【HV・EV用同期モータ】
近年、ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の生産台数が急激に増加してきています。特にHVはトヨタのプリウスが2010年上半期に17万台(6月:3万2千台)、ホンダのインサイトが上半期に2万2千台(6月:4千台)、また、三菱のi-ミーヴ、富士重工のステラ、日産のリーフなどのEVも市場に投入され、HV、EVが国内自動車市場の中心的な存在になりつつあります。
そしてこれら未来型自動車の動力源として、永久磁石界磁式同期モータが重要な役割を担うことになります。以下、2007年のNeoMag通信9月号、10月号におけるHVのモータについての内容も一部含みながら、さらに直近の技術動向なども加えて解説をしたいと思います。
1.各種モータの特性比較
下表は各種モータについてその特性比較をしたものです。
上表より各種モータの中では、永久磁石式(PM)モータが、効率、体格、重量、コストバランスなどの面で明らかに優れていて、HV、EVモータとして最適であることがわかります。
2.HV、EV用モータの特徴
先月号でもお話しましたが、永久磁石式の同期モータには、
(1)磁石をロータ表面に組み込む表面磁石形(SPM:Surface Permanent Magnet)
(2)磁石をロータの鉄心内部に組み込む埋込磁石形(IPM:Interior permanent Magnet)
の2種類に大別されます。この2種類の方式の特徴を、右下表に示しました。
SPMとIPMの特徴は表に示しましたように、
(1)SPMは磁石がロータ表面に露出しているために有効磁束量が大きく、トルクリプルが小さい。したがって、電動パワーステアリング(EPS)のような高性能サーボ用途には適していますが、磁石が剥がれ易く、高速回転には向いていません。
(2)IPMはロータ内部に磁石が埋め込まれるため、高速回転に向いています。また、磁気回路的にヨークの一部(突極)を吸引・反発するリラクタンストルクを利用できるため、磁石トルクとの合成トルクにより、大きな総トルクを生み出すことが可能です。さらに、磁石の形状や配置の自由度が大きく、巻線の設計と共に高速回転での鉄損(渦電流損+ヒステリシス損)を少なくするための“弱め界磁”が可能となります。したがって、最近ではHV、EV用モータにはIPMを採用するケースが多く、高性能ネオジム磁石を使った高効率IPMモータが開発されています。なお、HV、EVに限らず、“エアコン”、“冷蔵庫”、“加工機”などにもIPMモータの応用が拡大してきています。
3.HV用モータの実際
HVの代表的な車種はプリウスですが、下表のように1997年の初代THS(Toyota Hybrid System)の1CM型から現在の改良THSⅡの3JM型まで、何代かに渡って改良されてきています。
次図は初代プリウス前記1CM型のモータの磁石トルクとリラクタンストルクについての概念図です。初期は4極、16スロットでしたが、IPMモータの長所を生かした画期的な設計であったことが良くわかります。
下図は前表プリウス・モータのIPMロータの変遷を示したもので、ネオジム磁石を4枚(4極)使った初代モータから現在の16枚(8極)までの改良の様子が示されています。
下図は2分割10極、24スロットのIPMモータについて解説したものですが、HVやEV用のIPMモータは、一方ではPMモータとリラクタンスモータを組み合わせた“永久磁石式リラクタンスモータ”と呼ぶこともできると思います。今後は用途に応じての合成トルクの出し方、回転数、コイルの巻き方、弱め界磁などで様々な永久磁石式リラクタンスモータが開発されると思います。
以上述べましたように、永久磁石式同期モータはネオジム磁石のトルクとリラクタンストルクを効率よく併用する磁気回路技術の進歩により、小型化、高性能化が一段と加速しつつあります。同時に、自動車分野のみならず、工作機械、家電分野等にその応用が拡大中であり、今後ますます目が離せない永久磁石の応用技術分野といえます。
(参考資料)
「小型モータのすべてがわかる」 見城尚志、佐渡友茂、木村 玄 著 (技術評論社)
「よくわかる最新モータ技術の基本とメカニズム」 井手 萬盛 著 (秀和システム)
「自動車用モータ技術」 堀洋一、寺谷 達矢、正木良三 著 (日刊工業新聞社)
(社)未踏科学技術協会主催、2010年1月14日新春特別講演会「磁石は地球を救うVer.2010」資料
「NeoMagホームページ」、NeoMag通信バックナンバー、磁石・磁気の用語辞典等