磁化曲線(Magnetization Curve)、磁気履歴曲線(Magnetic Hysteresis Loop)、ヒステリシスループ
下図のように、「磁場の強さとその磁場で磁化される物質の磁束密度Bまたは磁化Jの関係を表す曲線。」
磁界の中に置かれるとそれ自身が磁石になる。これを磁化と呼ぶ。磁界を強くしていくとどこまでも磁化されるわけではなく、ある一定値で飽和する。この値を飽和磁化と呼ぶ。逆に磁界を弱くしていくと、磁化はなかなか弱くならず、逆方向の磁界のある値のところで磁化がゼロになる。この時の磁界の大きさを保磁力と呼ぶ。このように磁性体の磁化は、磁界を強くするときと弱くするときとでは別のルートを辿り、特徴的なループを描く曲線になる。この、磁場を逆方向も含め交互にかけた時の磁化曲線を磁気ヒステリシス曲線と呼ぶ。
磁場Hと磁束密度Bの関係を測定した曲線がB-H曲線で、磁場Hと磁化Jの関係を測定した曲線がJ-H曲線である。
<磁気特性と磁化曲線>
次に、磁石の磁気特性の表し方とその意味を、磁化曲線を使って説明する。
磁石内部での磁束密度をB、加えられる磁場をH、磁石の磁化Jとの間には次のような関係が成立つ。
B=μ0H + J (CGS単位系 B=H + 4πI)
B:磁束密度 [T] (G)
H:磁場 [A/m] (Oe)
J:磁化 [T] (G)
μ0:真空の透磁率 4πx10-7 [H/m]
上記式は、磁束密度Bは、加えられた磁場Hと磁石の磁化Jの和で表されることを示している。
前図は磁化曲線または磁気履歴曲線(ヒステリシスループ)と呼ばれているもので、磁束密度、磁化、磁場の関係が良く分かる。また、陰影を施した第2象限の部分は減磁曲線とも呼ばれ、磁石の性能を表す際に良く使われる。
磁化曲線には、J-Hループ(J-H曲線)とB-Hループ(B-H曲線)がある。外部磁場によって磁石の磁化の大きさがどの位変化するかを表しているのがJ-Hループで、外部磁場の大きさに磁石の磁化を加えたトータルの磁束密度を表しているのがB-Hループになる。
それではまずJ-Hループを検証してみることにする。
初期の着磁の場合は0(ゼロ)→a→bと変化して、cで飽和に達する。この最初の磁化(着磁)の様子を表したものを初磁化曲線と呼び、cの磁化の大きさを飽和磁化(飽和磁束密度)Jsと言う。
次に、c点まで着磁した磁石に対して外部磁場を徐々に減少させて、磁場ゼロのd点になっても磁石の磁化が残っている。この外部磁場ゼロでの磁石の磁化の大きさを残留磁化(残留磁束密度)Jr(4πIr)と呼ぶ。
さらに、d→e→fと今度は外部磁場を逆(マイナス)の方向に加えてゆくと、磁石の磁化の大きさはすぐにはゼロにならないで、踏ん張りながらようやくf点でゼロになる。
このように、逆磁場(逆磁界)が加えられてもある程度磁化を保っていることが磁石(硬質磁性材料)の大きな特徴である。このf点での磁場の大きさを真の保磁力Hcjと言う。つまり、保磁力の大きな磁石ほど、逆磁場に強い(減磁しにくい)磁石といえる。
このように、J-Hループの測定は磁石単体あるいは磁石材料の評価をする時に重要となる。
次にB-Hループを考察してみることにする。
B-Hループは、最初の式(B=μ0H + J)のとおり、磁石の磁化Jと加えられた外部磁場Hのトータルの磁束密度を表したもので、磁石だけの磁化の大きさの変化をみているJ-Hループとは外部磁場の分だけ異なってくる。したがって、J-Hループに外部磁場の大きさを同じだけY軸に加えたものがB-Hループだということが言える。つまり、座標の右に行く(プラスH)ほど磁石の磁化JにHが加えられるから、ループは右肩上がりになり、座標の左に行く(マイナスH)ほど磁石のJからHが引かれるから、ループは左肩下がりになる。
H=0の点の残留磁化(残留磁束密度)BrはJrと同じ値になるが、B=0の点での保磁力HcbはHcjより小さな値になる。
以上より、B-Hループは磁石とコイルを組み込んだ磁気回路全体の磁束密度と外部磁場の関係を表すものであるため、磁石そのものというより、磁気回路の評価をする際に重要な指標となる。