前回は次世代自動車といわれているHV、PHEV、EV、FCV などについて、各車種の仕組み、特徴などをご報告しました。今回はそれらの歴史、生産された具体的な車種、諸元概要などについて調べてみました。
まず、世界の次世代自動車として電気自動車(EV)の歴史をみてみましょう。ただし、19世紀の古い歴史については諸説があるようですが、ここでは代表的な説から抜粋してみました。
なお、1930年以降については、日本で発表、発売された車種を中心にお話をさせていただきます。
■1769年: | フランスの二コラ=ジョゼフ・キュニョーが蒸気機関式自動車を発明。 |
■1801年: | イギリスで原動機は蒸気機関であり、燃料は石炭の実用自動車が製造される。 |
■1800年: | イタリアのアレッサンドロ・ボルタがボルタ電池を発明。 |
■1821年: | イギリスのマイケル・ファラデーが世界で初めて電動機(モーター)の原理を考案。 |
■1832年: | スコットランドのロバート・アンダーソンがモーターを製造し、世界で初めてと言われる簡易な電気自動車を発明。 |
■1842年: | アメリカのトーマス・ダベンポートが道路を走れる実用的な電気自動車を発明。 |
■1859年: | フランスのガストン・プランテが鉛蓄電池を発明。 |
■1873年: | イギリスのロバート・ダビットソンが、鉄亜鉛電池(一次電池)を使用した、実用電気自動車の開発に成功。 |
■1881年: | フランスのアミーユ・フォーレが鉛蓄電池を改良し、充電式電気自動車の実用化に成功 |
■1885年: | ドイツのゴッドリーグ・ダイムラーとカールーベンツがガソリン車を発明。 |
■1899年: | フランスで作られたEV、ジャメ・コンタント号が、時速100km 超える記録をガソリン車より先に達成。 |
■1900年: | アメリカの自動車生産台数は約4,000台に達し、そのうちの40%を電気自動車が占める。 |
■1908年: | アメリカのフォード・モーター社がガソリン車「Ford Model T」の量産を開始。流れ作業方式で大幅なコストダウンが可能に。また、アメリカ、中東で大油田が発見され、石油価格下落でガソリン車の大ブームが始まる。 |
■1909年: | トマス・エジソンがニッケル・アルカリ蓄電池を開発、その蓄電池を搭載した電気自動車を製造。当時、鉛電池搭載の電気自動車は走行距離が80km 程度だったが、エジソンの電気自動車は、1回の充電で160kmを走行可能で画期的だった。 |
■1934年: | 日本電気自動車製造が設立され、小型車・「デンカ号」の製造が開始される。 |
■1937年: | 中島製作所と湯浅電池が、商工省より助成を受けて、新設計の電気自動車を制作。 この「中島電気自動車」は、国内各地および満州、台湾ほかでも使用された。 |
■1947年: | 「たま電気自動車」が戦前の立川飛行機から派生した「東京電気自動車」(のちのプリンス自動車工業)により製造販売。 |
■1949年: | 1940年代後期の日本は、第二次世界大戦終戦直後のガソリン不足で、電気自動車の生産が増加した。日本の電気自動車普及台数は、1949年に全国の自動車保有台数の3%にあたる3299台になった。 |
■1955年: | 内燃機関自動車の改良や、ガソリンスタンドの普及などにより電気自動車は衰退していった。道路運送車両法から電気自動車の項目が削除され、電気自動車は街頭から姿を消した。 |
■1965年: | 自動車の排気ガスによる大気汚染が問題になり、新たに電気自動車の研究が始まった。 |
■1971年: | 環境省が発足し、自動車・電機・電池メーカーが参加した通産省工業技術院による大型プロジェクト制度開始。 |
■1980年代: | 1980年以降、内燃機関自動車の排出ガス浄化技術の進歩で、電気自動車が再度衰退。 |
■1990年: | 都市環境問題が社会問題化し、自動車メーカー各社に、地域内の販売台数のうち一定割合の自動車を「無排出ガス化」することを義務づける「ZEV(Zero Emission Vehicle)法案」が、アメリカ・カリフォルニア州で制定。各自動車メーカーの電気自動車の開発が再開。 |
■1991年: | 日本のメーカーにより、リチウムイオン二次電池が初めて商品化。開発者の一人である吉野彰氏は2019年にノーベル化学賞を受賞。同年、ニッケル水素二次電池(Ni-MH)の量産開始。 |
■1996年: | アメリカ・カリフォルニア州のZEV法が改定され、2003年から10%のZEV(無排出ガス車)販売が義務付けされた。この年、GMが「EV-1」のリース販売を開始。 |
1996年のこの年、トヨタ自動車が「RAV4L V EV」(ニッケル水素電池搭載)の販売を開始、その翌年の1997年には、本田技研工業が「EV PLUS」(ニッケル水素電池搭載)を、日産自動車が「プレーリージョイEV」(リチウムイオン電池搭載)の販売を開始。これら高性能電気自動車は「第2世代電気自動車」と呼ばれた。
■1997年: | 1997年12月、「第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)」が開催され、いわゆる「京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)」が採択された。 同年、トヨタ自動車が、世界に先駆けハイブリッド自動車(HV)「プリウス」(ニッケル水素電池搭載)を発表・販売を開始。 |
電動機:永久磁石型同期
電池:ニッケル水素 価格:218万円
電動機:永久磁石型同期
電池:ニッケル水素 価格:218万円
■1999年: | 第2世代電気自動車の価格低減を目指し、短距離走行用途に限定した2人乗りの超小型電気自動車、日産「ハイパーミニ」(リチウムイオン電池搭載)、トヨタ「e-com」(ニッケル水素電池搭載)が登場。GMの2代目EV-1もニッケル水素電池を搭載して登場。 |
■2002年: | 各種原料からの水素製造方法、FCV(燃料電池自動車)の性能、環境特性、エネルギー総合効率や安全性などの基礎データを収集のための水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)開始。 |
■2003年: | トヨタがニッケル水素電池搭載HV「2代目プリウス」を12月に販売開始。 |
■2009年: | トヨタがニッケル水素電池搭載HV「3代目プリウス」を5月に販売開始。また、EV・PHVの本格的な市場投入が次々と開始。EVでは、三菱自動車の「i-MiEV」、富士重工業の「スバルプラグイン ステラ」の販売開始。これらEVには急速充電システムが搭載され、これに対応した急速充電器も発売開始。特に「i-MiEV」は、本格的な市場投入車となった。 一方トヨタ自動車は、2007年から日米欧で公道走行試験を実施してきていた「プリウス プラグインハイブリッド」の限定リース販売をこの年に開始。 |
■2010年: | 日産自動車の本格的な市場投入電気自動車、「リーフ」の販売開始。 テスラは「テスラ・ロードスター」を市場投入した。航続距離は240マイル(約386キロメートル)を超えたが、価格は10万ドルを上回った。 |
■2012年: | この年はさらに多くの電気自動車が発表された。 |
■2014年: | 燃料電池自動車(FCV)の「MIRAI」がトヨタ自動車から発表される。その後、2016年には本田技研工業がFCV「CLARITY FUEL CELL」を発表。 |
燃料電池:固体高分子形・114kW
航続距離:約650km(JC08モード)
電動機:永久磁石型同期
燃料電池:固体高分子形・114kW
航続距離:約650km(JC08モード)
電動機:永久磁石型同期
燃料電池:固体高分子形、103kW
航続距離:約750km(JC08モード)
電動機:永久磁石型同期
燃料電池:固体高分子形、103kW
航続距離:約750km(JC08モード)
電動機:永久磁石型同期
■2015年: | BMWのEV「BMWi3」発表。トヨタ、HV「4代目新型プリウス」を発売。 |
■2016年: | 同年10月、GMはEV「シボレー・ボルト」を発売。航続距離は320km以上。 |
■2017年: | プリウスPHVがモデルチェンジ。同年、日産リーフもモデルチェンジ。 フォルクスワーゲンがEV「e-Golf」発売。 |
■2018年: | ホンダがPHEV「CLARITY PHEV」を発表。 |
■2019年: | 1月、日産がEV「リーフe+」を販売開始。航続距離が458km(WLTCモード)大幅にアップ。EV「テスラ・モデル3」が5月に発売。航続距離は400km以上。 また、同年7月メルセデス・ベンツがEV「EQC」を発表。 |
■2020年: | トヨタ自動車が「RAV4 PHV」、「レクサスUX30Oe」、FCV「新型MIRAI」航続距離850km発表。 三菱自動車が「エクリプスクロスPHEV」、本田技研工業がEV「Honda e」を発売。 日産自動車が11月、シリーズ型HVの「新型ノートe-POWER」を発表。12月販売を開始。 |
■2021年: | 4月、メルセデス・ベンツがEV「EQA」を国内発売。5月、マツダがEV「MX-30」を発売。 |
(注)PHVは主にトヨタの車種の呼称であり、その他の自動車メーカーはPHEVとしている。
以上、「次世代自動車の歴史」と「生産された主な車種」について勉強してみました。最近の次世代自動車各車種の諸元をみると、動力モーターのすべてが永久磁石型同期モーター(IPMモーター)となっていますが、実はこの永久磁石がネオジム磁石なのです。さらに一部のHV車を除いてほとんどのバッテリーはリチウムイオン電池となっています。欧州や中国の次世代自動車のモーター、バッテリーも同様です。したがって、前回お話しましたように、次世代自動車の生産拡大によって、モーター用の希土類金属・ネオジムやバッテリー正極材のリチウムとコバルトの需要が急増している理由がここにあるのです。
今回は国内の次世代自動車を中心としたお話となりましたが、近年の欧州を中心とした次世代自動車の動きは、EV、PHEVに急速にシフトしつつあり、販売量ではまだHVが中心の国内とは少し異なる状況のようです。次回は、欧州の最近の次世代自動車について、詳細に調べてみたいと思います。
<参考・引用資料>
「図解EV革命」村沢義久 著 毎日新聞出版版
「最強自動車メーカーはどっちだ?テスラVS.トヨタ」週刊東洋経済2020年10/10号
「自動車メーカー各社・ホームページおよびカタログ」
「次世代自動車の基礎知識」一般社団法人次世代自動車振興センター
「HV・PHEV・PHV・FCV・EV・BEV・HEV とは?カーライフ別おすすめのエコカー選び」MOBY
https://car-moby.jp/article/car-life/useful-information/hv-phev-phv-fcv-ev-bev-hev/
「100年前のEV「ジャメ・コンタント」の話」Tech Village