希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

ネオジム磁石のすべて(6)<永久磁石の磁力の根源

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皆さんもご存じのように、ネオジム磁石は種々の永久磁石の中で最も磁力が強い永久磁石になります。今回はネオジム磁石も含めて、永久磁石を理解するうえで避けては通れない「永久磁石の磁力の源(みなもと)は何か?」というお話をしたいと思います。なるべくわかりやすく解説したいので、概念的なお話になる部分もありますが、ご容赦いただきたいと存じます。

 

<電磁石が作る磁界・磁力の根源>

まずは、ネオジム磁石のような永久磁石ではなく「電磁石の磁力」について説明してみましょう。

次図は有名な「アンペールの右ネジの法則」です。電流が流れている電線の周りには「磁界(磁場)」ができます。つまり「磁力線」が発生します。ここで磁力線の向きは電流の方向に対して右ネジのように円形に回る方向です。

 

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電線に電流を流すと磁界(磁力線)が発生

 

電流は電子の流れであり、電子の流れる方向は電流と逆ですから、磁力線の向きは電子の流れに対しては左ネジの方向ということになります。それではこれらの電子は何者かというと、導線の金属原子の中にとらえられている電子ではなく、原子間を自由に動き回ることができる「自由電子」です。

 

磁石のお話-画像150002

 

したがって、「電磁石の磁界・磁力は電荷を持った粒子つまりマイナスの電荷を持った自由電子が動くことにより発生する」ということです。

電磁石とは、自由電子が動き回る電線を巻き線(コイル)にして、より強い磁界(より多くの磁力線)を発生させています。このように、電磁石の場合は、磁力の源についての概念は比較的わかり易いといえるでしょう。

 

<永久磁石・強磁性体の磁力の根源>

それではネオジム磁石のような永久磁石の場合の磁力の源について考えてみましょう。まずは原子の中の電子の状態について理解しておく必要があります。原子の中には「原子核の周りを自転しながら公転する電子」があり、これらの電子は原子核に近い順に、K殻、L殻、M殻という名称のとびとびのエネルギー準位の軌道の中に、決められた数だけ入ることが許されています。これらの殻軌道は「ボーアの電子殻軌道」、その中の電子は「殻内電子」と呼ばれています。

 

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ボーアの電子殻軌道とFe、Co、NiのM殻内の電子数

 

大事なことは、これらの「電子のスピン」という自転運動が磁性体のほとんどの磁力の源となっているということです。これらの方向と大きさを持っている電子の磁力を「スピン磁気モーメント」と呼んでいます。ところがほとんどの元素の殻内電子は2個ペアになっていて、それぞれの自転の回転方向が逆向きになっています。つまりスピンによる磁気モーメントはお互いのペア電子によって打ち消され、外にあらわれません。このような元素はほとんどが「非磁性体」となっています。

 

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磁力の源となる磁気モーメントの発生

 

一方、前図の電子殻軌道で示したように、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性体では、鉄では4個、コバルトでは3個、ニッケルでは2個のペア無し電子が存在しています。

これらは「孤立不対電子」とよばれていて、この不対電子がペアの相手がいないためにスピン磁気モーメントを発生させることになるわけです。不対電子は別名「磁性電子」とも呼ばれています。

 

<永久磁石の磁力は原子の中の小さな電磁石から>

前項でお話をしましたように、電磁石のコイルと電流(つまり電子の流れ)の関係と同様、電子が回転すると回転軸に沿って電流が流れることになり、電子自体が磁石になり得る「スピン磁気モーメント」という理論が1925年、アメリカの物理学者により発表されました。その他、原子核の「核磁気モーメント」や電子の「軌道磁気モーメント」がありますが、このスピン磁気モーメントこそが、磁性の主な源であったわけです。電磁石では軌道を外れた「自由電子の運動」が磁力の源ですが、強磁性体や永久磁石では「不対電子のスピン」が磁力の源となるわけです。

 

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磁性体は不対電子(孤立電子)によりスピン磁気モーメントを発生

 

さらにわかりやすく言い換えれば、“永久磁石や強磁性体の磁力は原子の中の電子の回転による小さな電磁石の集合が作っている”ということになります。

なお、ネオジム(Nd)やサマリウム(Sm)は鉄やコバルトよりもさらに外側のN殻に不対電子がありますが、最外殻にあるためスピン磁気モーメントはあらわれず、そのままでは非磁性体です。しかし、鉄やコバルトと化合物を作るとお互いの磁気モーメントが揃い、量子力学的な「交換相互作用」により不対電子を持つ強磁性体になります。これにより後の章で説明しますが、大きな異方性定数を持つなどさらに永久磁石としての有利な性質を獲得したことにより強力な「希土類磁石」になりました。

 

<クーロンの法則>

ところで、永久磁石などの磁気がどうやって離れた場所に力(磁力)を及ぼすのかという疑問がでてきませんでしょうか。「磁荷(磁極が帯びている磁気量)」を持つものが空間中に存在すると磁場を発生させます。ある特定の「チャージ」(荷物の荷に数量の量で荷量ともいいますが)このチャージを持った粒子に力を及ぼす空間の性質のことを「場」と言います。磁気の場合は「磁場」または「磁界」で、磁荷というチャージを持った粒子が力を受けることになります。

重力や静電気力にも同様のことが起こります。重力では「質量」というチャージ、静電気力では「電荷」というチャージを持ったものがそれぞれ「重力場」「電場」の影響で力を受けます。

以上のことにより、磁石から発せられる磁場がもう一つの磁石の磁荷に影響を及ぼして力を受けるという説明が、場という概念である程度できるのではないでしょうか。

 

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磁石の磁極間に働く力

 

フランスのシャルル・ド・クーロンは、この電荷、磁荷に働く力(電磁力)について、1787年「クーロンの法則」を発表しました。これは「逆二乗則」といわれ、「ある距離を隔てた点電荷(電荷を持った粒子)または点磁荷(磁荷を持った粒子)には距離の二乗に反比例する力が働く。電荷や磁荷が同符号であれば斥力となり、異符号であれば引力となる」というものです。

 

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クーロンの法則

 

<素粒子フォトンが媒介する電磁力>

一方、少々難しくなりますが、量子力学や素粒子論によると、宇宙には「電磁力」、「重力」、「弱い力」、「強い力」「4つの力」があると言われています。そしてこの4つの力の伝搬については、場の代わりに「ゲージ粒子」という力を伝える素粒子で説明できます。

この中で静電気力と磁力を伝えるゲージ粒子は、質量を持たない「フォトン(光子)」であるとされています。フォトンは光の粒子で、私たちが光を感知できるのは網膜において電磁気力が化学反応を誘発するということからもわかります。電波の情報が電気に変換されるのも同じです。

ちなみに、重力のゲージ粒子は「重力子」で、放射能に関係する弱い力のゲージ粒子は「ウィークボソン」、原子核を作り出す強い力のゲージ粒子は「グルーオン」です。この4つの素粒子を統一的に説明する理論を構築するのが現代物理学の大きな課題となっています。

 

本章ではこれ以上の具体的な解説はいたしませんが、ご興味のある方はぜひ「4つの力」や「フォトン(光子)」等について調べてみてください。