【交流で回転するACモータ】
前回までは直流で回転するDCモータについて解説してきましたが、今回は交流(正弦波)で回転するAC(Alternating-Current)モータについての話になります。ACモータを分類すると、誘導モータ(Induction Motor)、同期モータ(Synchronous Motor)、整流子モータ(Communtator Motor)に大別されます。誘導モータおよび同期モータはともに、回転磁界により回転速度が決定するACモータです。ここで回転磁界とは、ステータ巻線に三相交流や二相交流などの多相交流電流を流した際に、発生した磁界が多相交流電流の周波数で決まる回転速度(=同期速度)で回転する現象をいいます。回転磁界によってロータが吸引されて回転しますが、その回転法の相違によってACモータが分類されます。今月はこのACモータの中で下図の※印がついた誘導モータについて解説いたします。
1.誘導モータの基本原理・アラゴの円板
通常は誘導モータやインダクションモータと呼ばれますが、非同期モータ(Ansycronous Motor)と呼ぶ場合もあります。その回転原理は次のような「アラゴの円板」の応用になります。アルミニウムのような金属板の上で、次の図のように磁石を移動した場合、うず電流が発生します。移動方向の前方では磁束が増加して磁束密度が高くなるため、これを打ち消す方向にうず電流(1)が流れます。逆に後ろ側では、磁束が減少して磁束密度が低くなるため、磁束を増加する方向にうず電流(2)が流れます。結局、磁石の直下ではうず電流の向きが同じ方向になり、図の手前の方向に流れます。すると、アルミニウム板は磁束、電流、力の関係から、右方向に電磁力を受けます(フレミングの左手の法則)。
これを利用して、円板状のアルミニウム板の周囲で磁石を移動させると、アルミ円板にできるうず電流と、磁石の磁界との問にフレミングの左手の法則が成り立ち、アルミ円板は磁石の移動方向と同じ方向に回転します。この原理は1820年にアラゴによって発見されたため、アラゴの円板と呼ばれます。誘導モータは、このような磁界の移動によって発生したうず電流が、再び磁界と作用してトルクを発生する原理を利用したモータです。
2.誘導モータの基本構造
誘導モータの原理は、アラゴの円板そのものです。回転する磁界とうず電流との間に発生する力が、モータを回転させるトルクを発生します。アラゴの円板では磁石を回転させて回転する磁界を作りましたが、誘導モータではコイルを用いて行います。また、回転する磁界を発生するコイルを外側に配置し、うず電流を発生する導体を内側に備えます。すると、内側の導体がうず電流と磁界の作用によって回転します。したがって、誘導モータでは永久磁石を使いません。
次の図は誘導モータの断面図です。外側の鉄心(固定子)に設けたスロットにコイルを埋め込んで、磁界を発生できるようにしています。このコイルは三相交流を加えることによって回転磁界を発生するように、三相配線(Δ結線またはY結線)します。そして、内側の回転する部分(回転子)には、うず電流が流れる導体として、銅やアルミニウムのような金属をかご状に組んで用いる場合(かご形回転子)と、コイルを用いる場合(巻線形回転子)があります。
3.かご形回転子と巻線形回転子
次図のようにかご形回転子の構造は、回転軸(ステンレス)にケイ素鋼板を積層にした回転子鉄心を取り付け、かご状に組んだ導体(回転子導体)をスロットにはめ込んで作ります。
また、巻線形回転子がかご形回転子と違うところは、導体としてコイルを用いるところです。発生したうず電流がこのコイルを流れるため、これを外部に取り出して調整することができます。そのため、スリップリングという、電流を取り出す金属を軸に取り付けています。スリップリングは直流モータの整流子と似ていますが、整流作用はなく、電流を取り出すだけの部品です。
4.三相交流と回転磁界
次の図のように角度を120°ずつ隔てて配置したコイルに三相交流電流を流すと、3つのコイルに囲まれた方位磁石は回転を始めます。これは、
内部の合成磁界 H = ha + hb + hc
の向きが時間と共に回転移動するからです。このように回転移動する磁界のことを回転磁界と呼びます。前述のように交流モータは、この回転磁界を固定子側で発生させて回転子を回しています。
三相交流電流で発生した回転磁界Hは、1回転する中で大きさの変化がありません。常に一定の大きさの磁界で回転します。回転磁界を目で見ることはできませんが、ゆっくり回転する磁界は方位磁石の回転で確認できます。つまり、方位磁石の回転はモータそのものなのです。
このコイルに三相交流を流しますと、1周期の間に回転磁界は1回転します。つまり、回転磁界の回転速度は、加えている三相交流のと同じ周波数になるということです。コイルの極数と回転磁界の回転速度は、一般に次のように表されます。回転速度nsは、同期速度と呼ばれています。
磁界回転速度(同期速度) ns = 2 x 三相交流の周波数 / コイルの極数
また、回転子の回転速度nはすべりSにより、同期速度より遅くなります。
すべりS = (同期速度ns ー 回転速度n) / 同期速度ns
以上は、三相交流の場合ですが、二相交流でも回転磁界を発生させることができ、二相誘導モータになります。また、単相交流では回転磁界は作れませんが、プーリやギヤを使った加速機によりトルクを発生させて単相誘導モータとして働かせることができます。
今月はACモータの中の誘導モータについて解説をさせていただきました。十分な解説は出来ませんでしたが、原理はお分かりいただけたと思います。歴史のあるモータですが、その原理を知ることにより、あらゆるモータの原理、構造が理解しやすくなるのではないでしょうか。次回は、同期モータについて解説をさせていただく予定です。
(参考資料)
「小型モータのすべてがわかる」 見城尚志、佐渡友茂、木村 玄 著 (技術評論社)
「よくわかる最新モータ技術の基本とメカニズム」 井手 萬盛 著 (秀和システム)
「トコトンやさしいモータの本」 谷腰 欣司 (日刊工業新聞社)
「自動車用モータ技術」 堀洋一、寺谷 達矢、正木良三 著 (日刊工業新聞社)
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