<近代永久磁石とネオジム磁石の出現>
次の図は近代の永久磁石の発展とその実用化の歴史の概要を示したものです。
1800年代までは、磁鉄鉱や、鉄を鍛造・焼入れした磁石を、磁石=羅針盤という使い方をしていた時代が長く続いていました。そして、その磁界や吸着力を工業的に応用できる強力な永久磁石が登場したのは、ようやく20世紀に入ってからになります。その後の近代磁石の発展の歴史には、実は日本人や日本の技術が大きな貢献をしてきたのです。
近代永久磁石の発展とネオジム磁石の出現
1917年~1934年にかけて発明された、本多光太郎博士の「KS鋼」、「NKS鋼」、三島徳七博士の「MK鋼」、また 「フェライト磁石」の基礎を作った加藤与五郎、武井武両博士の「OP磁石」は、日本の金属材料技術、磁性材料技術の高さを世界的に示したものでした。これらの磁石技術は、現在も量産化されている「アルニコ磁石」の原点となったものです。
その後、永久磁石の性能は 1960年代の後半から希土類磁石である「サマリウム・コバルト磁石(サマコバ磁石)」が登場して以来、目を見張る進歩を遂げてきています。特に、現在の最高峰である「ネオジム焼結磁石」は高い技術力を背景にした日本で生まれ、また、時を同じくして「ネオジムボンド磁石」が米国で発明されました。これらの「ネオジム磁石」は前図でも分かりますように、短期間で歴史的な高性能化を実現して、現在ではコンピュータ、電子機器、自動車、運搬機器、その他各種モータの小型・高性能化などなど、世界の産業・工業に計り知れない貢献をしています。
<現在の商用磁石の分類>
現在、工業的に使われている永久磁石を分類すると、おおよそこの図のようになります。
大分類は、
(1)陶器のような酸化物を材料とした「セラミック磁石」
(2)金属材料でできている「金属磁石」
(3)ゴムやプラスチック樹脂に磁石材料を混合して固めた「ボンド磁石」
となります。
現在の商用磁石の分類
この分類では、セラミック磁石としては「フェライト磁石」のみですが、中分類として「バリウムフェライト磁石」と「ストロンチウムフェライト磁石」にわかれます。現在の主力は保磁力Hcjが高いストロンチウムフェライト磁石になっています。なお、ストロンチウムには放射性同位体のストロンチウム90がありますが、フェライト磁石に利用される酸化ストロンチウムは放射性ではありませんので全く問題はありません。なお、「ストロンチウム・ランタンフェライト磁石」はストロンチウムフェライト磁石を高性能化した磁石になり、日本の磁石メーカーが開発したものです。
次に、金属磁石ですが、この分類には歴史の古い「アルニコ磁石」と新しい「希土類磁石」があります。アルニコ磁石はその名前のとおり、アルミニウム、ニッケル、コバルトや鉄を主成分とした合金磁石です。一方、希土類磁石には「ネオジム磁石」と「サマリウムコバルト磁石(サマコバ磁石)」がありますが、生産量はネオジム磁石が大半を占めています。
「ボンド磁石」にも、フェライト磁石と希土類磁石があります。また、それぞれ「ゴム磁石」と「プラスチック磁石」があります。最近では、「サマリウム鉄窒素ボンド磁石」が射出成型により小型化し易い、錆びにくい、ジスプロシウムなどの希少金属を含まない、などの特長により注目されています。
<各種永久磁石の強さ(吸着力)比較>
1980年代後半、ネオジム磁石が実用化された直後、人々はその強力な吸引力に驚きました。この図はネオジム焼結磁石がどれほど強いかを模式的に表したもので、色々な永久磁石の強さを、鉄板に吸着した磁石で人がどれほどの人数でぶら下がることができるかということで比較してみました。基準になる磁石の大きさは直径100ミリ(10センチ)、高さ50ミリ(5センチ)としました。ただし、ラバー磁石は表面積を基準磁石と合わせた形状となります。
結果はこの図のようにネオジム磁石は大人の男性5人、サマコバ磁石は大人の男性3人、ネオジムボンド磁石は大人の男性一人、アルニコ磁石は大人の女性一人、フェライト磁石は3年生くらいの小学生一人、ネオジムラバーは幼稚園児一人、フェライトラバーは赤ちゃん一人程度となりました。
このように希土類磁石、とりわけネオジム磁石がいかに強力な磁石かおわかりいただけると思います。なお、直径を半分の50ミリ(5センチ)にしても、ネオジム磁石は大人の男性2人をぶら下げることができます。