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おもしろいロケットの科学(1)<ロケットの原理I>

2年間続きました「おもしろい宇宙の科学」は一応前回の「世界の宇宙開発の歴史」で終了させていただきましたが、読者の皆さんもすでにお気づきのように、「宇宙開発の歴史」は「ロケット技術の歴史」と言っても言い過ぎではありません。

前回までのテーマ内ではロケットについて詳細なお話ができていませんでしたので、筆者としては悔いが残っていました。そこで、「ロケット」について「ロケットとは何?」、「その原理と構造は何?」、「ロケットはどのように進歩したか?」などのテーマを、「おもしろい宇宙の科学」の補足になるかもしれませんが、数回にわたって取り上げさせていただきます。

[ロケットの原理-1]ドイツのV-2ロケット

先月号でもお話をしましたように、ロケット開発の歴史は“空飛ぶ兵器開発の歴史”と“宇宙開発の歴史”の2つの大きな流れの中で進んできました。その中で最も近代ロケットの手本となったのが、ドイツのV-2ロケットでした。

ドイツでは1930年代、兵器としてのロケット開発が始められました。そして、1942年にウェルナー・フォン・ブラウンらが中心となり、バルト海に建設された秘密基地ペーネミュンデにおいてミサイル開発に取り組み、つい世界初の誘導ミサイルV-2を完成させたのでした。

V-2は、いうまでもなく当時世界最大のロケットであり、第二次世界大戦中に1500発を超えるV-2が南イギリスに落ち、2500人以上の人々の命を奪い、多くの施設を破壊しました。

戦争目的ではありましたが、V-2はあらゆる技術上の完成度から見て近代ロケットの直系の元祖です。ナチスが敗れると、フォン・ブラウンとV-2開発のリーダーたちはアメリカに降伏し、戦後のアメリカの宇宙開発で活躍します。一方、秘密基地ペーネミュンデを接収したソ連軍もV-2の図面を手に入れ、また連行した下級技術者たちから、V-2の技術上の秘密を余すところなく吸収し、来るべき宇宙競争にスパートをかけました。

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[ロケットの原理-2]ロケットの推進原理

いっぱいにふくらませたゴム風船は、手をはなすと空気を吹き出しながら飛んでいきます。このとき風船を動かしているのは、空気を吹き出した反動による力で、これを「推力」といいます。推力は、空気が吹き出される向きとは反対の方向にはたらきます。ロケットが飛ぶ原理もこれと同じで、ロケットはエンジンの中で高圧の燃焼ガスを大量につくり、それを後ろに高速で噴射することによって、前に進む力を得ているのです。

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ロケットには、燃焼室とノズルがあります。燃料を燃焼させてガスをつくるところが「燃焼室」で、燃焼室でつくられた高温・高圧のガスを噴射するところが「ノズル」です。ラッパのような形をしているノズルは、吹き出されるガスの速度を速めるはたらきをしています。空気のない宇宙で燃料を燃やすためには、酸素などの酸化剤が必要です。ジェット機のジェットエンジンでは、酸化剤として空気中の酸素を取り込んでいます。ロケットには、空気のない宇宙を飛ぶため、燃料のほかにあらかじめ酸化剤も積み込まれています。

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ただしジェット機もロケットも、自分が吐き出したガスの反動で加速するという点は同じです。ロケットの推進原理は、吐き出したガスが何かを蹴飛ばして推力を得るのではなく、厳密には「運動量保存の法則」あるいは自らが体内から噴出した反動によって加速するものであることを理解しておきましょう。

[ロケットの原理-3]ロケットの種類・分類

推力を得るために射出される質量(推進剤、プロペラント)が何か、それらを動かすエネルギーは何から得るかにより、ロケットは様々な方式に分類されます。

<化学ロケット>

化学反応で高温高圧のガスを発生させて、そのガスを噴射しながら進む飛翔体を化学ロケットといいます。現在の衛星打ち上げロケットや大陸間弾道弾などの大型ロケットの大半はこの化学ロケットになっています。

<非化学ロケット>

化学ロケットエンジンは、大きな推力を出すのに向きますが、長時間の連続運転ができないという欠点があります。 地上からの打ち上げや短期間の惑星間飛行など、大推力を必要とする場合を除き、他方式に替わってきています。現在、化学ロケットの欠点を補う、いろいろなエンジンが開発されています。すでに実用化しているのが、 イオン・エンジンであり、プラズマ・エンジンも実用開発途上にあります。どちらも推力が小さいため、「低推力推進」と呼ばれています。また、原子力エンジンも実用化開発の段階にあり、すでに一部の惑星探査機やICBM用に実験が行われているようです。

その他、現在開発中の未来ロケットには、光子ロケット、ラム・ロケット、レーザー・ロケットなどがあげられます。

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[ロケットの原理-4]化学ロケット

化学反応に使用する物質は、燃料と酸化剤からなっており、あわせて推進剤と呼びます。物が燃えるには酸素が必要なので、反応する時に酸素を出してくれる酸化剤はどうしても必要なのです。推進剤が固体のものを固体推進剤ロケット、液体のものを液体推進剤ロケット、固体と液体と両方を使うものをハイブリッドロケットといいます。

現在使用されている地上からの打上げ用ロケットは、すべて燃料を酸化剤で燃やして推力を得る化学ロケットです。燃料の持つ化学エネルギーを、燃やして熱エネルギーに変え、それをロケットエンジンのしくみによって運動エネルギーに変えているのです。

 

<固体燃料ロケット>

固体燃料ロケットは、固体の燃料と酸化剤を混錬してロケット本体(モーターケース)に充填した固体燃料を使用するロケットです。単に“固体ロケット”とも呼ばれます。単純なものは主に、モーターケース、ノズル、推進薬、点火装置(イグナイター)で構成されます。

液体燃料ロケットとは異なり、使用時にはポンプなどの機械部品で燃料を燃焼室に移送することなくロケット内部の燃料へそのまま点火します。構造的にはロケット花火を想像するとよく理解できます。ケースが外側の紙ケース、ノズルが紙ケース下部、推進薬が火薬、点火装置が導火線です。実際ロケット花火も固体燃料ロケットの一種といえます。

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固体燃料が本格的に大気圏外を飛翔するロケットの推進薬として使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです。その頃は、ソビエト連邦やアメリカ合衆国のロケット(弾道ミサイル)といえば、おおむね液体燃料ロケットが主流でしたが、重量対出力比に優れる反面、長期保存や即応性に問題があり、人工衛星打ち上げ用ロケットなどはともかく、万が一に備える必要のある弾道ミサイルとしての使用には欠点があり、その解消の為、固体燃料の開発が進み、弾道ミサイルやロケットなどに使用する為の大型化へとつながってゆきました。

また、小型の対空ミサイルや対地ミサイルは、即応性や、部品点数により小型化が困難な液体燃料ロケットは不向きであったため、固体燃料が使われており、この状況は現在でも変わりません。

日本では早くから糸川英夫が率いる東京大学生産技術研究所を源流とする宇宙科学研究所が先駆的な役割を果たし、ペンシルロケットやカッパロケット、ラムダロケット、ミューロケット等を開発し、1970年に全段固体ロケットであるL-4Sロケットによって日本初の人工衛星おおすみを打ち上げ、1985年にはM-3SIIロケットによる世界で初めてとなる全段固体燃料ロケットによる人工惑星さきがけを誕生させました。1997年には世界最大の固体燃料ロケットであるM-Vロケットが開発され、2013年にはイプシロンロケットが開発されました。

 

固体燃料ロケットの利点

モーターケースが燃焼室を兼ねていて部品数が少ないため、構造が簡単で安価に製造できる利点があるほか、小型のものでは全質量に対する構造質量を低減、すなわち構造効率を向上させることができます。また液体や気体の推進剤と異なり、固体である推進薬は常温では蒸発せず拡散しないため毒性に留意する必要がありません。燃料は化学的に比較的安定した性質の物質からなり、製造後の点検がほとんど必要ないまま長期間保管でき、即応性に優れます。また、推力の大きなロケットを比較的容易に製造できるほか、推進剤の密度が大きいのでロケット全体のサイズを小さくすることができます。これらの利点により、即応性を重んじる軍用の弾道ミサイル、大型衛星を打ち上げるためのロケットの推力を補強するブースター、最終的に衛星を軌道に投入する小型のアポジキックモーターなどに用いられます。

固体燃料ロケットの欠点

燃焼の制御が難しく、点火後に燃焼の中断や再点火、推力の調整を行うことは原理的に非常に困難です。そのことがチャレンジャー号爆発事故やブラジルロケット爆発事故の原因だと言われています。

またモーターケースは自身が燃焼室となることから燃焼圧力と温度に耐える必要があり、エンジン部分のみが圧力と温度に耐えればよい液体燃料ロケットに比べて頑丈でなければならず、ある程度以上の大きさを越えると同規模の液体燃料ロケットに比べて構造効率が悪化します。

 

<液体燃料ロケット>

液体の燃料と酸化剤をタンクに貯蔵し、それをエンジンの燃焼室で適宜混合して燃焼させ推力を発生させるロケットです。単に“液体ロケット”とも呼ばれます。人工衛星の姿勢制御エンジンなど一部には過酸化水素やヒドラジンのように自己分解を起こす推進剤を触媒等で分解して噴射する、簡単な構造の一液式のものもあります。「はやぶさ2」や「こうのとり」を打ち上げた、日本が誇るHIIシリーズロケットは液体燃料ロケットになります。

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液体燃料ロケットの利点

液体燃料は一般的に燃焼ガスの平均分子量が小さく、固体燃料に比べて比推力に優れているうえ、推力可変機能、燃焼停止や再着火などの燃焼制御機能を持つことができます。また、エンジン以外のタンク部分は単に燃料を貯蔵しているだけなので、特に大型のロケットでは構造効率の良いロケットが製作できます。

液体燃料ロケットの欠点

燃焼室や噴射器、ポンプなどの機構は複雑で小型化が困難なので、小型のロケットでは同規模の固体ロケットに比べて構造効率は悪化します。また、推進剤の種別によっては、腐食性や毒性を持ち、貯蔵が困難であったり、極低温なため断熱や蒸発したガスの管理、蒸発した燃料の補充などで取り扱いに難があります。構造が複雑なため、製作コストが高くなり、製作期間も長くなります。

 

<ハイブリッドロケット>

ハイブリッドロケットは、相の異なる2種類の推進剤からなるロケットエンジンシステムです。最も一般的なものは、固体燃料がおかれた燃焼室へ液体か気体の酸化剤を供給する事によって燃焼を起こし、生成したガスを噴射してその反動で進むものです。

酸化剤には通常、気体か液体酸素もしくは酸化窒素等を使用します。燃料にはABS樹脂やアクリル樹脂や合成ゴム、あるいは氷で固めたアルミニウム粉末などが用いられます。

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ハイブリッドロケットの利点

固体燃料ロケットの推進剤に含まれる酸化剤の過塩素酸アンモニウムを含まないので、塩素化合物を排出せず環境に優しい、燃焼によって生成される生成物の分子量が小さいので従来の固体燃料ロケットよりも比推力が高いという特徴をもちます。

さらに、複雑なシーケンスを伴わないため、始動/停止/再始動が容易なうえ、酸化剤の供給量を変えるだけで出力の調整を行うことが可能なため、制御性が良好といえます。

また、固体燃料の製造や運搬、取り扱いにおける危険性が少ないことで相殺することができます。世界初の民間有人宇宙船であるスペースシップワンに採用されたのもそのような特徴を買われたからです。

ハイブリッドロケットの欠点

ハイブリッドシステムは固体燃料ロケットよりも複雑なため、相対的に製作コストが高いなど、固体燃料からみると欠点もあります。また、液体燃料ロケットからみると、比推進力が低いという欠点になります。全体的にハイブリッドロケットの開発は液体燃料ロケットや固体燃料ロケットと比較して遅れています。開発が進まない一因として、ハイブリッドロケットで解決すべき課題は既に液体推進剤と固体推進剤では解決済みで、それらはそれぞれの特性に適した用途への開発が進んでおり、それらに対して優位性の乏しいハイブリッドロケットの開発は克服すべき課題の困難さに対して利点が少ないからであるとの指摘もあります。

 

地球上からロケットを発射するには、大きな重力に打ちかつ必要があるので、燃費よりも大きな推力が優先されます。化学ロケットは、まだ当分はなくてはならないものでしょう。

ただし、化学ロケットエンジンは、大きな推力を生み出すのには向いていますが、搭載する推進剤の量に限りがあるので、長時間の連続運転ができないという欠点を持っています。そのため、地上からの打上げや短い日数での惑星間飛行など大きな推力を必要とする場合には今後も使われ続けるでしょうが、惑星探査などのように太陽系の彼方をめざすような長期間の飛行などの場合は、化学ロケット以外のイオンエンジンなどの非化学ロケットに替わってきています。

 

以上、今月はロケットについて、その推進原理、種類などについて調べてみました。また、ロケットの種類の中の“化学ロケット”について、さらに詳細な分類およびそれぞれの原理、構造についても勉強しました。次回は“非化学ロケット”についてお話をさせていただきます。惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている“イオンエンジン”や盛んに実用化開発が行われている“プラズマエンジン”、“原子力エンジン”などについての勉強してみましょう。

<参考・引用資料>

「NASAホームページ」

「JAXA・宇宙情報センター」ホームページ

「Wikipedia」

「宇宙の謎・宇宙開発の歴史」ホームページ

「トコトンやさしい宇宙ロケットの本」日刊工業新聞社