【新シリーズ配信にあたり】
電子機器の小型・高性能化に大きな役割を担ってきましたネオジム磁石ですが、最近では地球環境に優しく、省エネ・省資源を目指す各種動力装置にも積極的に採用され始め、下図グラフのように益々その生産量は拡大してきています。そのような背景があり、過去のNeoMag通信では、ネオジム磁石の用途・応用について何回かのシリーズで解説をして参りましたが、その後お客様の中で、“ネオジム磁石の製造方法をもう少し詳しく知りたい”という多数のご要望があることがわかりましたので、素朴な疑問の原点に戻ったというべき今回のシリーズとさせていただきました。
1.ネオジム磁石の製造工程
ネオジム磁石のメーカーでの製造方法は、下図のような粉末冶金法を採用していて、(1)合金を作る、(2)合金を粉砕する、(3)粉砕粉を磁場中で圧縮成形する、(4)焼結・熱処理を行う、(5)各種加工を行う、(6)表面処理を施す、(7)検査・着磁を行う、等の工程で構成されています。
これら製造工程についての詳細を、これからなるべくわかりやすく解説して行こうと思っていますので、是非工程の名前と順番だけは覚えておいてください。
2.ネオジム磁石の原料について
ネオジム磁石合金はおおよその重量比で、ネオジム(Nd)23~30%、ディスプロシウム(Dy)2~10%、鉄(Fe)60~65%、ホウ素(B)1%、コバルト(Co)3%、および微量の銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの成分から構成されています。磁石メーカーのほとんどは、これら原料金属は原料メーカーから購入しています。ここでは磁石の製造方法に入る前に、その中の希土類(レアアース)金属であるNdとDyについて、その原料鉱石とその製法のお話をしましょう。
Nd、Dy、Smなどの希土類元素は酸化物やフッ化物の形で希土鉱石の中に複数種含有されています。次図は代表的な希土鉱石とその中の希土類元素の含有比率です。この中で最も埋蔵量が多いのはバストネサイトで、中国内モンゴル地方や米国カリフォルニアで産出し、希土酸化物に換算して約3,000万トンになります。モナザイトはインド、オーストラリア、中国に多く、1,500万トン、ゼノタイム他は300万トン程度で、中国、マレーシアが主な産地です。このように、希土類(レアアース)という名称であるが埋蔵量は豊富で、現在の4万トン/年を基準に計算すると、採掘可能年数は1200年となり、鉄100年、銅40年、亜鉛30年と比較しても、はるかに寿命が長いのです。
但し、ネオジムに限っては、資源量としては心配ないといえますが、産出・生産国がほとんど中国に頼っているということと、保磁力Hcjを改善する目的のDyの存在量が問題であり、表のように一部の鉱石に少量の割合でしか含有されていないため、Dyの使用が大きな技術課題となってきています。
3.希土類元素の分離・精製
前表のように希土類鉱石中には複数種の希土類元素が含まれていますが、まずそれぞれの元素を分離する必要があります。第二次大戦後、“イオン交換法”による相互分離の研究が活発に行われ、1950年代には希土類元素の大量分離法として確立されました。しかしながら、イオン交換法を用いると一回の操作で多元素の分離が可能で、しかも高純度品が得られるという利点がある反面、連続処理ができず一回の操作に時聞がかかり、また樹脂の再生、交換など運転にかかるコストが大きいため、かっては大量処理法の主流であったが今はその座から滑り落ち“溶媒抽出法”にとって代わられています。溶媒抽出法とは互いに混じり合わない溶媒へのイオンの溶解の仕方の違いを利用する分離法です。希土類元素の場合は溶媒として、水溶液(水相)と図:溶媒抽出法による向流多段抽出装置抽出剤を含んだ有機溶媒(有機相)が用いられます。この分離法では、一回の操作で高純度品を得ることは困難ですが、この操作をくり返すことによって純度を高めることができます。工業的には、この操作を連続的に数十回行うことのできる“向流多段抽出装置”(上図)が開発され、この方法が現在の主流となっています。そして、分離された溶液から、各希土類元素のシュウサン塩、酸化物、塩化物、フッ化物などが作られ、その後ネオジムなどは還元して金属製品にします。
4.希土類金属の製造方法
希土類金属は、一般に混合希土類金属と分離希土類金属に大別されます。ミッシュメタルやジジムなどは混合希土類金属であり、分離希土類金属を含めて用途として永久磁石や、記録媒体である光磁気ディスクの磁性材料、ニッケル-水素電池の電極材料、鉄鋼添加材料などがあります。
下表に希土類金属の製造方法として現在実施されているものをまとめてみました。この様に多種の製造法があるのは、元素の種類、生産量、品質、およびコストなど、製造目的に合わせて使い分ける必要があるためで、出発原料も様々です。前処理などの取り扱いが容易な酸化物が原料として最も望ましいのですが、その還元は容易でないため、無水塩化物やフッ化物も用いられています。
直接の磁石原料となる金属ネオジム(Nd)は、塩化物、フッ化物、酸化物などの溶融塩電解で製造され、金属ディスプロシウム(Dy)は金属熱還元法で製造されます。なお次回に解説する予定の“溶解法による磁石合金”に近い組成の合金を、酸化物から直接還元拡散法(R-D法)で製造する国内原料メーカーもあります。次回は磁石メーカーにおけるネオジム磁石の製造工程の解説に入る予定です。
(参考資料)
「希土類物語」足立 吟也 監修 (産業図書)
「希土類永久磁石」俵 好夫・大橋 健 (森北出版)