日本時間の11月27日AM、米航空宇宙局(NASA)は無人探査機「インサイト」が火星に着陸したと発表しました。極めて精密な地震計などを使って約2年間、火星の内部構造を調べます。火星だけでなく、地球を含む岩石でできた太陽系の惑星の成り立ちに迫ることを目指すことになります。
一方、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は小惑星探査機「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」への1 回目のタッチダウンを、当初の10月下旬の予定から、2019年1月以降へ延期しました。これは、これまで行なってきた6回の降下運用の誘導実績やリュウグウ表面の状況などを考慮した結果から判断されたもので、「プロジェクトとしては一度立ち止まる決断をした」ということです。何年にもわたる壮大なプロジェクトですから、慎重なミッションの進行はやむをえないでしょう。
さて、今月は太陽系の惑星である「木星」についてのお話になります。
[木星-1]恒星になれなかった天体
木星は太陽から7億8000万km、地球からは平均7億5000万km の距離にあります。直径は14万4000kmで地球の約11倍、したがって体積は約1300倍の大きさになります。また、質量は地球の約318倍です。
したがって、太陽系の中で大きさ、質量ともに最大の惑星です。その他、平均気温はマイナス144℃、気圧は約0.7気圧、公転周期は約12年、自転周期は約9時間56分です。
太陽系の惑星の位置関係
木星はその主成分が、水素が約90%、ヘリウムが約10%の巨大ガス惑星であり、太陽とほぼ同じ組成になります。木星の質量があと80倍あったら、太陽のように輝く恒星になっていたでしょう。ちなみに太陽は木星の1000倍の質量を持っています。
[木星-2]木星の内部構造
木星の大気中を降りると、しだいに圧力が高くなってゆきます。100kmほど下がるとその圧力によって水素が液体状になります。この液体水素の層は約2万km 続きます。さらに下では液体金属水素になり、これが約4万km、中心には直径2万km の鉄を主成分とする核(コア)があります。付近は4000万気圧、5万度にもなるといわれています。
木星の内部モデルは確立されておらず、これまで観測された諸元値にはばらつきがあります。2011年に打ち上げられ、2016年に木星に到着したNASAの探査機ジュノーでは、これらの値を絞り込む役割があり、その結果から中心核についての課題解決が進むことが期待されています。
木星の内部構造概略図
[木星-3]木星の大気と雲
木星は常時雲に覆われており、可視光で観測される表面は固体の地面ではなく雲の表層です。この雲はアンモニアの結晶や、可能性としてアンモニア水硫化物で作られたものと考えられます。これらの雲は対流圏界面に浮かんでおり、特に赤道域に相当する部分では緯度ごとに異なる流れを起こしていることが知られています。この流れは比較的明るい「帯、ゾーン (zones)」と暗い「縞、ベルト (belts)」に分けられることもあり、それぞれの部分にある物質が太陽光を反射する具合でこのように見えます。
これらの部分は赤道と平行に、東向きと西向きに交互に流れており、間に働く相互作用は複雑な大気循環を引き起こして嵐の渦や乱流などの現象を発生させます。ゾーンやベルト部分のジェット気流は、風速 100m/s (360km/h) にも達します。このゾーンやベルトは幅や色また風速などを毎年変化させますが、観測者の眼には識別し名称をつけるに充分な識別が可能なほど、その個別特徴を保ちます。
雲の層は厚さ50km程度に過ぎません。しかもそれは少なくとも、低部の厚い層と高所の薄く目立つ層の2構造を持っています。さらに、アンモニアの雲の下には薄い水の雲が存在すると予想されます。
木星の雲の中では稲妻の光が見つかりましたが、これには極性分子である水が引き起こす電離作用が必要です。水の雲は惑星内部から供給される熱を受けて、雷のエネルギーを蓄積します。この放電現象は地球の稲妻の1,000倍にも相当する大規模なものだということがわかっています。
木星表面に見られる雲のオレンジ色や茶色は、内部から湧き上がった化合物が太陽の紫外線によって変質し色を変えたものです。詳細は未だ判明していませんが、リン、硫黄、炭化水素類が成分だと考えられています。発色団 (chromophore) として知られるこれら多彩な化合物は、比較的暖かい雲の下層で混合されます。これが対流細胞 (convection cell) の湧き上がりによって、上層を覆うアンモニア結晶の雲の上に昇ってくることで、色を持つ層が表面に形成されます。
[木星-4]大赤斑
木星を特徴づけるものに、赤道から南に22度の表面に確認できる大赤斑があります。周囲の温度が2度程度低いことからこれは高気圧性の嵐と考えられ、秒速120kmにもなるすさまじい嵐です。
この大赤斑は地球からも口径12cm以上の望遠鏡があれば視認することができ、少なくとも1831年には確認され、さらに遡る1665年には存在したと考えられます。計算では、この赤斑を作る嵐は安定しており、今後も惑星が存在する限り消えないとも言われ、これほど長期間にわたって維持されるメカニズムは解明されていません。しかしながら、巨大な台風と考える説が最も無理が少ないようです。
この楕円形の大赤斑の寸法は、長径2.4~4万キロメートル、短径1.2~1.4万キロメートルであり、地球2~3個がすっぽり納まります。最も盛り上がっている箇所は周囲よりも8km程度高くなっています。渦は反時計回りに回転していて、6日間かけて1周します。
[木星-5]木星の磁気とオーロラ
木星の極地方でも、オーロラが観測されています。地球のオーロラと同じように、太陽風が太陽系で最も強い磁気の木星の磁気圏に入り込んで光るのですが、木星の場合、衛星がこのオーロラに大きな影響をあたえています。
ガリレオ衛星という4つの巨大衛星がもつ磁気圏は、木星の磁気圏と影響し合い、木星の極地方とつながる磁力線をつくります。衛星と木星の磁力線が重なったところは局所的に強い磁力線となるため、オーロラもこの部分でより強く輝くことになります。
[木星-6]ガリレオ衛星
木星には名前のついた衛星が48個、名前のないものをあわせると63個の衛星が発見されています(2006年7月)。なかでも、1610年にガリレオ・ガリレイが発見した4つの衛星は、木星を中心にして内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストといい、総称して木星の4大衛星、またはガリレオ衛星と呼んでいます。ガリレオ衛星は木星重力の大きな影響を受け、いつも同じ面を木星に向けています。
また、木星にもリングがあります。木星のリングをつくっている粒子は、しだいに木星へ落下してゆくが、その分が木星の衛星から供給されます。メインリングは衛星アドラステアとメチスから、ゴッサマーリングは 衛星テーベとアマルテアより供給されていると考えられます。
[木星-7]衛星・イオ
木星の第1衛星イオは、半径約1821km。半径約1713kmの地球の月は、小さいために内部の熱をほとんど失っています。ところが、月とほぼ同じ大きさのイオには、太陽系でもっとも活発な火山活動があります。100以上の活火山があり、地球の30倍もの活発な活動を行っています。イオの表面には、1610℃という高温な場所もあるのです。
イオにこうした活発な活動が見られるのは、木星の重力の強い影響のためであり、さらに、イオの外側を回るエウロパが、イオの公転軌道を大きくゆがませているためです。その結果、イオが木星に近づいたり、離れたりすることでたえず形状がゆがみます。その摩擦による熱エネルギーがたまって火山活動の原動力が生まれるのです。
[木星-8]衛星・エウロパ
木星の第2衛星エウロパは半径1565km、ガリレオ衛星の中で最も小さい。しかし海があり、原始的な生命がいるかもしれないと、太陽系で最も注目を集める衛星の1つです。
クレーターの観測と数値シミュレーションを組み合わせた結果、エウロパの表面を覆う氷の厚さは少なくとも3~4kmと見積もられました。探査機ガリレオが送ってきた数々の画像には、地下の水が溶け出したか、蒸発したために残った塩(残留物)の跡などが映し出されていました。
生命エネルギーの素は、酸素の受け渡し、酸化還元反応という化学反応ともいえます。地球上の生命では、植物や菌類の行う光合成がすべての生命を支え、この反応を代行しています。しかし、木星の衛星は太陽から遠く、厚い氷に覆われているために光合成は不可能です。
スタンフォード大学のケビン・ハンドらは、衛星に降り注ぐ荷電粒子が、酸素分子などの酸化剤をつくり、これらの酸化剤が地下の海に到達すれば、生命活動に必要なエネルギーができると言っています。
また生命活動には、天体内部の活動が不可欠です。月よりもやや小さめのエウロパはその大きさから通常では内部に熱があるとは考えにくいのです。ところが、木星という巨大惑星の潮汐力によって衛星は絶えず変形し、そのときに摩擦熱が生じます。イオではこの摩擦熱が活発な火山活動を引き起こします。ガリレオ衛星の中で2番目に木星に近いエウロパにも、内部に摩擦熱由来の熱源があるのではないかと考えられます。もしも熱源によって、地球の熱水噴出孔のようなものがあれば、エウロパに生命がいる可能性は俄然高まってきます。
[木星-9]衛星・ガニメデ、カリスト
ガリレオ衛星のイオ以外の3つの衛星は、表面が氷に覆われています。ガニメデは太陽系最大の衛星で、半径が2634km、水星よりも大きいのです。ガニメデの氷の下にも水が存在する可能性があります。
カリストの半径は2403km。 2001年に行われた探査機ガリレオによる磁場の計測から、塩類を多様にもつ電解質の海の存在が示唆されました。氷の地下150kmのところに、20km程度の深さの海があると推定されます。木星の初期には、木星を中心としたミニ太陽系のようなものがあったと考えられます。ガリレオ衛星は、原始木星系円盤のちりからできました。また、ガリレオ衛星より外側を回る衛星は、太陽の周りを回っていた天体が木星の重力にとらえられたと考えられています。ガリレオ衛星より内側の衛星の起源については、よくわかっていません。
以上、今月は太陽系の惑星「木星」についての話となりました。中途半端な大きさのため、太陽になり切れなかったこの星も、様々な興味深い事実が分かり始めています。まずは探査機ジュノーによる新しい発見を期待したいですね。次回は「土星」について勉強してみたいと思います。
<参考・引用資料>
「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社
「RISE」国立天文台月惑星探査検討室
「NASAホームページ」
「JAXAホームページ」
「地球と生命の誕生と進化」
「Wikipedia」木星