JAXA の小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」上空に到着してから3か月あまり経ちました。現在、着陸場所を探査中ですが、すでに地表探査ロボットも動き始めましたので、今月中には着陸すると思われます。宇宙に関心のある読者の皆さんにとっては、待ち遠しい日々でしょう。
さて、先月までは太陽系全体とその仲間たち、太陽、水星、火星、金星の順にお話をしてきました。ただし、地球より太陽からの距離が遠い火星については、「はやぶさ2」に続いて、7月末に「火星大接近」という大きな宇宙イベントがありましたので、前倒しで急きょ8月号(太陽系-その4)に入れました。今月はようやくですが、金星の次に遠い距離にある私たちの「地球」のお話をしたいと思います。
[地球-1]地球の誕生
今から138億年前、宇宙誕生のきっかけとなるビッグバンが起こりました。その後宇宙は拡大を続け、46億年ほど前に私たちの太陽系が形成され始めます。そして約45億4000万年前に地球が誕生したといわれています。
太陽が形成された後に残ったガスや塵などは、次第に太陽の周りを回り始めます。そして、これらが衝突し合うことで「微惑星」という直径数kmほどの小さな惑星が形成されました。この微惑星は年間数cmというゆっくりとしたスピードで成長を続けます。そして非常に長い時間をかけて巨大な惑星に形成されたのです。その中でも水星から火星までの範囲の比較的太陽に近い場所では鉄などの金属を多く含む20個の「原始惑星(岩石惑星)」が形成されました。これらの原始惑星は隕石などの衝突を経て巨大化していき、やがて水星、金星、地球、火星へと成長しました。その中で、地球は20個の原始惑星のうち10個の原始惑星が衝突・合体してできたといわれています。
[地球-2]偶然が重なった地球
太陽の周りを回っていたガス成分は太陽風で吹き飛ばされるため、太陽に近い部分では密度の高い原子を中心とした惑星となりました。水星・金星・地球・火星は固体成分が中心で、木星よりも遠い星はガスが中心成分となっています。地球で大気の成分が残っているのはある程度の大きさまで成長し、重力が大気をつなぎ止めておくことが出来たからです。
また太陽との位置も微妙でした。太陽にもう少し近いと地球は灼熱の惑星になり、もう少し遠いと凍った惑星になっていたと言われています。ただし、惑星の並ぶ距離にそれぞれ法則があるとの説もあります。もしかしたら地球はあるべくして今の場所を回っているのかも知れません。
[地球-3]地球の構造
地球の構造を簡単に表現すると、卵にたとえられる。殻は地殻、白身はマントル、黄身は核(コア)です。地球内部は主に固体からなりますが、マントルは長い時間をかけて対流し、液体のようにふるまっています暖かなマントルは上昇し、冷たいマントルは核に向かって落ちます。これは地球が大きかったために内部の熱を今日まで保ったからです。この熱源によって マントルは対流し、地球環境、そして表面に貼り付くように暮らしている生物に大きな影響をあたえています。
地球の半径はおよそ6378km、地球は誕生当時からの地球内部の活動、たとえばマントル対流などによって、その表面は絶えず姿を変えてきました。そのため、40億年以上の古い起源をもつ岩石や、古いクレーターなどはほとんど存在しません。
[地球-4]海の存在
地球は現在70%が海、残りの30%が陸になっている太陽系でもめずらしい水惑星です。水惑星として存続するには3つの条件があるといわれています。第1には、“基になる水素と酸素があること”。第2に“H2Oの水が惑星表面にあること”。第3は“H2Oが液体になること”です。太陽との距離が適切で、大気をとどめておくだけの重力の存在が海を存続させました。おそらく火星にも海はありましたが、火星は小さすぎて重力が弱く、大気を十分にとどめることができなかったのです。そのため、表面を水で覆うことはなくなってしまったのです。
海がいつ誕生したのか、はっきりしたことはわかっていません。しかし、グリーランドのイスア地方に、38億年前の深海で堆積したと考えられる堆積岩があることから、少なくともその年代には海があったと考えられています。 2001年には、44億年前には海や大陸が安定して存在できるほど、地球は十分に冷えていたという論文も発表されています。
[地球-5]月の誕生
月は地球のただ1つの衛星ですが、他の惑星の衛星に比べるとかなり変わっています。惑星である地球との質量比が大きいのです。月の質量は地球の約100分の1ですが、これほど惑星の質量に対して大きな質量をもつ衛星は他にはありません。唯一の例外は、準惑星である冥王星とその衛星カロンですが、これはどちらかといえば、二重天体に近いと考えられています。なぜ、地球のような小さな惑星が、月という大きな衛星をもつことができたのかは、大きな謎なのです。
月がどのようにして誕生したのかについては、様々な説が唱えられてきました。大きく分けると次の4つにまとめられます。
1. 兄弟説:
原始惑星系円盤中で、塵(ちり)が集まって地球とともに月がつくられたという説。
2. 親子説:
地球の誕生直後、地球の自転は現在よりも高速だったので、遠心力によって原始地球の一部がちぎれて月がつくられたという説。
3. 他人説:
地球の近くを通過した小天体が、地球の重力によって捕らえられて月となったという説。
4. 巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説:
原始地球に小天体が衝突し、地球や小天体の破片が集まって月がつくられたという説。
このうち、現在では4の巨大衝突説が最も有力視されています。
[地球-6]ジャイアント・インパクト
巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説は、誕生して間もない原始地球に火星サイズの小天体が衝突し、そのときに破壊された小天体の残骸と、衝突によってえぐりとられた地球の表層物質が再度集まって固まり、月がつくられたというものです。このことは、現在の月の特徴を比較的うまく説明することができます。月には、その化学組成が地球のマントル部分と似ている、平均密度が地球に比べ低い、などの特徴がありますが、前述した「兄弟説」「親子説」「他人説」ではこれらを矛盾なく説明することができません。そこで登場したのがジャイアント・インパクト説です。
ジャイアント・インパクト説ではこれらの特徴の多くを説明することができ、月がどのように誕生したのかを説明するものとしては、最も有力だと考えられています。最近ではコンピューターの発達により、このようなモデルをシミュレーションで再現することができるようになり、実際に月のような衛星が作られることや、地球の自転軸の傾きなどを説明できるようになってきています。最新のシミュレーション結果によると、衝突が起こってから月ができあがるまでにかかる時間は1ヵ月足らずではないかともいわれています。
[地球-7]月は地球初期の情報元
月の半径は、地球の約4分の1です。冥王星の衛星カロンを別にして、主星に対してこれほど大きな衛星は太陽系にはありません。月には約45億~38億年前に降り注いだ隕石によるたくさんのクレーターが残っています。一方で地球には、40億年以上前の岩石はほとんどありません。
月は40億年以上前の情報を今もって温存していることになります。これは、月が地球にくらべ小さいために比較的速く冷え、火山噴火などがほとんどなかったこと、また大気がないことなどが主な原因です。そのため、月を知ることは、40億年以上前の地球初期の情報を知ることにもつながるのです。
[地球-8]月の表面と裏側
月の表面には、暗く見える海と呼ばれる部分と、クレーターで覆われ、明るく見える高地があります。この海と呼ばれる部分は、地球のように水があるわけではなく、約38億~32億年前にクレーターの内部が溶岩で埋められたものです。溶岩は玄武岩質であるため、黒っぽく暗く見えます。一方、明るく見える高地は、ほとんど斜長岩からできています。
月の自転周期と公転周期はほぼ同じであるため、月はつねに地球に同じ面を向けて回っています。誕生して間もなく、地球に重い面を向けはじめたらしいのです。月の重心は、約2kmほど中心から地球寄りに偏っています。海となっている玄武岩は、高地をつくっている斜長岩より重いのです。月の裏側には玄武岩からなる海がほとんどなく、表側にはたくさんの海があります。月の裏側は、一面クレーターで、表側とはまったく異なる表情を見せています。
[地球-9]月の内部構造
月の内部構造は、月がどのようにして生まれ、どのようにして今の姿になったかを理解する鍵の一つです。アポロ計画で実施された観測から月にも地震があることが分かり、これを利用して月の内部構造の研究が進みました。しかし、設置された月震計は月の表側に数点しかなく、また、これまでに観測されている月震の分布は表面から約1200km(中心から約540km)までの深さに限られています。表面から約1200kmより深い部分の構造は研究によって結果が異なり、依然として不確かさが残っていました。
一方、月の内部構造を知る手がかりは、月の回転や地球の引力による月の変形を詳しく調べること(測月観測と呼ばれます)からも得ることができます。月の回転はアポロ時代から月レーザ測距で観測され続けており、また、月の変形に伴うわずかな重力変化が、近年米国のグレイルという探査機によって高精度に観測されました。測月観測から、月の変形のしやすさ(軟らかさ)や内部の密度分布についての情報が得られます。しかし、最新の測月データと月震データを組み合わせた月内部構造研究はまだなされていませんでした。
国立天文台、北海道大学、宇宙航空研究開発機構、大阪大学の研究者から成る研究チームは、アポロ月震データと最新の測月データとを組み合わせて月の内部構造を推定しました。その結果、これまでの研究と比較してマントル下部の軟らかい層がより厚く、その密度がより大きいモデルで観測値がうまく説明できることが分かりました。この研究結果は、月の歴史の初期にマントルの上部に形成されたチタンに富んだ重い層が、その後マントルの深部に沈んだとする「マントルオーバーターン仮説」を裏付けています。
月ができたばかりの頃は大規模な融けたマグマの海があり、それが冷えるにしたがってマントルを作る岩石が沈んでいったと考えられています。チタンは融けた部分に残りやすいため、マグマの海が固化する最終段階ではチタンが多く含まれる層がマントルの上部に作られます。ところが、このチタンに富む層は下層に比べて重いため深部に沈みはじめ、最終的にはマントルの層構造が反転した可能性が指摘されています。これをマントルオーバーターン仮説といいます。
[地球-10]地球から遠ざかる月
月はほぼ楕円運動をしていて、もっとも近いときと遠いときでは、約10%も見かけの大きさを変化させます。
現在の月と地球の平均距離は約38万4400km、ところが誕生直後は今より近かったと考えられています。月は、地球との間にはたらく潮汐力の影響で誕生時よりも徐々に遠ざかりつつあるのです。現在も、年間3.4cmずつ遠ざかっています。潮汐力とは、天体間にはたらく重力の差によって天体の形を引き延ばす力のことです。
月からの潮汐力も地球に影響をあたえています。太陽と月が一直線に並ぶ、新月や満月のときには、太陽と月の潮汐力が合わさって地球を大きくひずませ、火山噴火を誘発するという報告もあります。
以上、今月は「地球」についての一回目のお話としました。
46億年前に太陽系が形成されて、その後ガスや塵が集合して微惑星となり、さらに原始惑星に発達して、それらの衝突・合体で地球が誕生したことが分かりました。いずれにしても、宇宙の誕生が138億年前で、地球の誕生が約46億年ということで、その時間のスケールだけでも気が遠くなりそうですね。
次回も引き続き「地球」について勉強してみたいと思います。
<参考・引用資料>
「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社
「RISE」国立天文台月惑星探査検討室
「NASAホームページ」
「JAXAホームページ」
「地球と生命の誕生と進化」
「GIBEON」
「AstroArts」
「TOCANA」