本シリーズ過去4回までは風力発電の基礎として、風のエネルギー、世界および日本の風力発電の実態、種々の発電システムなどについてお話を進めてきましたが、今月からは、各種風力発電機の構造やその特徴、設計の基本についての解説に入りたいと思います。
1.風力発電機の種類
シリーズの初回でお話しましたように、風は太陽エネルギーが地球上で変化した形態といえます。この風のエネルギーを利用する方法は、風車によって機械的運動(回転)力に変えて取り出すことが基本となっています。そして、この回転力で発電機を回して発電しますが、風車が火力発電の蒸気タービンや水力発電の水力タービンに相当します。火力発電や水力発電ではタービンが密閉容器の中で高速で回るのに対して、風力発電では大きな風力タービンが大気中でむき出しでゆっくり回ることになります。
風力発電機といってもいろいろな種類があります。まずは羽根の形状で分けると、プロペラ型、オランダ風車型、多翼型、ダリウス型、サボニウス型などいろいろな形があります。風車の種類は、風車の回転軸か水平に置かれているか、垂直に置かれているかによって「水平軸風車」と「垂直軸風車」に大きく分類されます。垂直軸風車は、風車の回転面を風向に追尾させる方向制御機構が不要になる点と重量が大きな発電機を地面近くに置ける点が大きな特徴といえます。
(1-1)水平軸風車
◆プロペラ形風車
風力発電に使用される最もポピュラなタイプは、プロペラ形風車です。プロペラ形は、羽根の回転軸が水平になるため水平軸風車と呼ばれますが、ブレードは飛行機のプロペラと同じ断面をもっていて高速回転をします。
流体力学的には風車の翼数が少ないほど高速回転するとされ、中には高速に回転させるため1枚羽根や2枚羽根の風車もありますが、一般的にバランスが優れている3枚羽根が圧倒的に多く使われています。回転数より、むしろトルクを大きくするため5~6枚羽根が使われることもあります。
プロペラ形は高速回転に優れた特性をもっていますが、反面で騒音が大きいとか、首振り運動による効率ロスを抱え、カットイン風速(3~4m/s)がやや高くなるという問題があります。
しかし、プロペラ型風車は、風力発電機において最もポピュラな存在で、マイクロ風車から大型風車まで多用され、最近ではブレードの直径か70m以上あるものも登場しています。今後、大形風車は時代の要請に応えて大型化するとともに、山上、海洋上にも設置されてゆくと思われます。
◆オランダ形風車
よく知られている風車としては、前図のようなオランダ形風車があります。中世以降から田園風景の中で、風車小屋に取り付けられた4~6枚羽根を風の力で回し、その力は小屋の内部に設置された揚水ポンプを駆動したり、穀類の脱穀・製粉処理に使われてきました。
羽根は木製で、障子の格子のようになっており、そこに布を巻いて風を受ける構造になっています。季節ごとの風向きが変わりますが、当時は人力により風の来る方向に羽根を向けていました。もちろん、風が強くなるときは布を外せばよいわけです。歴史的に古くから実用化されており、現在でも観光用として活躍しています。
回転速度は遅いものの、トルクが大きく、電気時代以前に風の力を物理的回転エネルギーに変換して利用しようとした英知がうかがえます。
◆多翼形風車
アメリカの西部劇に登場する前図のような多翼形風車があります.この風車は羽根が数多く(約20枚)付いていて、主としてアメリカ中西部の農家や牧場を中心に揚水用として使用されてきました。この風車は羽根か多いため回転数は低くなりますが、比較的トルクが大きくなるという特徴があります。したがって、揚水用に適しているといえます。今でもアメリカの田舎を旅行すると見かけることがあります。
回転力が強く、音は静かであり、アマチュアでも容易に風車を取り付けたり、修理もできることから、海外ではボランティア活動において中小形の揚水動力源として活用されています。
(1-2)垂直軸風車
◆サボニウス形風車
垂直軸形風車の代表としてサボニウス形風車があります。発明者であるフィンランド人の名前を取ったもので、前図のように、半円筒形の羽根2枚で構成され、左右の羽根を互い違いに円周方向に多少重なり合う部分を残し、ずらして組み合わせたものです。したがって、二つのバケット(半分割された円筒)の間を通り抜ける風が、反対側バケットの裏面に流れ込むようにすることにより、回転方向に押す作用と向かい風の抵抗を抑える力となり、回転効率を上げています。
この風車はプロペラ型などの風の「揚力」を利用するのと違って「抗力」が主体となっている点が大きく違います。したがって、周速比はほぼ1となり、回転数は低くなり、音は静かで、トルクが比較的大きく、揚水などに適しています。特徴は、風向に関係なく回転させられることです。
◆ダリウス形風車
同じく垂直軸風車としてダリウス形風車があります。これも発明者の名前を採ったもので、比較的新しい風車です。羽根は2~3枚が使用され、サボニウス型の抗力を利用するのと違って揚力型であるため、回転数か非常に大きくなるという特徴があります。
また、風向に無関係なため方向舵が不必要ですが、停止状態で風から得られるトルク(起動トルク)は極めて小さいため、自力での回転開始が難しいという問題があります。そのためモータで起動したり、サボニウス形風車と組み合わせて起動性能を向上させるなど、さまざまな工夫が試されています。
形がスマートで珍しく、人目を引くことからモニュメントなどに適していますが、施工上の難しさがあり、安全面や安定支持のため外枠囲みを設ける必要があるなど今一歩です。
◆クロスフロー形風車
細長い湾曲状の羽根を、上下の円板外周縁部に適度な角度を付けて等間隔に多数設け、外部の風が羽根の隙間から内部空洞部を貫流して、反対側(風下)の羽根の隙間から外部へ排出しつつ、一定方向に回転する風車です。
風に対しては無指向性で、全方位からの風を受けて回転します。前図において前方から風が来たとき、左半分の風は風車を回転する方向に有効作用しますが、右半分の風は回転方向運動に抵抗作用となり、起動トルクが大きいという特徴をもちますが、回転速度は大きくなりません。回転速度が低いので、トルクは高く、騒音は極めて静かであり、エアコンなどの送風用に多用されています。
2.風力発電にはどの風車が適しているか
日本でも大型風車をよく見かけるようになりましたが、ほとんどは3枚羽根のプロペラ形です。風車の羽根はドイツのMBB社で1枚羽根の中形風車を作っていたことがありますが、現在ではありません。また、1970年代から80年代にかけて、各国で大形風車の開発が行われましたが、その多くは2枚羽根でした。アメリカのカリフォルニア州では垂直軸のダリウス形風車が運転されています。次図からわかるように、プロペラ形風車は2枚翼も3枚翼もパワー係数が高く高性能ですが、3枚プロペラの方が周速比の低い領域で運転されることが読み取れます。また、ダリウス形風車もプロペラ形よりわずかにパワー係数は低いものの、高性能が得られることがわかります。一方、サボニウス形風車や多翼形風車は周速比が低く、トルク係数は高いもののパワー係数は低くなってしまいます。
では、プロペラ形風車がなぜ風力発電に多く用いられるのでしょうか。プロペラ形風車はトルク係数が低いのですが、パワー係数が高く、周速比も高いからです。風力発電システムは、自然風から機械的な回転カヘの風車によるエネルギー変換の過程での損失が一番大きいことから、少しでも効率、すなわちパワー係数の高い風車が望まれるのです。また、抗力形風車に比較して増速歯車の比を小さくできることも利点と言えます。このような理由で、揚力利用のプロペラ形やダリウス形風車が風力発電で圧倒的に多く使われているのです。
一方、独立電源としての小型風車では、プロペラ形風車以外にも、抗力形のサボニウス形風車などが用いられることもあります。この場合には風車本来のパワー係数が低い上に、歯車やベルトなどでかなり大きな増速比で増速して発電機を駆動するため、さらに損失が加わることになり、システム全体としての効率はきわめて低くなってしまい、風力発電には不適と言えます。
以上、代表的な水平軸風車と垂直軸風車の特徴を解説しましたが、下表はそのまとめになります。風力利用の羽根の形状によっていろいろな方式がありますが、下表からもわかるように、効率は何といっても水平軸プロペラ形風車が最も大きく、風力発電用として世界的に最も広く利用されています。
【参考:揚力と抗力】
流体中に物体があり、流体と物体との間に相対速度がある時、その物体は流体の流れに影響を与える事となり、その時に力が発生する。物体が下流側に受ける力のうち、流れの方向に垂直な成分を揚力といい、流れと平行な流れの向きの成分を抗力と言う。
今月は風力発電機の種類とその特徴についてお話をさせていただきました。特に羽根の形状には様々な種類があることがお分かりいただけたと思います。来月は風車の羽根の構造、内部構造などについて解説する予定です。
(参考資料)
「トコトンやさしい 風力発電の本」牛山 泉 著(日刊工業新聞社)
「風力発電機ガイドブック(改訂版)」金綱 均、松本文雄 共著(パワー社)
「ウィキペディア・フリー百科事典」