の地磁気を表すためには、下の要素のうち独立な3つの要素を使わなければなりません。

 

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地磁気の要素(成分)(国土地理院)

 

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地磁気の5大要素の関係(国土地理院)

 

<地磁気の偏角>

「磁石のN極が北を向く」ことは、みなさんよくご存じの通りですね。ところで、日常生活で「北」という場合、それは「地理的な北」のことを指します。地球の自転の軸が地表と交わるのが北極と南極で、「地理的な北や南」というのは、これらの極の方向を言います。これに対して、磁石のN極が指す方向を「磁気的な北(磁北)」と呼びます。違った呼び方をするのは、磁気的な北と地理的な北は異なるし、場所によってそれらの違いもさまざまだからです。地理的な北から見た磁気的な北の角度のことを、「偏角」とよびます。偏角はある地点における真北と磁北の間の角度のことです(次図)。

国土交通省の国土地理院から発行されている、一万分の一、二万五千分のー、五万分の一地形図には、「偏角補正値」の値が角度で10分の値まで表示されています。その地図の示す範囲において方位磁石で方位を測った場合、この値で偏角の補正を行うと正しい方位を知ることができます。

 

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磁気コンパスの使い方(日本極地研究振興会)

 

それでは、実際に方位磁石をどのように見て、どのように使えば良いのでしょうか。

まず、基準となる方位、真北(まきた)は北極星の方向になりますが、昼間は星が見えないので、代わりに磁気コンパスを使います。地球という磁石のS極は北極点の近くにあり、方位磁石のN極を、北極の方へ引き寄せます。その結果、方位磁石の針は北を指すことになります。

ところで、方位磁石の針は北極点でも地磁気北極でもなく、北極点から400km離れた地球磁石のS極(磁北極)の方向を指します(この方向を「磁北(じほく)」といいます)。そのため、磁北は真北(北極点の方向)から少しずれ、その角度を偏角といいます(前左図)。方位磁石で目的地への方向を求めるには、このずれを補正する必要があります(前右図)。つまり、「目的地への方向=磁北から測った方位角=地図上で真北から測った方位角+偏角」となります。

 

<偏角は高緯度で大きく、低緯度では小さい>

磁北極と北極点の間には現在400kmの距離があります。この距離は、例えば北極点から1500km離れた高緯度(北緯76.5度)の地点から眺めると、角度にして約15度になりますが、北極点から600km離れた中緯度(北緯36度)の地点から眺めると約4度にしかなりません。実は、これらの角度は北極点の方向と、磁北極の方向の差ですので、偏角に相当します。従って偏角は高緯度で大きく、中低緯度では小さくなります。

次図で分かるように、同じ日本国内の地点でも偏角は異なります。例えば、2020年における日本付近の偏角は、沖縄諸島で5~6度、九州南部では約7度、本州では約8度、北海道では9~10度それぞれ西向きになっています。

 

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世界の偏角分布(国際標準地球磁場/IGRF-13/2020年)

 

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日本の偏角分布(2020年国土地理院)

 

<地磁気の伏角>

何も調整していない方位磁石を使うと、指針が地面に平行になるのは赤道上だけで、測定する位置を北に移動するとN極の先端(南に移動するとS極の先端)が次第に下がっていき、北磁極では垂直に立ってしまいます。これは、地球の中に磁石が存在しているためで、方位磁石が極の内側を指してしまうからです。したがって、市販の方位磁石は使用する国や地方の実情に合わせて指針が水平になるよう、バランスをとるためのウェイト(おもり)をつける必要があり、大別して北半球用と南半球用とは異なることになります。

このように、調整していない方位磁石の磁針が地面に対して上下に向く角度を、磁石の伏角(ふせかく・ふっかく)と呼び、日本付近では50度前後にもなります。また、地表面の磁場も測定する場所によって変化し、方位磁石を狂わせることが次第にわかってきました。

とくに北極付近の氷山の下を潜水艦で通過するような場合は、方位磁石はまったく役に立たなくなって別の方法によらなければなりません。

また、実際の地球の自転軸(回転軸)の中心と地球磁石の極点(地磁気極)には約1000kmのずれがあります。これも、誤差を生む原因の一つとなっています。船舶や航空機には、つねに正しく北に向けるジャイロコンパスが装備され自動操縦装置に応用されています。

 

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地球の磁力線分布と伏角(地学教育)

 

<地磁気の大きさ(強さ)>

地磁気の5大成分の一つに、地磁気の大きさ(全磁力)があり、その単位には、SI単位系の磁束密度の単位である、「テスラ(T)」を使います。地球の磁場はとても弱いので、テスラの10の-9乗の「ナノテスラ(nT)」をよく使います。1992年以前の日本では、CGS単位系のガウス(G)と呼ばれる単位を使っていました。ガウスの10の-5乗はガンマ(γ)と呼ばれていました。SI単位系のナノテスラとCGS単位系のガンマは同じ大きさを示します。

地磁気の大きさは地球上の位置によって異なっています。次図は世界と日本の地磁気の大きさの分布について示しました。

地磁気は方向を持つベクトル量であり、さらに強さも向きも場所によって違うだけでなく、時々刻々変化しています。地球上での地磁気の分布(次図上)を見ますと、大まかに言って極地方で大きな値を示し、赤道付近の低緯度地方で小さな値を示す傾向があり、おおよそ25000nT(0.25G)(南米大陸中心付近)から、65000nT(0.65G)(オーストラリア南方の南極大陸海岸付近)になります。ちなみに、東京都の地磁気の大きさは46000nT(0.46G)、北海道では50000nT(0.50G)ほどになります。

 

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世界の地表磁場強度分布(気象庁地磁気観測書/2000年)

 

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日本国内の地磁気の大きさ(全磁力)の分布(国土地理院/2022年)