今月を持って宇宙の科学からロケットの科学についてのシリーズを終了したいと思います。
“宇宙”、“惑星探査”などの重要な話題・ニュースについては、これからも弊社ホームページを通して皆様にお知らせする予定です。
[宇宙探査機とロケット-1]宇宙探査機の種類
地球の重力圏を脱出して太陽系や太陽系の外を探査する宇宙探査機には大きく分けて、単に惑星のそばを通り過ぎる太陽周回型(パイオニア6号、すいせい等)、惑星の周りを回る惑星周回型(ガリレオ、カッシニ、あかつき等)、惑星に軟着陸する惑星着陸型(バイキング、キュリオシティ等)、太陽系を飛び出していく太陽系脱出型(ボイジャー、ニューホライズンズ)、それに「惑星等に行って帰って来る地球帰還型(スターダスト、はやぶさ2等)の5種類があります。その他に惑星を周回する衛星(火星の衛星フォボスや木星の衛星エウロパなど)をめぐったり着陸したりする探査機も考えられますが、これは基本的には惑星周回型や惑星着陸型と同種と考えて良いでしょう。
宇宙探査機は地球の重力圏を離れ地球から遠い所を飛びます。地球軌道の外側の火星や木星等を探査したり、太陽系の外を探査したりする場合には、太陽からの距離が人工衛星にくらべて遠くなり、太陽光エネルギーはどんどん小さくなります。
普通の人工衛星は太陽電池を使って発電し電力を得ていますが、この太陽電池が使えるのはせいぜい火星までです。それより遠くへ行く場合には原子力エネルギー等、別のエネルギー源が必要となります。
逆に、水星や金星などをめざし太陽に近づく探査機では、高熱対策が必要です。
もう一つの大きな違いは、地上との通信のための通信機やアンテナです。地球との距離が遠くなると、探査機に届く電波や探査機から地上に送られてくる電波がどんどん弱くなってきます。したがって人工衛星にくらべて探査機のアンテナを大きくしたり、通信機のパワーを大きくしたり、地上のアンテナを巨大なものにしたりする必要があります。
[宇宙探査機とロケット-2]ホーマン軌道と会合周期
探査機を惑星軌道にのせたり惑星に着陸させたりするには、目標の惑星に到達した時、通り過ぎないように加速したり減速したりして、惑星の軌道上での速度(公転速度)に合わせる必要があります。このような加速や減速には燃料を使います。
この燃料の消費を最も小さくするのがホーマン軌道と呼ばれる軌道です。たとえば火星に行く場合は、探査機の軌道の遠日点(軌道で太陽から最も遠い点)で火星と出会うように打ち出し、遠日点で探査機を加速して火星の速度と同じくらいにしてやります。このような打上げを行うと、地球軌道を脱出する時の燃料と火星到達時に加速するための燃料の合計が最も小さくなります。
探査機を軌道にのせるためには、ホーマン軌道やスイングバイ技術を使ったりして、ロケットの燃料を節約して、探査機にのせる観測装置などをできるだけ多くするように工夫がされています。もちろん探査機自身もできるだけ軽く、小さくなるように設計されています。
たとえば地球から火星に飛行する場合、探査機の軌道は、地球(出発時)と火星(到達時)を必ず通るものでなくてはなりません。地球も火星もそれぞれの運行暦に従って運動していますから、いつでも打上げの条件が充たされるわけではありません。
せっかくロケットをうまく打ち上げて火星の軌道まで到達しても、そこに火星がいなければ打ち上げた意味がありません。このような最適の打上げチャンスは、ホーマン軌道を利用する場合、各惑星に対し表のような周期でしかめぐって来ません。これが「会合周期」です。たとえば地球と火星の会合周期は2.1年なので、火星への打上げチャンスは約2年おきにしかやって来ないのです。他の惑星に旅立つ時に必要な打上げエネルギーを出発日に対して概念的に描くと、次に示したような図になります。
[宇宙探査機とロケット-3]省エネルギー航法・スイングバイ
惑星間飛行をしている探査機を途中で出会う惑星に近づけて、その惑星の引力によって軌道を変化させる方法を「スイングバイ」と呼んでいます。
大きなロケットエンジンを持っていなくても軌道を変えることができるので、スイングバイは効率の良い「省エネルギー」の航法です。
木星の近くを通すスイングバイについて考えてみましょう。太陽中心の軌道から木星の影響圏に進入すると、探査機は木星中心の軌道に入ります。双曲線軌道を描きながらどんどん速度を上げ、木星に最も近づく点(近木点)で最高速度に達し、もしブレーキをかけなければ、それまでと対称な軌道を通ってふたたび影響圏の外へ脱出します。
木星の強力な重力を中心とする双曲線軌道をたどるので、再び脱出した時は進入時と大きく方向が変わっていますが、実はスピードの大きさは全く変わりません。これでは、木星のそばを通った結果、方向は変わっていますが、特にスピードが増加するという効果はないように見えます。ただし、よく考えてみると、実は、変化しないのは木星に対するスピードであって、太陽から見た場合は変化しているのです。
木星の影響圏を外から、つまり太陽から見ると、木星は秒速13キロメートルで飛んでいるので、そのとき、木星の近くで飛んでいる探査機の(太陽から見た)速さは、その探査機の木星に対する速さに、木星自身の速さを加えたものになります。
こうして、木星の影響圏に入ってきた探査機のスピード(進入速度と脱出速度)を、太陽から見たスピードに換算すると、進入時に比べて脱出時のスピードはだいぶ大きくなっています。
この事件を太陽から見ていると、木星の影響圏を通過しただけで、探査機はグイッと方向を変え、なおかつグンとスピードアップも行っているわけです。
次図はJAXA の惑星探査機「はやぶさ2」の軌道です。2015年12月3日、地球の軌道エネルギーを獲得するための“スイングバイ”を行い、その後イオンエンジンを使って“省エネ飛行”を行った経過を示しています。
[宇宙探査機とロケット-4]民間ロケットと宇宙旅行
「宇宙飛行士にならなくても、宇宙に行きたい」というみんなの希望に応えたいと努力している人々もいます。特別な訓練などを必要とせず、今の海外旅行程度の手続きや体への負担で、宇宙空間に滞在して地上に帰還するという技術が、いろいろな企業によって開発されつつあるのです。何人かの民間人が大金を使ってロシアのソユーズで宇宙に行った例はありますが、まだ気軽に民間人が宇宙旅行をする時代は到来してはいません。
そんな中、2004年に民間による宇宙船開発に対する賞金制度Xプライズを獲得した有人宇宙船「スペースシップワン」の快挙が喝采を浴びました。その後を継いだ「スペースシップツー」は、2018年から2019年にかけて有人飛行で高度60キロメートルを突破し、宇宙旅行への道を切り拓きました。
さらにスペースX社の宇宙飛行船「クルードラゴン」は、2019年3月に国際宇宙ステーションヘの飛行・ドッキングに成功し、地球に帰還しました。後を追うボーイング社の有人宇宙船「スターライナー」とともに、米国の自力による有人輸送も完全に復活する勢いを見せており、有人飛行の新時代到来の幕が開かれました。
いくつもの企業がロケットの開発を志向する一方で、こうした企業と組んで、個人の宇宙旅行の受付が開始されたり、宇宙結婚式や宇宙葬の企画などが具体的に登場したりするようになりました。
[宇宙探査機とロケット-5]「はやぶさ」から「はやぶさ2」へ
2003年に鹿児島・内之浦からM‐Vロケットで打ち上げられたJAXAの「はやぶさ」が、60億キロメートルの宇宙の旅を終えて、2010年、地球に帰還しました。日本が独自の発想で開発したイオンエンジンを推進力として飛行を続け、3億キロ彼方で、長さ540メートルという小さな小惑星イトカワに着地し、その表面からサンプルを採取して、帰って来たのです。
「はやぶさ」が持ち帰ったカプセルから見つかったたくさんの微粒子の分析から、太陽系の昔の様子を知る貴重なヒントが得られました。
2014年にはその後継機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウをめざし、2016年にはアメリカの「オシリスーレックス」も小惑星ベンヌをめざして、サンプルリターンに旅立ち、すでに到着しています。両機ともに、惑星間飛行におけるイオンエンジンの有効性を際立たせました。
「はやぶさ2」は、2019年2月22日、岩だらけで着陸が困難と見られたリュウグウに、直径6メートルのわずかな隙間を狙って1回目のピンポイント着陸をなしとげ、サンプルを採取しました。そして、7月11日、2回目のサンプル回収も成功して、現在は地球への帰還途上です。これらは歴史に刻まれる見事なオペレーションでした。そのサンプルを計画通り2020年末に地球に持ち帰ることができれば、生命の起源にかかわる情報をさらに豊富に提供してくれると期待されます。
人間が宇宙に進出するということは、決して行きっぱなしではありません。故郷の星、地球は私たちの活動拠点ですが、どんなに遠くへ出かけても、またどんなにさまざまな危機にでくわしても、この地球へ帰れるということを、これらの探査機とロケット技術が見事に証明してくれることでしょう。「はやぶさ」と「はやぶさ2」によって、人類は「地球周辺の宇宙往還時代」から「太陽系往還時代」へ跳躍したのです。
以上、今回で“おもしろいロケットの科学”を終了いたします。次回からの“NeoMag通信”は新しいテーマで皆様にお届けしたいと思います。
<お知らせ>
JAXA(宇宙開発研究機構)では2019度 宇宙探査オープンイノベーションフォーラムを東京、大阪、仙台で開催するそうです。2月7日(金)東京会場 丸ビルホール、2月25日(火)大阪会場 グランフロント大阪北館タワーC8階、3月18日(水)仙台会場 メトロポリタン仙台となっていて、事前登録はhttp://www.ihub-tansa.jaxa.jp/FTOS2019.htmlとなっています。
<参考・引用資料>
「NASAホームページ」
「JAXA・宇宙情報センター」ホームページ
「Wikipedia」
「宇宙の謎・宇宙開発の歴史」ホームページ
「トコトンやさしい宇宙ロケットの本」日刊工業新聞社