読者の皆さんも新聞やテレビの報道でご存じのことと思いますが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月13日、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの上空から地球に向けての長い旅に出発したと発表しました。
11月19日以降、イオンエンジンの試運転を行い、12月3日以降に本格的にエンジンを噴射させて地球を目指します。飛行距離は約8億kmで、地球と太陽の距離の5倍強となります。機体に収めたカプセルにはリュウグウで採取した貴重なサンプルが入っている筈です。日本の宇宙技術の粋を集めた「はやぶさ2」の成果を世界中が期待しています。来年末の地球帰還まで順調に飛行を続けて欲しいですね。
さて、今月は世界のロケット発射場についてのお話をしたいと思います。
[ロケット発射場-1]発射場の条件
発射場(launch site)とは、ロケット等を打ち上げる施設のことです。射場とも呼ばれます。宇宙へ向けて人工衛星を打ち上げるローンチ・ヴィークル(人工衛星や宇宙探査機などを運ぶロケット)の発射場については宇宙船基地などと呼ぶこともあります。通常はNASAなどの宇宙開発機関が管理しています。空軍の基地と人工衛星の発射場が共用されていることもあります。また、ロケット発射の安全性、確実性などを確保するため以下のような自然・地理的および人為的条件があげられます。
<緯度>
発射場の位置は低緯度が望まれ、出来れば赤道直下が最適となります。赤道直下から真東に発射されたロケットは地球の自転遠心力をもっとも効率よく利用できます。また、打ち上げ後に赤道面への静止衛星投入のための移動に伴う衛星搭載燃料が少なく済み、相対的にロケットの搭載量低下、衛星の大型化が行えます。赤道直下で真東に発射する場合、第一宇宙速度(地球の楕円軌道に投入される最低速度)の7.9km/sに対し地球自転周速度の分0.46km/sだけロケットの燃料を節約できるのは大きな利点となります。日本の種子島宇宙センターは北緯30度に位置し、0.4km/s分地球の自転が利用できますが、緯度の高いバイコヌール宇宙基地(北緯46度)では0.3km/s分と自転利用の効率が落ちます。
<安全確保>
発射場では大量の火薬類や危険物を扱うため、十分に広い土地を必要とします。また発射後のロケット各段の落下点に加え、万一故障した場合の飛翔経路、破損した場合の破片の落下範囲などを考慮して、人的・物的被害の出ないように発射場の位置や発射方向が決定されます。ゆえにロシアや中国のように射場を人の少ない内陸部にとれる場合を除き、海に面した場所に射場を設置することが多くなります。
海に向かって発射する場合にも海上船舶を考慮する必要があります。一般に陸地や島の存在によって発射方位は制限を受け、漁期との関係で発射期間が限られている射場もあります。そのほかにも航空路なども考慮されねばなりません。イスラエルでは東側のアラブ諸国とのトラブルを避けるため、打ち上げ速度の不利を承知で西向きに打ち上げが行われています。
<天候>
発射の天候待ちを減らし射場の年間利用率向上のため、年間を通じて晴れの多い安定した気候、発射時ロケットの姿勢に影響を及ぼす風があまり強くないことなどが条件として挙げられます。
<地上設備>
最低でも、ロケットを組み立てる施設、打ち上げのためのロケット固定施設、液体燃料ロケットの場合にはロケット燃料を保管し注入する施設などが必要です。人工衛星を打ち上げる場合は大気圏外までの管制を行う施設、さらに有人飛行の場合には宇宙飛行士の宿泊施設や待機場所等も必要となります。
軌道投入後、管制業務は運用担当施設に引き継がれます。
[ロケット発射場-2]世界の主なロケット発射場
ロケットの発射場は世界中に分布しています。次図にはありませんが、最も高緯度にあるのは、おそらくノルウェー領のスピッツベルゲンにあるニュー・オルソン(北緯79度)でしょう。ここは、宇宙科学研究所でも観測ロケットSS-520の打上げに使ったこともありますが、極寒の地で、北極熊がうろついているというので、ブロックハウスの入り口には猟銃が立て掛けてあるという環境でした。一方、アフリカーケニアのサンーマルコ基地やアリアンロケットを打ち上げている南米のフランス領ギアナのクールー基地のように、ほとんど赤道上にある発射場もあります。
1、(1)東部宇宙・ミサイルセンター(米国)
米国最大の射場が東部宇宙・ミサイルセンターです。NASAケネディ宇宙センターとケープ・カナベラル空軍基地があります。米国フロリダ州メリット島にあり、位置はケネディ宇宙センターが北緯28度36分、西経80度36分。ケープ・カナベラル空軍基地が北緯28度26分、西経80度33分です。面積は404km2。管理・運営はアメリカ航空宇宙局(NASA)とアメリカ空軍が行っています。
主要打ち上げロケットは、ケネディ宇宙センターからはスペースシャトル、ケープ・カナベラル空軍基地からはデルタ、アトラス、タイタンなどの無人ロケットの打ち上げが行われています。軍事衛星のほか、NASAの探査機が打ち上げられています。日本の商用衛星もここから打ち上げられたことがあります。
NASAケネディ宇宙センターでスペースシャトルの打ち上げが行われるのはセンターの北東側、太平洋に面した発射台39Aと39Bです。また、打ち上げ管制センター(LCC)や宇宙船組み立て工場(VAB)を含む地域はLC(打ち上げコンプレックス)39と呼ばれています。長さ約4,500m、幅約90mの着陸用滑走路があり、スペースシャトルが着陸します。着陸したオービタは再飛行に備えるために整備・点検を行う整備工場(OPF)で次の飛行の準備を行います。ケネディ宇宙センターの一部は一般観光者に公開されていて、フロリダ州の観光スポットにもなっています。北隣は国立の保全地で、ワニなどの野生動物が生息する姿が見られます。
2、(2)西部宇宙・ミサイルセンター(米国)
西部宇宙ミサイルセンターは米国カリフォルニア州南部サンタバーバラ軍にある空軍の打ち上げ射場です。バンデンバーグ空軍基地(VAFB)とも呼ばれています。位置は北緯34度34分、西経120度21分です。管理・運営はアメリカ航空宇宙局(NASA)とアメリカ空軍が行っています。
主要な打ち上げロケットはスカウト、デルタ、アトラス、タイタン、ペガサス、トーラスなどで人工衛星用ロケット打ち上げ回数は2005年末までに566回となっています。
現在は空軍宇宙軍団第14航空軍の司令部が置かれており、大陸間弾道ミサイルの試射や人工衛星の打ち上げが行われています。太平洋に面していて、発射場の南側と西側が海に向かって開いています。ロケットは南方に向けて打ち上げられます。極軌道を回る衛星の打ち上げに適しています。
3、(7)バイコヌール宇宙基地(ロシア)
米国ケープ・カナベラル空軍基地と並ぶ世界最大基地の発射場がバイコヌール発射場です。モスクワから南東に約2,100km、中央アジアのカザフスタン共和国にあります。アラル海の東に位置しています。「バイコヌール」とはカザフ語で「褐色の富」を意味しますが、この褐色とは、ここが銅の産地であることに由来しています。
1955年に建設が開始され、1957年10月4日に人類初の人工衛星スプートニクを打ち上げた歴史的な発射場です。その後軍事衛星などの打ち上げを主に行ってきましたが、1996年に9月にプロトンロケットでインマルサット3F2通信衛星を打ち上げたのを皮切りに、イリジウム、グローバルスター、パンナムサットなどの民間通信衛星が頻繁に打ち上げられるようになりました。
有人宇宙飛行に関しても、人類最初の宇宙飛行となった1961年のガガーリンの打ち上げ以来、ここから宇宙飛行士が打ち上げられています。国際宇宙ステーションに搭乗する宇宙飛行士や各種モジュールも打ち上げられています。
位置は北緯45度36分、東経63度24分。打ち上げ方向は東です。管理・運営はロシア(カザフスタン)で、主要打ち上げロケットはプロトン、ロコット、ソユーズ、モルニア、ツィクロン、ゼニットなどです。2005年末までの衛星等打ち上げ回数は1,199回で世界最多です。15の発射台を含む9つの発射施設、11の組立工場、470kmの線路で横倒しにしたロケットを発射台まで運んでゆきます。
4、(9)西昌宇宙センター(中国)
中国で衛星打ち上げを実施している宇宙センターは甘粛省の酒泉(チウチュワン)、四川省の西昌(シーチャン)、山西省の太原(タイユワン)の3カ所ありますが、このうち静止軌道への打ち上げは西昌宇宙センターからのみおこなわれています。西昌は酒泉や太原より低緯度の静止軌道への打ち上げに適した北緯28度に位置しています。最初の打ち上げは1984年1月29日、長征3型(CZ-3)打ち上げランチャーにより同歩(STTW)軍事通信衛星を静止軌道に打ち上げました。
西昌からの打ち上げはこの後、1996年2月14日に長征3B型(CZ-3B)が打ち上げ時に大爆発事故を起こすまで21回におよび、長征3/3A型(CZ-3/3A)が同歩および東方紅(DFH)通信衛星、長征2E(CZ-2E)がオーサットやオプタスなど海外の通信衛星を打ち上げました。西昌での打ち上げは1996年7月3日に再開、長征3B型の打ち上げは1997年8月20日に成功しました。
5、(12)ギアナ宇宙センター(欧州)
フランスは1965年11月、アルジェリア南部、サハラ砂漠にあるアマギール発射場でディアマン・ロケットを発射、A1 衛星の軌道投入に成功しました。しかし、1967年にアルジェリアとの協定が期限切れとなったため、その代替発射場として北緯5度14分と低緯度で、地球の自転を利用しやすい北東側に海面の開けているクールーが選ばれました。建設は1964年から始まり、1968年4月に初めてベロニーク探査ロケットの打ち上げがおこなわれています。
続いてディアマンおよび欧州ロケット開発機構(ELDO)の、ヨーロッパ・ロケットによる衛星打ち上げもおこなわれましたが、1970年代中盤にはいったん休眠状態に入りました。クールーに再び活気が戻ってくるのは、ESA(欧州宇宙機関)がアリアンロケットの打ち上げを開始した1977年からで、1999年12月現在までにおこなわれた125回のアリアン1、アリアン2、アリアン3、アリアン4、アリアン5打ち上げは、すべてギアナ宇宙センターからおこなわれました(成功率約94%)。
6、(16)種子島宇宙センター(日本)
種子島宇宙センターは種子島の東南端に位置し、総面積約970万m2のわが国最大の発射場で、1969年10月に完成しました。「世界一美しいロケット基地」とも言われています。小型ロケットを打ち上げる竹崎発射場と、大型ロケットを打ち上げる大崎発射場があります。
大崎発射場の18km北には増田宇宙通信所があり、さらにその6km北には野木レーダ局が、大崎発射場から6km西には、宇宙ケ丘レーダ局と光学観測所などの関係施設が整備されています。
種子島宇宙センターでは、人工衛星やロケット打ち上げまでの各種の点研整備・組立など、発射前の整備作業、打ち上げ作業、打ち上げ後の追尾などの作業が行われます。つまり、実用衛星打ち上げの中心的な役割を果たす使命を担っているのです。このほか、固体ロケットモータおよび液体ロケットエンジンの地上燃焼試験などを行うほか、小型ロケットにより宇宙材料実験を行うなど、種子島宇宙センターは開発業務の一翼も担っています。
7、(17)内之浦宇宙空間観測所(日本)
内之浦宇宙空間観測所は1962年2月、より大型の観測ロケットを打ち上げるために、太平洋に面した鹿児島県内之浦に建設されました。それまでは、秋田県道川の秋田ロケット実験場で観測ロケットの打ち上げが行われていました。ここは、日本最初の観測ロケットの打ち上げが行われたところです。1950年代半ばから1960年代の初めにかけて、ペンシルロケット、ベビーロケット、カッパロケットなど数多くのロケットが打ち上げられ、日本の草創期のロケット開発の舞台となりました。
しかし、より大型のロケットを打ち上げるには日本海は狭く、新たな発射場の開発が求められました。いくつかの候補地から選ばれたのが、太平洋に面した鹿児島県の内之浦です。一見、打ち上げ場には向かないような丘陵地帯でしたが、丘陵をけずり、逆にその地形を生かした独特の配置の打ち上げ場がつくられました。
日本の固体ロケットは、ベビーロケット以後は、アルファ、ベータ、カッパ、オメガ、ラムダ、ミューというギリシャ文字を用いて命名されています。途中で計画が中止され、使われなかった文字もありますが、ミューに近くなるほど、大型化し、高性能化が図られています。
1970年ラムダ4S-5ロケットでついに技術試験衛星を打ち上げ、軌道にのせることに成功しました。これが日本最初の人工衛星「おおすみ」です。この衛星の名前は、打ち上げ場のある鹿児島県の大隅半島からとられています。以来、ミューロケットの改良を重ねながら、1年に1個の割合で科学衛星が打ち上げられるようになりました。1997年2月には新世代のM-Vロケットによって、電波天文観測衛星「はるか」の打ち上げに成功しています。1998年7月にはM-V3号機によって日本初の火星探査機「のぞみ」が打ち上げられました。
8、(19)スリハリコタ宇宙センター(インド)
スリハリコタ発射場(SHAR)は、中国に続いて近年目覚ましい宇宙開発を続けているインド宇宙研究機関(ISRO)の管理下にある宇宙センターで、当初は探測ロケットの発射場でしたが、その後SLV(衛星打ち上げビークル)の打ち上げ射点やロケットの試験・組立てを行なう技術センター、打ち上げ管制、衛星追跡・遠隔測定などのための諸施設が建設され、現在ではインド随一の宇宙センターとなりました。SHARでは1970年10月に初めてロヒニ探測ロケットを打ち上げており、最初の人工衛星は1979年8月19日にSLV-3ロケットにより打ち上げられたロヒニ1A技術衛星です。その後、1983年までにSLV/ロヒニの打ち上Imageげがさらに3回行なわれました。
そして1987年からは補助ロケットを追加した改良型ロケットASLV(発展型衛星打ち上げ用ビークル)によるSROSS(拡大型ロヒニ衛星)地球観測衛星が、また1996年からはPSLV(極軌道衛星打ち上げ用ビークル)によるIRS(インディアン・リモートセンシング衛星)の打ち上げが始まっており、SLV/ASLV/PSLV含めて10回の打ち上げを行なっています。
このほか、静止軌道衛星打ち上げ用のGSLV(静止軌道衛星打ち上げ用ビークル)がロシアの協力で開発されており、スリハリコタから打ち上げられる予定です。
以上、今月は日本および世界の主なロケット発射場についての情報でした。次回はロケット発射を成功させるための方位などの設定、地球からの脱出、ロケットの軌道などについて調べてみる予定です。
<参考・引用資料>
「NASAホームページ」
「JAXA・宇宙情報センター」ホームページ
「Wikipedia」
「宇宙の謎・宇宙開発の歴史」ホームページ
「トコトンやさしい宇宙ロケットの本」日刊工業新聞社