次の表はNeoMagが販売していますネオジム磁石の材質と磁気特性です。表には各材質の磁気特性として、残留磁束密度Br、保磁力Hcb、保磁力Hcj、最大エネルギー積(BH)max が記載されています。
ネオジム磁石の材質名と磁気特性(NeoMag製品)
◆材質記号(Grade)
左端の行が材質を表します。Nはネオジム磁石を示し、2桁の数字は各材質のエネルギー積(BH)max(MGOe)の代表値を表します。材質記号の右端のアルファベットは保磁力Hcjの大きさをグループ分けしたもので、無印、H、SH、UH、EHの順にHcjの値が大きくなっていきます。
Br値が大きな材質ほど(BH)max値も大きくなり、より強力な磁石となっています。また、Hcj値が大きな材質ほど、表の右端に示しました耐熱温度が高くなっていることがわかります。
磁石を選ぶときは、まずこの材質記号に注意して、必要な磁気特性、耐熱温度を考えましょう。
◆残留磁束密度Br(Jr)
B-H曲線上、外部磁場で永久磁石を磁化(着磁)した後、外部磁場ゼロの状態に戻したとき、永久磁石が磁束を漏れなく維持した場合の単位極面積当りの磁束量のことで、磁石の材質・グレードによって異なる値になりますが、形状には左右されません。
残留磁束密度(残留磁化ともいう)B-H磁気履歴曲線(B-Hヒステリシスループ)において、磁場の強さをゼロにした場合に磁性体(磁石)に残っている磁束密度のことで、Brで表します。また、J-H曲線での残留磁束密度はJrで表しますが、BrとJrは同じ値になります。永久磁石ではこの値が大きいほど最大エネルギー積や表面磁束密度も大きくなることが多く、強力な磁石になります。
但し、表面磁束密度とは意味合いが異なるので注意を要します。単位はSI単位系ではテスラ(T)、CGS単位系ではガウス(G)を使います。
◆保磁力Hcb
保磁力HcbはB-H減磁曲線上で磁束密度がゼロに対応する磁場の強さ。言い換えれば、印加された外部磁場と永久磁石の磁化が合成される磁気回路全体の磁化がゼロになる磁場の強さを示します。つまり、逆磁場が印加されている磁気回路全体の抵抗力を示しています。SI単位では[A/m]、CGS単位では[Oe](エルステッド)で表します。
◆保磁力Hcj
保磁力HcjはJ-H減磁曲線上で磁気分極(磁化)がゼロになる磁場の強さ。”固有保磁力”あるいは”真性保磁力”ともいいます。Hcbが印加された磁場との合成磁化がゼロになる磁場を示すのと異なり、Hcjは永久磁石そのものの磁化がゼロになる印加磁場の強さを示し、永久磁石の逆磁場に対する真の抵抗力を表すことになります。Hcbと同じく、SI単位では[A/m]、CGS単位では[Oe](エルステッド)で表します。
◆最大エネルギー積(BH)max
永久磁石の強さ、優秀さの基準の一つに「最大エネルギー積・(BH)max」という磁気特性があります。これは、磁石が持つエネルギーの大きさを表し、B-H減磁曲線上の磁束密度Bと磁場Hの積の最も大きな数値を指します。SI単位ではkJ/m3、CGS単位ではMGOeで表します。また、各材質の記号の数字部分は、それぞれの材質が持つ最大エネルギー積(BH)maxの代表値を表しています。
永久磁石のJ-H/B-H減磁曲線と最大エネルギー積(BH)max
前図のB-H減磁曲線で考える最大エネルギー積が大きな磁石というのは、Br、Hcbが大きく且つB-H曲線がなるべく直線的で45度に近い角度を有する磁石ということになります。これをJ-H減磁曲線で言い換えると、Jr、Hcjが大きく、且つJ-H曲線が四角形に近いつまり「角形性(角型性)」が良い磁石ということにもなります。ネオジム磁石やサマコバ磁石が強力なのは、このように残留磁束密度や保磁力が大きく、J-H減磁曲線の角形性が優れているためです。後日の章でお話をしますが、この最大エネルギー積になる磁束密度を動作点とする使い方をすると、磁石のエネルギーを最大に引き出すことができます。
また、J-H曲線上でBr値の90%になる磁場の値を便宜上Hkとして、Hcjに対するHkの比(Hk/Hcj)をJ-H曲線の角形性の評価とする場合があります。もし、J-H曲線が理想的な四角形であれば、「角形比(角型比)」は1になるわけです。