【ネオジム磁石の製造工程・全体概要】
下図はネオジム磁石の製造工程です。今月はこの中の粉砕工程についてのお話をしましょう。この粉砕工程はネオジム磁石を異方性磁石にすることと、粉末冶金という製法を導入するための重要な製造工程になります。
1.異方性磁石と等方性磁石について
ある特定の方向のみ強く磁化(着磁)する特徴を持つ磁石を異方性磁石と言い、現在のネオジム磁石やサマコバ磁石のほとんどがこの異方性磁石です。一方、どの方向もほぼ同じような磁化の強さを持つ磁石を等方性磁石と言い、フェライトゴム磁石やネオジムボンド(プラスチック)磁石が等方性の代表的な磁石です。同じ材質の磁石同士を比べると、異方性磁石の磁化の強さ(残留磁束密度Brの大きさ)は、等方性磁石のほぼ2倍になり、吸着力は4倍になります。なお、等方性磁石は着磁が容易なので、多極着磁品に向いているという利点があります。
2.粉末冶金について
粉末冶金(ふんまつやきん)とは金属粉末を使って製品を造る製法の総称で、古くからの鋳造(ちゅうぞう)、鍛造(たんぞう)、機械加工、金属プレス加工などと区別されています。製法的にはプレス成形、焼結工程を伴い、その特徴は以下のようにまとめられます。
(1)金型を用いて製造するため、次の点で優れている。
- 大量生産が容易で、それによるコスト低減が可能。
- 金型によるニアネットシェイプ(最終形状に近い形)を製造可能。
- 部品一体化などによるコスト低減可能。
(2)粉末金属の調合により材料調質が容易である。
3.ネオジム磁石合金の粉砕(粉末化)について
そして、ネオジム磁石は前記1、2で解説しました“異方性磁石”、“粉末冶金”の両者の長所を生かすための製法で製造されます。すでにお話しましたように、ネオジム磁石合金は、ネオジム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、および微量の銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの成分から構成されていて、溶解工程で合金塊(インゴット)にします。ところが、そのインゴットは次図のように多くの結晶粒(黒線で囲まれた部分)の集合です。
そしてさらにその中には、同じ方向の磁化容易軸(結晶の中の磁化され易い方向)を持った無数の原子磁石が集合した磁区(赤線で囲まれた部分)が存在します。
それぞれの磁区はその磁化容易軸方向が異なりますから、このままでは異方性磁石にはなりません。そこで、粉砕工程で合金中の色々な向きの磁化容易軸が集合した結晶や磁区を、粉砕によって1~10μm(平均4~5μm)まで細かく砕き、一旦バラバラにします。これで、それぞれの粉体は右図のように一定の磁化容易軸方向を持つことになります。
バラバラに砕かれたネオジム合金の粉体は次の磁場プレス工程で、一定方向に磁化容易軸が揃えられて圧縮成形されます。この磁場成形工程については9月号でお話させていただきます。
4.粉砕工程の設備と技術
このように粉砕工程が、ネオジム磁石の異方性化や粉末冶金製法としての重要な役割を担っているわけですが、粉砕工程は詳細にみると次のように主に3段階に分かれます。
(1)粗粉砕(水素脆化処理)
粗粉砕工程では、機械式粉砕の前に“水素粉砕”、すなわち、合金に水素ガスを吸蔵させ、それに伴う体積膨張を利用して多数のクラックを生じさせる技術が利用されます。これにより、合金が脆化して、後の中粉砕、微粉砕が無理なく行えるようになります。水素粉砕を行った場合は、希土類金属相は一旦水素化物になっているため、500~600℃まで減圧昇温して脱水素します。
(2)粗粉砕(中粉砕)
水素脆化粉砕された合金は、100μm前後まで窒素ガス中で機械粉砕されます。中粉砕には種々の粉砕機が使われます。代表的な粉砕機にはハンマーミル、ディスクミルなどがあります。
(3)微粉砕(ジェットミル粉砕)
微粉砕工程は原料合金中のNd2Fe14B型化合物相を微細な直径数μmの単結晶に分割し、磁場配向により異方性化すること、表面積を大きくして焼結を促進し高密度化すること、および焼結後の結晶粒径を微細化して高保磁力を得ることを目的としています。ジェットミル粉砕は高圧・超音速の窒素気流の勢いで粉砕する方法で、最先端の粉体制御技術を必要とします。微粉砕後は粒子表面の活性度が高く比表面積も大きいので、粉末はきわめて酸化されやすく、不純物酸素の混入はほとんどこの工程とその後の粉末移送工程で生じ、(BH)maxが40MGOe前後の汎用グレード製品(焼結体)でも酸素濃度が3000~5000ppmに達します。従って、組成を追い込んだ50MGOeクラスの高性能磁石においては、微粉砕とその後工程における厳密な雰囲気コントロールにより1000ppmまたはそれ以下の超低酸素磁石として製造されます。
以上、今月は粉砕工程について解説しましたが、粉砕された合金粉はこの後磁場中成形され、焼結されることになります。
(参考資料)
「永久磁石・材料科学と応用」佐川眞人・浜野正昭・平林 眞 (アグネ技術センター)
「希土類永久磁石」俵 好夫・大橋 健 (森北出版)
「NeoMag通信バックナンバー・2006年10月号」