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エネルギー資源の現状と将来(14)<原子力エネルギー(5)-その2>

先月号で概要をご紹介しましたが、原子力エネルギーの元となる反応には核分裂反応と核融合反応があります。今月はその中で現在実際に利用されている核分裂反応核融合反応にについて詳しく調べてみましょう。その勉強の過程では少々物騒ですが原子爆弾、水素爆弾についてもお話をすることになりますが、あくまで原子力エネルギーを理解するためのお話ですのでご了解ください。

(5-6) 核分裂反応

物質を構成している原子の中心にある原子核を人工的に壊すと、大量のエネルギー(高い熱や人体に危険な放射線)が放出されます。ウラン235(235U)やプルトニウム239(239Pu)の原子核は、1個の中性子がぶつかると分裂し、この時2個から3個の中性子が飛び出すと同時に、膨大なエネルギーを放出します。

飛び出した中性子は、別のウラン235またはプルトニウム239の原子核にぶつかり、同様に分裂し、エネルギーと中性子を放出します。この核分裂がごく短い時間に次々と広がると、瞬間的に非常に強大なエネルギーを生み出すことになります。この原理を兵器として利用したのが原子爆弾(原爆)です。

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緑色の大きな粒が原子核。青い小さな粒が中性子。赤い矢印が発生したエネルギー

■連鎖反応と臨界および超臨界

核分裂の際には通常数個の中性子が外部に放出されます。そのため、核分裂を起こす物質が隣接して大量に存在する場合には、核分裂で放出された中性子を別の原子核が吸収してさらに分裂する、という反応が連鎖的に起こることがあります。このような反応を核分裂の「連鎖反応」と呼びます。核分裂性物質の量が少ない場合には連鎖反応は短時間で終息しますが、ある一定の量を超えると中性子の吸収数と放出数が釣り合って連鎖反応が持続することになります。この状態を「臨界状態(あるいは単に臨界)」といい、臨界状態となる核分裂性物質の量を臨界量と呼びます。発電等に用いられる原子炉ではこの臨界状態を制御しながら保持して一定のエネルギー出力を得ていますが、原子爆弾に用いられる場合は、核分裂性物質を短時間で臨界状態にする超臨界になります。

今月は原子炉での制御された臨界状態のお話をする前に、超臨界について、原子爆弾を例にして勉強してみましょう。

■原子爆弾の原理

前項でお話しましたように、ウラン235やプルトニウム239は臨界量以上の塊になったら、放っておいても爆発することを意味します。これが原子爆弾の原理です。ですから原子爆弾の原理は簡単で、臨界量以上のウランの塊を二分すればよいのです。それぞれの塊は臨界以下ですから、爆発することはありません。そして爆発させたいときに、爆薬を使って塊を衝突させればよいのです。するとウランは臨界量以上の塊になり、超臨界状態で爆発してしまいます。

したがって、原子爆弾の爆発装概(容器)はちょっとした工場でもつくることはできます。問題は高純度の核物質です。これの入手が大変なのです。逆にいえば、高純度の濃縮ウラン235やプルトニウム239さえ入手すれば、誰でも原子爆弾をつくることは可能、ということになります。

原子爆弾の原理

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■原子爆弾の構造

原子爆弾の構造は単純です。本質的には、臨界量以下に分割した核分裂性物質の塊を瞬間的に集合させ、そこに中性子を照射して連鎖反応の超臨界状態を作り出し、莫大なエネルギーを放出させる、というものです。ただし実際には、爆弾に用いる物質の性質に応じて大きく2種類の構造が用いられています。

<ガンバレル型(砲身方式)>

ガンバレル型(英:Gun barrel)または砲身方式はウランを臨界量に達しない2つの物体に分けて筒の両端に入れておき、投下時に起爆装置を使って片方を移動させ、もう一つと合体させることで超臨界に達するものです。合体の容易性から構造は凹型と凸型の組み合わせ、または筒型と柱型の組み合わせとなります。広島に投下されたリトルボーイがこの方式を採用しました。しかしリトルボーイでは、60キログラムとされるウランのうち実際に核分裂反応を起こしたのは約1キログラムと推定されています。その他のウランは核分裂を起こさずに四散したようです。初期の核砲弾用弾頭などの量産例はありますが、砲身方式を積極的に選択する意義は少ないため、核開発・製造において主流ではありません。

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<インプロージョン型(爆縮方式)>

インプロージョン型(英:Implosion)または爆縮方式は、英語のexplosion「爆発」という語のex-(外へ)という接頭辞をin-(内へ)に置き換えた造語で、「爆縮」はその和訳です。爆縮方式とはその名の通り、プルトニウムを球形に配置し、その外側に並べた火薬を同時に爆発させて位相の揃った衝撃波を与え、プルトニウムを一瞬で均等に圧縮し、高密度にすることで超臨界を達成させる方法となります。長崎市に投下されたファットマンで採用されました。 プルトニウムは自発核分裂の確率が高く、プルトニウム原爆は過早爆発防止の為にこの方式でのみ実用可能となるのに対し、ウラン原爆はインプロージョン型、ガンバレル型のどちらでも可能です。

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■原子爆弾の核種

ウラン核分裂反応を起こす物質(核種)はいくつか存在しますが、原子爆弾にはウラン235またはプルトニウム239が用いられています。

<ウラン原爆>

ウラン235は広島に投下された原子爆弾で用いられました。天然ウランに含まれるウラン235の割合はわずか0.7%で残りは核分裂を起こしにくいウラン238(天然ウラン)です。そのため、原爆に用いるためにはウラン235の濃度を通常90%以上に高めなければならず、辛うじて核爆発を引き起こす程度でも最低70%以上の濃縮ウランが必要となります。放射能が少ないために取り扱いは容易ですが、ウラン濃縮には大変高度な技術力と大規模な設備、大量のエネルギーが必要とされます。ウランは前述の砲身方式、爆縮方式のどちらでも使用可能です。

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島に投下された原子爆弾(リトルボーイ)

広島型原爆には構造が簡単な砲身方式が選択されました。砲身方式においてウラン原爆の臨界量は100%ウラン235の金属で22kgとされています。広島型原爆ではウラン235が約60kg使用されたとされています(全ウランに対するウラン235の割合が80%の濃縮ウラン75kg)。威力はTNT火薬19kt相当と言われています。

<プルトニウム原爆>

プルトニウム239は自然界には殆んど存在しない重金属ですが、原子炉(燃料転換率の高い原子炉が望ましい)内でウラン238が中性子を吸収することで副産物として作られるため、ウランのような大量の電力を消費する濃縮過程を必要とせず、その原子炉で電力が得られ、また臨界量が5kgとウラン235に比べてかなり少量で済む利点があります。

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長崎に投下された原子爆弾(ファットマン)

プルトニウムは放射能が強いため取り扱いは難しく、生産に黒鉛炉または重水炉、再処理工場の建設費がかかるが、副産物として電力が得られ、1発あたり生産コストがトータルではウラン原爆より安価に済み、核兵器量産に向くため、現在は5大国と北朝鮮の核兵器生産はプルトニウムが主体となっています。

しかし通常の工程で生成されるプルトニウムには、自発核分裂を起こしやすく不安定なプルトニウム240が許容量を超えるレベルで含まれており、砲身方式では効率の良い爆発を起こすことが難しくなります。したがって密度の低いプルトニウムを球状にし、爆縮によって密度を高め核分裂連鎖反応を開始させる爆縮方式が用いられます。

長崎に投下された原子爆弾ファットマンにはこのタイプが用いられました。ファットマンには2500kgの爆縮用爆薬、120kgの中性子反射用天然ウラン(ウラン238)、6.2kgのプルトニウム239が搭載されていました。威力はTNT火薬換算で20ktと言われています。

なお、爆縮方式を用いる場合でもプルトニウム240の含有量が7%を超えると過早爆発の原因になり、核兵器製造に向きません。日本の原子力発電で使われている軽水炉の使用済み燃料抽出プルトニウムはプルトニウム240を22-30%前後含有し、プルトニウム240を分離しないと核兵器に使えません。核兵器製造にはプルトニウム240含有量が7%以下の兵器用プルトニウムが得られる黒鉛炉カナダ型重水炉もしくは高速増殖炉(日本には常陽ともんじゅがある)を使うのが普通で、北朝鮮の原爆計画の主力であるプルトニウム計画は黒鉛炉、イラン原爆計画において傍流であるプルトニウム原爆計画では重水炉が使用されています。

<ミニ・ニューク>

技術の進歩で使用目的に適した爆発力を持つよう小型化されるようになったものをミニ・ニュークという。少ない核物質で多くの核弾頭を製造可能な反面、一発あたり威力もやや少なくなります。米国の核物理学者トーマス・コクラン博士は 爆縮方式の場合、より少量で超臨界が可能であることに着目して臨界量を分析しなおし、今日では従来より少量の核物質で超臨界が可能であり、プルトニウム原爆は最新技術では1.5kg、途上国の技術でも2kgでの超臨界が可能であると発表しました。またウラン原爆は爆縮方式なら3-5kgでの超臨界が可能と見られています。したがって、原爆用核物質だけなら持ち運びは簡単です。ただし、爆縮用の火薬が大量に必要なため、現時点では手提げかばん、アタッシュケースでウラン型またはプルトニウム型の原爆を運び、人知れずどこかで核爆発を起こすことは難しいかもしれません。

(5-7)核融合反応

前回の基礎編でもお話をしましたが、核融合反応(英: nuclear fusion reaction)とは、軽い核種同士が融合してより重い核種になる核反応を言います。一回の反応で、核分裂反応に比較して、大きいエネルギーを取り出せるところが特徴です。太陽や恒星の内部で起きている反応としても知られています。上記の摂氏数億度の高温を用いる核融合は特に熱核反応(thermonuclear reaction)と呼ばれますが、熱核反応の燃料としては、原子核の荷電が小さく原子核同士が接近しやすい軽い核種で反応自体も速いといった理由から二重水素三重水素といった水素の重い同位体が理想的と言われています。

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融合のタイプによっては融合の結果放出されるエネルギー量が多いことから水素爆弾などの大量破壊兵器に用いられます。また核融合炉によるエネルギー利用も研究されています。

核分裂反応に比べて、反応を起こすために必要な温度・圧力が高いため技術的ハードルが高く、現在のところ、水素爆弾は核分裂反応を利用して起爆する必要があり、核融合炉は高温高圧の反応プラズマを封じ込める技術開発が困難を極めています。

■水素爆弾

原爆は強力な兵器ですが、核分裂反応の連鎖反応の進行時間と温度上昇による飛散(爆発)までの時間との競争の問題などから、ウラン235やプルトニウム239をどんなに増やしても、最大でも広島・長崎級原爆の10倍程度の爆発エネルギーをもつ原爆しか作ることができません。それに対して、熱核反応(核融合反応)はそれを起こす物質を追加すればいくらでもエネルギーを増加させることができるという特徴を持ちます。そのため、特に二重水素・三重水素の熱核反応(D-T反応、D-D反応)を利用することで、広島・長崎級原爆の数十倍?数百倍の爆発エネルギーを持たせた核兵器が開発できると見込まれていました。

実際、原爆開発技術を独占していた米国において、原爆を保有国となったソ連に対抗するため、トルーマン大統領によって製造命令が下されたのが、原爆を着火剤として液化した重水素を熱核反応させる水素爆弾(hydrogen bomb)です。ただし、液化重水素を用いる水素爆弾(きれいな水爆)は大掛かりな装置を必要とするため検証実験のみで実践的な兵器としては扱われず、現在において水素爆弾または熱核兵器という場合、基本的にそのアメリカのきれいな水爆の開発に対抗してソ連が開発した重水素化リチウムを利用した汚い水爆を指します。

<水素爆弾の構造と原理>

一端が丸い円筒形や回転楕円体をした弾殻内の丸い側や焦点に核分裂爆弾、つまり原子爆弾が置かれます。円筒部分か、もう一方の焦点には、外層に圧縮材としてのウラン238、中間層に主役の核融合物質としての重水素化リチウム、中心に更なる熱源としてのプルトニウム239よりなる3層の物質が置かれます。弾殻は放射線の反射材として機能させるために、ベリリウム、ウラン、タングステンなどが使用され、特にこの部分にウラン238やウラン235を分厚く使用したものが3F爆弾です。さらに発生エネルギーを高めた核爆弾です。核融合部分と弾殻の間はポリスチレン等が詰められます。

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上図左部の核分裂爆弾=原爆を爆発させ、その高温高圧を利用して図の右部の水素リチウム核物質に核融合反応を起こさせる。核融合反応を足すことで核分裂反応に比べて1桁~3桁ほど大きなエネルギーが取り出せる。

以上、今月は核分裂反応の臨界、超臨界および核融合反応についての理解を深めるため、原子爆弾、水素爆弾のお話をしました。次回からは原子力をエネルギーとして制御しながら利用している原子炉、原子力発電の詳細とその技術的問題点や資源問題などについて勉強してゆく予定です。

<参考・引用資料>

「知っておきたいエネルギーの基礎知識」 斉藤勝裕 著 サイエンス・アイ新書

「図解雑学 知っておきたい原子力発電」 竹田敏一 著 ナツメ社

「原子力発電がよくわかる本」 榎本聰明 著 オーム社

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