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地球科学と生命の誕生・進化(12)<古生代の地球環境と生命活動(3)>

古生代についての前2章では、約5億4千万年前~3億6千万年前までの古生代初期、中期の「生物の爆発的出現・多様化」、「植物の陸上進出と大森林時代の到来」、「昆虫の陸上進出」、「魚類・両生類の 誕生と進化」、「巨大山脈と河川の出現」などについてお話をしました。

今月は下表の赤枠で示しました古生代後期、3億6千万年前~2億5千万年前の「石炭紀」、「ペルム紀」について、生物がさらに多様化、大型化していった様子を検証していきたいと思います。

 

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顕生代の代区分と紀区分の関係(NeoMag)

 

[古生代の地球環境と生命活動(3)-1]石炭の形成と酸素濃度の上昇

古生代後期の石炭紀(約3億6000万~約3億年前)になると、大陸塊が集まり超大陸が形成されはじめます。大陸には低湿地帯が広がり、巨大なシダ植物の大森林が発達しました。シダ植物の倒木は低湿地に埋没して、大量の石炭が形成されました。それが「石炭紀」という時代名の出来です。

 

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石炭の元となったシダ植物の大森林と倒木

 

石炭紀に陸上植物が大量に埋没したことは、海水の炭素同位体比の変化にも明瞭に記録されています。植物は光合成の際、「炭素12」を選択的に固定するので、大気や海洋の二酸化炭素の炭素同位体比は「炭素13」に濃集するようになります。この時期にはその偏りがさらに激しくなり、地球史においても例外的なほど炭素13に濃集したことが炭素同位体比の異常として記録されています。

さらに、樹木は枯れると分解されますが、分解を袒っているのは「木材腐朽菌」と呼ばれる菌類です。しかし、樹木の発達にかかせないセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの植物体支持に関わる有機化合物は、生物の進化においては新しい有機化合物で、とりわけ難分解性のリグニンを唯一分解することができる「白色腐朽菌」は、ペルム紀まで存在していませんでした。このことが、石炭紀後期に有機物(陸上植物)が大量に埋没したことの原因であると考えられています。

 

ところで、大量の有機物が埋没したことは、光合成によって生産された酸素の多くが消費されずに大気に放出されたことを意味します。この結果、次図のように大気中の酸素濃度は、現在の約21パーセントよりもずっと高い、約35パーセント程度にまで上昇していたものと推定されています。同時に、二酸化炭素は現在の濃度と同等レベルに低下しています。これも、大森林により光合成が活発に行われていたことを示しています。

 

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酸素・二酸化炭素の濃度変遷(ガスの科学・ブログ:NeoMag 編集)

 

酸素は、酸素呼吸を行う好気性の生物にとってはなくてはならないものです。酸素濃度が低下すれば、通常の動物にとっては過酷な条件となり、低下しすぎれば生存できなくなります。しかし、酸素濃度が上昇したら生物はどうなるのでしょうか。

実は石炭紀には、昆虫類に代表される節足動物の巨大化が生じたことが知られています。前章でもお話をしましたが、節足動物は、大森林で多様化し大繁栄を遂げました。節足動物は、現在の地球上で最も繁栄している動物でもあり、全動物の85パーセント以上を占めているといいます。それが、当時、巨大化したのです。例えば、翼を広げると全長70センチメートルにもなる巨大トンボのメガネウラ、体長が最大2~3メートルにも達する巨大ムカデのアースロプレウラ、体長2.5メートルにも及んだ巨大なウミサソリなどが有名です。こうした節足動物の巨大化は、酸素濃度の増大と関係しているものと考えられています。

節足動物は、酸素を拡散によって体の隅々まで取り込むため、高い酸素濃度は大変有利に働き、体が大きくなれたものと考えられるのです。しかし一方で、酸素は毒性が強いガスなので、節足動物の体は防御のために大きくなったのではないか、とする説も出てきて議論が続いています。

 

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大型トンボのメガネウラ(地球と生命の誕生と進化)

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カゲロウの化石 (NATIONAL GEOGRAPHIC)

 

[古生代の地球環境と生命活動(3)-2]二酸化炭素濃度の低下と寒冷化

約3億年前の石炭紀後半には、今のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸などが集まった巨大な大陸「ゴンドワナ大陸」が南半球に横たわっていました。当時、ゴンドワナ大陸の南側は、広大な大陸氷床に覆われていたことが分かっています。最大で、南緯35度付近まで発達したといいます。

そのような氷河作用の証拠が、南アフリカをはじめとする、ゴンドワナ大陸を構成していた各大陸地塊に見ることができます。このため、石炭紀後半の氷河時代は「古生代後期氷河時代」あるいは「ゴンドワナ氷河時代」とも呼ばれています。

 

 

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石炭紀のゴンドワナ大陸と氷床(ブログ:古世界の住人)

 

石炭紀後半は酸素濃度が上昇した時代ですが、同時に南半球の大寒冷期でもあります。では炭紀後半の酸素濃度上昇と寒冷化には何か関係があるのでしょうか。

酸素濃度が大幅に上昇した原因は、低湿地帯の周辺で大森林を形成していた陸上植物が、とりわけリグニンのような難分解性の有機化合物が分解されずに大量に埋没したことだと述べました。これは大気中の二酸化炭素を大量に固定したことに相当します。さらに、植物の根により厚く堆積した土壌の化学風化作用(炭酸によって土壌・岩石が溶けて、海洋に炭酸カルシウムが沈殿する作用)が二酸化炭素の固定を促進しました。したがって、これらが二酸化炭素の地球温室効果を低下させ、寒冷化に大きく寄与した可能性があります。

実際、前項のグラフでも示しましたが、当時の大気二酸化炭素濃度は、現在とほぼ同じレベルまで低下していたことが分かっています。これはまさに生物活動によって地球環境が大きく変化した顕著な例の一つであり、大変興味深い現象だといえるでしょう。

 

[古生代の地球環境と生命活動(3)-3]両生類から爬虫類への進化

前章でお話をしましたように、脊椎動物のうち魚類は発達した中枢神経系や筋肉を獲得したことで、海中の様々な動物をとらえられる生物になりました。繁栄し種数を増やしていきましたが、水中での暮らしに適応した形態であることや、エラ呼吸するという特性から、海から出ることはできませんでした。

そんな魚類からも長い時間がたつと、ヒレが発達してからだを支えることができるようになるものが現れました。陸上への進出を可能にした、両生類の誕生です。完全に水辺から離れることはできませんが、陸上でもエサを探しながら体を休めることができるようになりました。このように、陸上進出を果たした両生類は、当初、ディプロカウルスアルケゴサウルスのように水辺で繁栄していました。

 

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陸上で進化した両生類(地球と生命の誕生と進化:清水書院)

 

やがて陸上で両生類の進化が進むと、哺乳類へとつながる「単弓類」と鳥類を含む爬虫類へとつながる「竜弓類」へと分岐します。単弓類の起源は石炭紀に遡るといわれています。単弓類の中でも初期に出現したものは、盤竜類(ディメトロドンなど)に分類されます。その盤竜類はペルム紀後期にはその姿を消し、それに代わって獣弓類(ディイクトドンなど)が出現しました。

ディメトロドン(次図左)は、ペルム紀の前期に出現し、現在の北アメリカ大陸に生息していた肉食動物で、哺乳類の祖先である単弓類(盤竜類)に分類されています。全長1.7~3.5mになります。ディイクトドン(次図左)は、ペルム紀後期に出現したとされる草食の単弓類(獣弓類)で、南アフリカで大量の化石が発見されています。ひとつの巣穴から多数の幼体の化石が一度に見つかったことから、つがいで育児を行っていたのではないかと考えられています。全長45~60cmの小型です。

プロキノスクス(右図)は、比較的初期に出現した単弓類(獣弓類)で、カワウソのような体形をしており、魚などを捕食していたのではないかと考えられています。やはり、全長約50cmの小型の爬虫類です。

 

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石炭紀からペルム紀に生息した単弓類 (地球と生命の誕生と進化:清水書院)

 

次図は、デボン紀後期から石炭紀、ペルム紀を通して、生物が両生類からどのように進化していったかを示したものです。四肢類(初期の両生類)の中で、羊膜を獲得した両生類の仲間が、哺乳類につながる単弓類と、恐竜、ワニ、トカゲの爬虫類につながる竜弓類に分かれていきました。

なお、爬虫類の仲間は頭蓋骨の側頭窓の数で分類します。頭蓋骨には鼻孔や眼窩孔の他に「側頭窓」と呼ばれる穴が開いています。無弓類、単弓類、双弓類というのは、片側から見た側頭窓の数がそれぞれゼロ、1個、2個という意味です。弓とは穴によって細くなった骨のことです。恐竜は双弓類なので、恐竜の頭蓋骨には8個の孔が開いています。ヒトは単弓類の仲間ですが、現在は無弓化しています。

 

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四肢類(初期両生類)からの動物の進化とその系統樹(NeoMag 編集作成)

 

[古生代の地球環境と生命活動(3)-4]史上最大の大量絶滅

石炭紀の次のペルム紀には巨大な両生類や爬虫類が繁栄しました。ところが、ペルム紀末の約2億5000万年前には、史上最大と称される生物の大量絶滅が生じました。「ペルム紀と二畳紀(P/T)境界イベント」です。これは古生代と中生代の地質年代境界でもあります。それだけ大きな生物種の入れ替わりが生じたということになります。

海洋に生息していた無脊椎動物の化石記録の統計によると、種レベルではなんと96パーセント以上、属レベルでも83パーセント、科のレベルでも57パーセントが絶滅したとされています。古生代に大繁栄していた三葉虫、古生代型サンゴ(板床サンゴや四放サンゴ)、フズリナなどが絶滅しました。

また海生脊椎動物についても、科のレベルで82パーセントが絶滅しました。これは顕生代においては最大の絶滅率になります。

大量絶滅の原因については必ずしも完全に分かっているわけではありませんが、原因となる地球レベルの大変化が複数提唱されています。以下、注目されている学説を2例紹介します。

 

<シベリア大噴火説>

海水準の低下によって浅海域に生息していた海生生物が生息場所を失ったことに加えて、同時期にシベリアで生じた「洪水玄武岩」と呼ばれる大量の溶岩を噴出する大規模な火成活動が注目されています。「シベリアートラップ」と呼ばれる、玄武岩質溶岩の噴出が、ちょうどP/T境界とほぼ同じ年代に生じたことが分かってきたのです。

次図のように、ペルム紀の末はゴンドワナ大陸やシベリア大陸などが次々と衝突して「パンゲア超大陸」が完成しつつあり、火山活動が活発になっていました。このため、マントル深部から上昇してきたスーパーブルーム(マントル対流の上昇流のうち特に大規模なもののこと)によって生じた火成活動で、当時噴出した溶岩の面積は700万平方キロメートル、総体積は400万立方キロメートルとも推定されています。これによって大規模な環境破壊が引き起こされました。地上は高温にさらされ、それまで30%近くあった酸素濃度がほぼ1/2に大きく低下しました。この大量絶滅によって地球上の生命の9割が淘汰されましたが、高温を避け、低酸素の環境にも耐えうる能力を持った生物のみ(気嚢システムを持つ鳥の祖先である恐竜のさらなる祖先を含む)が地上では生きながらえることができたといわれています。

 

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ペルム紀のパンゲア超大陸の完成(ブログ:古世界の住人)

 

<銀河宇宙線による地球寒冷化説>

ペルム紀末、2億6000万~2億5000万年前、太陽系は「暗黒星雲」と衝突しました。太陽系が暗黒星雲の内部を通過したため、大量の宇宙線が地球に降り注ぐこととなりました。

天の川銀河の内部には多くの暗黒星雲(分子雲)が分布しています。暗黒星雲は高密度・低温の星間ガスからなり、大きさは約0.2~174pc(パーセク)(1pc=約3.26光年)の広がりを持っています。太陽系は誕生から現在に至るまで、何度も暗黒星雲に遭遇していると推定されていて、遭遇の頻度は、1億年に1回程度だと考えられています。

こうした太陽系と暗黒星雲の衝突の証拠は、地球の地層内に残っています。地球外物質の証拠は、日本のP/T境界の黒色泥岩(Ne[ネオン]の同位体比)に残されています。暗黒星雲との衝突により、地球には大量の宇宙線が降り注ぎました。この結果、地球は大量の厚い雲に覆われ、これによって地球は、極寒期に入り、海水準は200mも低下しました。

なお、原生代からの何回かの全球凍結(スノーボールアース)やそれ以降の地球規模の寒冷化もこのような太陽系の移動と宇宙線が原因ではないかとされています。“銀河宇宙線と雲の量”については、[NeoMag通信5月号-原生代の地球環境と生命活動(1)-7]をご参照ください。)

 

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太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化

(第7回超新星ニュートリノ研究会:2021.01.07)

 

寒冷化はまず光合成によって酸素を生産する植物に大打撃を与えました。そのため、大気中の酸素濃度が低下していきました。そして、植物に続いて、両生類、爬虫類、昆虫が大量絶滅しました。幾度もの絶滅の後、順調に進化を続けるかに見えた地球の生物たちは、再び大きな試練を受けることになったのです。酸素濃度が減少した結果、高酸素に適応していた大型の両生類と爬虫類が大打撃を受け、昆虫が次々と死滅する一方で、貧酸素環境で生き延びていた嫌気性生物たちが再び地表に進出し始めました。

 

<その他の原因説>

前記2例の大量絶滅原因説は、「地球の高温化」と「地球の寒冷化」という対照的な環境変化を基にしていて興味深いところです。しかし、いずれも最終的には、地球の酸素の欠乏が原因としています。

この2例の原因説の他にも、本章でも触れました「二酸化炭素濃度の低下による寒冷化」、「洪水玄武岩の噴出に伴う厳しい寒冷化」、「酸性雨の影響」など、いくつかの説が提唱されています。いずれにせよ、P/T境界における大量絶滅イベントの影響は、次の中生代三畳紀に入ってからも長く続き、生物多様性の回復には数百万年を要したことが分かっています。しかし、それは次の時代をつくる準備期間でもあり、やがて人類へと続く、新しい生物の誕生の序章でもありました。

 


 

今回は、顕生代のうち、古生代後期の石炭紀、ペルム紀について、「石炭の形成と酸素濃度の上昇」、「二酸化炭素濃度の低下」、「両生類から爬虫類への進化」、「史上最大の大量絶滅」などについてお話をさせていただきました。次回からは、中生代についてのお話をしたいと思います。生物がさらに進化して、いよいよ恐竜や哺乳類の登場になります。

 

<参考・引用資料>

◆Web

・「石炭紀の森シミュレーター」ブログ:休日日曜百姓の野良流宇夢(ノラリュウム)実践記

https://ameblo.jp/mihhuh/entry-12534489413.html

・「地球46億年の歴史(2)大気の歴史・空気の歴史」ガスの科学・ブログ 2017.11.18

http://www.pupukids.com/jp/gas/index.html

・「地球の大気と水」国立環境研究所 環境展望台・環境学習

https://tenbou.nies.go.jp/learning/note/theme1_1.html

・「3億年前の痕跡、最古の飛翔昆虫の化石」NATIONAL GEOGRAPHIC 2011.04.08

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4082/

・「時代別・分布別動物図鑑:古生代」オフィシャルブログ・古世界の住人

http://paleontology.sakura.ne.jp/

・「爬虫類の分類方法を知っていますか?」ブログ・わたしの本棚 2019.10.04

http://levin2018.xsrv.jp/wp/dinosaur4/

・「鳥は爬虫類ですか?(第3版)」生きもの好きの語る自然誌 2010.11.24

https://tonysharks.com/Algae_Column/Etcetra/Bird/Bird.html

「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07

https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf

「変わる大気中のCO2濃度 3億年前の氷河時代と同じ現在」エコノミスト Online 2020.12.14

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201222/se1/00m/020/072000c

◆書籍

・「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

・「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

・「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版

・「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

・「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会

・「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社