先月号では、シリーズの始めとして電池の歴史概略、電池の種類・分類について学びましたが、特に電池の総合分類の図表は良く覚えておいてください。そこで今月は、“充電のできない”、“繰り返し使用ができない”一次電池について勉強してみましょう。
1.マンガン乾電池
1866年に、ルクランシェが乾電池の先駆となるルクランシェ電池を発表しました。これは、素焼き筒の中に電解液を浸し、正極に二酸化マンガン、負極に亜鉛を用いたものでしたが、このルクランシェ電池の電解液を非流動化させ、日常使いやすいルクランシェ型マンガン乾電池の開発が19世紀末に世界で行われました。1880年代のほぼ同時期に日本の屋井先蔵、デンマークのヘレセンス、ドイツのガスナーらが開発を行い、これを乾電池と呼んだのです。
この電池は1880年代の後半から現代まで世界で大量に生産され使用されています。開発初期の正極には、天然産二酸化マンガン鉱石をそのまま粉砕して用いられましたが、現在は硫酸酸性硫酸マンガン水溶液から黒鉛アノード上に電気分解によって析出する電解二酸化マンガン(γ-MnO2)が使用されています。
負極活物質に用いられる亜鉛は、自己放電により表面から水素が発生します。この発生を軽減するために、その衣面を水銀で合金化する方法が用いられていましたが、1970年頃から使用後電池の廃棄による水銀の環境汚染が社会的な課題になり、電池の水銀ゼロ化が進められました。
不純物の除去、亜鉛合金組成や封口構造の改良など自己放電を抑える技術が開発され、現在、水銀は用いられていません。電解液は、1970年半ば頃までは、塩化アンモニウム、塩化亜鉛の混合水溶液が用いられましたが、それ以降は、耐漏液特性、連続放電特性にすぐれた塩化亜鉛を主体とした電解液が用いられています。電解液の非流動化には、天然デンプンや化工デンプンが用いられています。
2.アルカリ乾電池
前述のマンガン乾電池に比べて、原理的に高性能、高出力が可能な電池に水酸化カリウムを用いたアルカリ乾電池が1960年代に米国で研究開発され、1985年頃からマンガン乾電池にとって代わり用いられています。この電池は、下図のようにインサイドアウト構造で、正極活物質に電解二酸化マンガンと黒鉛を混合し、成形した円筒形状の正極を外側に、セパレータを介して、その中に、電解液である水酸化カリウム水溶液とカルボキシメチルセルロースからなるゲル溶液にアマルガム化した負極亜鉛粉末を分散させた負極ゲルが配置されています。アルカリ乾電池の無水銀化は、マンガン乾電池以上に難しい技術開発が必要でしたが、Fe不純物の除去、In-Bi-A I系亜鉛合金、無機や有機防食剤の開発、集電体の改良などにより実現しました。
3.空気亜鉛電池、酸化銀電池、アルカリボタン電池
正極活物質に酸化水銀や酸化銀を用いると高出力、高エネルギー密度の電池が可能になります。正極に酸化水銀を用いる水銀電池は、電圧がきわめて安定している特長を生かし、カメラの露出計や電子カメラ、補聴器の電源として多用されましたが、環境への水銀汚染問題の高まりとともに、1995年に生産が中止され、正極に空気(酸素)を使用する電圧が1.4Vのボタン形空気亜鉛電池がとって代り補聴器の電源として使用されています(下図)。
一方、正極活物質に酸化銀(主にAg2O)を用いるボタン形酸化銀電池が民生用小型電子機器の電源として、1960年代に入って実用化されました(下図)。酸化銀はアルカリに溶解し、負極に達して自己放電を起こすために、セロファンとポリエチレンにメタクリル酸をグラフト重合させた多層フィルムが開発されました。また、漏液を防ぐ封口技術が進み、信頼性が向上し、アナログ電子ウォッチや小型電子機器の電源に、ボタン形状の小型、薄型の酸化銀電池が用いられています。銀価格の高騰を契機に、前述のアルカリ乾電池をボタン形状にしたアルカリマンガンボタン電池が登場し、小型電子玩具などに広く用いられています。
4.リチウム系一次電池
負極活物質にLiを用いるリチウム電池は、日米欧で1960年頃から、研究・開発が行われていました。正極活物質には、金属酸化物、硫化物、ハロンゲン化物、オキシハロゲン化物が検討されました。わが国では、正極はフッ化黒鉛、電解液にはν-ブチロラクトンにLiBF4、を溶解させたリチウム電池が1973年に松下電器(現パナソニック)から、また、正極に二酸化マンガン、電解液にはプロピレンカーボネートにLiClO4を溶解させたリチウム電池が、1975年に三洋電機により、世界に先駆けて開発されました。電圧が3Vと従来の1.5V電池に比べ高く、可燃性の電解液を用いているなど普及に障害がありましたが、1975年頃から、小型、ピン形形状のリチウム電池が魚釣り用の電気うきに使用されたのを皮切りに、LCD表示のデジタルウォッチ、電子カメラなど次第に小型高性能な電子機器の電源に採用されてゆきました。(下図)
一方、米国ではSO2を活物質とする電池、欧州では、CuO、SOCl2などの開発が進められていました。これらリチウム電池は、小型円筒形、コイン形の形状で、カメラ用電源、小型電子機器の電源、メモリー電源として帽広く世界で用いられています。酸化銅を用いた1.5V電池はウォッチ用、液体活物質の塩化チオニルを用いた3.6V電池はメモリー用に実用化されています。高活性、高エネルギー密度の正・負活物質と可燃性の有機溶媒の共存は、小型でも新たな危険性を生み出し、セバレータ機能化、PTC (Positive Thermal Coefficient)などの部品開発、製法による安全性確立の技術開発が並行して行われました。
以上、今月は各種一次電池について、それぞれの開発の歴史、構造、特徴、用途などを勉強してきました。現在大量に生産されている乾電池・一次電池も、その性能、安全性など、先駆者の方々の知恵と努力が実を結んだ結果であることがお分かりいただけたと思います。
来月からは各種二次電池についてお話をいたしましょう。
<参考・引用資料>
「図解でナットク!二次電池」 小林哲彦、宮崎義憲、太田 璋 共著(日刊工業新聞社)
「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)
フリー百科事典ウィキペディア「電池」、「二次電池」
電池工業会ホームページ「電池の知識」
ネオマグ(株)ホームページ「磁石の歴史」