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レアメタルの基礎シリーズ(3)

先月号ではレアメタルの最大の利用先、“鋼への添加=合金の製造”による“各種構造材”について、の解説と、実際の特殊構造材(超耐熱合金、低温用合金)の一部を紹介いたしました。今月は引き続き、特殊構造材の中の“超強度鋼”、“超硬合金”および“生体医療材料”へのレアメタルの利用の実際を解説いたします。

1.構造材に使われるレアメタル(2)

1-2.普通鋼以外の構造材に使われるレアメタル(先月からの続き)

(3)超強度鋼(マルエージング鋼)

金属間化合物の析出とマルテンサイト(1)化組織による鋼の強化を計った代表的な超強度鋼がマルエージング鋼です。マルエージング鋼は、引張強度が180~210kg/mm2もある超高強度鋼で、その組成は、18%Ni-8%Co-5%Mo-Tiです。

まず、高温に加熱して、組織全体をオーステナイト(2)化し、完全に溶質元素を溶かしこみます。この操作を溶体化処理とよびます。その後空冷すると、ラスマルテンサイトとよぶ均質組織になります。その後480℃で3時間焼もどしします。これを時効とよびます。こうすると、ラスマルテンサイトから組成がNi3Moの金属間化合物が析出し、焼もどしマルテンサイトがマトリックス(母相)として残ります。

マルエージング鋼は、強度と靭性のバランスがとれた構造用鋼です。高張力が圧要な重要部品だけではなく、原子力や宇宙開発などの分野にも適用されています。

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(4)超硬合金

金型や切削工具などで使われる超硬合金は、チタンTi、バナジウムV、クロムCr、ジルコニウムZr、ニオブNb、モリブデンMo、ハフニウムHf、タンタルTa、タングステンWなどの高融点レアメタルの炭化物や窒化物をニッケルNiやコバルトCoなどの基材に分散させて製造します。

特に、硬質粒子としてタングステンカーバイド(炭化タングステン)を基材としてコバルトを用いたWC-Co合金が代表的な合金です。この合金の表面にアルミナや炭化チタン、窒化チタンなどをコーティング層として析出させたものをコーティングとよびます。下地は超硬合金で、コーティング層と下地に挟まれて表面強靭層とよばれる靭性に優れた層が現れます。硬化粒子に炭化タングステン以外の炭化物や窒化物を使月した場合、刃物工具ではサーメットよび、WC-Co合金と区別します。

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なお、タングステンWはその約65%が超硬合金向けであり、わが国では90%近くを中国に依存しています。輸入形態としては、酸化タングステンWo3、パラタングステン酸アンモニウムAPT、フェロタングステンFeW、炭化タングステンWC、金属タングステンWなどがあります。

つまり、工業的に非常に重要な超硬合金材料としてのタングステンWを中国にほとんど依存していることは、レアアースと同様、国家の資源戦略上大きな問題を含んでいるということです。

わが国における超硬合金の用途は,約74%が切削用途に、約22%が耐摩・耐食用途に、約4%が土木鉱山用途に利用されています。切削用工具や金型,耐摩耗部材はわが国の自動車や情報家電などの先端産業を支える高度部材加工技術の中心的なツールであり、大企業から中小企業まで幅広く利用されているものです。しかし、超硬合金を利用したこれらのツールはいずれも製造工程における消耗品であり、安価で安定して供給し続けることがわが国の国際的優位性を推し進める上で不可欠ですが、「Mineral Commodity Summaries 2005」によりますと、タングステンの推定埋蔵量と世界的な使用量から算出されたタングステンの可採年数は48年程度と見積もられており、安定して使用しつづけるにはタングステンの使用量を減じるか、タングステンに変わる代替材料を開発する必要があります。特に、可採年数、中国の輸出規制から考えると緊急的な対応が必要であり、レアメタルであるタングステンの使用量を減じる技術開発を急がねばなりません。

また、超硬合金は今まで国内外をあわせても3割程度しかリサイクルされていませんが、これは、超硬合金から炭化タングステンを抽出するコストが新しく炭化タングステンを購入する価格より高く、さらに、得られる炭化タングステンの粒径が均質ではないためと考えられます。最近のタングステン価格の急騰からリサイクルの見直しが進んでいますが、省使用化技術とあわせてリサイクル技術もタングステン対策としては重要となります。

(5)生体医療材料

生体医療材料は、医療用に用いられる人工の材料と人体内部に埋め込んで使う材料です。毒性がないこと、生体との適合性がよいこと、適度な強度があること、耐食性があることなど、複数の要求特性をすべて満足させる材料が要求され、各種レアメタルが使われています。

<生体材料に使われるレアメタル>

生体用途の金属は、レアメタルが中心です。人工内耳には白金が使われます。構造材としての生体材料は、比強度が大きくて人体との反応がないチタンTi、また加工性や強度・靭性バランスに優れたα+βチタン合金(Ti-6Al-4V)が主な合金です。このほか、ニッケルチタン合金や、コバルトクロム合金などもあります。すきま腐食対策にモリブデンMoを添加し、粒界腐食を防止するために極低炭素化したオーステナイト系ステンレスSUS316Lも開発されています。

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以上、今月は構造材に使われるレアメタルについての一回目の話になりましたが、次回も“超硬合金”、“超強度鋼”、“生体医療材料”などの構造材について解説をさせていただきます。

(参考資料)

「よくわかる最新レアメタルの基本と仕組み」 田中和明 著(秀和システム)

「レアメタル 技術開発で供給不安に備える」(独)産業技術総合研究所 レアメタルタスクフォース編 (工業調査会)