先月は“宇宙は膨張し続けている”ことや“宇宙には未知の物質やエネルギーが充満している”ことなどを勉強しました。今月も少し難しい内容ですが、宇宙を知る上での重要な素粒子に関する理論についてのお話となります。以下、概略的な内容となりますので、詳細を理解されたい方は別途専門書などで勉強していただければと存じます。
[宇宙の姿-11]宇宙のはじまりは素粒子から
ビッグバン理論が正しいのなら、過去へとどんどんさかのぼっていった宇宙初期の姿は、とってもミクロなものになります。私たちが慣れ親しんでいるマクロな世界と、とても小さいミクロの世界では、物質のふるまいが大きく異なります。ビッグバン理論では語れない宇宙のごく初期の姿を知るために、まずは量子論と、そのミクロな世界の小さな粒子(素粒子)について調べてみましょう。
(1)究極の素粒子・クォークの発見
1802年、物質が原子から成り立っていることを示しだのは、ジョン・ドルトンでした。 19世紀末、1897年にジョセフ・トムソンが電子を発見するまで、原子が物質の最小単位だと考えられていました。
さらに1911年、アーネスト・ラザフォードが原子の中に原子核があることを発見し、これ以後、電子と原子核が物質の最小単位と考えられるようになりました。
1932年には、ジェームズ・チャドウィックが、原子核は陽子と中性子からなることを示しました。これらこそ、これ以上分割できない粒子である素粒子だと思われたのです。しかし、その後、陽子や中性子と似た粒子が100種類以上発見され、自然を構成する物質がこれほど多いのはおかしいと考えられるようになりました。
1961年、解決策を見いだしたのは、マレー・ゲルマンとユヴァハ・ネーマンです。それは陽子や中性子などが、さらに小さな3つの粒子、クォークからできているというクォーク模型というものでした。このクォークが現在では究極の素粒子の1つだと考えられています。
(2)6種類のクォークと6種類のレプト
現在、クォークにはアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、ボトム、トップと名付けられた6種類が見つかっている。陽子や中性子に似た100種類以上の粒子は、ゲルマンらのクォーク模型によって、今では6種類のクォークの組み合わせで説明できることがわかってきました。たとえば、陽子は1つのダウン・クォークと2つのアップ・クォーク、中性子は2つのダウン・クォークと1つのアップ・クォークからなるのです。
一方、原子核の周りを回る電子の仲間にも6種類の粒子があります。電子、電子二ュートリノ、ミュー、ミューニュートリノ、タウ、タウニュートリノがあり、これらを総称してレプトンと呼びます。
[宇宙の姿-12]宇宙を支配する4つの力
過去、物理学者たちは身の周りで起こる物理現象を説明するために、さまざまな仮説を立て、実験し、実証することで理論を構築してきました。そして、彼らは常に「すべてを説明できる理論」、すなわち「万物理論」の発見を求めています。万物理論が解明できれば、人類は宇宙の始まりから終わりまでも知ることができるのです。19世紀末の最初の素粒子発見以来、素粒子の世界の研究が進めば進むほど、物理学者は、『自然は、それがいかに複雑に見えても、その究極においては非常に単純である』という確信をますます深めてきました。
前章でお話をしましたように、物質は少数のクォーク、レプトンからできていることが分かりましたが、その後、それを支配しているのが「重力」「電磁気力」「弱い力」「強い力」のたった4種類の力であることが見いだされたのです。しかもこれらの力は全て力の粒子を交換することによって働くことが分かったのです。これは20世紀の科学の生み出した偉大な成果の一つです。現代物理学においては、私たちの宇宙にはこれらの4つの力が存在すると考えられています。
(1)重力
私たちにとって最もなじみ深い力は重力です。すべての素粒子に引力(万有引力)として働きます。重力は遮られることなく無限遠まで働くため、マクロの世界を支配しています。地球、太陽、銀河系などの天体の運行をつかさどり、巨大な宇宙の構造を作り出しています。みんながよく知っている、私たちを地球に引きつけている重力は、重力子(グラビトン)の交換によって伝わります。重力子は質量を持たないので無限の遠方までとどきます。
重力=重力子(グラビトン)の交換
重力は質量に比例します。一方、質量はエネルギーと等価です。
E=mc2
従って、重力はすべての粒子に働きます。しかし、素粒子の質量は非常に小さく、現在の加速器で到達できるようなエネルギーでは素粒子間の重力は非常に小さく無視できますが、ビッグバンによる宇宙創成直後のような超々高エネルギーでは重要になってきます。
(2)電磁気力
次になじみ深い力は電磁気力(電磁力)です。電磁気力は電気力と磁気力の2つの力として私たちの身近にあります。この一見違った2つの力が実は同一のものであることは、19世紀には、すでに解明されていました。電磁気力が現代のエレクトロニクス文明の基礎をなす力であることは言うまでもありません。よく知られている静電気や磁石の力だけでなく、私たちが日常経験する重力以外のすべての力は電磁気力です。
特に、電子と原子核を結びつけ原子を作る力、原子同士を結びつけ分子を作る力は、電磁気力です。 電磁気力は、光子(フォトン)の交換によって伝わります。光子は質量を持たないので、遮られなければ電磁気力も遠くまでとどきます。
電磁気力=光子(フォトン)の交換
電磁気力は電荷に比例します。電荷を持った粒子は、目に見えない光子(仮想光子)をお手玉しながら走っています。言い換えれば、電荷粒子は光子の衣を着ています。電子が電磁石などで急に向きを変えられると、光子の衣が引きちぎられて飛び出します。これが放射光です。
(3)弱い力
弱い力はとても短い距離の間でのみ働きます。通常、電磁気力よりもはるかに弱いのでこの名前がつけられました。すべてのクォーク、レプトンに働きます。
この力は、中性子を陽子に変化させるというような素粒子の変化を起こす力のことで、原子核のベータ崩壊、中性子、パイ中間子などの粒子の崩壊の原因となる(粒子の種類を変えることのできる)力です。日常は経験することのない力ですが、ミクロの世界では重要な役割を果たしています。
弱い力=W、Z粒子の交換
弱い力を媒介する力の粒子・弱中間子(ウィークボソン)はWボソンとZボソンの2種類があり、それぞれ大きな質量を持っています。そのため、力の本質的な強さを表す結合定数は電磁気力と同程度ですが、力が届く距離が非常に短く、力の見かけの強さが弱く見えるのです。力の強さが弱すぎて、日常世界で感じることはありません。
W粒子や、Z粒子は、もともと光子と同様に質量を持たないゲージ粒子ですが、真空中のヒッグス場との相互作用により質量を持ったと考えられています。ヒッグス場との相互作用がなければ、これらの力の粒子の運ぶ力は、もともとは同じものだと考えられます。そこで、現在では、光子の伝える電磁気力と、WやZが伝える弱い力は、「電弱力」としてまとめられています。
(4)強い力
陽子や中性子を作って原子核を作る力であり、強い力は全てのカラー荷を持つ素粒子に働きます。電磁気力の 100倍程の大きさを持つ最も強い力なので、この名前がつけられました。クォークを結びつけ、陽子 (p) や中性子 (n) を作り、また陽子同士の間に働く電気的な斥力に打ち勝ち、中性子とともに原子核を作ります。
宇宙が生まれたころは、4つの力はひとつだったと推測されています。となれば、4つの力を統一する理論、つまり万物理論が存在するはずです。すでに4つの力のうち、「弱い力」と「電磁気力」は「電弱理論(電弱統一理論)」によってまとめられています。現在は、電弱理論に「強い力」を統合した「大統一理論」が研究されており、最終的にはすべての力が万物理論によって説明できるようになると、多くの科学者が考えているのです。
[宇宙の姿-13]宇宙のすべてを知る「ひも」理論
宇宙は広大であり、人間は宇宙のほんの一部を観測できるだけでしかありません。ですが、そんな宇宙も物質からできており、その物質もすべて素粒子という小さな粒子からできています。この素粒子の動作を説明できる法則、すなわち万物理論を見つけ出すことができれば、それが宇宙のすべてを知ることの足がかりになるのです。そして、万物理論のもっとも有力な候補と考えられているのが、「超ひも理論(超弦理論)」です。
超ひも理論によれば、物質を形作る素粒子のレプトンとクォークも、宇宙の4つの力を伝えるグルーオン(=強い力を伝達)、ウィークボソン(=弱い力を伝達)、光子(=電磁気力を伝達)、重量子(=重力を伝達)といったそれぞれの粒子も、長さ10のマイナス35乗メートルの「ひも」が振動することによってできている、ということになります。
そして、振動する「ひも」の両端が、閉じて(ループして)いるか、開いているか、どの方向にどんな振動をするかによって、作られる素粒子や粒子が異なってきます。たとえば、弦楽器は弦の長さを調節することで振動数が変化し、さまざまな音色を奏でるように、超ひも理論では「ひも」が振動の仕方を変えることで、さまざまな粒子や素粒子が形成されると考えられるのです。
以上3回にわたりお話をしてきました「宇宙の姿」についてはひとまず終了いたします。次回からは宇宙を構成する「銀河」についてのお話を予定しています。難解な「宇宙論」から少しづつ見える宇宙の話となってきますので、是非ご期待ください。
<参考・引用資料>
「知識ゼロからの宇宙入門」渡部潤一、渡部好恵 、ネイチャープロ編集室 発行元:幻冬舎
「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社
「宇宙の秘密がわかる本」宇宙科学研究倶楽部 発行元:株式会社学研プラス
「NASA」ホームページ
「キッズサイエンティスト」ホームページ