先月までは、化学反応によって電気を蓄える二次電池を中心にお話をしてきました。そこで、今月は化学電池の二次電池ではなく、いわゆる物理電池に分類される大容量のキャパシタ(コンデンサ)について調査してみました。キャパシタが電池の代わりに、腕時計やスマートホンに利用されていることをご存じない読者も多いのではないでしょうか。
(6)電気二重層キャパシタ
<主な特徴>
電気二重層キャパシタ・EDLC(Electric Double-Layer Capacitors)は化学反応によって電気エネルギーを蓄える二次電池とは違って、正極と負極両方の電極表面付近で起こる「電気二重層」という物理現象を利用しています。充放電による劣化も起こりにくく、直流電気を今までに比べて著しく高効率で貯めるキャパシタ(コンデンサ)です。
ただし、上図のように二次電池と比較した電気二重層キャパシタは瞬発力を示す出力密度は高いのですが、持続力を示すエネルギー密度に課題があって、実用的なパワーアシストには現状の数倍のエネルギー密度(10kW/kg以上)が必要であり、この性能が実現できれば一部の二次電池を代替するともいわれています。
そこで、新材料の研究、セル構造の改良等による特性や信頼性向上の開発が、近年精力的に進められた結果、電気二重層キャパシタの原理を用いながら、負極にリチウムイオンを添加(ドープ)することで3倍近いエネルギーを実現した「リチウムイオン―キャパシタ」や、リチウムイオン電池の化学反応を取り入れた「電気二重層ハイブリッド―キャパシタ」など、新たな兄弟キャパシタが次々と発表されています。
今後は正極側の静電容量を高めるなどのキャパシタ自体の材料開発と、高圧を作る直列化回路等の周辺電子システム高効率化開発を加速して、省エネ対策に向けた新たな用途も広がりを見せるでしょう。
<原理と構造>
EDLCは電気二重層コンデンサ、スーパーキャパシタ、ウルトラキャパシタなどとも呼ばれています。EDLCは、コンデンサと同様に、0(ゼロ)Vが基準で、充電とともに直線的に電圧が上昇し下図に示すようにE = (1/2)QV = (1/2)CV2でエネルギーが蓄えられます。ただし、有機溶媒を用いたタイプでも3V程度が限界です。それ以上に電圧を上げると、有機溶媒(PC:プロピレンカーボネート)などが分解してガスが発生します。
パワーエレクトロニクス回路などによく用いられているアルミ電解コンデンサやセラミックコンデンサは数十~数百Vもの高い電圧をかけられますが、容量[C]は、μFという単位になります。これに対してEDLCは、kFという単位(μFとは9桁異なる)になります。ですから、アルミ電解コンデンサやセラミックコンデンサよりも重量エネルギー密度(持続力)が高くなりますが、重量出力密度(瞬発力)は小さくなります。数秒から数十秒での充放電に適した蓄電デバイスです。ただし、バッテリーと異なり電圧が大きく変化しますので、DC/DCコンバータ(直流電圧変換器)を用いて電圧を制御する必要があります。
EDLCは、リチウムイオン電池(LIB)と比べると1/20程度の重量エネルギー密度になってしまいますが、化学反応ではなく物理反応なので、副反応が起きにくくサイクル寿命が長いというメリットがあります。小さなセルでは3,000万回の実績があります。また、瞬発力に優れていますので、瞬時の充放電に適しています。
EDLCはどうやって電気を貯めるのか言いますと、重要なポイントは「電気二重層」にあります。電気二重層は100年以上前にヘルムホルツが発表したモデルに基づいていて、電極と電解液の界面において、電極に集まった電荷に引き寄せられる形で、イオン(陽イオンもしくは陰イオン)が貼り付いて電位差を生じ、電解液側に向かっては緩やかな電位差が生じることから「電気二重層」と呼ばれています。
下図に示すように、電極には正極と負極がありますから、「電気二重層」は、正極と負極の両方の電解液との界面に生じます。ですから、コンデンサを2つ直列につないだモデルで描かれます。
EDLCに一般的に使われている電解質はTEA・BF4(テトラエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート)で、有機溶媒の中で、TEA陽イオンと、BF4陰イオンに分かれます。正極と負極の間に電圧をかけると、正極にはBF4陰イオンが引き寄せられ、負極にはTEA陽イオンが引き寄せられて電位障壁を形成し、電気が貯められます。
より多くの電気を貯めるには、電極と電解液の界面がより多くなければなりません。つまり、表面積が大きいことが重要になります。そこで、柳子殻活性炭がEDLCの電極材料として、よく用いられています。
フィリピンなどの常夏の国に自生している柳子の木では年に数回実が成ります。ココナッツの実や皮は、食物、飲み物や繊維などとして利用され、あとに硬い殻が残ります。
硬い殻にはココナッツオイルが十分に浸みていますので、炭焼きで簡単に炭になります。柳子殻炭です。雄子殻炭には生物の細胞に由来する無数の穴があります。これに水蒸気を添加して、さらに小さな穴をこじ開けて大きな表面積にします。でき上がるのが柳子殻活性炭です。
小さな孔は1nm程度のナノレペルの極めて小さな穴です。その表面積は椰子殻活性炭1g当たり2,000m2にも達します。表面積が大きいので、脱臭材や水浄化処理材として広く用いられています。EDLCでは、これを細かく数μmのサイズにまで砕いて電極材料として使います。柳子殻以外に石油由来の活性炭などが用いられています。
なお、集電箔としてアルミ箔を用います。これに数μmのサイズにまで砕いた活性炭の粒子をバインダとともに付着させて電極とします。正極と負極は基本的には同じでかまいません。間に紙の繊維でできたセパレータを置いて短絡を防止し、電解質を含む電解液を加えて容器に入れます。EDLCは基本的な構成材料は、活性炭とアルミ箔と紙セパレータですから、自然にやさしい材料だと言えます。
<主な用途>
現在実用化されている主な用途としては、ソーラー腕時計の蓄電、カメラ、パソコン、携帯電話などのメモリー・バックアップ電源、自動車や搬送機、ショベルカー、工場の製造ライン装置などの瞬間停電(電圧低下)バックアップ装置、太陽電池とLEDランプとの組み合わせでの夜間の道路鋲への利用などがあり、その用途は確実に拡がっています。
1954年米国で特許が出され、近年は地球温暖化防止(エネルギー効率改善)からも、二次電池にない大電流の急速充放電特性を持つアシスト・デバイスとして注目されています。その中でも 瞬発力とアルミ電解コンデンサを凌駕する持続力を生かした用途としては、「モータの回生」が注目されています。モータは、ブレーキをかけるときに発電して電力を発生します。瞬時の発電なので、通常は熱にして捨ててしまいます。例えばエレペータ昇降用のモータ(巻上げ機)ではそのロスは30%近くにまで達します。さらにサーボモータなど繰り返しの頻繁なモータではそのまま熱にして捨ててしまうと50%近いロスになります。また、モータを高速に回転するには大きな瞬時電力が必要になります。ブレーキをかけたときに発生する電力をEDLCに蓄えて、モータの高速回転に必要な電力(力行「りきこう」電力)として供給すれば、大幅な省エネが図れます(下図)。
以上、今月は物理電池としての「電気二重層」について勉強してみました。来月からは「燃料電池」について、様々な角度から探索してみたいと思います。
<参考・引用資料>
「図解でナットク!二次電池」 小林哲彦、宮崎義憲、太田 璋 共著(日刊工業新聞社)
「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)
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