■ 西暦1930年~1961年:エレクトロニクスの発展を支えたフェライト磁石
1930年:世界初のフェライト磁石・OP磁石の発明
MK鋼の発明とほぼ同時期、東京工業大学の加藤与五郎、武井武、両博士により鋳造磁石とは異なる原理のハードフェライト・OP磁石が開発されました。両博士は酸化鉄を主成分とする各種フェライトを合成してその磁気特性を研究していましたが、その過程でコバルトフェライトが優れた永久磁石になることを見出し、東京工業大学の所在地の大岡山とパーマネントマグネットの頭文字をとってOP磁石と命名したのです。フェライト磁石は合金磁石とは異なり、セラミックス(酸化物)であることと、強磁性の仲間の“フェリ磁性”であるということで大きな特徴を有していました。
その後OP磁石は、保磁力(Hcj)の割には残留磁束密度(Br)が低かったために大量生産には到りませんでしたが、その代わり、銅・亜鉛フェライトが鉄心に替わる磁心材料・ソフトフェライトとして脚光を浴び、世に送り出されました。
1952年:バリウムフェライト磁石の誕生
1961年:ストロンチウムフェライト磁石の誕生
オランダのフィリップス社により、1952年OP磁石の性能を上回るバリウムフェライト磁石が開発され、フェライト磁石が工業用磁石として世界に躍り出ました。さらに、1961年アメリカのウェスチングハウス社により一回り特性がアップしたストロンチウムフェライト磁石が発表されたのです。いずれもマグネトプランバイト型といわれる六方晶の結晶構造を有し、フェリ磁性を示す永久磁石でした。
これらのフェライト磁石は原料が比較的安価なため世界中で実用化を競い合いましたが、各種生産技術を駆使して工業用磁石として大量生産を成功させたのが、TDK(当時の東京電気化学工業株式会社)を始めとする日本のメーカーでした。その後のエレクトロニクス時代のニーズにマッチしたフェライト磁石は合金磁石の生産量をあっという間に上回り、現在でも世界で最も数多く利用されている磁石となったのです。