ブラシレスDCモータ(Brush-less DC Motor)、永久磁石型同期モータ
「ローターに永久磁石を使用し、ローターに電力を供給するブラシを持たないモータであり、交流を直流に変換して動作させる。」
図-1にブラシレスDCモータの一例を示し,図-2にインバータで駆動するときの回路構成を示す。回転子の位置はホール素子で検出し,その信号を処理してインバータのゲート信号を生成している。インバータのトランジスタはゲート信号の有無によりオン・オフする一種の電子スイッチとして働くので,ゲート信号に応じて6個のトランジスタのオン・オフが切り替わり,モータ電流が変化する。いま,インバータの上側のトランジスタをU+,V+,W+,下側をU-,V-,W-と表し,ブラシレスDCモータの回転原理を説明する。
図-3に,U+とV-のトランジスタがオンしたときの電流の流れを示す。ここでトランジスタはスイッチで表現している.U+とV-のスイッチが閉じたため,直流電源から供給される電流は,モータのU相巻線から入り,V相巻線を通って直流電源に戻る。巻線電流による磁界の向きを電流と逆方向に取るものとすれば,U相巻線電流による磁界Hv相巻線電流による磁界Hv,これらの合成磁界Hrは図の矢印のように表される。
図-4に,ブラシレスDCモータの動作モードと磁界の変化を示す.表のU+,V-等はオンしているトランジスタを表す。上側と下側のトランジスタのオン・オフによって6個の動作モードが存在する。いずれのモードでも+側オンの巻線から-側オンの巻線に向かって電流が流れるため,図(b)の太い矢印で示されるように,合成磁界の方向は60度ずつ変化する。これは一種の回転磁界になる。したがって,ホール素子で検出した回転子位置に応じてモードを適切に切り替えれば,永久磁石回転子はこの回転磁界にひき付けられて回る。
図-5に巻線電流波形を示す.それぞれのトランジスタのオンする期間が120度で切り替わっていくため,電流も120度通電となる。120度通電方式は,ホール素子の信号から専用ICを用いてインバータのゲート信号を容易に作成できるため,簡便な駆動法としてよく用いられる。
図-6に,ブラシレスDCモータのトルク-速度曲線を定性的に示す。インバータの入力直流電圧によって回転数が変化するので,直流モータと同様の制御が可能になる。このことから「ブラシレス(ブラシと整流子を取り除いた)DCモータ」という名称がつけられている。ブラシレスDCモータはブラ
シと整流子が無いため保守性が良く,効率も高く制御も容易なモータとしてさまざまな分野で使われている。
一方,ブラシレスDCモータは120度通電のためトルクリップルが生じ,高調波電流による損失増加という問題も指摘されている。これを改善するため,永久磁石式同期モータでは回転子の位置をロータリーエンコーダ(注1)やレゾルパ(注2)などで細かく検出して,インバータのスイッチングモードを高周波で切り替えることにより,巻線電流が正弦波になるようにしている。このとき,検出した回転子位置情報に基づいて,モータ電流を,空隙磁束を形成する磁界電流成分と,トルクに比例するトルク電流成分に分けることができる。したがって,トルク電流成分のみ変化するようにインバータ電流の位相と振幅を変えれば,トルクの高速制御が可能になる。この手法はベクトル制御と呼ばれ,応答速度と精度が要求されるモータ制御法として、同期モータや誘導モータに広く適用されている。
注1)ロータリーエンコーダ:回転方向の機械的変位量をディジタル量に変換する位置センサの総称。回転角に応じてパルスなどのディジタル信号が出力されるので,これを適当に処理することにより,回転子の位置角がわかる。
注2)レソルパ:回転位置センサの一種。ロータリーエンコーダより精度は落ちるが,構造が簡単で耐環境性が良いため,ハイブリッド電気自動車などで利用されている。