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地球科学と生命の誕生・進化(2)<宇宙からきた地球の水>

先月号は、本テーマの初回として、138億年前の“宇宙の誕生”から46億年前の“太陽と地球の誕生”までの宇宙科学史の概要をお話ししました。その中で、地球は、微惑星→原始惑星→固体惑星(地球)の順に衝突を繰り返しながら誕生したこともわかりました。

今月は、誕生した地球がその後どのように変貌していったか、また、地球上での生命誕生と進化に重要な鍵を握る「水と海」についてのお話になります。

なぜ地球上には水があるのか? どこから水が来たのか? 海はどうしてできたのか? などについて最新の話題や仮説をご紹介しながら皆様とご一緒に勉強していきたいと思います。

 

[宇宙からきた地球の水-1]地球の水は小惑星・隕石から

<炭素質小惑星・隕石起源モデル>

水の起源については、“惑星がどうやってできたか”、に関係しています。太陽から近いと温度が高いので、宇宙空間ではH2Oは水蒸気として存在し、惑星に取り込まれません。一方、遠い場所では氷となるので、岩石や金属の塵と一緒に惑星の一部となります。その太陽との距離の境目を「スノーライン」と言います。スノーラインより外側にある惑星は凍っています。太陽と地球間の平均距離を1AUとすると、スノーラインは太陽からおよそ2.7AUの位置にあります。惑星形成が行われていた頃、太陽系には岩石でできた微惑星がたくさんありました。微惑星の中でスノーラインの内側にあるものは乾燥していて、一方、スノーラインの外側のものは、氷に覆われていた、つまり水を持っていたと考えられます。

先月号でお話をしましたが、地球を含む「固体(岩石質)惑星」は、スノーラインの内側の微惑星・原始惑星の衝突で形成され、木星、土星などの「巨大ガス惑星」や天王星、海王星などの「氷の惑星」はスノーラインの外側の微惑星・原始惑星を元に形成されました。

 

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地球型惑星と木星型惑星の形成とスノーラインの関係

 

太陽系の惑星形成初期には、岩石質の原始地球には全く水はありませんでした。それが、木星が形成されると、その重力の影響で状況が全く変わりました。木星の重力攪乱のせいで、スノーラインからやや外側の「はやぶさ2」が探査した「リュウグウ」のような、表面の岩石の中に炭素、有機物、水などを多く含むと考えられている「C型小惑星」という微惑星や「炭素質コンドライト」という隕石が地球に降り注ぐようになったのです。こうして太陽から1AUぐらいの場所に、水を持った惑星が形成されました。これが地球です。

 

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地球の水は小惑星帯外側の氷隕石から

 

しかしながら、“このモデルだと地球型惑星の水が多くなりすぎるという問題”が指摘されていました。なぜなら、隕石の衝突の詳細なシミュレーションでわかったのは、今ある海水の30~70倍の水が地球にもたらされたということです。そこで次に、地球に運ばれてきた大量の水はどうなったのかを考えなければならなくなりました。

 

[宇宙からきた地球の水-2]地球に運ばれてきた水の行方

<地球コアへの水素(水)吸蔵モデル>

地球の中心部(コア)は主に鉄でできていますが、中心部の密度は純粋な鉄よりも低いのです。この「密度欠損」は硫黄、ケイ素など鉄より軽い元素がコアに取り込まれたことで生じたと考えられており、さらに、近年、超高圧・超高温下での実験により、水素の取り込みの可能性が論じ始められました。

その結果、東京工業大学を中心とした研究グループにより、2021年5月11日、国際科学雑誌(Nature Communications)およびプレスリリース上で、「誕生直後の地球では小天体の衝突によって大量の水がマグマの成分に取り込まれたが、表面が冷えたときに海を形成したのはそのうちごく一部で、9割以上は内部に残り、水素の形でコアに吸収された」という画期的な研究結果が発表されたのです。

 

***東京工業大学・プレスリリース(2021年5月)より***

◆本研究グループが世界をリードする超高圧高温実験と微小領域化学組成分析により、地球形成期の超高圧下(約50万気圧)でおきた、コア−溶融マントル間の水素の分配の決定に世界で初めて成功しました。その結果、当時地球に存在した水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことがわかりました。

◆地球コアには鉄・ニッケル以外の軽い元素が大量に含まれていることが知られていましたが、その軽元素の種類と量はこれまで謎とされていました。今回の成果により、水素がコアの主要な軽元素であることがわかりました。また地球のみならず、火星など地球の1/10以上の質量をもつ岩石型惑星においても、大量の水が水素としてコアに取り込まれた可能性が高いことがわかりました。

◆現在の海水の量やマントル中の水の量を説明するには、現在の海水のおよそ50倍に匹敵する量の水が原始地球に存在したと考えられます。今後、これを鍵として、地球の起源(特に材料物質や集積プロセス)の理解が進むと期待されます。

 

<地球の内部構造>

地球のコア(中心核)は固体金属でできた「内核」と液体金属でできた「外核」の2層構造で、さらに外側を岩石でできた「マントル」「地殻」が取り囲んでいます。ただし、マントルの中にはプレート境界付近でマントルの一部が溶融した状態の「マグマ」も存在しています。

コアがなぜできたかといいますと、地球形成時に地球のマントルが大規模に溶融し、「マグマオーシャン」に覆われていた中を金属鉄が中心部へと落下し、コアが形成されたとされています。

 

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原始地球の内部構造(東京大学大学院理学系研究科)

 

<地球の水の大半はまだコアの中に>

惑星形成が行われていた頃、火星サイズの小惑星が地球に衝突する出来事がありました。これを「ジャイアント・インパクト」といいます。ジャイアント・インパクトの後に地球の温度が上昇し、5,000~1万Kになっていたようです。これは、地球全体を溶かしてしまうほどの高温のため、マグマオーシャンが出現したのです。そして、そこに小惑星からの氷隕石が無数に降り注いだのです。

 

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マグマオーシャンに降り注ぐ氷隕石

 

もし、完全に溶けた状態の地球に、水が運ばれてきたらどうなるでしょうか。

次図は原始の大気、マグマオーシャン、地球のコアを示しました。マグマオーシャンの中には溶けた金属鉄が含まれていて、この金属鉄が地球の中心に落ち込んでいき、金属の核(コア)を形成しました。

 

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地球に運ばれた水の行方

 

ジャイアント・インパクトによって、水がどのように分配されたのか。水の行方を考えてみましょう。原始大気とマグマの海に、水はおよそ1対100の割合で分配されます。つまり、ほとんどの水がマグマの海に分配され、地球表面の原始大気に留まる水はほんのわずかです。ここで強調しておきたいのが、圧力がかかると、金属鉄が非常に水素を好むという性質です。金属鉄と水が存在すると、水は分解して水素と酸素になり、水素は金属鉄と結合して、「水素化鉄(FeH)」を形成します。水(水素)は、マグマと金属鉄におよそ1対20の割合で分配されます。まとめれば、原始大気とマグマオーシャンと金属の核とで、水の分配係数は1対100対2,000です。

つまり、化学反応が進む時間が十分あれば、地球に運ばれてきた水のほとんどが、水素の形で金属の核に分配されるのです。それほど金属鉄は水素化物を形成し易いのです。

また、マグマオーシャンには1/20の水が入っていたわけですから、金属核だけでなく、冷えたマントルにも水や水素が含まれていると考えられます。

 

<今後の展望と社会的意義> *東京工業大学・プレスリリースより抜粋

◆原始地球に運ばれてきたこれだけの水は、そのほとんどがコアに水素として取り込まれたため、地球の表層に海と陸が共存することになったのです。同じような「調整メカニズム」は、火星など、地球質量の1/10以上の質量を持つ地球以外の岩石惑星でも働いていたはずです。太陽系外惑星まで含めると、地球のような表層環境を持つ惑星は宇宙に数多く存在するのかもしれません。

 

◆さらに、今回コアの主要な軽元素が明らかになったことにより、コアの軽元素の全容解明が大きく近づきました。軽元素の種類と量が未だに不明であるため、コアの温度や物性も大きな不確定性があります。残る軽元素として有力とされる、硫黄、ケイ素、酸素、炭素のコア中の存在量を明らかにすることで、70年に渡るコアの軽元素問題に終止符を打ち、温度や物性などコアの実態解明に迫りたいと考えています。

 

<海洋の形成>

微惑星や隕石の衝突が一段落したころの地球は、現在とほぼ同じ大きさになりました。さらに熱エネルギーの供給も少なくなり、地球表面が徐々に冷えてマグマオーシャンも消滅していきました。

地表の温度が500℃(約800K)まで下がったころ、水蒸気が凝結して雲ができ、大量の雨が地表に降り注ぎ始めました。初めのうちは文字通り「焼け石に水」であった状況が次第に変わっていきました。雨によって地表の温度がさらに下がると、水がたまり始めていき、これが長い年月を経て海洋、すなわち「原始海洋」となりました。

 

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原始海洋の誕生

 

原始海洋は現在とはまったく違う世界です。マグマに含まれている硫黄が水に溶け込み、硫酸などの強酸を大量に含む海水となりました。温度は100~200℃もあり、降り注ぐ雨も300℃という高温だったのです。この時代の大気は100気圧以上もあり、現在の海では1000メートル以上も潜った圧力に相当します。

やがて、地表温度が400℃を下回ると地表に達した雨がたまり水深を増していきます。酸性の海水と海底岩石の反応が進み、海水は強酸性から弱酸性に変わっていきました。さらに、大気中の二酸化炭素が海水に溶け込み、Ca, Mg, Feと結合して炭酸塩の鉱物となり堆積していったのです。

また、徐々に大気中の二酸化炭素分圧が低下し、温室効果が弱まり海水の温度が100℃以下になり、水深は2000mに達しました。

そして、この原始海洋がさらに変貌していき、長い時をかけて生命を誕生させ、生命を育む現在の海洋として重要な役割を得ることになるのです。

 

[宇宙からきた地球の水-3]水は星間分子雲の塵からも

前項でお話をしましたように、「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウのような、炭素質に富んだ「C型小惑星」や「炭素質コンドライト隕石」にも水が比較的多く含まれるため、スノーラインの外からやってきたそれらの衝突で水がもたらされたという仮説をご紹介しました。この仮説は、一時“このモデルだと地球型惑星の水が多くなりすぎるという問題”が指摘されていましたが、前項の内容のように、“地球のコアへの水素取込み説”で補強され、現在ではかなり有力な水の起源説となっています。

一方、地球の水についての研究結果で、別ルートの水の起源説も発表されていますので、以下ご紹介いたします。

<星間有機物モデル>

北海道大学と桐蔭横浜大学を中心とする研究チームでは、太陽などの恒星の生まれ故郷である星間分子雲に含まれている塵の有機物が水の起源としての可能性を考えました。星間分子雲の塵には、氷や鉱物と同程度の割合で有機物も含まれていますが、これまでの惑星形成論では星間有機物の役割はあまり重要視されていませんでした。

星間有機物は、水・一酸化炭素・アンモニアなどの氷に恒星からの紫外線が当たることで作られます。過去の実験から、星間有機物にはヒドロキシ酸やアミド、多環芳香族炭化水素、脂肪酸など、多種多様な有機分子が含まれることがわかっています。そこで研究チームでは、これらの有機分子を混ぜ合わせた模擬的な星間有機物を作り、これをダイヤモンドアンビルセルや反応容器の超高圧下で加熱して変化を観察しました。この研究成果は、2020年5月の「Scientific Reports」およびプレスリリースで公開されています。その結果、

***北海道大学他・プレスリリース(2020年5月)より***

◆超高圧下で模擬星間有機物を200℃まで加熱すると2相の有機物に分離し、350℃になると水が生成されることを突き止めました。さらに400℃まで加熱すると有機物が黒くなり、石油のような物質が生じました。

 

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模擬星間有機物を加熱した顕微鏡写真(北海道大学、他)

 

◆この黒い生成物の成分を分析したところ、地球上で産出する石油によく似た組成であることが確認されました。また、最初の模擬星間有機物の組成を大きく変えても、加熱によって水と石油を生じるという結果は変わらないこともわかりました。

◆このような星間有機物は原始惑星系円盤の成分として広く存在していたはずで、しかも水の氷とは違って、スノーラインより内側の領域でも揮発することなく存在できます。このことから、研究チームでは、こうした星間有機物が地球型惑星の水の起源になりうると考えています。

◆今回の成果から、これまで考えられてきたような炭素質の天体がなくても、地球の水の起源を説明できるようになるかもしれません。さらに、現在の小惑星や氷衛星の内部に、星間有機物から生じた石油が大量に存在するという可能性も考えられます。

 

現在、「はやぶさ2」がリュウグウから持ち帰った試料の分析を研究チームのメンバーも携わることになっており、地球型惑星や隕石中に存在する水・有機物の起源解明につながることを期待しています。

 

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惑星の材料物質の分布とそれぞれの天体の形成過程(北海道大学:2020年5月)

 

<図の補足説明>

前図は、2020年5月の段階での研究発表であり、この時点では「彗星水源説」は、同位体分析によるその水量が海洋水量より著しく少ないため、すでに重要視されていませんでした。さらに、「炭素質隕石水源説」も、運ばれた水量の計算結果が、海洋の水量よりがあまりにも多かったため疑問視されていたようです。

しかしながら、前項でお話をしましたように、翌年、2021年5月に東京工業大学グループが発表した「金属コア水素吸蔵説」が「炭素質隕石水源説」を補完することになり、現在では、上図中央の供給ルートが再び見直されることになっているのではないでしょうか。

したがって、現時点では前図の水の供給ルートの線の太さは異なってくるかもしれません。

 

<ひとこと>

生命の話題からは少しそれますが、地球に衝突した「星間有機物」が高圧下で水や石油に変わるとすれば、地球の深部での「石油無機起源(成因)説」(NeoMag通信:エネルギー資源の現状と将来<石油-その2>:2014年7月号を参照)が現実味を帯びてきそうな気がします。また、地球のマントルやコアに、無尽蔵ともいえる水素が含有されていることが事実とすれば、この点でもやはり「石油無機起源(成因)説」との関係は無視できそうもありません。だとすれば石油は半永久的に枯渇しないことになり、科学的な懐疑論も根強い温室効果ガスの問題で石油を全否定することは、人類の将来に禍根を残すことになるかもしれません。

一方、「石油有機起源(成因)説」による石油枯渇問題や、温室効果ガスの要因とした化石燃料からのエネルギー依存脱却が、ほんとうに人類にとって不可欠であるとすれば、あてにできない「再生可能エネルギー」だけではなく、「地中深く眠っている水素」をうまく活用できるかどうかが鍵となってくるかもしれません。水素を「H2」とすれば、今のところ「エネルギー媒体(二次エネルギー)」の役割に甘んじていますが、もし将来(遠い未来かもしれませんが・・・)、マントルやコアの水素を効率よく取り出し利用できるようになれば、地球に住む人類にとって、水素は化石燃料に代わる次の「エネルギー源(一次エネルギー)」としての「宇宙からの贈り物」だったことになる筈です。

 


 

以上今月は、“地球の水と海洋の起源”についてのお話をさせていただきました。来月は“地球システムの形成”、“プレートテクニクスの開始”の予定です。

 

<参考・引用資料>

◆Web

・「地球コアに大量の水素」東京工業大学プレスリリース Nature Communications 2021.05.11

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7309/

・「星間有機物が地球の水の起源に~」北海道大学他・プレスリリース 2020.05.12

https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/20200512_pr4.pdf

・「太陽系の惑星が岩石の「地球型」と氷の「木星型」に分かれたワケ=鎌田浩毅」エコノミスト Online

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220412/se1/00m/020/059000c

・「地球の海はどうできたの?」サイクリング・ウォーキング Livedoor

http://blog.livedoor.jp/wkmt/archives/51401502.html

・「水の起源 ~微惑星が大量の水をもたらした」みらいぶプラス

https://www.milive-plus.net/gakumon161104/02/

・「地球の水は 9 割以上コアに取り込まれた」AstroArts 2022.11.08

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11998_water

・「地球の水は星間分子雲の塵からできたのかもしれない」AstroArts 2022.11.08

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11255_water

・「太陽系の起源に迫る 隕石の中に水を発見」RADIANT 立命館大学研究活動報 2021.11.05 更新

https://www.ritsumei.ac.jp/research/radiant/space/story1.html/

・「おもしろい宇宙の科学(1)~(24)」ネオマグ通信バックナンバー

https://www.neomag.jp/mailmagazines/mailmag_index.html

◆書籍

・「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社

・「46億年の地球史」田近英一 著 発行元:三笠書房

・「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院