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ネオジム磁石のすべて(12)<永久磁石の動作点>

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前回は「磁石の形状とパーミアンス係数」のお話をしました。あらゆる形の磁石には磁化と反対方向の磁場、つまり「反磁場」が必ず発生し、磁石の外側に現れる磁化(磁力線)を妨げます。その反磁場の大きさは磁石の形状によって左右されます。そして、磁石形状が磁化方向に厚い寸法ほど反磁場は小さくなり、反対に磁化方向に対して薄い寸法になるほど反磁場を大きくなります。この磁石の形状といかに磁力線を有効に使えるかの関係を表した数値が「パーミアンス係数」であり、磁気回路の計算にはしばしば利用されます。さらに、磁石のパーミアンス係数と密接な関係があり、永久磁石を効果的に使用するための指標として「永久磁石の動作点」があります。今回はこの「動作点」について勉強してみましょう。

 

<パーミアンス直線>

永久磁石の形状から計算されるパーミアンス係数を磁石のB-H減磁曲線上に引いた直線を「パーミアンス直線」または「動作線」と呼びます。例えば、弊社ホームページのネオジム磁石(材質N40)の(B-H/J-H)曲線の上にパーミアンス直線を引くと次図のようになります。

 

磁石のお話-画像210001

ネオジム磁石のJ-H/B-H曲線(材質N40)上に引いたパーミアンス直線

 

ホームページに掲載されているJ-H/B-H曲線図の外側の数字(B/H)がパーミアンス係数になります。この例では、Pc = 0.4、1.0、4.0の3本のパーミアンス直線を描いてあります。実際にはホームページの曲線上にはパーミアンス直線は描いてありませんが、あとで述べる動作点のBdや総磁束量を調べたいときに自分で直線を描いてみると役に立ちます。

 

<パーミアンス直線と動作点>

「永久磁石の動作点」は、磁石が最も効果的に機能する特定の条件や状態を指します。例えば、磁石の強さや方向、温度などが影響します。動作点を理解することで、磁石を使用する最適な状況を把握することができます。

動作点は、永久磁石が磁気回路中で実際に使用される際の磁気特性(磁束密度Bと磁界H)の状態を示す点です。これは、永久磁石の減磁曲線(B-H曲線)上の特定の1点を指し、磁石の形状、周囲の磁気回路の構成(鉄心や空隙など)、および外部磁界の影響によって決定されます。

結果としては「パーミアンス直線とB-H減磁曲線との交点」として決まる点の座標であり、その点での磁束密度を「動作点の磁束密度(Bd)」、その点での磁場を「動作点の磁場Hd」といいます。

B-H曲線上の動作点の位置によって、磁気回路における磁束密度や磁石の安定性が推測できます。パーミアンス係数が大きいほど、反磁場は小さいわけですから、動作点の磁束密度(Bd)は大きな値となります。パーミアンス係数が無限大、つまり反磁場がゼロであれば原理的には、動作点の磁束密度(Bd)=残留磁束密度(Br)となります。

 

磁石のお話-画像210002

B-H減磁曲線上の動作点とBdおよびHdの関係

 

<動作点の重要性>

動作点は磁気回路の設計: 動作点を把握することで、必要な磁束密度を得るために適切な形状や特性を持つ永久磁石を選定したり、磁気回路の設計を最適化したりすることができます。

また、後の章で詳細にお話をしますが、動作点は磁石の安定性評価などにも利用します。例えば、動作点が減磁曲線の膝(屈曲部:Knee)より低い位置にある場合、外部磁界や温度変化などによって不可逆減磁が発生するリスクが高まります。そのため、動作点を適切に設定し、磁石の安定性を確保することが重要になります。

また、エネルギー積との関連では、動作点における磁束密度Bと磁界H(の絶対値)の積(B×|H|)は、その時点での磁石のエネルギー積を示します。磁気回路の設計においては、動作点が最大エネルギー積((BH)max)に近い領域になるように設計することで、より小型で強力な磁気回路を実現できる可能性があります。

 

<永久磁石の総磁束量>

個別の永久磁石が有効に使える磁力線の総数を全磁束量または総磁束量(トータルフラックス:Total Flux)φopといいます。正確な総磁束量は、通常フラックスメーターで測定しますが、以下の式でもおおよその数値が推定可能です。ここで、

動作点の磁束密度(Bd) = 総磁束量(トータルフラックス)φop / 磁石の断面積A

SI単位 : Bd(T) = Φop(Wb)/A(m2)

CGS単位 : Bd(G) = Φop(Mx)/A(cm2)

という関係になります。いいかえれば

総磁束量(トータルフラックス)φop = 動作点の磁束密度(Bd) x 磁石の断面積A

SI単位 : Φop(Wb) = Bd(T) x A(m2)

CGS単位 : Φop(Mx) = Bd(G) x A(cm2)

 

ですから、BH曲線とパーミアンス係数、磁石の断面積がわかれば、測定しなくてもある程度総磁束量が予測可能だということになります。

 

なお、弊社のホームページ「磁石ナビ(磁石・設計選定ツール各種)」では、パーミアンス係数(Pc)、動作点の磁束密度(Bd)、トータルフラックス(Φop)の概算値が算出できるようになっていますのでご利用ください。