先月号では風車の羽根の構造、回転する原理、風力発電機の内部構造などについて勉強しましたが、今月は風向きによる風車制御の方法や強風に対する風車の安全性などについて、実際の大型風力発電機の例を検証してみたいと思います。さらに、小型風力発電機を製作する際の、簡単で効率の良い安全対策を調べてみたいと思います。
風は方向や速度も変化するものですから、安定した風力発電をするためには様々な工夫が取り入れられています。実際、大型風力発電機でも風速3m/sから25m/sくらいの範囲までなら、羽根の角度を調整したりしながらきちんと発電します。また、風向の変化に対しては、垂直軸風車はどちらからの風も受けとめるので問題ありませんが、水平軸風車は常に風の吹く方向に回転面を向ける必要があります。
1.大型風車の風向変化への対策
このことについては、昔のオランダ風車などでも同じことを考えて、回転面を風向に向けるための工夫をしていました。小型風車では風車小屋ごと、小屋の後ろに伸びた柱を人力で回転させて風の方向に向け、大型の風車では風車の頂部と風車だけを、やはり下左図のような柱を使って回転させていました。特に、オランダの大型風車では、ステージが付いていてそこで船の舵輪のようなウィンドラスを回転させて、風車の頂部と風車を風向に向けるようにしていました。
さらに、イギリスでは、この操作を自動的に行うために、1750年にA・メイクルが、下右図に示すような小型風車を尾部に回転面と直角に取り付けて、風車回転面が自動的に風と正対するようにしました。この方法は、最近でもデンマークやドイツの中小型風車で用いられていました。
最近の大型風車では、ナセル部分が数10tもするものが多くあります。このためにナセルと風車ローター部分を風の方向に向けるために、ナセルとタワーの継ぎ目の部分には大きな軸受が付き、風車回転面を風向に向けるようにしています。そのためにはナセルの上に付いている風向計の信号を検知して、いつでも自動的に風車回転面を風の方向に向けるように、複数個の専用の駆動モーターによりナセルを少しずつ回転させてゆっくり首を振るようにしています(ヨー制御)。
2.大型風車の風速変化への対策
最近の大型風車は、可変ピッチ機構と言って、風の強さに応じて羽根の角度を自動的に変えられるようになっています(下図)。これは、プロペラ式の飛行機のメカニズムの考え方と同じものです。風車を停止状態から起動するときや、風の弱いときには、風に対する羽根の角度を大きくとって風を多く受けるようにします。そして、定格風速に達した後は、羽根の角度を小さくして、必要なだけの風を受けて、余分な風は受け流してしまうようにします。
さらに、台風などで風速25m/s程度に達すると、羽根の角度を風向とほぼ平行にして(フェザーリング)、風をすべて流してしまうとともに、ローターはブレーキをかけないで空回りするようにして(遊転)、強風を「柳に風」と、受け流して風車を守っています。
また、伝統的なデンマークの風力発電装置は、失速制御という方法を採用していました。この方式の風車の羽根はハブヘの取り付け角度が一定に固定されており、定格風速に達すると、羽根の背面で気流が剥がれて失速現象を起こし、揚力を大きく失うために、定格出力以上の出力を発生しないというものです。この方式は簡単ですが、可変ピッチ方式より回転制御の精度は低くなります。
3.小型風車の風速変化に対応するための機構
一方、小型風車にも多様な回転制御機構が用いられています。ここで、風力発電機の自作を考えている一部の読者もいらっしゃると思いますので、製作にあたり、風速変化に対する機構と安全設計についての基本的なお話を同時にさせていただきます。
風の特性として、強風時、弱風時、無風時があることは当然ですが、とかく弱風時が気になり、弱風時によく回転するように風車を作りたくなるのが人情ですが、強風時の風の力を十分理解して設計製作しなければなりません。
風車に結合する発電機その他の装置も定格の回転数があり、これを越えることは破壊につながります。このようなことから、回転数の制御と保安機構は小さなシステムでも必ず付けなければならなりません。回転制御というと、プロペラのピッチ(ひねり角)を変える方式がよくとりあげられますが、手作りの場合は、機構が複雑になるのと、工作が大がかりになるので適当ではありません。したがって、プロペラのピッチなどを変えないで、プロペラに当たる風を調節する方式が考案されています。
それでは小型風力発電機の回転制御機構をもう少し具体的に考えてみましょう。下図は強風時にはプロペラが風と平行になるような機構です。図は機構を上から見たもので、プロペラの横に側翼が付いていて、強風時にこの翼に当たる風圧で働くようになっています。復帰はばねで行うのが一般的です。
次に、日本で開発された方式に、山田基博氏の発明の上方偏向式と懸垂式があります。上方偏向式は、次図のように強風時に上方に傾向して風を逃がすと同時に回転数を制御します。復帰はつり合い重りで行います。ばねで行ってもよいのですが、つり合い重りの方が簡単でしょう。
次図は懸垂方式です。強風時にはプロペラは下方に傾きます。一般には、支柱からアームを左右に伸ばし、2個のプロペラと装置を取り付けて、復帰はつり合い重りで行わせます。
その他、抵抗板を風力に応じてガバナで開かせる方式や、プロペラを強風時に折りたたむ方式なども発表されていますが、手作りには向きません。手作りには、前述の上方偏向式か側翼式が良いと考えられます。しかし、これも人手できる材料と工作技術から決定しなければならない問題です。手作りの場合で一番問題となるのは、材料というよりも、機械要素としての部品の入手です。この点、上方偏向式の方が、動作原理、機構共に簡単なため、材料の入手も容易といえます。なお、山田式風車の上方偏向式と同じ考え方の側方偏向機構の風車は世界各国で多数採用されています。
4.小型風車の設置場所の安全対策
通常の運転を行っていても小形風車は高速回転していますので、その回転翼に設置者その他の人が触れない高さ以上に設置することが必要です。したがって、人が手を伸ばしても翼の先端に触れない高さを確保することや、アマチュアの設置場所は一般の住居地(近隣の家が近い)にあるために、騒音や風車の陰影のために隣家からー-定の距離があることが必要です。風車は設置時よりも設置後の年数の経過に伴い磨耗などの影響で騒音、振動ともに増加します。小さな風車は高回転のための耳障りな音が発生することもあります。下図にありますように、隣家の居住場所から最低5m、できれば10m以上離れた場所を選ぶようにすると良いでしょう。さらに、翼の材質によっては近隣のテレビヘ電波障害を与え、画面のチラツキなどの原因なることもありますので、近隣に声をかけてよく確認をするぐらいの配慮が求められます。
さらに、住居地にある小形風車は多くの人の目に触れることになります。設置者は目立ちたい気持ちもあるでしょうが、万人が風車の回っている風景を好んでいるとは考えないことです。そのため、理解を得るためのやさしい説明書などを基に域内の人々と会話などをするゆとりが必要です。また、風車の本体やロータ(翼)などの彩色も奇抜なものを避けて、その居住地に調和するデザインに心がけるべきでしょう。
今月は、安定した風力発電をするための各種技術や、安全に対する工夫について勉強しました。引き続き次回は、風力発電の発電機と風車の効率を上げる方法などについてお話をさせていただきます。
<参考・引用資料>
「トコトンやさしい 風力発電の本」牛山 泉 著(日刊工業新聞社)
「風力発電機ガイドブック(改訂版)」金綱 均、松本文雄 共著(パワー社)
「マイクロ風力発電機の設計と政策」 久保 大次郎 著 (CQ出版社)
「ウィキペディア・フリー百科事典」