前3章では、約5億4千万年前~2億5千万年前までの古生代の地球環境と生命活動について、詳細に調べてきました。特に、前章では石炭紀の「石炭の形成と酸素濃度の上昇」、「二酸化炭素濃度の低下と寒冷化」、ペルム紀の「両生類から爬虫類への進化」、「史上最大の大量絶滅」、などについてお話をしました。今月からは、恐竜が主役となった約2億5千万年前~6千6百万年前の「中生代」について、生物がさらに多様化、大型化していった過程を検証していきたいと思います。
顕生代の代区分と紀区分の関係(NeoMag作成)
[中生代の地球環境と生命活動(1)-1]哺乳類の誕生
古生代末の大量絶滅後、中生代の三畳紀(約2億5200万~約2億年前)には生物多様性が回復しまし た。中生代には、六放サンゴ、セラタイト型アンモナイト、ベレムナイト、翼形二枚貝、放散虫、貝蝦 (かいえび)、ウミユリなどが繁栄したことが知られています。
そして、同じ時代に、ついにキノドン類の中から、「哺乳類」が誕生しました。現在発見されている 中で“最古の哺乳類"とされているのは、アデロバシレウスである。その化石はアメリカ・テキサス州西 部の2億2500万年前(三畳紀後期)の地層で発見されました。
アデロバシレウス想像図 (Wikipedia)
彼らは卵を産んで繁殖していました。体長は10cmから15cmで、現在のトガリネズミのような外見をし ていて、主として昆虫やミミズなどを食べる夜行性動物だったと考えられています。ちなみにアデロバ シレウスとは“目立たない王”という意味になります。彼らはその名のとおり、爬虫類が繁栄する森の 中で、ひっそりと身を隠しながら生きていたと考えられています。
[中生代の地球環境と生命活動(1)-2]恐竜の誕生と爬虫類の大型化
アデロバシレウスが出現したのとほぼ時を同じくして出現したのが「恐竜」です。エオラプトルは約 2億2800万年前頃に南米で生息していた最古の恐竜のひとつとされています。体長約1mと小型ですが、 恐竜の特徴である中空の骨を持ち、顎には多数の歯がありました。分類は獣脚類ですが、獣脚類と竜脚 類の特徴を併せ持っています。現在知られている恐竜の中でも最も原始的だと考えられ、恐竜に含めな い研究者もいます。恐竜時代の黎明期に存在したことから、名前は“夜明けの泥棒”という意味です。
エオラプトル想像図(地球と生命の誕生と進化:清水書院)
その後、三畳紀後期にはサウロスクスやプラテオサウルスなどの大型の恐竜が出現してきました。 次図の系統樹は、最新の分類を元に、中生代の動物を中心に整理・概略化したものです。
中生代の動物の進化とその系統樹(NeoMag 編集作成)
一方、恐竜が生息していた中生代には、恐竜に似た大型爬虫類が繁栄していたことがよく知られてい ます。イクチオサウルスなどの「魚竜」、プレシオサウルスなどの「首長竜」、プテラノドンなどの「翼 竜」、などです。しかし、これらは、恐竜とは系統的に異なるものです。
イクチオサウルス(魚竜)
プレシオサウルス(首長竜)
プテラノドン(翼竜)
[中生代の地球環境と生命活動(1)-3]恐竜の巨大化と大繁栄の時代
恐竜は、前章でも触れましたが、四肢動物の分類群の一つとしての双弓類(頭蓋骨の両側に側頭窓と いう穴をそれぞれ2つ持つ)から分かれた鳥盤類と竜盤類の系統を指します。竜盤類は、さらに竜脚形 類と獣脚類に分かれます。鳥盤類にはトリケラトプスやステゴサウルスなどが、竜脚形類にはブラキオ サウルスやディプロドクスなどが、そして獣脚類にはティラノサウルスやヴェロキラプトルなどに加え て始祖鳥をはじめとする鳥類が含まれます。そのため、分類学的には、恐竜とは「現生鳥類とトリケラ トプスを含むグループの最も近い共通祖先より分岐したすべての子孫」と定義されます。
逆に、現生の鳥類は「竜盤類」中の「獣脚類」に分類され、「恐竜類の唯一の生き残りである」と認 識されるようになっています。恐竜は、完全には絶滅していないのです。実際、最近の研究からは、獣 脚類には羽毛を持つものが多かったらしいことが分かっています。
次図は恐竜類の最新の分類です。この系統樹によれば、鳥の祖先は恐竜ということになります。
恐竜の分類と特徴
(NeoMag 編集作成-参考:福井県立恐竜博物館)
恐竜の特徴は、「二足歩行する爬虫類」であることで、巨大な尾を使ってバランスを取っていたもの と考えられます。これは恐竜の最もきわだった特徴といえるでしょう。恐竜とは「直立歩行に適した骨 格を持った爬虫類」なのです。恐竜は、三畳紀において、エオラプトルのようにまだ小さい生き物でし たが、やがてジュラ紀から白亜紀にかけて巨大なものが現れるようになり、史上最大級の動物となりま した。ジュラ紀後期になるとスーパーサウルスのような体長33メートル以上、体重が40トンを超える ような超巨大なものも出現しました。
ステゴサウルス(装盾類)
トリケラトプス(周飾頭類)
イグアノドン(鳥脚類)
ブラキオサウルス(竜脚類)
ティラノサウルス(獣脚類)
始祖鳥(獣脚類)
通俗的には、「恐竜」という言葉は往々にして「大昔の爬虫類」という程度の把握しやすいイメージ で認識されており、同じ地質時代に生息していた翼竜や魚竜・首長竜のほかに、古生代に生息していた 一部の非哺乳類型の単弓類(いわゆる哺乳類型爬虫類)なども含めた概念として呼ばれる場合が少なく ありません。いわゆる“恐竜展”や子ども向けの“恐竜図鑑”などではこれらの各種爬虫類や、さらに は恐竜絶滅後の生物(マンモスなど)まで含めて展示・掲載するものがよく見られます。しかし、前項 で触れましたように、恐竜は系統的に異なる翼竜、首長竜、魚竜などは一切含まない独立した分類群に なります。この分類群、すなわち恐竜類はそのもっとも際立った特徴をして「直立歩行に適した骨格を 持った、地上棲の爬虫類」と呼ぶことができます。
[中生代の地球環境と生命活動(1)-4]低酸素時代の恐竜の呼吸器官
恐竜は、中生代のジュラ紀から白亜紀にかけて大繁栄しましたが、この理由の一つは、独自の呼吸器官の獲得によるものではないかと考えられています。
私たち哺乳類は、横隔膜を使って肺を膨らましたり縮めたりして呼吸をしています。しかし獣脚類は、「気嚢(きのう)」と呼ばれる袋を体の中にいくつも持ち、それを使って肺に酸素を送り込み、効率的に呼吸できたと考えられます。これは現生の鳥類と同じ呼吸システムです。気嚢システムは、三畳紀からジユラ紀にかけて、大気中酸素濃度が13パーセント程度にまで低下したころ、獣脚類が獲得した仕組みのようなのです。恐竜は、この効率的な呼吸システムを持つことができたために、酸素濃度の低下した中生代において繁栄できたのかもしれません。
次図は前章でもご紹介しましたが、古生代の石炭紀・ペルム紀では酸素濃度が高く、且つ寒冷期でした。ところが、中生代では一転して温暖な気候になりましたが、酸素濃度が低下して、わずか13パーセント(富士山の山頂と同レベル)になった時期もあったことを表しています。
酸素・二酸化炭素の濃度変遷
(ガスの科学・ブログ:NeoMag 編集)
[中生代の地球環境と生命活動(1)-5]恐竜類の進化・拡散と大陸の配置
パンゲア大陸は、石炭紀からペルム紀にかけて、北側のローラシア大陸(現在の北アメリカ大陸とグリーンランド、ヨーロッパの一部)とバルティカ大陸(現在のユーラシア大陸北西部)が合体したユーラメリカ大陸、シベリア大陸、南側のゴンドワナ大陸(現在の南アメリカ大陸、アフリカ大陸、インド 亜大陸、オーストラリア大陸、南極大陸など)が衝突することによって形成されました。
パンゲア大陸は中生代まで存在し続けますが、ジュラ紀の約1億8000万年前以降、新生代までの何段階かにわたって分裂を繰り返しました。
パンゲア大陸は、まず北側のローラシア大陸と南側のゴンドワナ大陸に分裂し、さらにゴンドワナ大陸は、南アメリカ大陸とアフリカ大陸に分裂し、南極大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸などが分裂して、最終的に現在のような海陸配置になったのです。
現在見つかっている最古の恐竜、エアラプトルの化石は三畳紀後期のもので、アルゼンチンで発見されました。しかし、三畳紀後期には、恐竜はすでに南半球から北半球の多くの場所で繁栄し、大型の草食竜、鳥竜、そして大小様々な肉食竜など、すでに多種多様に進化していました。
また、ジュラ紀(2億~1億4500万年前)の中期になると、特にアジアで恐竜が多様化し、「周飾頭類」に属する「角竜類」のトリケラトプスなどが新たに誕生したことが、化石の産出からわかっています。
恐竜類の進化・拡散と大陸の配置
(NeoMag 編集作成-参考:地球と生命の誕生と進化)
白亜紀(1億4500万~6600万年前)の前期には、ローラシア大陸、南米大陸、アフリカ大陸が完全に分断され、恐竜の多様化と生息地の拡大が主にローラシアで進みました。そして、絶滅の直前の白亜紀末期には、ローラシア全域に多種多様な種類が分布するようになりました。
このような恐竜の多様化はローラシア大陸で特に顕著に起きたと言えます。なぜなら、それはローラシア大陸融合によって「冠進化」(各大陸上で孤立進化してきた生物たちの交雑が進み、様々なバリエーションの生物へと進化すること)が起きたからです。ローラシア大陸は、三畳紀に7~8個の大陸が衝突・融合して成立しました。このときに恐竜の交雑が進み、史上最大規模の冠進化が起きたのです。
今回は、顕生代のうち、中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀について、「動物の系統樹」、「爬虫類から恐竜への進化」、「恐竜の分類」、「恐竜の拡散と大陸配置」などについてお話をさせていただきました。次回は、白亜紀末期の「天体衝突と寒冷化による恐竜の絶滅」を中心としたお話の予定です。
<参考・引用資料>
◆Web
「恐竜の系統樹に大きな変更あり」ブログ:わたしの本棚 2019.10.04
http://levin2018.xsrv.jp/wp/dinosaur3/
「恐竜」ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%90%E7%AB%9C
「爬虫類と恐竜の違いって?」ブログ:ことくらべ
https://kotokurabe.com/reptiles-dinosaur/
「恐竜の分けかたは?:恐竜・古生物 Q&A」福井県立恐竜博物館
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02003.html
「鳥盤類と竜盤類」かがくナビ スリーエム仙台市科学館
http://www.kagakukan.sendai-c.ed.jp/wp/navi/4f_s_chi/4fstori.pd
「地球46億年の歴史(2)大気の歴史・空気の歴史」ガスの科学・ブログ 2017.11.18
http://www.pupukids.com/jp/gas/index.html
「時代別・分布別動物図鑑:古生代」オフィシャルブログ・古世界の住人
http://paleontology.sakura.ne.jp/
「爬虫類の分類方法を知っていますか?」ブログ・わたしの本棚 2019.10.04
http://levin2018.xsrv.jp/wp/dinosaur4/
「鳥は爬虫類ですか?(第3版)」生きもの好きの語る自然誌 2010.11.24
https://tonysharks.com/Algae_Column/Etcetra/Bird/Bird.html
「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07
https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf
「変わる大気中のCO2濃度 3億年前の氷河時代と同じ現在」エコノミスト Online 2020.12.14
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201222/se1/00m/020/072000c
「恐竜超世界 2 前編 ~巨大恐竜の王国 ゴンドワナ大陸」NHK スペシャル 2023.03.21 放送
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2023126403SA000/
「恐竜超世界 2 後編~恐竜絶滅の“新たなシナリオ”」NHK スペシャル 2023.03.26 放送
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2023126406SA000/
◆書籍
「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房
「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院
「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版
「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店
「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会
「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社