9月18日、「リニア中央新幹線」の詳細ルートおよび2027年開業スケジュールがJR東海から発表されました。今月は読者の皆さんが大きな関心をお持ちであろうと考え、“リニアモーターカー”の特別企画といたしました。今月10月号と来月11月号の2回に分けて調査結果をお届けします。
リニアモーターカーは電磁石や永久磁石の磁力を利用する近未来の乗り物であり、すでに世界の一部では実用化が始まっています。今企画では「リニア中央新幹線」に使用するリニアモーターカーの原理・構造を中心にその最新情報をお伝えいたします。
リニアモーターカーの原理については「NeoMag通信」の2007年11月号(バックナンバー参照)にも概略を掲載しましたが、今回はさらに詳細に、わかり易く解説いたします。なお、「電池の基礎シリーズ」については12月号から再開しますので、ご了解ください。
1、リニアモーターカーの概要
リニアモーターカー (Linear motor car) とは、リニアモーターにより駆動する鉄道車両のことですが、超電導リニアの最初の開発者であった京谷好泰が名付け親です。単にリニアと略すこともあります。Linear motor は英語ですが、実は Linear motor car は和製英語だそうです。
リニアモーターカーには主に磁気浮上式と鉄輪式がありますが、たいていは磁気浮上式を指して使われます。磁気浮上式鉄道を表す語としては“マグレブ”(Maglev)「Magnetic levitation(磁気浮上)の省略形」があり、こちらは和製英語ではありません。
■浮上方法の違いによる分類
車体を浮上させる方法の違いによる分類としては主に次の3種類になります。
(1)磁気浮上式リニアモーターカー
磁気浮上式リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)とは、磁力の反発・吸引力により浮上し、リニアモーターで駆動する移動車両の総称です。推進にはリニアモーターが用いられ、高速化が可能です。実用車両では車両側に超電導電磁石、軌道側に通常の電導磁石を使う“超電導リニア”(リニア中央新幹線)と、車両側、軌道側共に通常の電磁石と一部永久磁石を使う“常電導リニア”(ドイツ・トランスラピッド、上海・トランスラピッドなど)があります。その他、読者の皆様が特に関心があると思われます永久磁石を主体とした“永久磁石式リニア”があります。しかしながら、この永久磁石式リニアは、まだ実験小型車両、アトラクション車両などに限って利用されているだけのようです。
これらの磁気浮上式リニアモーターカーは、浮上にも駆動にも磁気を使うので、原理や設備の面から相性が良いのですが、駆動だけでなく浮上 にも新技術を用いるため、技術的ハードルが高く、また浮上式車両であっても、停車・低速時や緊急時のために車輪を装備していることが多いのが特徴です。
(2)鉄輪式リニアモーターカー
鉄輪式リニアモーターカーとは、動力にリニア誘導モーターを使い通常のレールと車輪によって走行する列車のことで、大江戸線などの地下鉄で多く実用化されています。鉄車輪式、接地式ともいい、鉄輪式以外にゴム輪なども可能です。 リニアモーターは非常に薄いため通常の電車よりも台車を薄くでき、車両断面を小型化できます。このためトンネル断面を小さくでき、建設費をローコスト化可能です。さらに、駆動力を車輪とレールの摩擦に頼らないため、急勾配での走行性能が高く、急勾配・急カーブを多く持つ線形にせざるを得ない大都市での地下鉄に有効です。
(3)空気浮上式リニアモーターカー
欧州、米国などの海外の一部で、試験車両が製造されていますが、まだ実用化にはいたっていないようです。
■モーター駆動方式の違いによる分類
リニアモーターも通常のモーターと同様、以下のように分類できます。
(1)リニア同期モーター(LSM)
軌道にも電磁石または永久磁石を並べなくてはならないため、軌道敷設・保線のコストがかさみますが、効率や出力には優れています。
(2)リニア誘導モーター(LIM)
車上一次式の場合、軌道側には電磁石が不要で、「リアクションプレート」と呼ばれる単なる金属板ですみます。LSMと比較した場合、効率が低くなります。ただし、車上一次式であれば軌道上にコイルを敷設する必要がなく、軌道上のコイルを励磁必要がないので推進効率は同種の推進方式のミニ地下鉄と同水準です。
(3)リニア整流子モーター
エネルギー効率はLSMよりも高いのですが、機械的接触があり、寿命が短いなどの問題があるため、実用レベルではほとんど使われていません。
2、中央新幹線のリニアモーターカー
(1)超電導リニアモーターカーの磁気浮上の原理と構造
中央新幹線は超電導磁気浮上方式鉄道、略して“超電導リニア”と呼ばれ、電磁誘導方式(EDS)の側壁誘導反発吸引方式が採用されています。
移動する磁界内に置かれたコイルには発電機と同様な原理で誘導起電力が生じます。誘導起電力で生じる電流がコイル内に流れると、コイルの巻き方により起電力を生じさせた磁界と反対方向または同方向の磁界が発生し、反発力または吸引力となります。誘導方式の磁気浮上では、これを利用して車両側に液体ヘリウムでマイナス270℃に冷やした強力な超電導電磁石を、ガイドウェイの側壁に巻き方を反対にして両端をつなげた8の字形の常電導短絡コイルを設置します。車両が高速で進行するとガイドウェイ側のコイルには誘導電流が発生し、この電流がコイルを流れると車両と反発・吸引する方向で磁界が生じて、その結果車両が浮上する仕組みとなっています。反発・吸引力は、車両の速度に応じて増加します。
磁気浮上のための構造は次図のようになります。まず、ガイドウェイ側の側壁に推進コイルに重ねて、浮上・案内コイルが上下に対になって、それぞれ反対の巻き方で設置されています。その脇をリニアモーターカーの車体側コイルが通過移動して行きます。
側壁の浮上コイルの巻き方は上下方向で8の字になるように巻かれています。この場合、高速に進入してくる磁界に対して、浮上コイル下側からは反発力、浮上コイル上側からは吸引力が発生し、車両が浮上します。浮上力はコイル中心から通過する磁界中心のずれに比例して発生し、コイル内の電流も同じです。低速域で浮上すると浮上コイルに生じる電流が大きく磁気抗力が大きくなるため、低速域では車輪で車体を支持し浮上コイルの中心を車載超電導磁石が通るようにして磁気抗力を回避し、磁気抗力が十分に小さくなる速度に達してから車輪を上げ(=車体は僅かに沈み込む)浮上走行に移行します。このことで、コイル内の電流を小さくすることができ、車両に対する磁気抗力を小さくしています。さらに軌道底面からの浮上量は側壁浮上コイル設置位置で自由に決定できる利点もあります。山梨実験線の仕様では約 100mmの浮上が得られる位置に浮上コイルが設置されています。もともと、日本国有鉄道(国鉄)でリニアモーターカーの開発を指揮していた京谷好泰が、地震の多い日本でも安定して走行できるようにするためには、思い切った浮上高を実現する必要があると考えて目標を10cm 浮上にしたものです。コイルの設置位置で任意に浮上高を決められる側壁浮上方式では浮上高にはあまり大きな意味がなく、たとえガイドウェイに底面がなかったとしても浮上走行できますが、加速して浮上走行に移るまでは車輪で底面に支えられて走るので底面を必要としています。
側壁浮上方式にしたことによって車上に供給される電力が不足する事態になりました。以前の軌道の底面に浮上コイルがある場合は車上の二次コイルによって車上で 必要な充分な誘導電流を取り出す誘導集電の使用が可能でしたが、効率の優れた側壁浮上方式に変えたことによって誘導集電による集電が困難になり、その 為、不足する電力を補う為にガスタービン発電機を搭載しています。現在、誘導集電により電力を得る技術が確立されたところであり、営業線においてはこの技術が採用されるものと考えられます。
(2)超電導リニアモーターカーの推進原理と構造
車両の推進には、線型同期電動機(リニアシンクロナスモータ、Linear Synchronous Motor)方式が採用されています。車両側の超電導電磁石(浮上用電磁石と共用)が界磁となり、軌道側に設置された推進コイルの磁極は地上変電所のインバータにより入力される電流の周波数によって切り替わり、車両側の推進力を与えています(地上一次方式)。磁気推進のためには車両位置を正確に検知する必要がありますが、車両側に推進に関わる制御装置などを持つ必要がありません。このため車両側への給電の必要もなくなります。
また推進コイルに流す電流の周波数に速度が比例し、電流の振幅が推進力に比例します。そして推進時との入力位相を180度反転させると制動力が働きます。制動時のエネルギーは電源側に回収する回生ブレーキにもなります。
推進には、左図地上ガイドウェイの推進コイル(電磁石)と車体側の超電導磁石の、N極S極の吸引力とN極N極、S極S極の反発力で車両は前進します。制御システムによって推進コイルの磁極を動かす(電磁石の電流を切り替える)ことにより、車体の超電導磁石との磁極の位置関係を保ちながら、加速されます。(下図参照)
次回は超電導リニアモーターカーの車両技術、特に超電導電磁石についてご報告いたします。
<参考・引用資料>
フリー百科事典・ウィキペディア「リニアモーターカー」、「超電導リニア」
「トコトンやさしい磁石の本」 山田正光著 日刊工業新聞社)