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EVのモーターとネオジム磁石(1)

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<モーターの種類とEV>

EV(電気自動車)にとっては駆動モーターの性能はバッテリーと同様、重要な生命線となります。そして、このEVモーターには、ネオジム磁石の強力な磁力が不可欠です。それでは、ネオジム磁石はEVモーターの中でどのように使われているのでしょうか?

次図に産業用モーターの種類と分類を示しました。また、EVに使われているモーターとそのモーターが、実際の市販されているどのEVに使われているかも示しています。特にネオジム磁石が使用されているEV(HEV含む)モーターは赤枠で囲ってあります。

 

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テスラ・モデル3 トヨタ・bZ4X

 

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モーターの種類・分類とEVに使われているモーター

 

<直流モーターから交流モーターへ>

電流には直流と交流がありますが、前図のように、モーターも大きく分けると直流モーターと交流モーターに分かれます。電気自動車には、その発祥からずっと直流モーターが採用されてきました。交流モーターが使われるようになったのはHEV(ハイブリッドカー)「プリウス」の登場が象徴するように1990年代後半からといっていいでしょう。

自動車に搭載するには、エンジンと同等に緻密な制御ができることが条件となります。その難しい周波数制御が、IC技術の発達でインバーターが登場して、周波数を自在に制御できるようになりました。それまでは水汲みポンプや電気カミソリなど回転数の変化が不要な機器でしか使えなかった交流モーターが、インバーターの登場で使えるようになったわけです。

現在量産されているEVやHEVに使われているモーターはほとんどすべてが交流モーターであり、そのなかでも永久磁石(ネオジム磁石)を使った交流同期モーターが主流です。

 

<交流同期モーター>

「交流同期モーター」は、ステーターがつくる回転磁界とローターが同じ回転数で回っています。回転磁界とローター回転速度が同期していることから、同期モーターと呼ばれています。

現在の市販EVの駆動用モーターの多くがこの交流同期モーターであるといってもいいでしょう。ステーターの回転磁界は誘導モーターと基本的に同じ構造ですが、「トヨタ・プリウス」、「日産リーフ」、「テスラ・モデル3/モデルS」などのように、ローターにネオジム磁石が使われている「永久磁石界磁型」が多数になります。一部では「日産・アリア」や「ルノー・Zoe」のように「巻き線界磁型」を採用しているEVもあります。どちらにしてもローターのS極とN極、回転磁界のS極とN極が互いに引き合い、反発して、結果的にローターが回転磁界に追随して回転しています。

そのほかに、「リラクタンス型」、「ヒステリシス型」などがありますが、最近の「永久磁石界磁型」のほとんどは“リラクタンス”を併用している「リラクタンス併用型」といってもいいでしょう。交流同期モーターのローター構造の違いによる分類は以下のようになります。

 

(a)巻き線界磁型 電磁石(巻線/コイル)によって磁極を構成した回転子で、コイルに流れる電流(界磁電流)を調整して力率を制御できるものです。
(b)永久磁石界磁型 永久磁石を利用した回転子で、構造が簡単で小型モーターに利用されます。
(c)リラクタンス型 回転子に磁石を使わず、鉄心だけで構成されるものです。
(d)ヒステリシス型 ヒステリシス特性を有する材質を回転子に使った構造です。

 

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<巻き線界磁型同期モーター>

巻き線界磁型同期モーター(EESM)では、ローターが永久磁石の代わりに電磁石で界磁磁束を作るので、その分必要電力が増加します。また回転するローターに外部から電力供給するためにブラシが必要になり摩耗への配慮も必要になります。モーターも大きく重くなるなど種々課題があり、電気自動車には向いていないように考えられてきました。

一方では、優れている点もありますから、最近ではこれが見直されてきています。どういうことかというと、永久磁石と異なり、界磁磁束の大きさの調整ができるので、ゼロから最大まで、運転状態に応じて界磁磁束を最適に制御可能なので、永久磁石界磁型の欠点である無負荷連れ回りや高速回転での弱め界磁制御などによる低効率化を防げるということです。

 

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巻き線界磁型同期モーター  日産・アリアのローター製造工程

 

<永久磁石界磁型同期モーター>

永久磁石のローターへの取り付け方には2つの方法があります。1つはローターの表面に貼り付ける「表面配置型」で、このモーターを「SPM (Surface Permanent Magnet Motor)」といいます。

もう1つはローターの中に埋め込む「内部配置型」で、「IPM (Interior Permanent Magnet Motor)」といいます。表面配置では高回転時に磁石がはがれてしまう危険性があることから、EVの駆動用モーターではすべて内部配置型を採用しています。

 

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各種形状磁石のSPMとIPMの例

 

内部配置型磁石同期モーターは永久磁石を空隙部(フラックスバリア)を持った電磁鋼板のローター内に埋め込みます。こうすると永久磁石によるトルクだけでなく、磁気抵抗の非対称性によるリラクタンストルクも利用でき、出力が大きくなり、効率も良くなります。これについては、次回の「IPM同期リラクタンスモーター(IPMSynRM)」の章でもお話をします。

 

永久磁石同期モーターは欠点もあります。モーターの回転数が上がると直流モーターと同様に逆起電力が大きくなって電流が流れにくくなります。モーターに加える電圧と逆起電力が等しくなる回転数で電流がゼロ、すなわちトルクもゼロになります。これを防ぐためには、“電池の電圧を昇圧”すると逆起電力に打ち勝ち電流がさらに流れますから、より高い回転数でモーターを回せます。ほかに界磁を弱めて逆起電力を抑制して回転数を広げる“弱め界磁制御”もよく使われています。

 

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永久磁石界磁型同期モーター(独ZF社-IPMSynRM)