希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

ネオジム磁石のすべて(1)<資源と原材料>

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「ネオジム磁石」とはいったいどのような磁石でしょうか。ネオジム磁石は普段、皆さんがお使いになっている多くの電気製品や電子機器の中で使われています。また、様々な日用品の便利グッズの中にも入っています。今回から、色々な永久磁石の中で最も強力な永久磁石であり、多くの用途に使われているネオジム磁石について、わかりやすく解説させていただきます。

 

<現在の商用磁石の分類>

ネオジム磁石の解説に入る前に、現在の商用永久磁石にはどのような種類の磁石があるのか調べてみましょう。まず、大きな分類としては、

(1)陶器のような酸化物を材料とした「セラミック磁石」

(2)金属材料でできている「金属磁石」

(3)ゴムやプラスチック樹脂に磁石材料を混合して固めた「ボンド磁石」

があります。

 

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現在の商用永久磁石の分類

 

前図のように、ネオジム磁石は金属でできていますから「金属磁石」の分類に入ります。さらに、現在販売されている金属磁石にはアルニコ磁石と「希土類磁石(レアアースマグネット)」があり、ネオジム磁石は「サマリウムコバルト磁石」と同じ希土類磁石の仲間になります。

 

<ネオジム磁石の成分>

ネオジム磁石はその名の通り、金属元素であるネオジムを使用した磁石です。ネオジム(Nd)は希土類(レアアース)金属の一種です。ネオジム以外に使用される主な素材は、鉄(Fe)、ジスプロシウム(Dy)とホウ素(B)です。それぞれの割合は、鉄が本来持つ磁力を効率よく引き出せるような内容で、磁石のグレードによっても多少異なります。標準的なネオジム磁石の重量成分は、ネオジム28%、鉄66%、ジスプロシウム5%、ホウ素1%ほどになります。

 

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ネオジム磁石の成分構成(組成)の一例

 

なお磁石の原料となるネオジムは、中国からの輸出されたものが多くを占めています。純粋なネオジムの鉱石は存在しないため、原石となる鉱石を精錬・抽出してから使用することになります。近年ではネオジム磁石の需要が高まっているため、ネオジムの価格は上昇傾向にあります。

 

<希土類(レアアース)とは何?>

希土類(レアアース)金属はレアメタル31鉱種(金属元素数は47)の中に含まれる金属元素群になります。次図は元素の周期律表ですが、サマリウムコバルト磁石やネオジム磁石は希土類磁石、レアアースマグネットなどと呼ばれていますようにランタノイド族の希土類金属・レアアースが使われています。その中で、原子番号57のランタン(La)から63のユーロピウム(Eu)までを「軽希土類」、原子番号64のガドリニウム(Gd)から71のルテチウム(Lu)までを「重希土類」と呼んでいます。

ネオジム磁石にはサマリウム以外の赤丸で囲んだ各種希土類金属が使われます。組み合わせは材質、メーカーごとにすこしずつ異なっていますが、当然ながら最も使用量が多いのが、ネオジム(Nd)で、プラセオジム(Pr)はネオジムの一部と置き換えて使用されることがあります。

問題は重希土といわれていますジスプロシウム(Dy)で、この使用量つまりネオジム磁石への含有量をいかに少なくするか、またはゼロにするかが、メーカーが直近で最も力を入れている開発になります。なお、同じ重希土のテルビウム(Tb)も一部ジスプロシウムの代わりに使用されることがあります。

 

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永久磁石に使われる希土類(レアアース)金属(*Laは高性能フェライト磁石用)

 

前項でもふれましたが、もう少し詳しくみると、ネオジム磁石合金はおおよその重量比で、ネオジム(Nd)23~30%、ジスプロシウム(Dy)2~10%、鉄(Fe)60~65%、ホウ素(B)1%、その他コバルト、銅、アルミニウムなどの成分から構成されています。磁石メーカーのほとんどは、これら原料金属は原料メーカーから購入しています。

 

<希土類鉱石の種類と世界分布>

ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)などの希土類元素は酸化物やフッ化物の形で希土類鉱石の中に複数種含有されています。次表は、世界の各種希土類鉱石と希土類の成分比率です。

 

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世界の主要な希土類(レアアース)鉱石の種類と各種希土類の成分比率

 

表中で色分けした希土類が、ネオジム磁石に関係するものです。この表で分かるように、ネオジムは比較的多くの鉱石に含まれていて、平均的には18%ほどになります。ところが、耐熱磁石に必要な重希土類のジスプロシウムやテルビウムは一部の鉱石、特に中国のイオン吸着鉱に偏在しています。

 

次図は、世界の希土類の国別埋蔵量と主な国別生産量(酸化物換算)についてです。この中で最も希土類の埋蔵量が多い国は世界の約36%を占める中国で、次にブラジル、ベトナム、ロシア、インドの順になります。最近では米国も古い希土類鉱山の再採掘、精錬を始めたようです。

埋蔵量のトータルはおおよそ1億2千万トンで、現在の世界の酸化物換算の希土類使用量年13万トンを基準に計算しても約900年分になり、埋蔵量だけを考えると名前のような希少金属ではありません。したがって、ネオジムだけをみれば、埋蔵量については将来も心配は少ないといえます。

 

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世界の希土類の埋蔵量と生産量

 

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世界の希土類(レアアース)鉱床の分布(産総研資料:2007年)

 

<鉱石から希土類金属を取り出す>

希土類(レアアース)の鉱石採取から始まって希土類元素(レアアース)の精製に至るには、長くて複雑な工程となります(次図)。

 

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希土類(レアアース)金属の精製工程

 

◆希土類鉱石の焙焼

希土類元素(レアアース)の精製には後述の「溶媒抽出」が必須なのですが、そのためには希土類元素がまず水に溶けた希土類水溶液になっていなければなりません。希土類鉱物精鉱の状態ではまだ岩石と同じなので、基本的に水には溶けません。これを水に溶けるようにするのが「焙焼処理」です。焙焼とは精鉱を鉱石が溶融しない温度範囲で、必要に応じて酸やアルカリと混合しながら、加熱して鉱物を反応、変質させる処理です。

希土類鉱物精鉱に対しては、硫酸焙焼アルカリ焙焼などを行って、水に溶ける希土類化合物を作ります。希土類元素を含む代表的な鉱物の例として「モナザイト」があります。モナザイトは希土類元素のリン酸塩化合物で、比較的強固な結晶構造をしています。これを水溶性化するためには、ロータリーキルンの中で、硫酸と混合しながら、ガスや電気で200℃~300℃ぐらいに加熱します。このときモナザイトから水溶性の硫酸塩希土類化合物が形成されます。

硫酸ではなくて水酸化ナトリウムで分解する方法もあります。この場合は希土類水酸化物が生成します。両者ともさらに酸の濃度や種類を調整して、溶媒抽出工程に投入されます。

 

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希土類(レアアース)鉱山の例(米国:マウンテンパス)

 

◆希土類の溶媒抽出

前述の焙焼と浸出の工程によって、各種の希土類元素(レアアース)が混合して溶けている希土類酸性溶液が製造され、さらに、元素ごとの純粋な成分に分離精製するために、「溶媒抽出工程」に投入されます。溶媒抽出とは、水と油に対する元素イオンの溶解度差(溶けやすさ)を利用した精錬法です。

希土類元素は化学的性質が互いに似通っているため水と油の溶和度の差は一般的に小さく、攪拌と静置を何度も繰り返して分離しなければなりません。実際の製造工程では、次図に示すような「ミキサーセトラー」という装置で連続的に攪拌と静置が行われます。場合によってはミキサーセトラーを8個連結することもあります。全ての希土類元素を分離するには、数百段のミキサーセトラーが必要になります。溶媒抽出法は、精製したい元素が水に溶けていれば、希土類元素に限らずあらゆる元素種を分離することができ、銅やニッケル、コバルトなどの精製においても本法が利用されています。

 

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溶媒抽出装置・ミキサーセトラー

 

◆希土類金属の溶融塩電解

溶媒抽出法で得られる希土類元素は、焼成工程を経て最終的に希土類酸化物になります。希土類酸化物はそのままでも色々な製品に利用できますが、酸素を取り除いた金属としての用途も重要です。特に、ネオジム磁石の製造には金属ネオジムが必要で、この精錬方法が「溶融塩電解法」になります。

 

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ネオジム酸化物の溶融塩電解法(NeoMag編集)

 

溶融塩電解法は、現在最も一般的に行われている金属の精錬方法ですが、特にアルミニウム精錬においても広く行われており、その基本原理は金属にメッキをする場合とほとんど同じです。ただし、希土類元素は酸素との親和力が強いので、水溶液中の希土類イオンを電気力で還元することはできません。水の代わりに数百℃以上の溶けた溶融塩を作り、その中に希土類酸化物を溶かしてイオンとし、さらに電気力で還元して希土類金属とします。

金属ネオジムを製造する場合は、溶媒抽出と焼成によって得られたネオジム酸化物が必要です。まず、耐火物でできた坩堝の中に何種類かのフッ化物を入れ加熱します。これが溶融塩となります。それにネオジム酸化物を投入すると酸化物がネオジムイオンとなって溶融塩に溶け込み、さらに浴にかけた電気電位によって陰極で還元されます。そして、生成したネオジム金属はタングステン(W)陰極から滴下して、下部のモリブデン(Mo)容器に回収されます。この反応で発生した余りの酸素イオンは、カーボン(C)陽極でカーボンと結びついて二酸化炭素またはその他のガスとなって放出されます。