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EVのモーターとネオジム磁石(2)

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SynRM(Synchronous Reluctance Motor)は永久磁石を使いません。ステーターを分布巻とし、正弦波電流によりつくられた回転磁界に同期して回転します。回転子の電磁鋼飯に溝(フラックスバリア)を設けて磁束の通りやすさ(リラクタンス)に方向性を持たせています(次図左)。磁束の通りやすい極がステーター側の電磁石に吸い寄せられます。ローターは磁石同期モーターと同様の巻線です。磁石による逆起電力が発生しないので高速回転できます。SynRMはSRMに比べ騒音振動が少ないため工作機械用やエアコンプレッサのモーターとして使われています。

ステーターは誘導モーター同様、3相の正弦波起磁力の分布巻線が施されています。ローターは磁気抵抗に変化を持たせるため突極構造とする必要があり、古くからさまざまな構造が考案されています。

 

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SynRMの構造 SynRMの各種ローター形状

 

現在、図に示すように種々の構造が提案されていますが、なかでも、代表的なものが(B)と(D)です。(D)は、アキシャルラミネート形と呼ばれるもので、電磁鋼板と非磁性シートをサンドイッチ構造にして積層して作るローターになります。(B)は、マルチフラックスバリア形と呼ばれるローターです。この構造は、プレスの金型技術の進歩により、従来のプレスによる製作法が使用できる利点があり、誘導モーターよりもコスト的に有利になる可能性もあって開発が進んでいます。トルク発生の原理は、電磁鋼板の磁気抵抗の非対称性による「リラクタンストルク」を利用します。このモーターはIPMSynRMの永久磁石を取り除き、リラクタンストルクのみを利用するモーターということが出来ます。

 

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同期リラクタンスモーターの構造と2種類のローター

 

<永久磁石型同期リラクタンスモーター(IPMSynRM)>

◇元祖はプリウスのモーター

EVをリードしているテスラ(旧テスラモーターズ)は、その名称の由来ともなっている二コラ・テスラが開発した交流の誘導モーターを採用してきました。テスラのフラッグシップセダンである モデルSやSUVであるモデルXなどの初期モデルに搭載されてきましたが、モデル3からはネオジム磁石を使用した、新しいモーターであるIPMSynRMに変更され、モデルSやXも2019年頃からはこちらに変更しています。そして、現在、世界の多くのEVメーカーがこのモーター方式を採用しています。

しかし、EVにIPMSynRMを最初に採用したのはテスラですが、実はすでにトヨタは1997年発売のハイブリッド車(HV)初代プリウスからこの方式を採用していました。したがって、電動車駆動モーターとしてのIPMSynRM実用化の先駆者はトヨタということになります。

 

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各世代のプリウス

 

◇IPMとSynRMの融合

前回でもお話をしましたように、永久磁石界磁型同期モーターの永久磁石のローターへの取り付け方には2つの方法があり、1つはローターの表面に貼り付ける「表面配置型」で、このモーターをSPMモーター(Surface Permanent Magnet Motor)といいます。もう1つはローターの中に埋め込む「内部配置型」で、IPMモーター (Interior Permanent Magnet Motor)といいます。表面配置では高回転時に磁石がはがれてしまう危険性があることから、現在のEVやHEVなどの電動車駆動用モーターではすべて内部配置型を採用しています。

 

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各種形状の永久磁石を使ったIPMローター

 

磁石内部配置型同期モーターは永久磁石を空隙部(フラックスバリア)を持った電磁鋼板のローター内に埋め込みます。こうすると永久磁石によるトルクだけでなく、電磁鋼板の磁気抵抗の非対称性によるリラクタンストルクも利用でき、出力が大きくなり、効率も良くなります。

この“磁石内部配置型同期モーター(IPMモーター)”が永久磁石モーターと同期リラクタンスモーターを融合したIPMSynRM(Interior Permanent Magnet Synchronous Reluctance Motor)そのものになるのです。

 

◇プリウスのIPMSynRMの変遷

次図はプリウスのモーターの変遷を、磁石配置の視点でとらえたもので、ローター全体のネオジム磁石配置を図示してわかりやすくしています。ただし、実際は図にはありませんが、永久磁石の周辺の電磁鋼板にインダクタンスの差が出現するよう様々な空隙が設けてあります。

この永久磁石(ネオジム磁石)の配置の変遷だけでも、磁石トルクとリラクタンストルクのバランスと効率を上げるための磁気回路設計の努力の歴史がよくわかります。

 

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リラクタンストルク:40% リラクタンストルク:50% リラクタンストルク:60% リラクタンストルク:70%
磁石トルク :60% 磁石トルク :50% 磁石トルク :40% 磁石トルク :30%
最高出力 :30kW 最高出力 :50kW 最高出力 :60kW 最高出力 :53kW
最高回転数:5600rpm 最高回転数:6000rpm 最高回転数:13500rpm 最高回転数:5600rpm
コア体積 :5.1L コア体積 :4.7L コア体積 :2.7L コア体積 :2.2L

 

プリウスのモーター(IPMSynRM)の設計変遷(概略図)

 

前図ではローター全体の大きさの比較がわかりにくいのですが、コア体積でもわかるように、第1世代に比べて第4世代では体積が1/2以下になっています。また、低コスト化については磁石使用量を削減することが大きく貢献しています。とはいえ、単純に磁石を減らしてしまうとモーターの発生できる力(トルク)が減少しています。そこで、磁石を小さくしながらも、その配置を工夫することにより「リラクタンストルク」を有効利用することで、合成トルクを増やしています。つまり、ローター磁石配置構造の最適化が進化ポイントのひとつとなります。

具体的には初代では4極4個だったネオジム磁石は、2代目で8極8個、3代目で8極16個、さらに4代目では8極24個を配置しています。ネオジム磁石は数こそ増えていますが、1個当たりの形状も重量も減少して、トータルの磁石重量は軽くなってきました。これによりリラクタンストルクを強め、トータルのネオジム磁石量を減らしながら合成トルクを確保することが可能になりました。パフォーマンスを落とさずにコストダウンを成功させたわけです。その後、これらの技術はトヨタのEV「bZ4X」にも継承されています。

 

◇世界各社のEV用IPMSynRM

現在の世界各社のEVのIPMSynRMは、それぞれ様々なステーター設計、ローター設計がなされています。例えば、永久磁石もセグメント形状にしてリラクタンスモーターのローター空隙形状に合わせる設計も発表されています。

ちなみに、テスラモデル3や改良型モデルS、Xのローター設計はプリウスの第3世代に類似していますが、8極ではなく2分割6極構造になっています。また、HVとは異なりエンジンがないわけですから、高速でもトルクを維持するための高レベルな“弱め界磁制御”を行っています。

 

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テスラ・モデル3のモーター(12磁石・6極IPMSynRM)(テスラ社)

 

<今後のEVモーター>

前項で取り上げましたように、EVモーターの中で近年最も採用されているモーターが永久磁石内部配置型同期リラクタンスモーター・IPMSynRM(Interior Permanent Magnet Synchronous Reluctance Motor)になります。このモーターは電磁鋼板のスリットの磁気抵抗を利用した同期リラクタンスモーターと永久磁石内部配置型モーターとの組み合わせとも言え、高度な磁気回路設計が必要になります。

代表的なEVのテスラ・モデル3ではリラクタンストルクと永久磁石(ネオジム磁石)トルクの利用比率がおおよそ3:2となっています。

このモーターの主な課題は(1)永久磁石を使うため、高速では弱め界磁制御が必要になりパワー効率が落ちる、(2)永久磁石にネオジム等のレアアースを使うため原料問題がつきまとう(地政学的リスク、コストリスク)などがあり、特に原料問題は将来にわたるアキレス腱となる可能性があります。

 

それでは、これらの課題を解決するためにはどのような方法が考えられているのでしょうか。

(1)

ネオジム磁石に含有する希少レアアース(ネオジムやジスプロシウムなど)をできるだけ資源量の多い安価なレアアース(ランタンやセリウムなど)に置き換える。(トヨタ自動車)

*この技術はトヨタが先行して実用化に近いレベルとなっていますが、依然としてネオジムやレアアースを使うわけですから、課題は残りそうです。

(2)

ネオジム磁石からレアアースを全く使わない永久磁石(フェライト磁石など)に置き換える。(プロテリアル、安川電機)

*最近、プロテリアルがフェライト磁石を使ったEVモーターの本格的開発を発表しました。大きな可能性を秘めていますが、フェライト磁石の低温減磁やネオジム磁石使用に比べて低トルクのため、常に高回転域で使用しなければならないなどの問題などがあります。

(3)

永久磁石を使わないモーターを採用する。(誘導モーター:アウディ・e-tron、巻き線界磁型同期モーター:日産・アリア、ルノー・Zoe、リラクタンスモーター:三菱電機・電車用)

*EVの高速化を見据えれば、弱め界磁制御が要らない「巻き線界磁型モーター(EESM)」はブラシ寿命に課題が残るものの、磁石を使わない高速対応モーターとして一つの流れになるかもしれません。すでに日産がアリアに搭載しているモーターです。

また、「同期リラクタンスモーター(SynRM)」は三菱電機が産機用モーターとして実用化していますが、さらに車両用としても地下鉄日比谷線で実証試験を繰り返しています。この技術がEVモーターにフィードバックされれば、大きな可能性が生まれそうです。

 

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フェライトモーターローター部
(プロテリアル技報39 2024)
アリアの巻き線界磁型ローターの
製造工程(日産自動車)
日比谷線同期リラクタンスモーター
(東京メトロ・ニュースリリース)

 

以上で「EVのモーターとネオジム磁石」の章は終了いたします。