前回に引き続き、磁石の不可逆温度変化(不可逆減磁)について考えてみました。
不可逆減磁の原因は何でしょうか?
現在保有している磁石はどのような条件下で不可逆減磁を引き起こしますか?
不可逆減磁を防止するためにはどのような磁石を選んだら良いでしょうか?
下図は、ネオジム磁石の20℃と120℃、フェライト磁石の-60℃と20℃の代表的なJ-H曲線、B-H曲線例です。少々複雑で引いてしまう読者もいるかもしれませんが、これからお話することはそれほど難しくありませんのであきらめないでください。
1、ネオジム磁石とフェライト磁石の温度変化
ネオジム磁石もフェライト磁石も温度が上昇するとBrが低下し、同時に表面磁束密度Bdも低下します。逆に温度が下がりますと上昇します。一方保磁力Hcj、Hcbはネオジム磁石や他の金属系磁石についてはBr、Bdと同様になりますが、フェライト磁石は逆の現象になり、温度が上がるとHcj、Hcbは上昇し、温度が下がると低下します。このことは上図で確認してください。
2、パーミアンス線(B/H線)を引く
どんな磁石でも磁化(着磁)と反対方向の磁場(反磁場)が発生し、その大きさは磁化の大きさとパーミアンスという形状から決定される係数に比例します。この係数は少し複雑な計算を要しますが、NeoMagのホームページ上で知りたい磁石の寸法を入れるだけで概算を求めることができます。パーミアンス係数Pcの数値が分かりましたら、B-H曲線上でPc=B/Hとして直線を引きます。例えば、Pc=0.5であれば、原点(B軸とH軸の交点)とB=1000G、H=2000Oeの点を結んで長く線を引きます。このパーミアンス線とB-H曲線の交点のBの値がおおよその表面磁束密度Bdとなります。
3、B-H曲線の屈曲点の上か下か?⇒不可逆減磁の分かれ目
前図の例でみると、ネオジム磁石もフェライト磁石も20℃ではパーミアンス係数が小でも問題ありません。一方、ネオジム磁石のパーミアンス係数(B/H線)が大の直線は120℃のB-H曲線との交点でも、曲線の折れ曲りより上にあり、不可逆減磁は起りませんが、パーミアンス係数が小の直線は折れ曲りより下になり、図のような不可逆減磁が生じます。同じようにフェライト磁石の-60℃では、パーミアンス係数が小さいと不可逆減磁が起ります。
4、不可逆減磁(熱減磁)をあらかじめ防ぐ手立ては?
もうお分かりのように、不可逆減磁発生の有無とその大きさは、
- 使用中の温度(短時間も含む)
- 磁石の種類、特性(B-H曲線の温度に対する変化)
- 磁石の形状(パーミアンス係数)または磁気回路の設計
でほとんど決まります。
したがって、不可逆減磁が起りにくい条件をまとめると、
※予想される悪条件温度におけるB-H曲線上で、パーミアンス線を屈曲点より上で交差させることを考えましょう。
- 使用温度は高くなっても70℃程度にする。(フェライト磁石の場合は、-50℃以下の低温度は要注意)
- 70℃以上の温度になる場合は磁石の着磁方向の寸法を大きくするか、鉄系ヨーク(鉄板)を装着して、パーミアンス係数を大きくしておく。
- 70℃以上の温度になる場合や磁石形状が薄い場合はHcj、Hcbの大きな磁石材質を選定する。
- さらに環境が厳しく、磁石形状に制限がある場合は、BrやHcjの温度変化(温度係数)が小さな材質を選定する。(例えばサマコバ磁石があります。)
等になります。
まだ他の条件も考えられますが、一応上記のことを考慮しながら磁石の使い方に注意していただければ十分かと思います。