前3回には台風について取り上げてきましたが、今月からはやはり風に関する災害として「竜巻」を調べることとします。台風はその発生から進路予測などについて刻々と情報が得られますが、竜巻は突然局地的に発生することも多く、何処に発生するかも予測しにくい厄介な自然現象です。
この竜巻を調査、勉強することにより、読者の皆様が少しでもその災害に対処する方法や心構えなどを知っていただければ幸いです。
[竜巻-1] 竜巻の定義 *引用「竜巻」成山堂書店
竜巻は、いわゆる「急に風速が強まる風」“突風”の一種ですが、積雲や積乱雲に伴う上昇流の渦であり、雲底から地面(海面)まで繋がったものをいいます。竜巻の中心は気圧が低くなるため、周囲の空気がらせん状に集まり渦が形成され、竜巻渦は凝結した雲(漏斗雲)や巻き上げられた塵や砂により確認できます。上空に雲を伴わない、つむじ風(塵旋風)や火災旋風とは区別されます。日本では、陸上で発生するもの、海上で発生するもの、すべてを総称して「竜巻」といいますが、アメリカでは、スーパーセルに伴う竜巻をトルネードとよぶのに対して、積雲系の雲に伴う陸上竜巻や海上竜巻をスパウトとよぶことがあります。
なお、「突風」の種類のなかで竜巻以外の主なものに、ダウンバースト、ガストフロントなどがありますが、これらについても別途勉強してゆきたいと思います。
[竜巻-2]竜巻が発生しやすい気象状況 *引用「竜巻のふしぎ」共立出版
竜巻が発生しやすい気象状況として次の三つがあります。
(1)前線や寒気・暖気の移流などの大気の不安定性によるもので、全体の60%ほどを占めて最も多い。
(2)低気圧によるものは全体の14%。
(3)台風(熱帯低気圧も含む)によるもので全体の13%。
2006年11月7日、観測史上最悪となる竜巻による人的被害(死者9人)を出した北海道佐呂間町(現佐呂間市)の竜巻も、低気圧と前線によるものでした。稚内の北西海上を低気圧が発達しながら北東へ進み、ここから延びる寒冷前線が13時30分頃にかけてオホーツク海に近い佐呂間町付近を通過しました(次図)。
寒冷前線が通過する前の佐呂間町には暖湿な南風が吹き、地上の気温は17℃近くまで上昇していました。一方、稚内市の上空約5000mの気温はマイナス24℃と、上空と地上との気温差は40℃以上(通常は30℃くらい)にもなっていました。この気温差は竜巻のもとになる積乱雲発達の鍵を握るもので、気温差が大きければ大きいほど、積乱雲が発達すると一般に言えます。
この佐呂間町の竜巻被害の後の2012年5月6日、茨城県つくば市でも強い竜巻が発生しました。この時も上空の寒気によって積乱雲が発達し、上空と地上の気温差は45℃にもなっていました。
本節の最初に、竜巻が発生しやすい気象状況を三つ挙げましたが、これらはすべて大気が不安定になりやすい気象状況と同じことです。つまり「竜巻は積乱雲によって発生する→積乱雲は大気が不安定な時にできる→大気が不安定な時は上空と地上の気温差が大きい」と導き出すことができるのです。
「安定」とは「落ち着いて変動が少ないこと」という意味で、大気の場合には、同じ性質の空気の塊は混じり合うことがなく、安定しているということになります。しかし自然界には、気温の高い所と低い所のように大気の偏りが様々な要因で現れます。上空に100m昇るにつれて気温は約0.6℃の割合で下がっていくので、5000メートル上空では(0.6℃×5000m/(100m)で、地上より30℃低い気温が安定している状態となります。ところが、何らかの理由で上空に強い寒気が入る、もしくは地上の気温が上がると、上空と地上の気温差が大きくなります。
次図のように、地上の気温が20℃の時に5000m上空がマイナス20℃だとすると、その気温差は40℃になります。自然界はその差を安定している状態の30℃に戻そうとして、地上から暖気が上昇し、上空から寒気が降りてきます。そしてこの対流が激しいほど積乱雲も発達し、竜巻が起こりやすくなるのです。
つまり、積乱雲は雷雨や竜巻などの激しい気象現象を伴いながら、不安定な大気を安定に変える自然界の平衡装置とも言えるでしょう。短時間豪雨や竜巻が近年増えているとの報告もありますが、これは数十年前よりも大気が不安定になっていることを示しているのかもしれません。
[竜巻-3]竜巻発生のメカニズム *引用「竜巻のふしぎ」共立出版
竜巻は単独では発生せず、発達した積乱雲から生まれます。竜巻を発生させる積乱雲を「親雲」とも呼びます。まずは親雲が発生するメカニズムを見てみましょう。
異なる方向から流れ込む風が地上付近でぶつかると、空気は上空へと強制的に持ち上げられます。この時、一方は暖かい空気、もう一方は冷たい空気だと、上昇気流がより活発になります。持ち上げられた空気は上空で冷やされて雲となり、積乱雲となります。
発達中の積乱雲の中には上昇気流のみが存在しますが、大きな雨粒が生じると下降気流が作られます(次図(1))。それは雨粒が落ちる時に周囲の空気を一緒に引きずり下ろすからです。
こうして積乱雲の中の上昇気流がなくなり、下降気流だけとなって、雨粒の素となる水蒸気が供給されなくなります。そのため積乱雲の寿命は1時間くらい、地上で降水として観測されるのは30分くらいと短くなります。夏の夕立が長く続かないのはこのためです。
しかし、強大な竜巻を発生させる積乱雲の場合、上昇気流と下降気流の領域が分離します(次図(2))。そのため上昇気流が持続し、寿命も数時間に延びるのです。
この発達した積乱雲の塊を「スーパーセル(巨大積乱雲)」と呼びます。その幅はだいたい数十~100kmに及ぶこともあり、スーパーセルが発生すると必ず激しい気象現象が起こります(次図(3))。
スーパーセルの中では、回転している強い上昇気流が発生しています。これを「メソサイクロン」と呼びます。メソサイクロンはどのようにできるのでしょうか。
スーパーセルの中には、高度によって速度や方向の違う風が吹いています。水の流れが一様でない所に木の葉で作った舟を置くと回転し始めるのと同じ原理で、雲の中の風の流れの違いが渦を発生させます(前図(4))。上昇気流によってこの渦が垂直に立てられると(前図(5))、メソサイクロンとなります。メソサイクロンは直径約2~10手口ほどの回転する管状の小さな渦です。
空気が渦を巻くと外側に向かって遠心力が働き、中央部分の空気は薄くなって気圧がどんどん低下していきます。中心気圧の低下は下層の空気を上昇させ、上昇気流をより強めます。渦の中心気圧は低ければ低い方が、渦の幅は細ければ細い方が、風は強くなります。この時に下層に渦を巻く空気の流れがあると、その空気の流れは上昇気流により吸い上げられて、鉛直方向に延びる強風の渦が出現し、それが着地したものが竜巻です(次図(6))。逆に言うと、着地していないものは竜巻ではありません。
[竜巻-4]竜巻の強度・藤田スケール *引用「竜巻のふしぎ」共立出版
状況証拠から犯人を割り出すのは警察だけの仕事ではないようです。今から約50年前のことシカゴ大学の藤田哲也博士は、事件を解決する刑事のように、被害現場に残された状況証拠から次々と竜巻の正体を解き明かしていきました。
竜巻は逃げ足が速いので、研究者が被害現場に駆け付ける頃には、逃走した犯人と同様、すでにいなくなっています。そのため、竜巻の正体を暴くには、目撃証言や現場に残された証拠だけが頼りでした。当時、竜巻研究の最先端を行くアメリカでさえ、竜巻発生数を把握する程度しか研究が進んでいなかったのです。
しかし藤田博士は、竜巻によって壊された建物や、なぎ倒された木々の被害が異なっていることに気が付き、その被害の程度から竜巻の強さを分類する方法を生み出したのです。これが「藤田スケール」です。FujitaのFから「Fスケール」とも呼ばれます。1971年に発表され、世界初の竜巻の指標となりました。
なお、最近は(1)建物の強度、(2)建物の密集度、(3)竜巻の進行速度などを考慮した藤田スケールの改良型「改良型藤田スケール(EFスケール)」が米国などで使われる始め、現在気象庁でも検討に入っています。
*引用「竜巻のふしぎ」共立出版
竜巻の一生は大きく分けて次の四つの段階に分類されます(次図)。
発生期:竜巻を発生させるもととなる積乱雲の一部がぐるぐると回転し始め、そこから漏斗状の雲が垂れ下がります。
発達期:漏斗状の雲は下へ下へと成長を続けながら降りてきます。やがてその先端部が地上に着地します。
最盛期:サイズと風速ともに、竜巻の一生で最強の時を迎えます。この時、竜巻は垂直に立っています。
衰弱期:やがてエネルギーを失うとロープのように細くなり、竜巻は親雲の風に流されるまま予想できない動きをし始め、暴れ出します。その後数分のうちに雲は消滅し、竜巻は最期の時を迎えます。
気象現象の寿命、つまり発生してから衰弱するまでの時間は、気象現象の大きさに比例します。大きな気象現象ほど長生きで、小さな気象現象ほど短命です。例えば、東西の距離が数千キロに及ぶような高気圧は、数週間も勢力を維持し続けますが、数メートル規模のつむじ風は数分で消えてしまいます。竜巻はどうでしょうか。竜巻は寿命が数秒の超短命型から、1時間を超えるような長寿型までありますが、平均すると10分ほどが寿命となります。
以上、今月は竜巻の定義、竜巻の発生メカニズム、竜巻の強度分類などについて勉強してきました。次回は竜巻の発生場所、竜巻の災害例、竜巻、台風以外の強風・突風などについてお話をする予定です。
<参考・引用資料>
「気象庁」ホームページ
「竜巻 メカニズム・被害・身の守り方」 小林文明 著 成山堂書店
「竜巻のふしぎ」 森田正光 森さやか 著 共立出版
「ウィキペディア」フリー百科事典