最近バイオマスエネルギー、バイオマス発電という言葉をよく耳にするのではないでしょうか。しかしながら、読者の皆さんの多くはまだこのエネルギーの正確な意味を理解されていないと思います。実は、このエネルギーは大昔から人類が利用していたものですが、近代になってそのエネルギーを電気に変える発電技術が発達してきて、再び脚光を浴び始めているのです。
再生可能エネルギーの重要な柱として、その使われ方、発電技術などを知ることにより、皆さんのエネルギーへの見識がさらに深まることになる筈です。それではご一緒に勉強してみましょう。
(6-9)バイオマスエネルギー
[1]古くて新しいエネルギー
バイオマスとは、生物を意味する「バイオ」と塊を意味する「マス」をあわせて作られた言葉なのですが、エネルギー燃料や工業原料として使うことのできる生物由来の資源を呼んでいます。したがって、バイオマスエネルギーとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で、石油や石炭など化石資源を除いたもの」とされています。石油や石炭も生物由来ですが、人類の時間尺度では再生可能ではないので、バイオマスには含みません。バイオマスエネルギーは昔から使われてきました。人類は暖をとったり、食べ物を調理したりするため、木を切って乾燥させ薪を作って燃やしました。
今またバイオマスエネルギーが脚光を浴びているのはどういう理由なのでしょうか。
それは、バイオマスエネルギーがCO2を出さずに太陽光エネルギーを有効に利用できるものだからです。たとえば、いま1本の木があったとします。この木は、小さな苗木の状態から、太陽光エネルギーを利用して光合成を行い、H2Oと空気中のCO2を固定してブドウ糖とO2をつくって大きく育ってきました。これは太陽光エネルギー→化学エネルギーの変換です。そして、われわれ人類は火をつけるという簡単なことで古くから簡単に使うことができたのです。これが化学エネルギー→熱エネルギーです。
そして大切なことは、また太陽光エネルギーを利用して光合成を行い、H2Oと空気中のCO2を固定してブドウ糖とO2をつくって木は育つということです。太陽光エネルギーは熱エネルギーに変わっていますが、物質はくるくると回っているだけで増えも減りもしません。これを特に炭素に注目してカーボンニュートラルと呼びます。バイオマスエネルギーというのは、炭素をサイクルさせて太陽光を使うエネルギーなのです。
[2]バイオマス資源の種類と利用方法
バイオマスといっても多種多様で分類の仕方も色々あります。よく用いられるのは、発生源と用途による資源作物、未利用バイオマス、廃棄物系バイオマスの3種類の分類です。資源作物にはサトウキビのような糖質系、トウモロコシのようなデンプン系、菜種・大豆などの油脂系作物があります。未利用バイオマスは稲わら、麦わらなどの農産資源と間伐材などの林産資源があります。主な成分はセルロースです。廃棄物系バイオマスとしては、セルロースを主成分とするパルプエ場廃液(黒液)やデンプンや油脂を主成分とする家畜排泄物、食品廃棄物などがあります。
サトウキビやトウモロコシ、パームヤシなどを原料としたバイオエタノールやバイオディーゼル燃料など燃料資源が生産されるようになってきました。太陽光や風力、水力すべて電気エネルギーに変換できますが、燃料をつくることはできません。また燃料だけでなく、プラスチックなど工業原料も作り出すことが可能になってきています。いまはまだ研究段階ですが、セルロースからバイオエタノールのような燃料を効率よくつくることができれば、どこにでもある草木や廃材から燃料を作ることができるようになります。これからの技術開発が期待されます。
[3] バイオマス発電
バイオマス発電を考えるときには、何を燃料にするのかという分類では次のような分類が傾向をとらえるのに便利です。
(1)一般廃棄物(ゴミ)発電
(2)産業廃棄物発電
(3)木質バイオマス発電
(4)食品・畜産等バイオマス発電
(5)化石燃料混焼発電
この中で(5)は化石燃料の主に石炭に木質バイオマス(林地残材や間伐材、建設廃材など)を混ぜて燃やす(混焼)のですが、メインは石炭なのでバイオマス発電に入れないこともあります。
さらに、燃焼方法によって、大きく3つの種類に分かれます。1つ目は、バイオマス燃料を直接燃焼して蒸気タービンを回す直接燃焼方式。2つ目は、燃料を熱処理することでガス化し、ガスタービンを使って燃焼させることで発電を行う熱分解ガス化方式。3つ目は、燃料を発酵させるなど、生物化学的にガスを発生させ、そのガスをガスタービンで燃焼させて発電する生物化学的ガス化方式です。
燃料を燃やすとCO2を発生するので環境への影響が問題になるのでは?と思われるかもしれませんが、バイオマス発電は「カーボンニュートラル」という考え方に立っており、燃焼を行っても結果的に大気中のCO2の増加にはつながらない発電方法とされています。
(1)直接燃焼方式
直接燃焼方式は、木くずや間伐材(森林の育成のために間引いた木材)、可燃性ごみ、精製した廃油などを燃料として使います。木くずなどは「木質ペレット」という小さい固形状の燃焼物に、間伐材などは粉砕して「木質チップ」等に加工することで、輸送しやすくするとともに燃焼効率を高め、エネルギー変換効率を高めることができます。
(2)熱分解ガス化方式
熱分解ガス化方式も木くずや間伐材、可燃性ゴミなどを燃料として使いますが、直接燃焼させるのではなく、加熱することによって発生させたガスによってガスタービンを回します。
(3)生物化学的ガス化方式
生物化学的ガス化方式は、家畜の糞尿や生ごみ、下水汚泥などを燃やすのではなく発酵させることで、メタンなどのバイオガスを発生させて、ガスタービンを回すことで発電を行います。
[4]国内のバイオマス発電の発電量
資源エネルギー庁の資料によると、バイオマス発電は、平成26年2月時点で約242万kWの設備容量が認定されています。ただし、現在のバイオマス発電所は、バイオマス燃料単体ではなく石炭等との混焼式の設備が多いため、バイオマス燃料のみでの発電量といえるのは、実際には設備容量の一部です。平成25年度に、バイオマス燃料によって発電された電力量は、約19億kWh。一般家庭約523,000世帯分の年間使用量を発電しています。
[5]バイオマス発電のメリット
(1)クリーンで無駄のない発電
バイオマス発電は、カーボンニュートラルという考え方でクリーンな発電方法です。また、燃料としては廃棄されるものを利用していますので、廃棄物の残りからエネルギーを取り出して再利用することで無駄なくエネルギーを活用することができます。
例えば、地域のゴミ処理場のそばにバイオマス発電所を併設すれば、ゴミを地域のエネルギー源として有効活用することができます。
(2)再生可能エネルギーのベース電源
また、再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力といった自然環境に左右される不安定な電源とちがい、燃料さえ確保することができれば、安定した発電量が見込めるため、貴重な再生可能エネルギーの“ベース電源”として活用することもできると期待されています。
もちろん、ベース電源にするためには、安定的に燃料を確保することと、その保管場所等のスペースを確保することが課題になります。バイオマス燃料の供給が不安定な場合は、石炭等の化石燃料と一緒に燃焼することで、発電を安定化させる「石炭・バイオマス混合燃焼」の手法をとる場合もあります。
(3)地理的自由度が高い
太陽光発電、風力発電、水力発電は、どれも発電できる場所の条件が限られています。一方バイオマス発電は、発電所自体の場所について、地理的自由度が高い発電方法といえます。
先ほど挙げたように、ゴミを燃料にする場合であればゴミ処理場のそばに設置することで、燃料の調達コストや輸送コストをなるべくかけずに発電を行うことができます。同じように、木くずや間伐材であれば木材事業者が多く集まる地域に、輸入されてくる廃油であれば港に近い工業地帯に…といった具合で、なるべく燃料調達地の近くに発電所を設置するのが理想です。
ただし、発電した電力は電力会社の系統に接続する必要があるため、単純に燃料調達地のそばであればよいというわけではなく、電力系統に接続しやすいことも考慮する必要があります。
以上のようにバイオマス発電はエネルギーの地産地消に非常に効果が高い発電方法で、地域の活性化につなげることも可能です。また環境の面でも、過密になった森林から余分な木を間引くことで生じる間伐材を有効活用できるので、森林資源の適正な保護にもつながります。様々な可能性を持つバイオマス発電は、今後の展開に大きな期待がされています。
次回は海洋エネルギー発電についての話になります。
<参考・引用資料>
「トコトンやさしい再生可能エネルギーの本」太田健一郎 監修、石原顕光 著 日刊工業新聞社
「バイオマス発電のしくみ」 SBエナジー株式会社ホームページ