本稿の「地球温暖化と温室効果ガスの検証」の先月号までの検証結果では、20世紀に入ってからの地球温暖化傾向は否定できないとして、その上昇幅は今日まで最大1℃程度とご報告しました。そして以下のような結論になることをお伝えいたしました。
「種々の検証結果により、CO2要因説は疑問が多い。仮説を背景にCO2に特化した温暖化対策は無駄かもしれず、むしろ危険性をはらんでいるともいえる。したがって「現在の地球温暖化傾向」が未来の人類にとって致命的な脅威なのか、CO2以外の対策が必要なのか、あるいは自然にまかせても心配ないのかは、太陽活動、宇宙線、地殻変動、地磁気変動などの関連も科学的に幅広く検証し、それらの研究にも世界、国家レベルで目を向ける必要がある。」
・・・ということで今月からは“地球温暖化の原因”について、CO2以外の諸説を検証してゆきたいと思っています。様々な論文が発表されていますが、そのうちの有力と思われるものをできるだけまとめてご紹介いたします。
[地球温暖化の原因-1]太陽の熱量
<気温の周期変動>
地球表面の熱は、ごく一部のマグマ由来の地熱を除くとほぼ全部が太陽からのものです。太陽の輝度(強さ)は短期間で変わり続けるし、長い目では太陽と惑星群の位置関係が変わります。さらに、地球の公転軌道も一定ではありません。ですから、地球が受け取る熱も時間とともに変わってゆきます。
また、地球表面の7割を占める海には、水平方向の海流ばかりか、深さ方向の流れもあります。深層から浮上した冷水塊は表層を冷やします。その度合いが周期的に変わるため、人間活動と関係ない形で気温が変わることになります。
物理学者ニコラ・スカフェッタによると、地球・惑星レベルの出来事が生む気温変動の周期には、およその長さで10年、20年、60年、120年、900~1000年、2100~2500年があるといいます。以下、太陽と海水のふるまいが生む10年~数10年周期の自然変動だけをみることにします。
<太陽定数>
太陽が出しているエネルギーは、可視光線以外にも、赤外線、電磁波、荷電粒子などがあります。これら全てのエネルギーを太陽放射といい、地球上のほとんど全てのエネルギーの源になっています。
地球全体が太陽放射からもらっているエネルギーの量は、「太陽定数」で求めることができます。太陽定数は、大気表面の単位面積に垂直に入射する太陽の単位時間あたりのエネルギー量で表され、具体的には、1m2の紙を地球の大気の外に持っていって、太陽光に垂直に当てたときの、1秒間に受ける太陽のエネルギー量のことになりますが、人工衛星で測定したところ、太陽定数は約1.37kW/m2ということが分かりました。
この太陽定数に地球の断面積を掛けたものが、地球が受け取っている太陽放射の総エネルギー量になります。その値は毎秒1.75x1014kW(175兆kW≒42兆kcal)と計算されます。
しかしながら、次図のように太陽放射の全てが地表まで届くという訳ではないようで、そのうちの20%は、大気や雲に吸収され、さらに、大気や雲、地表面で反射して、30%は宇宙に戻っていきます。その結果、地表(海面を含む)に届くのは約50%であり、太陽放射の半分、おおよそ毎秒0.9x1014 kW(90兆kW≒21兆kcal)のエネルギー量ということになります。なお、地球が受け取るエネルギーの1/4(≒地表に届くエネルギーのうち約1/2)は海中に蓄積されるという報告もあります。
一方、「太陽定数」は、定数として扱われていますが、実は定数ではなく、太陽黒点の活動の変化などでも変化し、ほぼ0.1%の幅で変動しています。特に太陽フレア発生時には、その数倍の変動があるようです。
太陽活動の活発期には太陽黒点が増えます。普通で考えると周囲よりも温度の低い太陽黒点が多くなれば太陽の輝度が低下して、地球への日射量が減るように思えますが、実際に、太陽黒点の生成により0.05%の光度の減少が見られるようです。その一方、黒点生成に伴って作られる白斑が光度を0.15%ほど増加させますので、合計すると、太陽活動の極大期に0.1%の光度の上昇が観測されることになります。
<太陽の黒点と熱量変化>
太陽表面に見える黒点の数は、約11年周期でゼロと数10~200個の間を行き来します。全太陽放射照度の測定により、黒点がゼロのときに比べ、最大数のときに地球が受け取る熱は0.1%ほど多くなります。受け取る熱の大小で変わる温度は、摂氏ではなくK(ケルビン)単位の絶対温度で考えます(0℃=273Kの関係があり、温度差なら1Kと1℃は等しい)。
地球表面の絶対温度はざっと300Kなので、太陽からの熱が0.1%だけ変われば0.3Kほど動く。はっきり体感できる変化ではないものの、100年で1℃上昇といわれる温暖化のうちなら0.3K=0.3℃はかなり大きいことになります。
黒点数の変動サイクルは、1755年に増え始めたものを「サイクル1」と決めて表します。2020年の前半は、2009年に立ち上がったサイクル24の終末期ですから、次図のように黒点はゼロに近いといえます。
黒点の最大数はサイクルごとに変わりますが、数回の強いサイクルが続いたあと、数回の弱いサイクルが続くことが多いのです。いままでのところ、サイクル2~4、8~11、18~22が強かったのがわかります。
数10年に及ぶ「強いサイクル群」からの熱は海水が受け取って深みにも貯まり、海水に接した空気を積算効果で暖めるでしょう。反対に、弱いサイクルがいくつか続く数10年間なら、海水が熱をゆっくりと失って気温も下がる筈です。
次図はサイクル1以前の黒点数も含めた400年間の黒点数を示したグラフです。黒点数がほぼゼロだった1645~1715年の70年間(マウンダー極小期)も、最大黒点数が50以下だったサイクル5と6(1790~1820年)の30年間(ドルトン極小期)も、世界各地が寒かった小氷期にあたります。
400年間の黒点数や1977年を起点とするサイクル1~24の黒点数をみると、減少の様子は、ドルトン極小期へと向かう時期に似ているため、まもなく現在の温暖化がピークアウトして「次の小氷期」がくると予測する研究者も多いのです。また、次のサイクル25はサイクル24と同等か図のように極端に弱くなるという予想もあります。
特筆すべきことは、ピークの大小があるにせよ、太陽黒点は1940年頃から現在に至るまで、ここ1150年間で最も活動的であることが示されています。さらに、現在から過去80年間の太陽活動レベルは例外的に高く、別の太古から11400年間の炭素14の測定報告では、同程度の規模での活動は8000年以上前に遡るものです。
以上の検証より、目先の黒点数は減っていますので、これからの太陽活動がどうなるかはわかりませんが、長い地球の歴史をみると、8000年以上前の時代と同じように、20世紀以降の太陽活動は極めて活発な時代であって、太陽から到達するエネルギーが増大していたことは間違いありません。したがって、海洋などの中のそのエネルギーの蓄積の影響が現在まで続いていることは十分考えられます。太陽活動の評価にはさらに種々の変数があるはずであり、簡単には結論はでませんが、地球温暖化に対する太陽熱量説はあらためて真剣な議論に値するかもしれません。
[地球温暖化の原因-2]海水温
太陽定数の項でお話をしましたように、太陽からのエネルギーの約50%が地表に届きますが、実はそのうちの1/2が海水に蓄積されます。したがって、太陽活動に関係する海水温の変化は地球上の気温にとって無視できない重要な要素となります。
<AMOとPDO>
海水が水平方向と垂直方向の両方で見せる動きは、表層水温の周期的な変化を生み、海水に接した空気の温度を変えます。そうした現象が20世紀の末ごろに確かめられました。表層水温の振動(周期変化)には、おもに次の二つがあるといわれています。
・大西洋の数10年規模振動(AMO)
・太平洋の10年規模振動(PDO)
北大西洋で起きやすいAMOは周期30~80年を示し、振動のありさまをAMO指数で表します。1856年から2016年までのAMO指数は次図のように変わってきました。
グリーンランドの大西洋岸にタシーラクという町があります。アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙科学研究所(GISS)のサイトに見つかる同地の気温は、次図のような変動を示しています。北緯65度台の北極圏なので、120年間に変わってきた年平均気温の幅は、米国本土ならほぼ1℃のところ、最高値と最低値の差が3℃に近くなっています。
タシーラクは人口わずか2000人の田舎町なので、都市化の影響はほとんどないでしょう。前々図と前図を突き合わせてみれば、同地の気温推移は、おもにAMO(海水温の変化)が決める自然変動だったと考えてもおかしくありません。
不思議なことにGISSは、気温サイトにタシーラクのデータを載せながら、世界気温グラフの素材にはしていません。観測期間が十分に長く、都心化をほぼ無視できる理想的な場所の気温データをなぜ無視しているのでしょうか?
AMOと並ぶ太平洋のPDOには、周期ほぼ10年の振動がさらに「うねって」つづく結果、やはり50~60年の周期も浮かび上がります。AMOとPDOの協調作用が、地球の気温をおよそ60年の周期で上下させ、次のパターンを生むといわれています。
・気温上昇期 1850→1880年、1910→1940年、1970→2000年
・気温下降期 1880→1910年、1940→1970年、2000年以降(?)
過去の章で何回も出てきていますIPCCによる次図を眺め直せば、そのパターンが見て取れます。こうした自然変動に加え、とりわけ1940年以降は、都市化とデータ加工、人為的CO2の三つが効いて、次図のパターンができ上がったと考えられます。
ちなみに1910~1940年の温暖化時代(200年で約1.5℃上昇の勢いには、北極海の気温が大きく上がって海氷が減り、砕氷装備のない船も楽に航行できたという米国の新聞記事がいくつか残っています。
また、地球寒冷化か騒がれた1970年代から1980年代初めにかけては、日本だけで20冊近い寒冷化警告本が出ています。米国でも「寒冷化の恐怖」が科学界と政界を揺さぶっていました。
<エルニーニョとラニーニャ>
太平洋には、表層水温が示す約10年や数10年周期の振動に加え、エルニーニョ、ラニーニャという特別な水温変動があります。エルニーニョはスペイン語で神の子(キリスト)を表し、ラニーニャはその女性形となっています。
南米チリ沖合の深海では、冷たいフンボルト海流が南極海からゆっくりと北上します。赤道あたりで浮上した冷水塊が、貿易風に押されて西のほうへ向かい、太平洋の中央部を冷やします。貿易風の勢いは弱まったり強まったりし、弱まったときは冷水が浮上しにくくなって表層水温が上がります(キリストの祭=クリスマスのころに起きやすいエルニーニョ)。反対に貿易風が強まると、気流に「吸い出された」冷水塊が表層水温を下げます(ラニーニャ)。
エルニーニョとラニーニャはほぼ交互に繰り返し、1951~2017年の67年間に強弱あわせて17のペアが発生しました(平均周期4年)。そのうち、1997・1998年のエルニーニョは20世紀のうち最強で、世界各地に高温をもたらしています。また、2015・2016にも強いエルニーニョが発生し、2015年12月の北半球を大暖冬にしました。これら両方のピークは次図ではっきり確認できます。強いエルニーニョは、その後しばらく太平洋の表層水温を高く保つため、発生したあとに気温のほうも高止まりさせやすいのです。
以上のように、海水温度の変化やエルニーニョ・ラニーニャの発生が地球温暖化に与える影響も無視できないのではないでしょうか。もちろん、その大元は太陽エネルギーかもしれませんが、少なくとも20世紀以降に増加し始めたCO2による影響とは考えられません。
このように地球の気温は、CO2と関係ない太陽活動や海水などの自然要因で変動します。IPCCCの気温グラフが過去の自然変動をどれほど含むのかはまだわからないまま、「温暖化はCO2要因によるものであり、このままでは永久に気温が上がり続ける」などと断定することは危険この上ないのではないかと思われます。
次回も地球温暖化、地球の気候に影響を与えるCO2以外の原因についての続編をお伝えいたします。
<参考・引用資料>
「地球温暖化狂騒曲・社会を壊す空騒ぎ」渡辺 正(著)、丸善出版
「二酸化炭素は本当に地球温暖化の原因か?」ブログ 井上雅夫
「地球温暖化 ほぼすべての質問に答えます!」明日香壽川、岩波書店
「不都合な真実 」アル・ゴア(著)、枝廣 淳子(訳)、 実業之日本社文庫
「地球温暖化の不都合な真実」マーク・モラノ(著)、渡邊 正(訳)、日本評論社
「地球温暖化・CO2犯人説は世紀の大ウソ」丸山茂徳、戎崎俊一、川島博之ほか、宝島社
「科学者の9割は『地球温暖化』CO2犯人説はウソだと知っている」丸山茂徳、宝島社
「気象庁」ホームページ/ 各種データ・資料
「日本の気候の長期変動と都市化」2010年度日本気象学会賞受賞記念講演 藤部文昭
「論文:地球温暖化の太陽活動原因説」松田卓也、あすとろん第3号(NPO花山星空ネットワーク)、「RealCrazyClimate」ホームページ
「ココが知りたい地球温暖化・・Q9水蒸気の温室効果」地球環境研究センターホームページ
「地球温暖化懐疑論者たち」さくらのレンタルサーバ
「宇宙カフェ・カムサビア」
「Unusual activity of the Sun during recent decades compared to the previous 11,000 years」Usoskin et al. letters to nature(2004)
「中世の温暖期と近世の小氷期における太陽活動と気候変動」宮原ひろ子 東京大学宇宙線研究所HP
「Global Warming」Roy Spencer ブログ