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おもしろい宇宙の科学(20)<太陽系-その12(冥王星)>

先月、探査機「はやぶさ2」による観測で、小惑星「リュウグウ」に水があることが分かったと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発表しました。地球の水は小惑星から運ばれたとする仮説の検証につながりそうです。この発見は、さっそく米科学誌サイエンス電子版に3月19日に掲載されました。

リュウグウの地表を赤外線で観測し、岩石と水が反応してできる鉱物を検出しました。水の存在は地上からの観測で予想されていましたが、今回の詳細な観測で裏付けられました。

生命に欠かせない水や海水は、リュウグウと同じタイプの小惑星が誕生直後の地球に衝突したことで運ばれたとの仮説が有力です。水は水素の同位体比率が「指紋」の役割を持ちます。採取した鉱物でこれを分析し、地球と一致すれば起源が同じだった可能性が高まります。

さらに、4月5日には「はやぶさ2」が衝突装置から「インパクター」をリュウグウの表面に打ち込んで、クレーターを作る実験を行います。その後、時機を見てクレーターの内部から岩石を採取する予定になっています。

このように、画期的なイベントが続く「はやぶさ2」の動向にしばらくは目を離せませんね。

それでは、今月予定していました準惑星「冥王星」について調べてみましょう。

[冥王星-1]惑星の仲間からはずされた星

冥王星(めいおうせい)がまだ太陽系の仲間だったころ、太陽から一番遠いとされた惑星でした。今は、ある時期に「準惑星」と呼ばれて、太陽系からははずされてしまいました。

先月号でもお話をしましたように、以前までは小学校で、「水金地火木土天海冥(すいきんちかもくどってんかいめい)」と習っていました。しかし今の子供たちは、「水金地火木土天海(すいきんちかもくどてんかい)」と習っているでしょう。

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それでは、なぜ冥王星が惑星の仲間から外されてしまったのでしょうか。

2006年08月、IAU(国際天文学連合)によって惑星の定義が決定したことで、太陽系の第9惑星とされていた冥王星は惑星ではなくなりました。以後、冥王星は準惑星、冥王星型天体と定義されます。いきなり冥王星が惑星から仲間外れになったこのニュースは日本でも結構話題になっていました。では、何故に冥王星が準惑星とされたのでしょうか。冥王星はそれまでも特殊な性質を持つ惑星として知られていましたが、分類的に他の惑星と一緒にするには疑わしい部分があり、更には1990年代以降に冥王星の仲間とも言える天体が次々と発見されたからです。

ということでまずは冥王星の特徴をまとめてみました。

(1)とにかく小さい

冥王星は小さい。サイズも質量も。月よりもサイズが小さくて質量も小さいのです。太陽系の惑星と冥王星を比べてみましょう。まずはサイズ。その赤道半径を地球赤道半径(RE)と比較してみました。

すると、水星:0.383 RE、金星:0.949 RE、地球:1.000 RE、火星:0.533 RE、木星:11.21 RE、土星9.449RE、天王星:4.007 RE、海王星:3.886 RE、冥王星:0.181 RE、月:0.272 RE ・・・・となり、いかに小さいかわかります。

次に質量。地球質量(ME)と比較してみました。

水星:0.055 ME、金星:0.815 ME、地球:1.000 ME、火星:0.107 ME、木星:317.8 ME、土星:95.16 ME、天王星:4.54 ME、海王星:17.15 ME、冥王星:0.002 ME、月:0.012 ME・・・・ということで、サイズも質量も冥王星は他の惑星と比較して桁違いに小さかったわけです。しかしながら、これは特殊な性質というだけで、これが原因で冥王星が惑星ではなくなったというわけではありません。

(2)構成組成が他の惑星と異なる

2006年までは冥王星は探査機が探査したことがなく、地球からの距離も遥か遠いので望遠鏡による観測も制限が伴うため、惑星と同じように組成がはっきりと確認されているわけではありません。しかし赤外線のスペクトルからメタン、窒素や一酸化炭素の存在が明らかになっています。おそらくは岩石のコアとそれらの物質、氷が混合した天体であり、それは彗星に近いだろうといわれています。

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太陽系において木星より外側は木星型惑星(Gas Giant)天王星型惑星(Ice Giant)の巨大な質量の惑星が占めています。木星型惑星や天王星型惑星には地球質量の10倍程度の岩石から成るコアがあると考えられていますが、前項で見たように冥王星の質量はこれに4桁足りません。この程度の質量による重力では水素等のガスを集めることはできないはずなので、これは冥王星の形成が木星型惑星や天王星型惑星の形成とは違うことを示しています。

(3)公転軌道が楕円で傾斜角が大きい

太陽系の惑星は、水星以外は公転軌道の離心率は小さくて真円に近いのですが、冥王星の軌道は離心率が大きく真円から遠い形です。また、冥王星の太陽を中心とした軌道面の傾斜角が極端に大きいのです。

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以下は太陽系惑星と冥王星の軌道離心率(e)の比較です。

水星:e = 0.2056、金星:e = 0.0068、地球:e = 0.0167、火星:e = 0.0934、木星:e = 0.0484、土星:e = 0.0542、天王星:e = 0.0461、海王星:e = 0.0086、冥王星 e = 0.2503

公転軌道が真円に近いという性質上、惑星の軌道の列順は変わることはありません。つまり地球の軌道は金星の軌道よりも太陽側に入り込むことはありませんし、火星の軌道よりも太陽の逆側に入り込むことはありません。しかし、冥王星の軌道はほんの少しだけ海王星の軌道よりも太陽側に入り込む部分があります。なお、系外惑星では極端に離心率の大きい「エキセントリック・プラネット」が多数発見されています。実は、その全ての惑星の軌道離心率が小さい太陽系が変わっているのかもしれません。

地球から他の惑星の運行を観測すると、それは大体において黄道(太陽の通る位置)に近い位置にあります。地球は太陽の回りを公転しているので、これは地球の軌道面と他の惑星の軌道面がほぼ同じことを示しています。つまり地球の軌道面を基準面に考えた場合、基準面と他の惑星の軌道面の角度は実はほとんどありません。太陽系の惑星は全て仮想の薄い円盤に軌道面が乗っているような状況であり、これは太陽系形成時に原始惑星系円盤という、太陽を中心として回る平べったい円盤の中で全ての惑星が誕生したからだと考えられています。この軌道傾斜角(i) を太陽系の惑星と冥王星で比較してみると、

水星:i = 7.004、金星:i = 3.395、地球:i = 0.000、火星:i = 1.851、木星:i = 1.305、土星:i = 2.484、天王星:i = 0.774、海王星:i = 1.769、冥王星:i = 17.09 (0°≧ i ≧ 180°)

となります。冥王星だけ軌道傾斜角が15°オーバーで、軌道面が傾き過ぎです。これは原始惑星系円盤の中で誕生した冥王星が惑星とは異なり、形成後に何らかの原因で軌道傾斜角が大きくなったことが示唆されています。

(4)同様な特徴を持つ天体は多数存在

冥王星の分類についての議論は、90年代の後半からされてきて、海王星の外側になるエッジワース・カイパーベルト天体(Edgeworth-Kuiper Belt Object :EKBO)という氷や岩石でできた天体群の1つではないかといわれていました。

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2000年代に入ると、冥王星のサイズに匹敵する太陽系外縁天体が発見され始め、2001年には、アメリカ・自然史博物館のローズ地球宇宙センターが、彗星に近いという立場を表明しました。そして、遂に2005年には散乱円盤天体としてエリス(136199 Eris)が発見されました。エリスは冥王星よりもサイズが大きいと考えられ、更にはスペクトル分析によって冥王星と同じく表面にはメタンの存在も明らかになりました。さらに、エリスも冥王星と同じく衛星を持っていました。

つまり、冥王星を惑星とすると、エリスを初めとする他の大きな太陽系外縁天体も惑星とならざるを得ません。更には太陽系外縁天体の発見によっては将来にわたって際限なく太陽系惑星の数は増える可能性があります。逆にエリス等の大きな太陽系外縁天体を惑星としないならば、冥王星も惑星ではなくなってしまいます。こうして冥王星の地位を含む、惑星とは何か、という定義が再考される日がやってくることになりました。

そして2006年8月24日に開かれたIAU(国際天文学連合)の総会で、冥王星は太陽系の惑星ではなく、新たに設けられた「dwarf planet(準惑星)」に分類されることになったのです。

[冥王星-2]惑星・準惑星の定義

IAUは、太陽系の惑星及び準惑星の定義を以下のように決定しました。

    <惑星>
  • 太陽のまわりを公転していること。
  • 自己の重力によって球形になるほど十分な質量を持っていること。より明確にいうと、自己の重力により重力平衡形状になっていること。
  • 軌道上の他の天体を排除 (clear) していること。
    <準惑星>
  • 太陽のまわりを公転していること。
  • 自己の重力によって球形になるほど十分な質量を持っていること。より明確にいうと、自己の重力により重力平衡形状になっていること。
  • 軌道上の他の天体を排除 (clear) していないこと。
  • 衛星ではないこと。
  • 冥王星他にケレス、エリス、マケマケ、ハウメアの4つがある。

[冥王星-3]太陽系外縁探査のニューホライズンズ

探査機「ニューホライズンズ」はアメリカ航空宇宙局(NASA)によって2006年1月に打ち上げられた無人探査機です。冥王星をはじめとする太陽系外縁天体の探査を目的としています。

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史上初めて冥王星や太陽系外縁天体を探査するということで「新しい地平」という英単語が名前の由来となっています。太陽系探査の新しい地平を開くという期待が込められているようです。

本体の質量は465Kg(推進剤77Kg含む)です。探査機というと、太陽電池パネルを翼のように広げた姿が思い浮かびますが、ニューホライズンズは太陽から離れた所で活動するため、電力原としては原子力電池を使用しています。原子力電池は高温となる放射性物質と低温となる宇宙空間の温度差を利用して発電しています。ニューホライズンズには赤外線・紫外線分光計、多色カメラ、高解像度望遠カメラ、宇宙塵(じん)検出器など7種類の機器が搭載されています。

ニューホライズンが撮影した冥王星の画像の中で最も興味深いのはハートマークの形をした領域です。この領域は冥王星の発見者の名前にちなんで「トンボー領域」と名付けられました。トンボー領域にはクレーターが見つからず、これは火山などの地質活動によってクレーターの跡が消されたためと考えられています。ただ、火山などの地質活動には強力な熱源が必要になります。その熱がどこから来ているのかまだわかっていません。

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太陽系には木星の衛星イオなど火山をもつ天体がありますがそれらは近くに巨大な天体があり(イオの場合は木星)その引力が地質活動のエネルギー源となっています。しかし、冥王星の近くにはそのような巨大な天体はありません。ニューホライズンズは現在、次のターゲットであるカイパーベルト天体(暫定的に2014MU69と呼ばれている)に向かって飛行しながら、冥王星の観測データを地球に送信し続けています。こうしたデータによって冥王星の姿がさらに明らかになるかもしれません。

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以上、今月は「冥王星」について勉強してみました。

冥王星のような、はるか彼方の太陽系の外縁にある天体についても、人類の英知により色々な興味深い事実が分かり始めているようです。やがて、太陽系の外に永久に去ってしまう探査機「ニューホライズンズ」に、もう少しの間頑張ってもらいましょう。

次回は太陽系外縁から再度太陽に近い位置に戻り、現在日本の「はやぶさ2」が探査中の「リュウグウ」やNASAの「オシリス・レックス」が探査中の「ベンヌ」などの小惑星について勉強してみたいと思います。

<参考・引用資料>

「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社

「NASAホームページ」

「Wikipedia」冥王星

「ライブドア・ブログ」dead moon rising