前3回は<太陽と地球の誕生>、<宇宙からきた地球の水>、<生命の誕生・進化を助けた地球環境>というテーマでお話をさせていただきました。その概要は、(1)原始太陽・太陽系は46億年前に生まれ、原始地球は水のない微惑星群の衝突の繰り返しやジャイアントインパクトの後形成された。(2)地球の水はスノーラインの木星側にある水や氷を含んだ微惑星がもたらしたものであり、しかも大半の水は今でも地球の外殻やマントルに水素の形で貯蔵されている。(3)地球の生命の誕生と進化は、「陸地と海洋の共存、原始地球が創った地磁気、微惑星由来の大気」という地球環境に助けられ、現在も守られている・・・などでした。
今月は、生命の誕生・進化の過程をたどるための地球の時代区分の分類・名称、それぞれの時代区分の特徴や大きなイベントなどのお話になります。
[地球の時代区分-1]時代区分の種類
地球は約46億年前に誕生しました。現在に至る地球の歴史のほとんどは「地質時代」と呼ばれますが、そのほかにも「先史時代」や「有史時代(歴史時代)」という時代区分があります。
代表的な時代区分(ネオマグ作成)
<地質時代>
地球は、大規模な天体衝突によってマグマに覆われた状態で誕生しました。急激な冷却によって、水蒸気から成る原始大気が凝結して原始海洋が形成されます。地表面は急冷され、原始地殻が形成されます。やがてプレートテクトニクスが始まり、大陸が形成され、造山運動や火山活動などが起こり、環境の変化を繰り返しながら、地層が積み重ねられていきます。地球史の最初期に海で誕生した生命はより複雑なものに進化し、数多くの生物種が繁栄しては絶滅しました。そうした経過は地層となった岩石や化石から知ることができます。このように分類した時代を、「地質時代」と呼びます。
これに対し、人類が文字を発明して記録が残されている時代を「有史時代」、それ以前を「先史時代」と呼ぶ史的年代の分類もあります。有史時代より以前を地質時代と呼ぶ場合も多く、地質時代=先史時代のようにも思われますが、先史時代は人類が道具を使うようになって以降の時代に限る場合が多いようです。有史時代は、地質時代区分でいうところの、新生代の第四紀完新世(約1万1700年前~現在)に含まれます。
<先史時代>
我々人類の祖先である猿人が類人猿から進化してアフリカ大陸に出現したのは約700万年前のことです。猿人は直立して二足歩行ができるようになり、自由になった両手を使って石器などの簡単な道具を用いるようになりました。やがて火を利用する原人が約250万年前に現れ、約20万~30万年前に現生人類(ホモ・サピエンス)が登場することになります。
先史時代は、石器時代(旧石器時代・新石器時代)、青銅器時代、鉄器時代という期間に大まかに区分されることがあります。この時代を表す数多くの遺跡や遺物など、ヒト属の活動の痕跡も発見されており、考古学をはじめ、さまざまな自然科学的・人文社会科学的な調査研究がなされ、その実像が徐々に明らかにされています。
先史時代の年表例(世界の歴史まっぷーより)
<有史時代>
また、人類が文字を発明して記録し始めたのは約6000年前とされます。文字の誕生により、先史時代の手法に加え、後世に残された文字資料・文献資料から往時の歴史事象を検証することが可能になりました。それゆえに文字を使用するようになった時代以降を有史時代といいます。ただし、文字の使用開始時期は世界各地で違いがあるので注意が必要です。例えば、日本では3世紀ごろに始まった古墳時代が先史時代と有史時代(歴史時代)の境目とされています。
有史時代は、約46億年の長い地球史から見ると、約100万分の1の期間にすぎません。地球が生まれて現在までの時間を1年の長さで例えれば、1月1日の午前0時に地球が誕生し、大晦日の23時59分30秒からようやく有史時代が始まるのに相当します。
私たち人類の時代は、地球史全体から見ればいかにごく最近のことなのかが分かります。
[地球の時代区分-2]冥王代(46~40億年前)の地球
地球が誕生した約46億年前から約40億年前までの初期数億年問は「冥王代(Hadean)」と呼ばれる時代です。その時代名は、ギリシア神話の冥界の神・ハデス(Hades)から名付けられました。実際、地質学的証拠がほとんど残っていないため、その詳細は謎に包まれた「暗黒の時代」です。物質的な証拠がほとんどないため、この時代の地球については、主として理論的な研究や太陽系のほかの天体(とりわけ月)の研究によって推定されてきました。しかし、後で述べるように、わずかに残された物質的証拠からもいろいろ議論されるようになってきました。
<原始地球の誕生・巨大衝突・月の誕生>
太陽系の誕生からおよそ700万年後の45億6000万年前、地球は固体微惑星の集合の原始惑星の状態から、火星サイズ(地球質量の約1/10)の原始惑星が10回程「巨大衝突(ジャイアントインパクト)」した後に形成されたものと考えられています。とりわけ、最後の巨大衝突は、月の誕生に関係する破局的なものでした。巨大衝突によって、原始地球は数千~数万℃に加熱され、大規模な蒸発と溶融が生じたと考えられます。
原始惑星の形成
巨大衝突と原始地球・月の誕生
<マグマオーシャンの形成>
蒸発した岩石は、数千℃の岩石蒸気の大気となって地球を取り巻きます。地球は表面から深部まで溶融し、「マグマオーシャン」と呼ばれる状態になりました。岩石と金属鉄(金属状態の鉄のこと。鉄は岩石にも含まれるので、それと区別するためにあえてこう呼ばれています)が混ざっていても、岩石が大規模に溶融することで、岩石と金属鉄はすみやかに分離して、密度の重い金属鉄は中心部に集まり、地球のコア(内核・外核)を形成しました。
巨大衝突から数百万年後の地球は、水素や一酸化炭素などの還元的な気体(物質から酸素を奪う気体)を含む二酸化炭素に富んだ大気をまとい、地表面は海洋に覆われていたと考えられています。現在の地球人気の主成分の一つである酸素は、ほとんど含まれていませんでした。
<マグマオーシャンの冷却>
マグマオーシャツの表面は、水蒸気大気が凝結して地表に降った雨によって急冷固化して岩石質の地殻を形成していました。最初の雨は、200℃を超えるような高温(圧力が高いので100℃を超えても液体の状態で存在できる)で、しかも大気中に大量に含まれていた水溶性の気体が溶解することで塩酸や硫酸に富む強酸性を呈していたと考えられます。このような雨と地殻が激しく反応することによって、地殻からナトリウムなどの陽イオンが溶け出して、初期の海水は急速に中和されたはずです。したがって、海水は、形成された直後から、現在と同様に「しょっぱい」昧がしたことでしょう。
海底には岩石質の地殻が形成されていましたが、それはほんの薄皮一枚といえるもので、その直下には依然としてマグマオーシャンが存在していました。マグマオーシャンの冷却には長い時間を要するため、その後数億年問にわたって存在し続け、激しく対流し、ときには地殻を突き破ってマグマの池(マグマポンド)をつくったりしたであろうことが理論的に示唆されています。
冥王代・初期地球の想像図
また後述しますが、地球史初期の数億年は小天体の激しい衝突が生じていたことが、きわだった特徴です。このことは、月面に残された無数の衝突クレーターから示唆されています。現在でも小天体の衝突は起こっていますが、その頻度はかなり低く、大きな天体の衝突はまれです。しかし地球史初期においては、衝突頻度は現在よりもはるかに高く、中には大きな天体の衝突によって地殻が破壊されたり、マグマポンドが形成されたり、海水がすべて蒸発して干上がるような事態も何度か生じた可能性があるようです。
このような、現在の地球環境とはかなり異なる条件のもとで、最初の生命が誕生したと考えられています。
<冥王代にできた地球の内部構造>
巨大衝突(ジャイアントインパクト)直後の地球表層はドロドロに溶けた状態で水はまったく存在していませんでしたが、巨大衝突から100万年以内に地球が固化すると、地球の層状構造が形成されました。表層全体は固くて動かない地殻に覆われ、「スタグナントリッド」と呼ばれる状態で、海洋地殻はなく、「プレートテクトニクス」はまだ開始していませんでした。
しかし、大気も海洋も持たないまったくドライな天体だった地球に、約44億年前から2億年という時間をかけて、たくさんの微惑星や氷惑星が降り注ぎました。これは「惑星の重爆撃」と呼ばれる事象です。惑星重爆撃時に地球に飛来した氷惑星の多くは、スノーラインの外から飛来した氷と有機物に富む小天体(C型炭素質小惑星や微惑星)でした。つまり、地球は飛来した微惑星や氷惑星によって水と大気を得ました(NeoMag通信2022年12月号<宇宙からきた水>参照)。さらにこの時、生命構成物質も得たとも云われています。そして、マグマオーシャン冷却後の海洋の誕生によってプレートテクトニクスが機能し始めました。
ここで、44億年~42億年前に形成した地球の内部構造を考察してみましょう。左下図は良く目にします地球の5種類の断面構造で、化学的(物質的)性質での区分になります。一方、右下図は粘性的(力学的)区分で示したもので、プレートテクトニクスを理解するうえで重要な区分となります。特に、上部マントルの構造には、粘性のある「アセノスフェア」とさらに上部の硬い「リンスフェア(地殻を含むプレート)」があることに注意をしてみてください。
<海洋地殻と海洋プレートの違い>
以上のように地球の内部構造は、構成物質によって大きく三層に分かれています。(1)金属(固体と流動体)からなる核、(2)主にかんらん岩からなるマントル、(3)玄武岩や花崗岩からなる地殻となります。地殻のうち、玄武岩だけからなる地殻は「海洋地殻」と呼ばれ、主に海洋底をつくっています。海洋地殻の下には、かんらん岩からなるマントルがありますが、かんらん岩は800℃になると水あめのように柔らかくなります。一方、800℃より低温の部分は硬い岩盤のままです。つまり、地球全体を見たときに、マントルは岩石の種類とは無関係に、硬い岩盤部と、水あめのように流動的な部分に分かれます。
上部マントルの硬い岩盤部分は地殻と共にリンスフェア=プレートに含まれ、上部マントルの流動的な部分はアセノスフェアになります。いいかえれば、海洋プレートは海洋地殻と上部マントルの硬い岩盤で形成されていて、その下に柔らかく流動的な上部マントルがあるということです。海洋地殻とマントルの境界を海洋プレート下面だと勘違いしている人が多いようですが、それは誤りです。
<プレートテクトニクスの始まり>
43億7000万~42億年前、惑星爆撃によって大気と海洋が形成された。この海洋の形成によって、地球では、「プレートテクトニクス」が始まりました。
惑星爆撃によって小惑星が地球に衝突すると、地球表層部は破壊されます。そして衝突の衝撃によって、地球マントルがリバウンドし、上昇するマントル対流をつくり出します。こうしてできるマントル対流が、中央海嶺を形成し始めました。
マントル(固体)が地下深部から上昇してきて、海底に「裂け目(海嶺)」を形成しました。海嶺でマグマが固化すると海洋地殻が形成されます。そのときに、海洋地殻表層部と海水が化学反応することによって含水鉱物がつくられ、含水海洋地殻が形成されます。海嶺深部から上昇するマントルがプレートを押し上げるため、プレートは自己重力によって滑り始め、プレートテクトニクスが開始されました。
中央海嶺でのマグマの発生と海洋地殻の誕生(大鹿村中央構造線博物館)
含水海洋地殻は、プレートが沈み込む過程で脱水反応を起こし、プレートの上部に流体を放出し、潤滑油の役割を果たします。したがって、中央海嶺を覆うほどの深さの海洋が出現して初めて、プレートテクトニクスが機能し始めるのです。
<プレートの沈み込み>
大陸プレートと海洋プレート、または海洋プレート同士が衝突した場合、比重の大きいプレートが比重の小さいプレートの下に沈み込み、深い海溝を形成します。大陸プレートは海洋プレートより比重が軽いため、この2者が衝突した場合は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むことになります。このようなプレートの動きを「沈み込み型」と呼んでいます。この沈み込みによって引きずり込まれた上部プレートが反発することで地震が発生します。こうしたプレートの境界で起きる地震はプレート間地震と呼ばれますが、このほかにプレートの下に沈み込んだプレート(スラブ)で起きるスラブ内地震も存在します。また地下深く沈んだプレートから分離された水が、周辺の岩石の融点を下げるため、大陸プレートの深部において「マグマ」が発生し、多くの火山を生成します。マグマの発生地点は海洋プレートが大陸プレートに沈み込む地点ではなく、そこからさらに大陸プレート側に入った地点であるため、沈み込みの起きている海溝から一定の距離を開けて、海溝に平行する火山列が形成されることになります。
プレートの沈み込みと火山の形成
例えば、近年注目を浴びている西之島は、東京の南約1000km、父島の西約130kmにある小さな島で、伊豆・小笠原諸島の1つです。太平洋プレートの沈み込みによって生じたマグマが地表に噴出してできた、フィリピン海プレート上の火山島になります。
西ノ島の位置と上空写真(国土地理院:2018年1月現在)
<プレートの衝突>
大陸プレートどうしが衝突する「衝突型」場合はどちらも比重が軽いために沈み込みが発生せず、境界が隆起し続けるために大山脈が形成されます。現在もっとも活発で大規模な大陸衝突が起きているのはヒマラヤです。元来、南極大陸と一緒だったインドプレートが分離・北上して、約4,500万年前にユーラシアプレートと衝突し、そのままゆっくり北上を続けています。大陸プレート同士の衝突のため、日本近海のような一方的な沈み込みは起きず、インドプレートがユーラシアプレートの下に部分的にもぐりこみながら押し上げています。その結果、両大陸間の堆積物などが付加体となって盛り上がり、8,000メートル級の高山が並ぶヒマラヤ山脈や、広大なチベット高原が発達しました。
[地球の時代区分-3]生命の起源の諸説
地球が誕生してから間もなくの冥王代には、地球上で生物が活動していた明確な証拠はありませんが、少なくともこの時代に生命の起源となる重要なイベントが起こっていたらしいのです。
誕生から間もない原始地球。そこは二酸化炭素と窒素に満ちた灼熱が支配する世界で、巨大隕石や小惑星がたびたび衝突し、莫大なエネルギーを放出しました。そのたびに海はたけり狂い、地表を洗いつくしました。一見、生命とは無縁の死の世界ですが、その過酷な環境こそが実は生命のゆりかごだったとする説が有力になっています。そのころ地球に存在していたのは水、アンモニア、二酸化炭素などの無機化合物ばかりでした。しかし生命のパーツとなるアミノ酸やDNA、RNAを構成する核酸塩基はいずれも有機物です。
従来、地球に有機物がもたらされる過程を説明するのに、2つのシナリオが有力視されています。
一つは、「海底のマグマに熱せられ約300度まで上昇した海水が化学変化を起こし、有機物を生み出したとする説」です。もう一つは、「有機物そのものが隕石に乗ってやってきたとする説」です。地球より外の軌道を回る惑星やその衛星、小惑星などには、有機物が多く含まれています。それらが軌道を離れ地球に降り注いだ燃え残りが、生命誕生の最初の材料となったとする考えです。2つのシナリオは現在も世界中で証拠探しが進められています。
“生命の起源”に対する化学的アプローチ(九州大学総合研究博物館・特別展示)
それに加えて、隕石の衝突によってもできるのではないかという新説も注目されています。この説によれば、「隕石には大量の鉄が含まれていて、これが衝突のエネルギーで還元反応を起こす際に有機物を作っていく」ということのようです。
以上のような生命の起源に関する諸説の詳しい内容については、次回以降のお話にしたいと思います。
今月は、“地球の時代区分と初期の地球”についてのお話をさせていただきました。来月は “生命の起源・誕生”に関するテーマを予定しています。
<参考・引用資料>
◆Web
・「地質時代」ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E8%B3%AA%E6%99%82%E4%BB%A3
・「【地球史】地球46億年の歴史」比較ジェンダー史研究会
https://ch-gender.jp/wp/?page_id=13549
・「地質年代」固体地球の歴史
https://www.s-yamaga.jp/nanimono/chikyu/chishitsunendai-01.htm
・「先史時代」世界の歴史
https://sekainorekisi.com/glossary/%E5%85%88%E5%8F%B2%E6%99%82%E4%BB%A3/
・「先史時代年表」世界の歴史まっぷ
https://sekainorekisi.com/chronology/%E5%85%88%E5%8F%B2%E6%99%82%E4%BB%A3%E5%B9%B4%E8%A1%A8/
・「地球内部のダイナミクス」レイ先生と大地君の謎解き地震学 No.6
https://www.jishin.go.jp/main/herpnews/series/2010/1010_04.html
・「マグマのでき方1:中央海嶺とホットスポットのマグマ」大鹿村中央構造線博物館ホームページ
https://mtl-muse.com/study/kashio-spring/magma1/
・「生命はどこからきたか?」ベレ出版
https://www.beret.co.jp/books/tachiyomi/images/686.pdf
・「隕石衝突が生命の起源?地学研究者が見つけた有機物誕生のストーリー」島津製作所・ぶーめらん37
https://www.shimadzu.co.jp/boomerang/37/02.html
・「大陸の生みの親は海だった!西之島から見えてきた大陸形成メカニズム」ブルーバックス 地球科学
https://gendai.media/articles/-/58390?imp=0
・「‘生命の起源’有機分子は隕石の海洋爆撃によって生成した」東北大学プレスリリース 2008.12.05
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_release/pdf2008/20081208.pdf
・「生命の進化、絶滅」九州大学・特別展示(地球惑星科学への招待・オンライン版)
http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/special_exhibitions/PLANET/welcome.html
◆書籍
・「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社
・「46億年の地球史」田近英一 著 発行元:三笠書房
・「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院
・「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店
・「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 東京大学出版会
・「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 河出書房新社