ネオジム磁石合金はおおよその重量比で、ネオジム(Nd)23~30%、ジスプロシウム(Dy)1~8%、鉄(Fe)60~65%、ホウ素(B)1%、その他コバルト(Co)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの成分から構成されています。磁石メーカーのほとんどは、これら原料金属や原料合金は原料メーカーや合金メーカーから購入しています。以下、本稿では、焼結型ネオジム磁石に含有されている重希土類・ジスプロシウムの役割と今後の課題についてお伝えしたいと思います。
<希土類(レアアース)の埋蔵量と生産量>
ネオジム、ジスプロシウム、サマリウム(Sm)などの希土類元素は酸化物やフッ化物の形で希土類鉱石の中に複数種含有されています。この中で最も希土類の埋蔵量が多い国は世界の約37%を占める中国で、次にブラジル、ベトナム、ロシア、インドの順になります。
世界の国別希土類(レアアース)埋蔵量と生産量(JOGMEC資料より)
埋蔵量のトータルはおおよそ1億2千万トンで、2022年の世界の酸化物換算の希土類使用量年30万トンを基準に計算しても約400年分になり、埋蔵量だけを考えると名前のような希少金属ではありません。ところが実際の希土類鉱石の産出量は中国がほぼ60%であり、その多くを中国に頼っているということになります。ネオジム磁石の原料希土類金属も例外ではなく、ほとんどが中国生産品ということになります。
したがって、中国以外の磁石メーカーにとっては、原料金属の調達先をなるべく中国以外の国に広げることと、希土類金属そのものの使用を減らすことや、ゼロにする磁石の開発が重要となってきています。現在、磁石に使用する主要組成のネオジムを大きく減らすかゼロにする技術はメーカーや大学などの研究機関で研究・開発中ですが、実用化にはまだ時間がかかりそうです。
<ジスプロシウム(Dy)の役割>
前項でネオジム磁石に含まれる主な金属元素のお話をしましたが、その中のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)はネオジム磁石の熱安定性、耐熱性を左右する重要な希土類(レアアース)金属です。
次図は標準的な焼結型ネオジム磁石について、保磁力Hcj、エネルギー積(BH)maxの関係と、各磁気特性の磁石がどのような用途に使われているか、またそれらの磁石にどれくらいジスプロシウムDyが含まれているかをあらわしています(テルビウムを代用する場合もあります)。
グラフの左側の使用環境がそれほど厳しくない用途ではHcjは低くても熱による不可逆減磁はそれほど問題なく、大きなBr、(BH)maxが利用できます。また、グラフの右側の保磁力Hcjが大きな磁石はBr、(BH)maxは低下するが熱による不可逆減磁が少ないため高温度使用の用途に使われます。つまり、ジスプロシウやテルビウムはネオジム磁石の耐熱性を高めるために添加されるわけです。
焼結型ネオジム磁石の保磁力・Hcjとジスプロシウム(Dy)含有量
前図をもう少し詳しく見てみましょう。ご覧のように使用温度がそれほど高くならない音響、パソコン関連は低Hcjであり、ジスプロシウムが2%以下で済みます。ところが使用温度が高くなったり、使用時のパーミアンス係数が低くなったりするにつれ、Hcjが大きな磁石、つまりジスプロシウム含有量が多いネオジム磁石が必要になってきます。
近年の製造技術の進展によりジスプロシウム含有量はかなり減少しましたが、依然として重要な添加金属元素となっています。例えば、図のように、ネオジム磁石の用途によって要求される耐熱性能が異なり、そのためそれぞれに適した保磁力Hcjが必要となります。そのため各用途に従ってネオジム磁石内のジスプロシウム含有量が変わってきます。
ネオジム磁石のジスプロシウム含有量は磁石メーカーによってある程度は異なりますが、例えば、スマホ用イヤホン、スピーカー、振動モーターなどは1%以下、DVD、HDDなどのモーター用が1~2%、FAモーター関連が2~3%、エアコンのコンプレッサー、ロボット、発電機関連が3~4%、HV、EV用モーターが4~8%などが代表的な含有量となっています。
<ジスプロシウム(Dy)が抱える問題>
ところが、最近日本国内のみならず世界的に、産業機器モーター、発電機、HV、EV等の高耐熱用途が増加しているため高保磁力磁石の需要が急増しています。したがって、手をこまねいていますとジスプロシウムを大量に使用せざるを得ない状況になってしまい、大きな問題が残ってしまいます。
というのも、保磁力Hcjを改善する目的のジスプロシウムの埋蔵量や生産量が問題であり、次図のように中国のイオン吸着鉱やマレーシアのゼノタイムなど、一部の鉱石だけにジスプロシウムなどの重希土類が含有されていないこともあり、価格が高く、しかも価格変動が激しいのです。さらに、今般の米国関税と中国の対応問題のように、政治的思惑で生産が左右されるリスクが常に付きまといます。
そのため、ネオジム磁石の成分中のジスプロシウムの使用を大幅に減らすかゼロにすることが、現在磁石メーカーが急がなければならない大きな技術課題となっています。
主な希土類(レアアース)鉱石の分布と各種希土類含有量