先月は、約5億4千万年前から4億4千万年前までの約1億年間の顕生代初期・古生代の「カンブリア紀」および「オルドビス紀」について、生物が爆発的に多様化出現した「カンブリア爆発」、「オルドビス紀の生物多様化と絶滅」、「ゴンドワナ大陸の移動・分裂」などについて調べてみました。
今月は次表の古生代中期の「シルル紀」、「デボン紀」を中心に、生物がさらに多様化・進化していった様子を検証していきたいと思います
顕生代の代区分と紀区分の関係(NeoMag)
[古生代の地球環境と生命活動(2)-1]植物の陸上進出
植物は光合成をして栄養素を作り出し、花や種、実をつけます。そしてそれらを食べるのが草食動物や昆虫、さらにそれらを食べるのが肉食動物……というように、自然界はピラミッドのような形状の食物連鎖で成り立っています。したがって、植物の多様化・進化と生息域の拡大は、動物や昆虫の多様化・進化にとっても大きな影響を受けてきました。
ここで、動物や昆虫の進化のお話をする前に、植物の歴史と分類について見直しておきましょう。
<植物の分類>
植物の分類一覧(マナビバ:NeoMag編集)
◆種子植物
種子で仲間を増やすこの「種子植物」は、「裸子植物」と「被子植物」の二つに分類されます。
裸子植物は、胚珠がむき出しである植物です。例えば、マツ・スギ・イチョウ・ソテツなどがあります。被子植物は、胚珠が子房に包まれている植物です。アブラナ・エンドウ・アサガオ・チューリップ・ツツジ・タンポポなどです。そして、被子植物は、さらに「単子葉類」と「双子葉類」の2つに分類することができます。双子葉類は花弁(花びら)がくっついているのか離れているのかという違いによって「合弁花類」と「離弁花類」に分けられます。
2種類に大別される種子植物(小学館:HUGKUM)
◆胞子植物
胞子植物は、「種子をつくらないで胞子によって仲間を増やしている植物」です。そしてこの胞子植物は、「コケ植物」、「シダ植物」、「ソウ類(藻類)」に分類されます。
(コケ植物)
コケ植物の特徴は、次の点があげられます。(1)雄株と雌株に分かれることが多く、雌株にできる胞子でなかまを増やす。(2)根、茎、葉の区別がなく、維管束がない。(3)湿った地面に群がって生え、からだの表面から水や養分を取り入れる。(4)根のように見える仮根でからだを固定している。
コケ植物の増殖は、雌株でできた卵細胞と雄株に出来た精子が受精することで雌株の卵細胞が育ち、胞子嚢ができ、この胞子嚢から胞子が飛び散ります。そして、地上に落ちた胞子が発芽し、次世代の植物となります。ゼニゴケ、スギゴケ、ミズゴケ、ヒカリゴケなどがこの分類になります。
(シダ植物)
シダ植物の特徴は次の点があげられます。(1)胞子で仲間を増やす。(2)根、茎、葉の区別があり、維管束がある。(3)葉の裏に胞子嚢が集まった袋が多数ある。シダ植物の増え方は、胞子嚢が熟すことで胞子が飛び散り、地上に落ちた胞子が発芽し、ハート形の前葉体となります。前葉体は地面と接する面に仮根を生じます。前葉体に卵を作る細胞と精子を作る器官(造精器・造卵器)があり、雨が降ることで、精子が卵まで泳いで受精し、受精した細胞が成長し、次世代の植物になります。例としては、ゼンマイ、ワラビ、シノブ、スギナなどがあります。
(ソウ類:藻類)
藻類とは、光合成を行う生物のうち、コケ、シダ、種子植物を除いたものの総体をいいます。藻類の特徴は次の点があげられます。(1)水の中で生活している。(2)からだのつくりが単純で茎や葉の区別がなく、維管束もない。(3)根のように見える仮根でからだを固定している。
藻類のふえ方は2通りあります。1つ目は、コンブやワカメ、ノリなどの植物は、仮根の上あたりに胞子嚢をつくって仲間を増やします。2つ目は、ミカヅキモやハネケイソウなどは2つに分裂して仲間を増やします。
コケ植物(石苔)
シダ植物
藻類(ワカメなど)
種子をつくらない植物(胞子植物)
<藻類が陸上進出一番手>
光合成を行うシアノバクテリアは、先カンブリア時代から湖沼や河川に沿って生息していたことがわかっています。そのあと、原生代後期(約10億年前)からエディアカラ紀の頃までに多細胞藻類が誕生しました。藻類は浅海で繁栄していましたが、やがて真っ先に陸上に進出しました。
そのことから、陸上植物は、緑藻類の仲問から進化したものと考えられています。海と陸の最大の違いは水の存在です。陸上では、乾燥に耐えるための適応進化が必要になります。よって最初は海岸沿いの淡水環境に進出したのではないかと思われます。
<植物の陸上進出とオゾン層>
大陸表面に陸上植物が初めて進出し始めたのは、今から約4億年前のことで、それ以前は陸上に生物はいなかった、と従来は考えられてきました。約4億年前ごろに大気中の酸素濃度が上昇した結果、大気上空にオゾン層が形成され、生物にとって有害な紫外線が遮蔽されたために植物が陸上進出できるようになった、という有名な学説が1960年代に唱えられたからです。現在においてもなお、そういった説明がなされる場合がしばしばあります。しかしこの考え方は、すでに1980年代に否定されています。
生物にとって有害な紫外線を遮蔽するオゾン層は、大気中の酸素濃度が現在の1000分の1レベルでも形成されることが分かったのです。現在の1000分の1レベルというのは、大酸化イベントが生じた約20億年前(古原生代)にはすでに達成されていたと考えられるレベルです。したがって、オゾン層の形成と植物の陸上進出には直接の囚果関係はないことになります。生物の陸上進出は、もっと別の環境要因か生物進化要囚によるものだと思われます。
<植物の進出以前の陸上生物>
実際のところ、陸上植物の進出以前の大陸上にも、微生物のコロニー(集団)のようなものが存在していたらしいことが分かっています。例えば約12億年前の陸上で形成されたと考えられる地層からシアノバクテリアの化石が見つかっています。また、12億~10億年前の非海洋性の地層から、真核生物と思われる細胞壁まで保存された生物化石が掘り出されています。炭素や酸素の同位体の変化を調べた研究からは、原生代後期の約8億5000万年前以降は陸上で光合成生物の活動の影響が見られることが指摘されています。このように、従来考えられていたよりもずっと古い時代から、陸上には生物が進出していて、光合成活動を行っていたらしいことが分かってきました。また、陸上における緑藻類と菌類の共生関係も陸上植物出現よりもずっと以前にまでさかのぼることが各種研究から分かっています。
<藻類に続きコケ植物が陸上へ>
約4億2500万年前のシルル紀の地層から最古の陸上植物化石が見つかり、最初期の陸上植物は「クックソニア」だと考えられました。その後、さらに約4億7500万年前のオルドビス紀の地層から、胞子をつくる植物片の化石が発見されました。これが陸上植物の最初期の証拠になっています。これは、おそらく「コケ植物」の苔類に似たものであったと考えられています。つまり、オルドビス紀後期からシルル紀の初期にかけて、藻類に続いてコケ植物が陸上で姿を現し始めたわけです。
<陸上での繁栄期を迎えたシダ植物>
陸上に進出した植物は、最初は根のない高さ数センチメートル程度の小さなものでしたが、やがて「維管束」を発達させるようになりました。維管束とは、水や栄養分などを運ぶ重要な役割とともに、植物体を支える器官のことです。維管束植物はセルロースやリグニンなど、新たな有機化合物によって植物体を支えて大型化が可能となりました。
シルル紀からデボン紀にかけては「シダ植物」が繁栄して、陸上に森林が発達するようになりました。
<大森林時代の到来>
オルドビス期に陸上へ進出した植物はシダ植物へと進化し、次のシルル紀(約4億4400万~約4億1900万年前)からデボン紀(約4億1900万~約3億5900万年前)にかけて大繁栄しました。そして、植物がつくり出す酸素によって、酸素濃度は現在に比べて1.5倍も高い状態に近づいていきました。
そのため、デボン紀後期には最古の樹木とされる前裸子植物の「アルカエオプテリス」が30メートルの高さに達し、河川沿いに生息域を拡大して最古の森林を形成しました。さらにシダ植物のヒカゲノカズラ類が繁栄し、とくに「リンボク(鱗木)」は直径2メートル、高さ40メートルにもなりました。
なおヒカゲノカズラ類は、デボン紀後期から石炭紀にかけて繁栄し、「大森林時代」を形成しました。なお、彼らは浅瀬に堆積して石炭となり、産業革命以降の人類の躍進に大きく貢献することになります。
シダ植物を中心とした大森林地帯想像図(Menon Network)
一方、種子を持つ最初期の原始的な裸子植物はシダ種子植物で、デボン紀後期に出現し、石炭紀(約3億5900万~約2億9900万年前)には大繁栄して古生代の末期まで続きました。裸子植物は、その後、ソテツ類、イチョウ類、さらに針葉樹などに多様化して、中生代にはシダ植物に代わって繁栄します。
[古生代の地球環境と生命活動(2)-2]動物の多様化・繁栄・進化
<昆虫の陸上進出>
植物を追うように陸上に進出したのは「無脊椎動物」に属し「節足動物」でもある「昆虫」でした。昆虫たちはシダ植物に代わって裸子植物の生い茂る森の中で進化していきました。植物とともに共進化の道を歩んだのです。さらに中生代のジュラ紀末期に被子植物が出現すると、昆虫たちはさらなる大繁栄を遂げることになります。
現生のトビムシの先祖とされる原始的な昆虫が陸上に登場したのは、少なくともデボン紀(4億1920万~3億5890万年前)に遡ります。そもそも彼らの起源は水中に住むミミズなどの環形動物でした。それが、甲殻類、そして節足動物へと進化して、ついに陸上へと進出したのです。
彼らは水中では酸素を含んだ水を「気門」から取り入れることで呼吸をしていました。その気門は陸上でも利用できました。そして彼らの中から、さらに進化し、翅(はね)を持って空中を飛び回るものが出てきました。それはデボン紀初期の約4億600万年前ですが、現生種の多くの系統が出現したのは石炭紀の約3億4500万年前であることなどが分かっています。
無脊椎動物(昆虫ほか)の系統樹(NeoMag編集)
デボン紀の昆虫 Strudiella devonicaの化石(natureダイジェスト)
<魚類・両生類の繁栄と進化>
デボン紀の海では、「脊椎動物」である「魚類」も大繁栄しました。現在、海洋や陸水域を含めて地球上で最も繁栄している魚類である「条鰭類(じょうきるい)」は、シルル紀に出現してデボン紀に大発展したのです。条鰭類には、現生のほとんどの魚が属しています。
一方、「生きた化石」と称されるハイギョやシーラカンスなどの「肉鰭類(にくきるい)」が出現したのもこのころです。条鰭類と肉鰭類は、胸鰭(むなびれ)の違いがありますが、大部分が硬い骨からなる魚類で、両者を合わせて硬骨魚類と呼ばれます。これに対して、サメなど骨格がすべて軟骨でできている軟骨魚類も、このころまでに出現していたことが分かっています。
デボン紀後期には、肉鰭類から、イクチオステガ、エルギネルペトン、オブルチェヴィクティス、アカントステガなど陸上へ進出した動物(原始的な四肢動物)が出現しました。これらは最初期の「両生類」として、その後多様化して繁栄します。
脊椎動物の系統樹(NeoMag編集)
肉鰭類の古代魚・シーラカンス
四肢をもつ初期の両生類・アカントステガ
両生類の祖先であるイクチオステガ想像図(地球と生命の誕生と進化:清水書院)
両生類は、陸上生活に初めて適応した動物ですが、完全に適応したわけではなく、基本的に水中環境を必要とします。両生類の「両生」とは、陸上と水中の両方の環境を必要とする動物という意味です。多くの化石種が知られていますが、現生の両生類は、有尾目(サンショウウオやイモリの仲間)、無尾目(カエルの仲間)、無足目(アシナシイモリの仲間)の3目のみで、絶滅も危惧されています。
[古生代の地球環境と生命活動(2)-3]巨大山脈と河川の出現
<シルル紀の大陸分布>
シルル紀の大陸分布(ブログ:古世界の住人)
4億2000万年前に、現在のグリーンランドを含む北アメリカにあたる「ロレンシア大陸」と現在の北ヨーロッパにあたる「バルチカ大陸」などがぶつかり合い、イアペタス海が消失しました。この場所にカレドニア山脈という南北に走る巨大山脈が形成されました。この巨大山脈は大気の流れを止め、そこから大量の雨が降り、巨大山脈の麓には規模の大きい川などの淡水域をできました。この淡水域という新天地にたくさんの植物や節足動物、魚類が進出したのです。
<デボン紀の大陸分布>
デボン紀の大陸分布(ブログ:古世界の住人)
温暖で穏やかな時代で水位が高く、陸の多くは浅海の底になっていました。「ユーラメリカ大陸」を南北に走るカレドニア山脈の麓に流れる河川に沿って動植物が大陸内部まで進出し、また最古の木であるアルカエオプテルスが繁栄して最古の森林を形成していきました。
ユーラメリカはヨーロッパ(ユーロ)とアメリカを合わせた呼び名で、北アメリカとヨーロッパを含む大きな大陸です。前の時代のシルル紀にロレンシア大陸、バルチカ大陸、アバロニア大陸が衝突し形成され、その影響でカレドニア造山運動が起こり、南北に走る巨大な山脈ができました。
[古生代の地球環境と生命活動(2)-4]デボン紀後期の大量絶滅
<海洋無酸素イベント>
デボン紀後期のフラニアン期末(約3億7200万年前)とファメニアン期末(約3億5900万年前)において、2度の大絶滅が生じました。この間、長期にわたって地球環境が大きく変動していたらしいこと、また、絶滅は低緯度の浅海域で顕著であったことが知られています。
デボン紀に繁栄したダンクルオステウスなどの板皮類(ばんぴるい)や、無顎類の大部分、三葉虫の大部分を含む、海生動物種の75パーセントが絶滅しました。同時期には海水中の溶存酸素濃度(水中溶け込んだ酸素の濃度)が低下する「海洋無酸素イベント」が発生したことが知られており、それが絶滅の重要な原囚であった可能性が高いようです。
デボン紀末は大規模なマグマの活動が起こり、デボン紀地殻変動や火山活動が活発になりました。そのため、地殻から大量の二酸化炭素が噴出して大気中に入り、温室効果によって地球全体で気温が上昇します。これにより海水温も上がると、極地では海水が深層へ流れて循環する熱塩循環が阻害されるため、海底に酸素が行き渡らず無酸素状態になってしまうのです。こうした天変地異は一定期間続いたあと、数万年から数百万年かけて徐々に回復していくようです。
他には、隕石の衝突のような外因的な要素があったのではないかとも指摘されていますが、はっきりしていません。地球科学では、ある事件が起こったとするのは簡単ですが、なかったとするのは大変難しいのです。
今回は、古生代中期のシルル紀、デボン紀について、「植物の陸上進出と大森林地帯の出現」、「昆虫の陸上進出」、「魚類、両生類の繁栄」、「巨大山脈と河川の出現」などについてお話をさせていただきました。次回は、古生代後期の「石炭紀」、「ベルム紀」について、生物がさらに進化・多様化していったお話となります。
<参考・引用資料>
◆Web
・「中1理科:植物の世界-植物の分類」個別指導塾マナビバ 2022.06.24
https://www.manabiba-s.com/column/study-0055/
・「被子植物と裸子植物の違い」小学館HUGKUM
・「クックソニアからコケ植物について考える」ブログ:そよ風のなかでPart2 2022.02.10
https://soyokaze2jp.blogspot.com/2022/02/blog-post_74.html
・「【シダ植物】地球初、重力と戦った植物戦士が支える現代」Menon Network 2021.08.11
https://menon.network/pteridophytes/
・「動物の分類(セキツイ動物・無セキツイ動物)」中学受験に塾なしで挑戦するブログ
・「脊椎動物から羊膜類に至る系統樹」ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%8A%E6%A4%8E%E5%8B%95%E7%89%A9
・「12月20日は【シーラカンスの日】」マガジンサミット 2016.12.20
https://magazinesummit.jp/lifetrend/784282161220
「アカントステガ」Marchan Blog 2014.12.20
http://marchan-forest.blogspot.com/2014/12/acanthostega.html
「古生代の生物を襲った「海洋無酸素事変」とは?」藤岡 換太郎 2022.11.22
https://gendai.media/articles/-/101176?page=2
「時代別・分布別動物図鑑:古生代」オフィシャルブログ・古世界の住人
http://paleontology.sakura.ne.jp/
「進化の空白を埋める昆虫化石」natureダイジェスト Vol9.No.11 2012.11
◆書籍
・「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房
・「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院
・「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版
・「An insect to fill the gap」Nature (2012-08-02) | DOI: 10.1038/488034a William A. Shear
・「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店
・「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会
・「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社
・「生命の起源はどこまでわかったか-深海と宇宙から迫る」高井 研 編 発行元:岩波書店