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地球磁場の誕生

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<生命を守る地球磁場>

磁石虎の巻「地磁気と方位磁石」の章でも取り上げましたが、“地球は大きな磁石”と考えられています。たしかに、北極をS極、南極をN極として地球を取り巻くように大量の「磁力線」が流れています。この磁力線(地磁気)が流れている地球磁場によって、地球のまわりの宇宙空間には目に見えない「磁気バリア」ができています。太陽風プラズマや宇宙線などの電気を帯びた粒子は地磁気の影響を感じると動きが大きく変化するため、磁気バリアの中に入りにくくなっているのです。

この地球の磁気バリアは、どんなに激しい「太陽風」が吹き付けても、絶対に直接地球に到達することができないほど強力なものです。この磁気バリアに守られた領域は「地球磁気圏」と呼ばれています。次図でわかるように、太陽風は地上から3万km(静止軌道と呼ばれる高度付近)から10万kmくらいの位置で食い止められていて、その反対側の磁気圏は太陽風に吹き流されたような形をしていることがわかっています。

 

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太陽風から地球を守る磁気バリア

 

また、地球の磁気バリアは、「宇宙線」と呼ばれる、太陽系外からやってくるエネルギーの高い粒子が地球に直撃することも大幅に防いでくれています。さらに、磁気バリアを通り抜けた一部の宇宙線は地球の大気がエネルギーを弱めてくれています。このように、私たちの住んでいる地上の環境は、磁気バリアと大気のバリアという二重のバリアによって太陽風や宇宙線から守られているのです。大気はもちろんですが、もし地球の磁気バリアがなかったならば、生命の誕生・進化が起きなかったか、または大きく遅れていたかもしれません。つまり、人類の誕生もなかった可能性もあるのです。

それでは、人類の生存にとって重要なこの地球磁場はどのようにして誕生して、現在はどうなっているのでしょうか。

 

<地球の内部構造とコアの生成>

地球は「地殻」、「マントル」、「コア(中心核)」の3層構造になっています。地球の中心部の温度は5500℃近くにもなります。地球表面の地殻は5~70kmの厚さの層で、花崗岩、安山岩、玄武岩などの岩石でできています。その下の2800kmにおよぶ厚いマントルは、パイロライトと呼ばれるかんらん石などの塊ですが、上部には比較的やわらかい層も存在しています。ただし、マントルの中にはプレート境界付近でマントルの一部が溶融した状態の「マグマ」も存在しています。

地球のコアは固体金属でできた「内核」と液体金属でできた「外核」の2層構造です。コアがなぜできたかといいますと、地球形成時に火星サイズの小惑星が地球に衝突したいわゆる「ジャイント・インパクト」により地球のマントルが大規模に溶融し、「マグマオーシャン」が出現しました。このマグマオーシャンの中を金属鉄が中心部へと落下し、コアが形成されたとされています。

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<地球内部の大量の水と水素>

地球のコアは主に鉄でできていて、そのほかに軽い元素を多量に含んでいることが地震波の観測結果から明らかになっています。コアの密度が100%鉄でできている場合に比べて10%ほど小さいのです。この密度の差は、軽元素をたくさん含んでいるから生ずるものです。

しかし、コアに含まれている軽元素を突き止めるのは簡単ではありません。ところが、2014年1月、東京工業大学を中心とした研究グループがその軽元素は「水素(H)」であることをつきとめました。

それでは、この水素はどこからきたものでしょうか。実は、地球がマグマオーシャンになっていた時期に、水や氷を含んだ大量の小惑星や隕石がマグマオーシャンに降り注ぎ、その水や氷の一部はのちの海洋となりましたが、大部分(90%以上)は高温高圧化の元で、金属鉄と反応して「金属水素化物(水素化鉄:FeH)」となって、金属鉄とともにコアを形成してゆきました。また、冷えたマントルにも水や水素が残されました。宇宙からの水の量は、降り注いだ隕石の推定総量と水の含有量から計算されます。

おどろくべきことに、宇宙から運ばれてきた水は、現在の海洋の水の80倍近くの量が、今も水素として地球内部に取り込まれたままなのです。

次図は東京工業大学による、原始の大気、マグマオーシャン、地球のコアに対する水(水素)の分配率を示しました。マグマオーシャンの中には溶けた金属鉄が含まれていて、この金属鉄が地球の中心に落ち込んでいき、金属の核(コア)を形成しました。水(水素)は、原始大気に1、マグマオーシャンに100、金属コアに2000、の割合になります。

 

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地球に運ばれた水の行方

 

<外核が液体になった理由>

それではなぜ原始地球の外核が液体になったのでしょうか。

2014年、東京工業大学の研究グループは次のような研究成果を発表しました。

「マントル物質を地球深部に相当する超高圧・超高温環境下に置いた後、融解の痕跡の有無について大型放射光施設を使用して確認することにより、コア直上のマントルの融解温度は約3300℃であることを明らかにしました。マントル最下部は固体で約3700℃と見積もられているため、コア最上部の温度はそれ以下でなくてはなりません。これは、従来の見積りよりも少なくとも400℃低いことになります。一方、そのような低い温度で、コア(外核)は液体でなければなりません。

 

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それには外核に水素が重量にして0.6%(原子数換算で25%)程度含まれている必要があります。このような大量の水素は、地球形成期にマグマオーシャン中で金属鉄中に取り込まれた可能性が高いと考えられます。今回推定されたコア中の水素量は、水に換算すると地球全質量の1.6%(海水の約80倍)にあたり、地球はその形成時に大量の水を獲得していたことがわかります。今後のさらなる研究により、地球以外の天体の金属コアの組成、地球の水の起源、さらには太陽系外惑星の海水量推定などが大きく進展すると期待されます。」

つまり、高温高圧下で水素を含んだ外核の鉄は純粋の鉄やマントル下部の物質より融点が低くなり、液体になっているのです。そして、さらに地球深部になると、圧力は大きくなり、コアの融点は上昇し、おそらく水素の含有量も減って固体の鉄、すなわち内核になります。

 

<地球磁場とダイナモ効果>

地球のコアは、その大部分を占める外核が液体の状態にあり、大変に流動しやすい性質をもっています。そのため、マントルの冷却によって「熱対流運動」が起きて、秒速 0.1mm 程度の流れが生じていると考えられています。最近の研究により、この対流は2層になっているともいわれています。

またコアは金属 (鉄合金) からなりたっているので、電気を通しやすい性質もあわせもっています。コアがもつこれら二つの性質は、地磁気の生成と深いかかわりがあります。

一般に、電気伝導度の高い物質が磁場中を動くと、電磁誘導の原理によって電場が生じ、電流が流れます。これは発電機 (ダイナモ) の原理です。地球のコアでも同じことが起こっています。すなわち、磁場中を液体の鉄が熱対流運動することで、コアに電流が流れ、新しい磁場が生み出されるのです。 このような、「磁場+液体鉄の運動 → 電流 → 新しい磁場」という連鎖によって磁場が維持されるしくみのことを「地球ダイナモ効果」といいます。 わたしたちが地表で観測する地磁気の主成分は、コアのダイナモ効果によってつくられたものなのです。

なお、ダイナモ効果を生み出した最初の磁場は、コア外核が液体化する前の地球誕生直後から存在していたと考えられていて、その磁場は地球深部の「基底マグマオーシャン層」の対流によってできたといわれています。

 

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地球ダイナモ効果の素過程には、地球の自転運動や、ローレンツ力によって磁場が流れに及ぼす反作用など、さまざまな効果があり、かつそれらが複雑に絡み合っています。現在、おもに数値シミュレーションによって、地球ダイナモ作用を含めたコアの活動を再現する研究がなされています。この分野では、たとえば地磁気の強度や方向の時間変化の原因、磁極の逆転の原因やその頻度についてなど、まだまだ未解決の問題が山積しているようです。

小惑星探査機「はやぶさ2」が探査した「リュウグウ」のような水を持った小惑星や隕石によって宇宙から地球の水が運ばれ、さらにその水が水素として地球のコアにも大量に残っているということ、さらに水素がコアの外核を液体にして、その対流運動による電磁誘導作用で地球磁場を発生させていることなどがわかりました。地球磁場については、これからも色々な研究成果が発表されるでしょうから、わくわくしながら待っていましょう。

 

以上で“地球磁場の誕生”の章は終了です。