前回はリチウムイオン電池について、原理、基本構造、種類などについて調べてみましたが、今月は引き続き“リチウムイオン電池の安全性と充放電制御”についてのお話をいたします。また、“大容量・高電圧リチウムイオン電池システム”についても勉強してみたいと思います。
<リチウムイオン電池の危険要因>
電池の多くの事故は充電中に発生しています。これは電池が持つエネルギーと、充電器からのエネルギーが重なって大きなエネルギーになるからでしょうが、何らかの原因により、2次電池が過充電になり、事故を起こすこともあるのです。
例えば、複数の電池を直列接続した電池パックでセルのバランスが崩れれば、保護回路の過充電保護電圧である最大4.4V程度までセル電圧が上昇し、セルがたまたま不安定な要因を含んでいればそのセルが発火することもあります。
通常、リチウムイオン2次電池は4.4V程度では発火に到ることはないのですが、セルの製造工程でなんらかの異常があると事故を起こします。
さまざまな検査工程で不安定なセルは除去されていきます。しかし、実際には生産数量が大きいと、非常に低い確率で不安定なセルが出現します。
品質管理の教科書では3σ(スリーシグマ)を管理の基準にしていましたが、生産数量が大きく、かつ不良品が重大な事故をもたらす危険性がある場合には3σ管理では不十分です
国内の多くのメーカーでは6σ(シックスシグマ)管理を行っているはずですが、問題は海賊版の電池パックを作るような国の製品にあります。おそらくほとんど何の管理もされていないと考えられます。
電池パックの事故はセルの不良によるものばかりでなく、例えば電池パック内にある電子回路の不良によっても発生します。プリント配線板では湿度が高ければマイグレーションによる回路ショートや多層基板の層間絶縁不良なども発生します。電池パックの中に大きな半田ボールが入っていれば回路ショートが起きます。その回路ショートにより、発熱が起きます。上述の電池の持つ大エネルギーは電池の内部のみならず、電池の外部でも熱を発生し、故障や不良の原因になります。
<リチウムイオン電池の充放電制御>
リチウムイオン電池の充電時には注意する必要があります。単体の電池を充電する場合は、定電流で充電後、定電圧充電に切り替える充放電制御回路で済みますが、複数の電池セルを直列に接続した電池パックを充電する場合は、セルバランスを考慮する必要があります。個々の電池セルの容量や充放電特性にはバラツキがあります。直列接続で使用する場合には、充放電制御をうまくやらないと事故に至るセルが生じたり、最も特性の低いセルで制限された特性しか得られない状況が生じたりします。
事故の発生を回避し、電池の特性を100%発揮させるためには、よく検討された充放電制御回路を採用する必要があります。直列接続で使用する場合、充放電制御回路に要求される機能にはどのようなものがあるか検討してみましょう。
まず必要な機能は、個々のセルの電圧を正確に測定することです。定電流充電時に規定の電圧に達したセルはそれ以上電圧が上昇しないように充電電流の一部をバイパスさせます。すべてのセルが規定の電圧に達した後に、定電圧充電に切換えてバイパス電流をゼロにします。さらに一定時間経過後に充電終了です。これで、すべてのセルをフル充電にすることができます。
放電の場合はどうなるでしょうか。個々のセルの電圧が、決められた放電終了電圧まで低下したら、それ以上電圧が低下しないように放電電流をバイパスさせます。すべてのセルが放電終了電圧まで低下したら、放電終了の信号を出して負荷を遮断するなりの対応をとります。これで、すべてのセルの電気量を100%絞り出すことができました。
この制御回路のポイントは、個々のセル電圧を測定することと、電流のバイパス制御をすることです。
<大容量・高電圧リチウムイオン電池システム>
近年、低炭素社会の実現に向けて、自然エネルギーの利用や効率化、内燃機関代替の電動車両等に対する関心が非常に高まってきています。
「高エネルギー密度」、「高安全性」、「高電圧」を特長とするリチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンを始めとする情報機器市場で広く利用されていますが、一方で、このすぐれた特長を持つリチウムイオン電池の新たな用途の広がりも期待されています。環境に対する関心の高まりとともに、大容量電池に対する要望も年々強くなってきていますが、電池そのものを大型化する開発には時間を要し、立ち上げ時はコスト面でも不利となるため、リチウムイオン電池の新たな用途として既存の民生用電池を用いたソリューションが検討されてきました。その結果、小型電池を多数個並列に接続することで容量を確保するとともに、大出力にも対応するため直列にも接続することで、大容量・高電圧化したシステムが開発されています。
ここでは(株)東芝で開発された電池システムを例に解説を行います。太陽光発電や風力発電の蓄電や出力安定化、さらには携帯電話の基地局やサーバなどのバックアップ電源として、既存のシステムに組み込みやすい蓄電用標準電池システムを例にあげました。
※(株)東芝・定置式家庭用蓄電システムの例
容量6.6kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを備えた家庭用の蓄電システムで、蓄電池を分電盤に接続することで、家中の電気製品に 電気が供給できる「系統連系蓄電システム」となる。出力が3.0kVAと高いため、電気機器が長時間使用可能で、エアコンなど200Vの機器にも使用できる。
バッテリーには、東芝独自のリチウムイオン電池「SCiB」を採用。SCiBは負極材にチタン酸リチウムを採用することで、外部からの力 などで内部短絡が生じても、熱暴走が起こりにくい構造となっている。また、繰り返し使用回数は6,000回以上と、高いサイクル性能も備える。
さらにバッテリーの充電時間は、通常モードの場合は約5時間だが、急速モードでは約2時間で充電可能。計画停電や急な充電が必要な場合にも対応する。
また、万が一、蓄電池本体が故障した場合、蓄電システム用の分電盤に搭載した保守用切替器を操作することで、商用電源を過程全体の機器に届けることもできる。
電気代に対する効果としては、コントローラーで予め充電時間と使用時刻を合わせておくことで、深夜など電気料金の安い時間帯に充電可能。 コントローラーには、簡単に経済的な運転モードに設定する「おすすめ」ボタンも用意されている。太陽光発電システムと組み合わせた場合は、夜間に商用電源から充電した電気を日中に使用することで、太陽光発電システムの売電量を増やすこともできる。
さらに、家庭や地域の電力需要のピーク時にも、蓄電池の電気を使用することで、電力逼迫時も家電を運転し続けることが可能。コントロー ラーの「アシスト」ボタンを押すと、契約電流を超えた分の電力を蓄電池から供給する機能も用意されている。電力ピークを常に抑えることで、契約電流を見直し、毎月支払う電気の基本料金を抑えることにもつながる。
停電の際には、蓄電システムが自動的に電気を供給。満充電時の場合、テレビ・照明・冷蔵庫などを最大約12時間連続して使える。また、停電中の太陽光発電での蓄電にも対応する。
蓄電池の本体サイズは、892×302×1,080mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は168kg。出力は通常時が3kVAで、停電時が2kVA。設置場所は屋外で、使用温度範囲はマイナス10℃から40℃。
コントローラーには、有線LAN接続の「ENG-C20A1」と、BlueToothによる無線通信ができる「ENG-C10A1」、通信機能を持たない「ENG-C00A1」の3機種が用意される。サイズはいずれも146×22×120mm(同)。蓄電池システム用の分電盤のサイズは 500×110×320mm(同)。
次回は、さらに大容量・大型の二次電池、「ナトリウム硫黄電池」について調べてみたいと思います。
<参考・引用資料>
「図解でナットク!二次電池」 小林哲彦、宮崎義憲、太田 璋 共著(日刊工業新聞社)
「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)
(株)東芝ニュースリリース 2012年9月10日発表