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モータの基礎と永久磁石シリーズ(9)

【リラクタンスモータ】

レアアースの資源・原料問題の波紋が産業界に大きく拡がってきている中で、最近になり永久磁石を使わないリラクタンスモータが注目され始めています。つい先日も、モータ専業メーカーの日本電産株式会社がHVやEV用として、スイッチドリラクタンスモータ(SRM)の量産計画を発表したばかりですが、今月はこのリラクタンスモータについての解説をさせていただきます。

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1.リラクタンスモータの原理

従来、モータのトルク発生原理の基本は、下図(a)に示すように磁界中に電流を流すことにより発生する力を用いていますが、リラクタンスモータは、下図(b)に示すように電磁石の吸引力、すなわち磁気エネルギーの位置に対する変化によって発生する力であるリラクタンストルク(コイルが鉄を引きつける力)のみを利用します。

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リラクタンスモータは永久磁石モータと同様、モータの巻線構造とその駆動方法により2種類のモータに分類できます。

1つはVR形ステッピングモータ同様、ステータ・ワークとも突極構造とするモータで、スイッチドリラクタンスモータ(Switched Reluctance Motor)、以降略してSRMと呼ばれるものです。ステータに集中巻ステータを、ロータに凸極型ケイ素鋼板ロータをそれぞれ利用します。

もう1つは,ステータが交流モータと同様の構造のシンクロナスリラクタンスモータ(Synchronous Reluctance Motor)略してSynRMと呼ばれるもので、SRMが突極位置に応じて励磁をステップ的に切り替えるのに対して、SynRMはワーク位置に応じて正弦波電流で駆動するものです。

2.スイッチドリラクタンスモータ(SRM)の構造と原理

基本的にSRMは、VR形ステッピングモータに位置センサを取り付け、平均トルクが最大となるように励磁位置を切り替えて駆動し、ブラシレスDCモータと同様の駆動を行うものです。SRMという言葉はイギリス・リーズ大学のローレンソン元教授のグループが1970年代に始めて積極的に使い出したようです。

右図に示したように、ステータは集中巻線された突極で構成され、相数は2、3、4、5などが目的により選択されます。構造上の特徴はロータにあり、突極を持った積層電磁鋼板のみによって作られている。このため、高価な永久磁石を使用せず、その飛散という問題がないため高速回転が可能で、しかも集中巻線とステータ構造も簡単なため、大量生産をした場合、低コストが実現できるという特徴が最大のセールスポイントとなります。

トルク発生の原理を前図 b)により説明すると、ステータ巻線の一相を励磁すると磁束φが発生し、ワークは磁気抵抗が最小となる位置θ=0まで回転します。ロータ位置θに対する巻線のインダクタンスをL(θ)とした場合、磁気随伴エネルギーWは次式となります。

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W=(1/2)L(θ)i2

エネルギーの変位に対する微分がトルクとなるため、上式によりトルクが表現されます。

T=∂w/∂θ=(1/2)i2(dL(θ)/dθ)

インダクタンス差を大きくするほどSRMの発生トルクを大きくできるため、最大トルクを得る突極形状の研究が、開発当初なされました。とくにSRMでは鉄心の磁気飽和を有効に利用するため、トルクの発生について磁化曲線上で理解しておくことが重要となりますが、詳細については、別の機会にお話することにいたします。

3.シンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)の構造と原理

モータの分類からは、ここで述べるシンクロナスリラクタンスモータ(以降SynRMと略称する)が本来リラクタンスモータとして分類されていました。右図がその概略構造です。

リラクタンスモータは、商用電源で直接駆動できる同期モータの一種として、同期回転を要求される紡績機の糸の巻き取りなどに応用されましたが、始動のために誘導モータと同様かご形巻線を施す必要があり、力率・効率が低いこともあって一般にはあまり実用になりませんでした。小容量の分野では、現在でもリアクションシンクロナスモータとして製品化されています。

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最近のパワーエレクトロニクスの進歩により可変走駆動が容易に出来るようになったことにより、誘導モータと違い2次側に電流を流さないため効率の点て有利ではないかということでSynRMとして見直しが始まっています。

ステータは誘導モータ同様3相の正弦波起磁力の分布巻線が施されています。ロータは磁気抵抗に変化を持たせるため突極構造とする必要があり、古くからさまざまな構造が考案されています。現在、下図に示すように種々の構造が提案されていますが、なかでも、代表的なものが(b)と(d)です。(d)は、アキシャルラミネート形と呼ばれるもので、電磁鋼板と非磁性シートをサンドイッチ構造にして積層して作るロータになります。(b)は、多数のフラックスバリア(磁束を通さないという意味でこう呼ばれる)を設けた電磁鋼板を積層して製作するマルチフラックスバリア形と呼ばれるロータです。この構造は、プレスの金型技術の進歩により、従来のプレスによる製作法が使用できる利点があり、誘導モータよりもコスト的に有利になる可能性もあって開発が進んでいます。トルク発生の詳細は割愛しますが、このモータは見方を変えると、IPMSMのモータの永久磁石を取り除いたものと考えられ、リラクタンストルクのみを利用するモータということが出来ます。

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4.リラクタンスモータの将来性

SRMは、励磁相の切り替えによる電磁石の吸引力のみを回転力とし、交流モータの最も原理的なものの1つと考えられています。ただし、回転を持続するためには、励磁を切り替えるスイッチを必要としたため、なかなか実用にならず、今日に至っているモータです。しかし、研究・開発自身は脈々と続けられ、文献上も特許上も膨大な数が存在します。

特に開発に熱心であったのが、汎用誘導機の代替を狙ったイギリスを中心とするヨーロッパと、電気自動車を目的とした米国でした。日本は、良質の磁石の世界への供給源であることもあって、盛んに永久磁石モータの開発が産業界で行われていたため、研究の点では出遅れたという経緯があります。

SRMを理想のモータとする論調も一部で見られますが、決して従来のACモータに全て取って代わるだけの性能を持っているものではないと考えられます。もしそうであるなら、80年代初頭から応用が始まって既に産業界でそれなりの地位を築いているはずです。しかし、新しい用途を切り開くモータとしては、非常に面白い特性を持っていることは確かであり、吸引力が回転方向だけでなく、半径方向にも働くため、振動・騒音という本質的な問題を持っている点を改良することが今後の実用化の鍵であると思われます。永久磁石のレアアース資源の問題とともに、一気に注目される技術となりそうです。

一方のSynRMも誘導機の陰に隠れ、歴史の片隅にモータの分類としてのみ残る存在でした。しかし、インバータの発達により起動の問題がクリアされるとともに、2次電流の損失を発生させないメリットが見直されてきたモータでもあります。特に、1990年代に入って省エネルギーが切実な問題となってきて、少しでも誘導モータより効率の良いモータがないかという産業界の強い要望から、開発が進められてきています。SRMと同様、永久磁石を使わないモータとして、今後高性能化と実用化開発が活発に行われるのではないでしょうか。

以上、今月は永久磁石を使わない高性能モータについての、タイムリーな概要報告ができたと思います。しかしながら、リアクタンスモータについてのさらに詳細な原理、構造設計等については、別途専門書で勉強していただくことをお薦めいたします。

(参考資料)

「じしゃく忍法帳”吉岡安之 著 TDK編 (日刊工業新聞社)

「トコトンやさしい磁石の本」山川正光 著 (日刊工業新聞社)

「小型モータのすべてがわかる」 見城尚志、佐渡友 茂、木村 玄 著 (技術評論社)

「よくわかる最新モータ技術の基本とメカニズム」 井手 萬盛 著 (秀和システム)

「自動車用モータ技術」 堀 洋一、寺谷 達矢、正木 良三 著 (日刊工業新聞社)