希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

地球科学と生命の誕生・進化(16)<新生代の地球環境と生命活動(2)>

前月は、6600万年~2303万年前の恐竜が絶滅した後の新生代/古第三紀について、「哺乳類を含む小 型動物の小繁栄」やプレートテクトニクスによる「大陸移動・造山活動」、「大きな気候変動とその要因」 などについてお話をいたしました。今月は、古第三紀から新第三紀の、ヒト(人類)の誕生につながる 「霊長類の出現と進化」を中心に調べてみました。

image20240201

顕生代の代区分と紀区分の関係 (NeoMag 編集)

 

[新生代の地球環境と生命活動(2)-1]霊長類の進化と分類

<霊長類(サル目)の出現>

ヒトが属する「霊長類」は、「霊長目」または「サル目」とも呼ばれ、その起源は約6600万年前の白 亜紀末までさかのぼります。北米大陸で誕生したプレシアダピス類は、新生代の暁新世前期から始新世 にかけて北米大陸からヨーロッパに生息していました。ただ、プレシアダピス類は霊長類の近縁ではあ るが真の霊長類ではないという見方もあり、“偽霊長類”とも呼ばれます。

image20240202

カルポレステス(分類:哺乳類・プレシアダピス目・カスポレステス科) *古世界の住人より

 

プレシアダピス類の衰退とともに、古第三紀・暁新生にはアダピス類オモミス類が現れます。これ らは原始的な霊長類で、北米大陸とヨーロッパで繁栄しましたが、北米大陸のものは何らかの理由で絶 滅してしまいます。アダピス類とオモミス類は、それぞれ曲鼻猿類(曲鼻猿亜目)直鼻猿類(直鼻猿 亜目)へと進化しました。このうち曲鼻猿類は、その後アフリカからマダガスカル島にわたり、外界か ら隔絶した環境下でキツネザル下目ロリス下目へと進化しました。一方、直鼻猿類は、メガネザル亜 目真猿亜目に分岐し、真猿亜目は、始新世中期から漸新生前期(4000万~3000万年前)に、「広鼻猿 類(広鼻下目)」「狭鼻猿瑣(狭鼻下目)」に分岐します。

image20240203

ノタルクトゥス(分類:哺乳類・霊長目(サル目)・アダピス類 *古世界の住人より

 

image20240204

テイヤールディナ(分類:哺乳類・霊長目(サル目)・オモミス類 *古世界の住人より

 

image20240205

ワオキツネザル

(哺乳類・霊長目・原猿亜目)

image20240105

ホソロリス

(哺乳類・霊長目・原猿亜目)

image20240107

ニシメガネザル

(哺乳類・霊長目・ロリス上科)

 

<新世界ザル(広鼻猿類)>

広鼻猿類は、文字通り鼻の穴の間隔が広く、穴が外側に向いているのが特徴です。そして南米大陸で 繁栄していることから、「新世界ザル」とも呼ばれます。 このように、北米大陸の霊長類はすでに絶滅しているので、広鼻猿類はアフリカ大陸から海をわたっ てきたことになります。当時の南米大陸とアフリカ大陸は現在よりも近かったため、流木などに乗って 漂流しながら海を渡ったのではないかと考えられているようです。広鼻猿類は、現在南米大陸で繁栄し ているクモザル科サキ科ヨザル科オマキザル科に分岐しました。

 

<旧世界ザル(狭鼻猿類)>

これに対して、狭鼻猿類とは文字通り鼻の穴の間隔が狭く、穴が下もしくは前を向いているのが特徴 です。狭鼻猿類はオナガザル上科ヒト上科(類人猿)に分岐します。オナガザル上科はさらにニホン ザルを含むオナガザル亜科コロブス亜科に分岐します。これらは、アフリカ大陸からアジアに生息し ていることから、ヒト上科を除いた狭鼻猿類(つまりオナガザル上科)を「旧世界ザル」ともいいます。

 

image20240208

サル目の系統樹(1) (「46億年の地球史」三笠書房:NeoMag 再編集)

 

<類人猿(ヒト上科)>

今から2800万~2400万年前ごろの漸新世に、狭鼻猿類からヒト上科が分岐しました。ヒト上科は、 「類人猿」とも呼ばれ、テナガザルオランウータンチンパンジーゴリラヒトが含まれます。 ヒトに似た形態と高い知能を持ち、社会生活を営んでいるのが特徴です。そしてヒト上科はテナガザル科 とヒト科に、1300万年前、ヒト科はオランウータン亜科ヒト亜科に、650~1000万年前にヒト亜科は ゴリラ族ヒト族に分岐します。

そして、今から約500~700万年前の中新世メッシニアン期において、ヒト族が「チンパンジー亜族」 と「ヒト亜族」に分岐しました。ヒト亜族とは、直立二足歩行をする方向へ進化したグループで、いわ ゆる。人類のことです。すなわちこれが、人類の出現です。新生代における霊長類の長い進化を経て、 ようやく人類が誕生したのです。

image20240209

サル目の系統樹(1) (明治大学 蛭川研究室:NeoMag 再編集)

 

[新生代の地球環境と生命活動(2)-2]ヒトがサルと分岐した年代

前2図のように、ヒト族はヒト亜科に含まれる族の一つです。ヒト亜科の下にチンパンジー亜族を含 めたヒト族とするものと、ヒト族の下にヒト亜族、チンパンジー亜族とを並列にわける場合があります。 後者でのヒト族には、それらの絶滅した祖先のみが属する現生は、(1)ヒト亜族のヒト、(2)チンパンジ ー亜属のチンパンジー、(3)ボノボ(ピグミーチンパンジー)の三種のみが含まれます。

詳細は次項に記述しましたが、分子的な証拠では 、656万年前±26万年にヒト族へと続く系統からゴ リラ族が分かれ、ヒト族から487万年前±23万年にチンパンジー亜族がヒト亜族とに分岐したとしてい ます。ゴリラ族との分岐を約1000万年前、チンパンジー亜族との分岐を約700万年前とする研究もあり ます。

チンパンジー属に絶滅した種は見られず、ヒト属の方にだけ偏っているのは興味深い事実です。しか し種分化が起こった頃に絶滅した化石人類といわれている「オロリン属」「サヘラントロプス属」が、 ヒト属とチンパンジー属の共通の祖先であると考えられています。

 

<分子進化時計による分岐年代推定>

1960 年、エミール・ズッカーカンドルとライナス・ポーリングにより、生物進化に関する重要な発見 がなされました。彼らは、比較した生物間で観察されるアミノ酸の置換数と、化石から知られている生 物の分岐年代との間にきれいな直線関係があることを見出しました。これが「分子進化時計」の発見で す。

この分子進化時計を応用することにより、種の間で観察される塩基置換数(遺伝距離)から、生物の 種が分かれた年代を推定することができます。次図ではミトコンドリアDNAの全塩基配列をもとに、非 同義置換数とRNA遺伝子における置換数を求め、それに基づいて遺伝距離を計算し、系統樹を作成した ものです。

image20240210

ヒトおよび4種の類人猿の系統関係と分岐年代 (遺伝学電子博物館:NeoMag 再編集)

(枝上の数値は指定された塩基置換数を示す)

 

この系統樹から読み取れることは、まずオランウータンが最初に枝分かれしていることです。その後 ゴリラが枝分かれし、続いてヒトと二種のチンパンジーの共通祖先が分岐し、最後にチンパンジーとボ ノボ(ピグミーチンパンジー)が枝分かれしています。つまり、現存する動物でヒトにもっとも近縁な のは、2種のチンパンジーということになります。

系統樹の各枝の長さは遺伝距離に相当し、それぞれの種が分岐した絶対年代にほぼ対応します。そし てオランウータンの分岐年代(すなわち1300万年前)を用いることによって、各種の分岐年代を推定す ることができます。その結果、ゴリラの分岐年代が656プラスマイナス26万年前、ヒトの分岐年代が 487プラスマイナス23万年前、チンパンジーとボノボの間の分岐年代が233プラスマイナス17万年前 となりました。

 

ここで各年代の推定値についている誤差(プラスマイナスの後の数字)に注目してみると、10数万 から20数万年になります。したがって、推定した各年代どうしは決して重なり合うことはありません。 このように小さな誤差しか現れないのは、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し分析ができたから に他なりません。これにより、ヒトとチンパンジーは約490万年前に分岐したと結論してさしつかえな いでしょう。

それにしても、1960年代にサリッチやウィルソンがヒトとアフリカ類人猿の分岐を約500万年前とし たのは、ほぼ正しかったのです。さらに宝来ら(著書:DNA 人類進化学)による分析から、アフリカ類 人猿のなかではゴリラがまず分岐したことが、はっきりと示されたのでした。

 

image20240211

チンパンジー(哺乳類・霊長目・真猿亜目・狭鼻猿下目) *古世界の住人より

image20240212

ボノボ(哺乳類・霊長目・真猿亜目・狭鼻猿下目) *古世界の住人より

image20240213

ゴリラ(哺乳類・霊長目・真猿亜目・狭鼻猿下目) *古世界の住人より

image20240214

オランウータン(哺乳類・霊長目・真猿亜目・狭鼻猿下目) *古世界の住人より

 


 

今月は、古第三紀から新第三紀の間のヒト(人類)の祖先である霊長類(サル目)の進化、分岐につ いて調べてみました。そして、ヒトが人類としてサルから分岐するまでの過程および年代についても勉 強できました。人類の祖先はおよそ500万年から700万年前にサルから分かれたわけで、現代人になる までに、いかに長い年代を費やしていたかということです。次回は、この人類の進化の過程を中心にし たお話にする予定です。

 

<参考・引用資料>

◆Web

「類人猿が出現した新第三紀」HugKum 小学館 2023.06.14

https://hugkum.sho.jp/491276

「チンパンジーの進化 その1」札幌円山動物園

https://www.city.sapporo.jp/zoo/chimpanzee/shinka-1.html

「サル目(霊長類)の系統分類と進化史」Hatena Blog 明治大学 情報コミュニケーション学部 蛭川研究室

https://hirukawa.hateblo.jp/entry/Primates

「旧世界ザルの色覚はヒトと同じ」“脳の世界”中部学院大学 三上研究室

http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/25-2/index-25-2.htm

「ヒトがサルと分かれた日:DNA 人類進化学」遺伝学電子博物館

https://www.nig.ac.jp/museum/evolution-x/02_c.html

「霊長類学への招待」松沢哲郎 Kyoto University Research Information Repository

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/192771/2/spe_1.pdf

 

◆書籍

「DNA 人類進化学」宝来聰著 岩波科学ライブラリー52

「46 億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版

「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会

「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社