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地球科学と生命の誕生・進化(20)<近代文明と気候変動>

前章では、更新世・最終氷期末期の温暖化の始まりと同時に、人類は新しい文明を築き始めたお話でした。人類は農耕による食料調達の方法を見つけ、さらに灌漑農耕により四大文明を発展させました。そして、周期的な温暖期の訪れの中で、紀元前2000年ころのエーゲ海のミノア文明、そして紀元前後のギリシャ文明・ローマ文明へと人類は繁栄を加速していきました。

今月は、紀元前後のミノア温暖期とローマ温暖期を経て、次の中世の温暖期に起こった「中世の動力革命(中世の産業革命)」と、小氷期を経て、現代温暖期に移行し始めたころの「産業革命」および近代における人類の繁栄についてのお話になります。

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地球誕生からの時代区分(NeoMag編集)

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1万1千年間の北極圏の気温変化(Climate4you)

 

[近代文明と気候変動-1]中世温暖期と近代文明のはじまり

中世の温暖期とは、ヨーロッパの中世に相当する時期、およそ8世紀から13世紀(西暦700年から1200年)にかけて続いたヨーロッパが温暖だった時期を指します。

この時代は封建社会であり、ローマ・カトリック教会の修道院は自己の精神的エネルギーを西ヨーロッパ農地の開墾に集中させました。また文化の中心として技術革新と水車や風車の利用を普及させて、西ヨーロッパに新たな固有の農業を発達させました。農業技術の開発と動物エネルギーの重用は新しい工業技術の開発を促しました。

11世紀に入るとフランスでロマネスク建築が広まり、12世紀前半にはゴシック建築が始まりました。 同じころ、中国で磁石の原理によって方向を知る道具「羅針盤」が 発明され12世紀後半にはミラノ運河や北イタリア諸運河が着工されました。さらに、大規模な水車や風車の実用化など、13世紀には技術革新が自然を支配する西欧近代文明への方向付けがなされたことから、この時代は「中世の産業革命」 あるいは「中世の動力革命」とも呼ばれています。

ヨーロッパではこの時期、バイキングが凍結していない海を渡ってグリーンランドに入植するなど、より北方へ領土を広げたことが知られています。また農業生産力が拡大し、人口増加・経済の復興などが見られ、そのエネルギーはロマネスク建築やゴシック建築物の建設や十字軍の派遣などへと向かっていきました。

 

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中世の水車小屋

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中世の風車小屋

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ノートルダム教会(11世紀:ロマネスク)               ノートルダム大聖堂(12世紀:ゴシック)

 

そのほかの特筆すべきこととして、当時のイギリスではブドウ栽培が盛んだったようです。現在のイギリスではごく小規模なブドウ園しかなくワインはほとんど生産されていませんが、中世の温暖期だった11世紀〜13世紀にはイングランド中にかなり大規模なブドウ園が存在し、ワインの生産が盛んでした。ただし、後に来る小氷期の低温によりブドウ園は全滅しました。

また、この時代の日本では、青森県の八戸藩飢饉一千年小史によると、過去1300年くらいの災害や飢饉の記録がありますが、874年から1229年までの357年間にはなぜか飢饉・凶作の記録がありません。一方、同じ平安時代の西日本では大旱魃で飢饉が頻発しています。

その後、この温暖期のあと小氷期に入り19世紀まで寒冷な時期が続き、その後に現在の温暖化が始まっています。日本でも歴史気候学の研究が行われていて、屋久杉の年輪の炭素同位体比の分析や平安海進の痕跡から、ヨーロッパ中世に相当する時代に温暖な時期があったことが示されています。

 

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バイキング教会の遺跡(グリーンランド)

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中世イギリスのブドウ園(イメージ)

 

[近代文明と気候変動-2]中世の小氷期

中世温暖期のあとは“小氷期”(ミニ氷河期。1350~1850年ごろ)になりました。当時は世界各地が寒かったらしいのです。ロンドンでは冬にテムズ川が凍りつき、氷上で冬祭りをしたことが古い文書や絵画に残っています。江戸時代の日本では冷害や飢饉がよく起きました。

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絵画に残るロンドン・テムズ川の結氷の様子

 

この13世紀後半から始まった小氷期は、ヨーロッパにおける開墾を不可能にし、穀物の収穫量を著しく低下させました。また、14世紀初頭から起こった食糧不足は3度の大飢餓を引き起こし、これに加えて、14世紀と15世紀の西ヨーロッパでは、百年戦争やバラ戦争など戦争の多発とペストの流行が人口の減少をもたらし、社会全体が崩壊するかのような状況に陥ったようです。しかし、西ヨーロッパにおける人口の減少は15世紀に新しい社会改革をもたらしました。労働力不足は、牧畜を発達させ、農業や工業における労働の生産力を機械化させ、「労働地代(賦役)」「貨幣地代(貢納)」 に切り換えさせました。これは来るべき産業革命と貨幣経済の先駆けであると考えられています。

 

[近代文明と気候変動-3]小氷期の終了と氷河の後退

ここで、氷河の前進・後退の理由を考えてみます。近年、温室効果ガス・二酸化炭素(CO2)の起こす温暖化が世界各地の氷河を減らしている(後退させている)という話が溢れています。ヒマラヤの氷河が解けて、氷河から流れ出る川がバングラデシュに洪水を起こすという話もあります。

本当にそうなのでしょうか?人為的CO2(人間活動)のせいなら、氷河の後退が目立ち始めたのはCO2が増加し始めた 1940年以降のことになる筈です。しかし過去の資料も当たってみると、氷河の後退は18~19世紀から始まっています。例えば、米国のアラスカ州にグレイシャー湾という場所があります(グレイシャー=氷河)。2001年7月に米国地質調査所が発表したデータ(次図左)によれば、そこの氷河は 1700年代(18世紀)の後半から後退を始め、1940年代にはほぼ100kmの後退を終えて、地名どおりの湾になっています。1700年から1940年までの世界のCO2量は、280ppm前後でほとんど一定だったことがわかっていますので、グレイシャー氷河の後退はCO2による急激な温暖化のせいではないといえます。

以上の事実より、小氷期からの回復に伴う気温上昇が氷を解かしていったと考えた方が自然ではないでしょうか。この時代とは別に、紀元前後のローマ温暖期でも、カルタゴ・ハンニバル軍が象を引き連れてアルプス越えができた理由は、温暖化で一旦アルプスの氷河が融解し、後退したことにあると思われます。

 

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現在のグレイシャー国立公園(アラスカ)

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氷河の先端があった年代の変遷

 

[近代文明と気候変動-4]小氷期後の産業革命

その後、小氷期を抜け、温暖期に移行し始めたころ、世界各地における国家の興亡や文明の盛衰の中で、18世紀後半のイギリスで産業革命が始まりました。これは、蒸気機関や機械の発明による工業化で産業構造が大きく変化し、それに伴って交通や経済、社会の構造の変革が起こったことを指します。

産業革命以降、人類の文明は加速的に発展し、現代における人類の繁栄に至ります。人類の人口は70億人以上に達し、食料や資源・エネルギー、環境などの面で持続可能性を問われる状況におかれています。特に化石燃料の消費による地球温暖化は人間活動による“地球史上6回目の大量絶滅”だとヒステリックに叫び始めた人々も出てきています。

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蒸気機関の発明と産業革命

 

このように、人問活動は環境や生態系に影響を与えるようにまで大きくなっています。その活動の痕跡は、地層に記録されうるほどの影響を持つようになったため、「人類世または人新世」と呼ぶべき新たな地質時代を定義すべきではないかという議論があります。

もしそのような地質時代を認定する場合、それがいつ始まったのかの定義が必要です。例えば、「人新世の開始は農耕の開始や産業革命などで定義する」という提案もありますが、有力なのは、「世界初の核実験が行われた 1945年を人新世の開始時期として定義する」という提案です。その理由は、放射性降下物がマーカーとして地層に記録されているからです。この議論がどうなるかはまだ分かりませんが、人間活動の大きさを改めて認識する事例といえます。

地球の46億年の歴史から見れば、人類が文明を築きあげた時間はほんの一瞬に過ぎません。しかし、地球史的観点からすれば、人間活動によってもたらされた現代の状況が今後どのような結果をもたらし、我々の文明の寿命があとどのくらい続くのかが、重要な問題だといえるでしょう。

 


 

以上で今月のお話は終了いたします。

人類が飛躍的に進化し、築き上げた四大文明、ミノア文明、ローマ文明などの古代文明から近代文明まで、ほぼ5000年経過していますが、人類がサルから分岐した700~500万年前を考えると、まだほんのわずかな期間に過ぎません。しかし幸運なことに、このわずかな期間は、完新世の温暖な気候に恵まれ、全球凍結も本格的な氷期もありませんでした。さらに、数億年前の植物や生物が化石となり、自由に使えるエネルギーを人類に与えてくれたのです。これらの幸運が、これからどのくらい続くのかわかりませんが、少なくとも人類は、“気候変動”と“エネルギー源”についての課題を、未来に向けて少しずつクリアーしていかなければならないのは確かだと思います。

次回は、“人類の未来と気候変動”についてのお話を予定しています。

 

<参考・引用資料>

◆Web

「天文学的要因が左右する更新世前期の地球の気候と氷床量変動」国立極地研究所

https://www.nipr.ac.jp/info2023/20230515.html

「Global temperatures」Climate4you

https://www.climate4you.com/GlobalTemperatures.htm

「中世の教会建築『ゴシック聖堂』って?楽しむためのポイント解説」イロハニアート 2021.11.04

https://irohani.art/study/5626/

「中世の教会建築『ロマネスク様式』って?歴史背景と楽しみ方を解説」イロハニアート 2021.11.11

https://irohani.art/study/5720/

「産業革命」ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E9%9D%A9%E5%91%BD

「英国経済が工業中心になったことはない、では産業革命とは?」MONEY PLUS 2017.09.24

https://media.moneyforward.com/articles/709

「気候変動と文明の盛衰」小泉 格 Journal of Geography 116 (1) 62-78 2007

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/116/1/116_1_62/_pdf

「年輪中炭素14測定」名古屋大学 宇宙地球環境研究所 宇宙線研究部(CR研究室)HP

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/CR/

 

◆書籍・文献

「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版

「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会

「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社

「人類史マップ」テルモピエバニ、他(著) 出版元:日経ナショナルジオグラフィック社

「地球温暖化狂騒曲・社会を壊す空騒ぎ」渡辺 正(著)、丸善出版