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次世代自動車の検証(10)<EVのモーター(1)>

今月からは「EVのモーター」についてのお話にしたいと思います。主に“駆動モーター”のお話になりますが、EVにとってはこのモーターの性能はバッテリーと同様、重要な生命線となります。

なお、EVモーターの基礎技術からスタートしますので、弊社のマグネットをお使いいただいていますモーター技術者の皆様には“釈迦に説法”となってしまいますが、ご容赦いただきたいと存じます。

また、モーターの原理、産業用、民生用モーター全般については、NeoMag通信のバックナンバー「モーターの基礎と永久磁石シリーズ」で詳細に記述していますので、こちらも参考にしてください。

(注)本稿では引き続き、国内の刊行物、ウェブ情報などの採用頻度からハイブリッド車はHV、プラグインハイブリッド車はPHEV(トヨタはPHV)、純電気自動車はEVと記述いたします。
 また、自動車の構成部品としての二次電池全体を「バッテリー」と呼び、種類別の二次電池の説明は「・・・電池」と記述させていただきます。

[EVのモーター(1)-1]電動車モーターの変遷
<直流モーターから交流モーターに転換>

電流には直流と交流がありますが、モーターも大きく分けると直流モーターと交流モーターに分かれます。電気自動車には、その発祥からずっと直流モーターが採用されてきました。交流モーターが使われるようになったのは「プリウス」の登場が象徴するように1990年代後半からといっていいでしょう。それまで交流モーターが使われなかったのは、回転数を細かく制御しながら使うのに向いていなかったからです。直流モーターなら電圧の高低で回転数が制御できますが、交流モーターではそれだけでなく周波数も制御しなければ回転数は意図するどおりに制御できません。そのため駆動モーターとして交流モーターが使えなかったといえます。

なお、直流モーターは、既存のエンジン車のエンジンをモーターに載せ換えた手作りのEV、いわゆるコンバートEVでは使われていますが、これも交流モーターに置き換わる傾向にあります。ただ、ゴルフ場のカートや電動車いすなどのような小さな電動車両ではまだ直流モーターも使われています。

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たま電気自動車(1947年)
(直流モーター)
ゴルフカート(現在)
(直流モーター)
初代プリウス(1997年)
(交流同期モーター)

自動車に搭載するには、エンジンと同等に緻密な制御ができることが条件となります。その難しい周波数制御が、IC技術の発達でインバーターが登場して、周波数は自在に制御できるようになりました。それまでは水汲みポンプや電気カミソリなど回転数の変化が不要な機器でしか使えなかった交流モーターが、インバーターの登場で使えるようになったわけです。このインバーターによるモーターの制御は鉄道で先行して発達し、自動車はその応用から始まったといえます。なお自動車の駆動用として交流同期モーターを使うのは、出力密度が高く同じ出力を出すのに軽くて小さくできるからです。定置用のモーターでは大きさや重さはシビアではありませんが、クルマ用としては重要な要素です。

 

したがって、現在量産されているEVやHVに使われているモーターはほとんどすべてが交流モーターであり、そのなかでも交流同期モーターが主流です。しかし、10年前に発売された米国テスラ社のEV、“初代モデルS”や最近では、アウディ社のEV、“e-tron”は、交流非同期誘導モーターを搭載しています。なお、モデルSはその後、交流同期モーター(IPMモーター)に代わっています。

<モーターの種類・分類>

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<各種モーターの特性比較>

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近年の実用電動車の駆動モーターのほとんどが交流モーターになっていますから、以降の本稿では交流モーターについて絞ってお話をすることにいたします。

交流モーターは、誘導モーター(IM:インダクションモーター)と同期モーター(SM:シンクロナスモーター)の2つに大きく分かれます。同じ交流電流を使い回転界磁を形成することでは同じですが、回転の仕組みが大きく異なります。

[EVのモーター(1)-2]交流非同期誘導モーター
<誘導モーターの原理>

誘導モーターの原理は、アラゴの円板そのものです。回転する磁界とうず電流との間に発生する力が、モーターを回転させるトルクを発生します。アラゴの円板では磁石を回転させて回転する磁界を作りましたが、誘導モーターではコイルを用いて行います。また、回転する磁界を発生するコイルを外側に配置し、うず電流を発生する導体を内側に備えます。すると、内側の導体がうず電流と磁界の作用によって回転します。したがって、誘導モーターでは永久磁石を使いません。

誘導モーターは、外側の鉄心(固定子・ステーター)に設けたスロットにコイルを埋め込んで、磁界を発生できるようにしています。このコイルは3相交流を加えることによって回転磁界を発生するように、3相配線(Δ結線またはY結線)します。そして、内側の回転する部分(回転子・ローター)には、うず電流が流れる導体として、銅やアルミニウムのような金属をかご状に組んで用いる場合「かご型回転子」と、コイルを用いる場合「巻き線型回転子」があります。

 

次図では、発生磁界の向きを120°ずらして配置した3種のコイルに3相交流を流すと順に励磁して回転磁界を作り出す様子を示しています。コイルに3相交流を流しますと、1周期の間に回転磁界は1回転します。つまり、回転磁界の回転速度は、加えている3相交流と同じ周波数になるということです。また、発生した回転磁界(合成磁界H=ha+hb+hc)は常に一定の大きさの磁界で回転します。

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誘導モーターの回転する原理

<かご型誘導モーター>

EVの誘導モーターでは今のところ巻き線型はありませんので、かご型のみについて説明いたします。ローターはかご型形回転子とも呼ばれるとおり、導体のローターバーとエンドリングでかご型が構成されています。ローターバーは回転を滑らかにするため、少しねじったように斜めになっています。その内部には磁束密度を高めるため、通常は積層鉄板(珪素鋼板)の鉄心が入っています。ローターが重くなるので加減速の応答性は悪くなりますが、回転はスムーズになります。ステーターはコイルと鉄心で構成されています。誘導モーターは効率が高く、大出力にも対応可能で堅牢、保守性に優れています。

構造は次図もようにローターの軸方向に沿って埋め込んだ複数の導体の両端をすべて短絡した「かご型構造」の回転子を持ったモーターです。

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誘導モーターの構造

回転原理は次のとおりです。ステーターの回転磁界により、ローターバーに渦流が流れ、その渦電流の向きと磁界が作用してローターにフレミングの左手の法則に従った力が発生し、回転を始めます。このときローターの回転は回転磁界の回転より必ず少し遅れます。この遅れを「すべり」といいますが、実はこの遅れが回転力を生んでいるのです。すべりにより回転磁界がローターバーに渦電流を発生させるわけです。

 

ローターの回転速度をNr、磁界の回転速度(同期速度)をNsとすると、“すべりS=(Ns-Nr)/Ns”ですから、すべりは0より大きく1より小さい範囲にあります。無負荷の回転ではすべりは0に近い値になり、負荷が増すとすべりも増していきます。誘導モーターのトルクは電磁力ですから電流と磁界の磁束密度に比例します。またすべりにも比例します。通常最大トルクはすべりが0.3あたりで得られます。

誘導モーターに電圧をかけると、負荷よりも始動トルクのほうが大きければそのトルク差で回転を始めます。この始動時の電流が最も大きく、回転が上がるにつれて電流は小さくなっていきます。また、回転が上がるにつれすべりは小さくなり、トルクは大きくなっていきます。やがて最大トルクを迎え、その後トルクは減少していきます。実際には負荷トルクと釣り合うトルクを発生するすべりで回転を続けることになります。

 

<誘導モーターをEVに採用したアウディの狙い>

2018年新型EV・e-tronに誘導モーター(前輪1基、後輪2基)を導入したアウディの狙いは、第1に「ネオジム磁石を使わない誘導モーターであれば、中国の政策に左右されることなくモーター材料を調達できる」、加えて、「高価なネオジム磁石を使わないため安くなる」ということでした。

さらに、「停止中の損失が永久磁石式モーターに比べて小さい」点にも目を付けました。走行中、3基の誘導モーター全てを常に駆動するわけではないからです。例えば低速の定常走行のように必要なトルクが小さいとき、後ろの2基は停止します。永久磁石式モーターではローターに備えた磁石の磁力が常に発生し、動作停止中に車輪が回転してモーターが回ると、磁力が抵抗になります。誘導モーターでは動作停止中の抵抗がはるかに小さいのです。

一方、誘導モーターの効率やトルクは、永久磁石式モーターに比べて低い課題があります。アウディは、ローターの鉄損(コアに発生する渦電流による損失)やステーターに使うコイルの巻線抵抗による銅損などを抑える工夫を凝らしたり、高出力時の発熱に対する新冷却システムを組み込んだりして、十分な水準の効率と高出力密度にしました。

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アウディ・e-tron EVの誘導モーター

誘導モーターの特徴は効率が高く、大出力にも対応できることです。またかご形であれば構造もシンプルで堅牢、保守性も良好とされています。アウディのように、レアアースを使わないモーターとして、再度誘導モーターを見直し、EVに採用する他のメーカーも出てくるかもしれません。

[EVのモーター(1)-3]交流同期モーター
<回転磁界とローターの回転速度が同期している>

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交流同期モーターは、ステーターがつくる回転磁界とローターが同じ回転数で回っています。回転磁界とローター回転速度が同期していることから、同期モーターと呼ばれています。

現在の市販EVの駆動用モーターの多くがこの交流同期モーターであるといってもいいでしょう。ステーターの回転磁界は誘導モーターと基本的に同じ構造ですが、ローターには永久磁石が使われている「永久磁石界磁型」が多いのですが、日産の最新EV・アリアやルノー・Zoeは「巻き線界磁型」を採用しています。どちらにしてもローターのS極とN極、回転磁界のS極とN極が互いに引き合い、反発して、結果的にローターが回転磁界に追随して回転しています。

そのほかに、「リラクタンス型」、「ヒステリシス型」などがありますが、最近の「永久磁石界磁型」のほとんどは“リラクタンス”を併用している「リラクタンス併用型」といってもいいでしょう。交流同期モーターのローター構造の違いによる分類は以下のようになります。

(a) 巻き線界磁型 電磁石(巻線/コイル)によって磁極を構成した回転子で、コイルに流れる電流(界磁電流)を調整して力率を制御できるものです。
(b) 永久磁石界磁型 永久磁石を利用した回転子で、構造が簡単で小型のモーターに利用されます。
(c) リラクタンス型 回転子に磁石を使わず、鉄心だけで構成されるものです。
(d) ヒステリシス型 ヒステリシス特性を有する材質を回転子に使った構造です。

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巻き線界磁型

永久磁石界磁型

リラクタンス型

ヒステリシス型

<巻き線界磁型同期モーターをEVに採用した日産・アリア>

巻き線界磁型同期モーター(EESM)では、ローターが永久磁石の代わりに電磁石で界磁磁束を作るので、その分必要電力が増加します。また回転するローターに外部から電力供給するためにブラシが必要になり摩耗への配慮も必要になります。モーターも大きく重くなるなど種々課題があり、電気自動車には向いていないように考えられてきました。

一方では、優れている点もありますから、最近ではこれが見直されてきています。

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巻き線界磁型同期モーター

日産・アリアのローター巻線工程

どういうことかというと、永久磁石と異なり、界磁磁束の大きさの調整ができるので、ゼロから最大まで、運転状態に応じて界磁磁束を最適に制御可能なので、永久磁石界磁型の欠点である無負荷連れ回りや高速回転での弱め界磁制御などによる低効率化を防げるということです。

次図の右下の赤い線よりも下側の領域が、巻き線界磁式同期モーターが、永久磁石同期モーターよりも効率で勝っている領域です。これによれば、巻き線界磁式同期モーターは、中高速の低トルク域で、永久磁石同期モーターよりも効率が良いとの結果のようです。理屈どおりのイメージになっています。

EVの使い方で言えば、一般道である程度速度が乗った状態で速度を維持するためにアクセルを少し開けた運転や、高速道路での走行全般において、巻き線界磁式同期モーターの効率が勝るということのようです。ただし、低速でのゴーストップが多くアクセル開度の大きい街乗りでは、永久磁石モーターの方が効率面で優れています。

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IPMSMに対するEESMの効率差分マップ(明電舎)

以上のデータより、アリアはなぜ巻き線界磁式同期モーターを採用したのかわかってきました。つまり、運用の大半を占めると思われる市街地走行時の電費効率よりも、高速道路を使った長距離移動時の電費効率に主眼を置いた設計ということのようです。

確かに、自宅での継ぎ足し充電で十分まかなえる日頃の市街地運用よりも、充電が心配な高速長距離移動時の充電機会を最小化する点に軸足を置いた設計思想の方が現状の充電環境では合理的に思えます。

あるいは日本よりも、長距離高速移動の多い欧米向けの車両設計なのかもしれません。

さらにネオジム磁石のように資源問題があるレアアースを使わなくてすむことも大きなメリットであることはいうまでもありません。

 

なお、ローターのブラシの摩耗が心配されるところですが、日産によると「確かに原理上、摩耗はあるが、このモーターの搭載車両の常識的な活用範囲内においてその寿命が来ることはない」ということのようです。

<永久磁石界磁型同期モーター>

永久磁石のローターへの取り付け方には2つの方法があります。1つはローターの表面に貼り付ける「表面配置型」で、このモーターをSPM (Surface Permanent Magnet Motor)モーターといいます。

もう1つはローターの中に埋め込む「内部配置型」で、IPM (Interior Permanent Magnet Motor)モーターといいます。表面配置では高回転時に磁石がはがれてしまう危険性があることから、電動車の駆動用モーターではすべて内部配置型を採用しています。

 

内部配置型磁石同期モーターは永久磁石を空隙部(フラックスバリア)を持った電磁鋼板のローター内に埋め込みます。こうすると永久磁石によるトルクだけでなく、磁気抵抗の非対称性によるリラクタンストルクも利用でき、出力が大きくなり、効率も良くなります。これについては、来月の「リラクタンスモーター」の章でもお話をします。

永久磁石同期モーターは欠点もあります。モーターの回転数が上がると直流モーターと同様に逆起電力が大きくなって電流が流れにくくなります。モーターに加える電圧と逆起電力が等しくなる回転数で電流がゼロ、すなわちトルクもゼロになります。これを防ぐためには、“電池の電圧を昇圧”すると逆起電力に打ち勝ち電流がさらに流れますから、より高い回転数でモーターを回せます。ほかに界磁を弱めて逆起電力を抑制して回転数を広げる“弱め界磁制御”もよく使われています。

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各種形状磁石のSPMとIPMの例

現在、IPMの永久磁石にはネオジム磁石を使用する場合がほとんどですが、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースを使うため、潜在的に地政学的リスクや価格高騰のリスクがあります。したがって、レアアースを使わない永久磁石の研究開発も盛んに進められています。

なお、前項のアウディ・e-tronの「誘導モーター」や日産・アリアの「巻き線界磁型同期モーター」はこの永久磁石を使わないわけですから、必然的に“レアアースフリーのモーター”ということになります。

 

以上今回は、EVに採用されているモーターを中心に、モーターの種類とそれらの基本原理および実用化されているモーターの紹介などをさせていただきました。次回は、<EVのモーター(2)>として、今回お話ができなかった「リラクタンスモーター」、「リラクタンス型IPMモーター(IPMSynRM)」、「弱め界磁制御」、「モーターの冷却」などを予定しています。

 

<参考・引用資料>

「モーターの基礎と永久磁石シリーズ(1)~(10)」NeoMag通信バックナンバー

https://www.neomag.jp/mailmagazines/mailmag_index.html

「アウディ、次期EVに異例の誘導モーター 中国リスク回避」日経xTECH 2018/05/14

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/00451/?P=2

「2020 Audi e-tron | Electric Engine Explained ? specs」TopSpeed

https://www.youtube.com/watch?v=G3bHh8AMSYY

「日産アリアのモーターから設計思想を考察する」みんカラ おっさんくんのページ 2020/07/18

https://minkara.carview.co.jp/userid/3057595/blog/44190997/

「日本1わかりやすいスペック徹底解説(1):日産アリア」EVeryone 2020/05/11

https://ev-for-everyone.com/56

「電動車駆動用巻線界磁形同期電動機」明電時報 通巻367号 2020 No.2

https://www.meidensha.co.jp/rd/rd_01/rd_01_02/rd_01_02_22/rd_01_02_17_01/__icsFiles/afieldfile/2020/04/07/No367_09_web_200406.pdf

「世界初!:磁石のないモーターを搭載する日産アリアを生み出すNIF」YouTube 2021/10/13

https://www.youtube.com/watch?v=djcWCrFXQFs

「レアアースに依存しない永久磁石レスの新開発モーターの高効率製造」ITmedia NEWS 2021/11/05

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2111/05/news046_4.html

「電気自動車メカニズムの基礎知識」飯塚昭三 著 日刊工業新聞社

「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣 著 日刊工業新聞社