前回は、長く厳しい氷期の時代を生き延びた人類が、ミノア温暖期とローマ温暖期を経て、次の中世温暖期の「中世の動力革命」、小氷期を挟んで現代温暖期に移行してからの「産業革命」などの工業の発展により急速な繁栄を開始したお話をしました。
今月、来月は、いよいよ“地球科学と生命の誕生・進化”の最終章となります。最終章は、“人類の未来と気候変動”についての2回の章となります。本章では、読者もご存じの「化石燃料による人為的地球温暖化危機」について掘り下げてみようと思います。
地球誕生からの地質時代区分(NeoMag編集)
[人類の未来と気候変動(1)-1]地球が残してくれたエネルギー資源
前回の最後にもお話をしましたが、人類が飛躍的に進化し、築き上げた四大文明、ミノア文明、ローマ文明などの古代文明から近代文明まで、ほぼ5000年経過しています。しかし、人類がサルから分岐した700~500万年前を考えると、まだほんのわずかな期間に過ぎません。ところが幸運なことに、このわずかな期間は、完新世の温暖な気候に恵まれ、全球凍結も本格的な氷期もありませんでした。
古代地球が残してくれたエネルギー(学研・キッズネット)
さらに、1~4億年前のシダ植物やプランクトンなどの生物の化石を石炭や石油のエネルギー資源として、地球が人類に与えてくれたのです。これらの幸運が、これからどのくらい続くのかわかりませんが、少なくとも人類は、未来を左右する“気候変動”を科学的に理解し、対応してゆかなければなりません。もし、“利用しているエネルギー”または“利用しようとしているエネルギー”が人類の未来を憂鬱なものにする恐れがあるとすれば、これらの課題を、未来に向けて少しずつクリアーしてゆかなければならないでしょう。
[人類の未来と気候変動(1)-2]化石燃料による気候危機
<IPCCの発足>
1988年、国連の「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」が発足して急速に「地球温暖化」議論が盛んになりました。そして、1997年12月11日、第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)において「気候変動枠組条約に関する議定書(京都議定書)」が採択されました。
IPCCが生まれた1988年は、「気候が変動しているかどうかも、人間活動が気候にどれほど影響するかも未知数・・・」というNASAの公式見解を無視して、NASAの科学者ジェームズ・ハンセンが、温暖化対策の緊急性を連邦議会で訴えた年でもあります。
この「人為的CO2温暖化は99%確実」というハンセン発言が世界を動かしました。ニューヨークタイムズ紙は「今日の公聴会でハンセンは『温暖化の議論は、温室効果と気温上昇の因果関係が確実といえる段階に達しました』と証言し、『温暖化はもう進行中なのです』と強調した」と報じています。さらに、当時の民主党上院議員であったアル・ゴア(のちの副大統領)を味方につけ、その後ゴアの講演は、「不都合な真実」というドキュメンタリー映画として2006年に公開され、出版もされました。
ドキュメンタリー「不都合な真実」
<IPCC・AR5>
産業革命以降、人間は化石燃料を大量に消費することで文明を発展させてきました。そして現在、石炭・石油の燃焼や森林伐採によって、温室効果物質が大量に排出されています。
これらの人問活動が原因で、完新世の大部分を通じて約280ppm程度で安定していた大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は、21世紀初めには400ppmを突破しました。CO2濃度が増加すれば温暖化がもたらされることは原理的に明らかで、実際、過去の古気候変動においてもそうでした。
2013年~2014年にかけて発表された“IPCCの第5次評価報告書(AR5)”によれば、「人為起源の温室効果ガスの排出は、工業化以降増加しており、これは主に経済成長と人口増加からもたらされている。そして、今やその排出量は史上最高となった。このような排出によって、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の大気中濃度は、少なくとも過去80万年間で前例のない水準にまで増加した。それらの効果は、他の人為的要因と併せ、支配的な原因であった可能性が極めて高い」として、人間活動によって温暖化が生じていることを、科学的根拠を持って吟味した上で、結論付けています。
CO2濃度上昇の影響は平均気温の上昇にとどまらず、年平均降水量の変化(湿潤地域ではより降水量が増加、乾燥地域はより乾燥化か進むなど)、海面水位上昇、海洋酸性化、海氷・氷床の減少、永久凍土の減少、極端な気象現象(熱波、大雨、干ばつ、強い熱帯低気圧、高潮、洪水など)の頻度の増加、生物種の絶滅、生態系の遷移などをもたらすと予想されています。
その結果、食料や水資源の確保の問題、人々の強制移転の増加、経済成長の減速、貧困化などの社会的リスクも増大させます。なお、現在は間氷期で、いずれは再び氷期が訪れるはずですが、このままCO2が増え続ければ、少なくとも今後10万年間、氷期は来ないという研究も発表されています。
<IPCC・AR6>
さらに、直近の2023年6月に発表された“IPCCの第6次評価報告書(AR6)”では、以下のような結論を述べています。
(1) 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。
(2) 気候システム全般にわたる最近の変化は、数百年から数千年にわたって前例のないものである。
(3) 人為起源の気候変動は、世界中の地域で多くの極端な気象と気候にすでに影響を及ぼしている。
実は、IPCCはAR3で「ホッケースティック」と呼ばれる急速な気温上昇が見られると主張しましたが、AR5では撤回しました。ところがAR6では次図に示す「ホッケースティック曲線」が再度登場し、現在の気温は過去12万5000年で最高だと主張しています。
紀元後の地球上の平均気温変化推移(1850年の気温相対比較)(IPCC/AR6)
[人類の未来と気候変動(1)-3]気候危機は存在しない
<世界気候宣言>
はたして、地球は国連/IPCCのいうような気候危機に直面しているのでしょうか。世界の科学者が結成した「世界気候宣言」は、2019年に“気候危機は存在しない”という声明を発表しました。
2023年5月に発表された最新バージョンには、ノーベル物理学賞のクラウザー博士を含む1500人の科学者が署名しています。そのファクトチェックの対象は、IPCCの第6次評価報告書(AR6)です。
AR6は気候変動に関連する文献を網羅的にサーベイしていますが、気候危機をあおる上で都合の悪いデータは無視しています。この報告書は、このようなIPCCの確証バイアスを指摘し、その結論と合わないデータを挙げたもので、客観的で且つ科学的見地に立った報告書です。
<最高の気温上昇ではない>
世界気候宣言によると、「現在の気温上昇は人類史上初めてではない。木の年輪データによれば、中世温暖期を含めて何度も温暖期はあった(次図)。中世のCO2濃度は今より明らかに低かったので、これはCO2が温暖化の最大の原因だという IPCC のモデルとは矛盾する。」という主張をしています。
北半球の年輪から推定した地球の平均気温
(The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6)
「むしろ1850年までの小氷河期が異常に低温であり、これを“工業化後”として基準にするのはミスリーディングである。20世紀前半まで、地球の平均気温に影響を及ぼすような工業化はなかった。」と述べています。1.5℃目標を提言した2018年の特別報告書では「現在の温暖化は100%人為的な原因だ」と断定していますが、これは誤りです(AR6では撤回された)。人為的な原因とともに自然の変動もあり、人間が気候をコントロールできる余地は小さいのです。
<太陽活動と宇宙線の影響>
気温上昇には太陽活動との相関が強いのですが、その原因ははっきりしません。しかし、それは宇宙線だというのが有名な「スベンスマルク効果」です。太陽の磁場が強まると宇宙線が減り、宇宙線によってできる「低層雲」も減って、そのため、太陽光を反射する「日傘効果」が減って温暖化します。
逆に、太陽の磁場が弱まると宇宙線が増え、低層雲も増えて、太陽光を反射する日傘効果が増大して寒冷化するという説です。この相関は2000年代から崩れたようにみえたのでAR6は否定していますが、ノイズを除いた最近のデータでは、次図のように宇宙線と低層雲の量には強い相関があります。これは2019年に神戸大学の研究チームも確認しました。
宇宙線と低層雲の量の関係
(The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6)
ただし、地球への宇宙線の影響については、太陽活動だけが関係するのではなく、太陽系全体の宇宙線量の変化にも影響されるという論文が最近発表されています。太陽系は誕生以来、銀河系(天の川銀河)の中を移動していて、特に宇宙線量の多い銀河系の領域に入るたびに、太陽系内の宇宙線量が激増し、地球は全球凍結(スノーボールアース)や氷河時代を繰り返しているという仮説です。
<海水温も海面も上昇していない>
地上の観測には、都市の「ヒートアイランド現象」の影響が強くなっています。その特異データを他の観測点と平均するので、陸上の温度が高く出る「都市バイアス」があります。都市バイアスに無関係の海水の温度には単調な上昇はみられず、次図のようにエルニーニョの影響の方が大きいのです。
世界の平均海水温度の変化
(The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6)
また、紀元前400年から現在までのデータをみても、平均海面は中世のほうが高かったようです。特に、北半球では海面は下がっています。次図はストックホルムの海面ですが、これまで一貫して下がっているのに、AR6は2020年から急速に上がると(根拠を示さずに)予測しています。
ストックホルムの海面の変化・実測値とIPCCの予測
(The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6)
<異常気象も災害も増えていない>
次図はハリケーンやサイクロンなどの異常気象やその強度が増えていないことを統計値で示しています。また、別の調査ではアメリカの熱波も増えてはいません。実際には、何百年前、何十年前から地球上では同じような異常気象、災害が起こっていたにもかかわらず、近年になってそれらが激増しているかのように世界中が錯覚しているのです。
その一因が近年のSNS等の発達とマスメディアの報道です。SNSにより、20~30年前までは情報過疎であった世界の隅々から、異常気象や災害の報告がリアルタイムで拡散するようになりました。また、マスメディアの煽り報道もそれに輪をかけて誇張したものになってきているからです。
世界のハリケーン・サイクロンなどの発生頻度
(The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6)
<CO2量と気温は相関しない>
次図で、世界の気温とCO2排出量・濃度のグラフを、20世紀初頭から現在までを3つのステージに分けて比べてみますと、世界の気温上昇とCO2量との間に決定的な因果関係があるとは言えないことがわかります。なお、この図は、ちょうど、IPCC/AR6の1850年~2020年の「ホッケースティック曲線」を抽出・拡大したものとほぼ同じになります。
◇第1ステージ:CO2排出がほとんどなくても気温が上っている年代(CO2濃度:250~280ppm)
◇第2ステージ:CO2排出が急激に増加しても気温が上っていない年代(CO2濃度:280~340ppm)
◇第3ステージ:CO2排出がさらに増加して気温も上っている年代(CO2濃度:340~430ppm)
IPCCは1975年から2010年までの約0.5℃の気温上昇をCO2による人為的な上昇だと主張していますが(第3ステージ)、1920年から1945年にかけても、CO2量が低い値で推移しているにもかかわらず、ほぼ同じくらいの気温上昇があります(第1ステージ)。また、CO2が急増していた1945年から1980年の間は気温上昇がないばかりか、むしろ気温低下しています(第2ステージ)。これらの矛盾についてIPCCは明確な答えを出していません。
世界のCO2排出量と平均気温の推移(NeoMag編集)
以上が今月のお話です。1988年、IPCCによる提起と1997年の京都議定書の採択により「化石燃料による地球温暖化危機」がクローズアップされ、欧米を中心とした主要国も本格的な対策に動き出しました。同時に、マスメディアの報道や環境保護運動も活発になりました。しかしながら、他方では多くの研究者がIPCCの資料やデータの詳細な解析により、いくつもの「科学的疑問」を見出し、その結果「気候危機は存在しない」という「世界気候宣言」が結成されました。一体、どちらが真実でしょうか?
次回の本テーマ最終章では“人類の未来と気候変動(2)”として、「世界気候宣言」関連の追加資料・データの報告とそれらの考察および「人類と地球の未来」についてのお話を予定しています。
<参考・引用資料>
◆Web
「天文学的要因が左右する更新世前期の地球の気候と氷床量変動」国立極地研究所
https://www.nipr.ac.jp/info2023/20230515.html
「Global temperatures」Climate4you
https://www.climate4you.com/GlobalTemperatures.htm
「気候変動と文明の盛衰」小泉 格 Journal of Geography 116 (1) 62-78 2007
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/116/1/116_1_62/_pdf
「IPCC 第6次評価報告書(AR6)」気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html
「大気中二酸化炭素濃度の経年変化」気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html
「世界気候宣言“気候危機は存在しない”科学者1500人の声明」アゴラ 2023.07.19
https://agora-web.jp/archives/230719082758.htm
「THERE IS NO CLIMATE EMERGENCY」WORLD CLIMATE DECLARATION
https://clintel.org/world-climate-declaration/
「ノーベル賞受賞物理学者“気候変動は存在せず、自然変動でも大雨は増減”」ABEMA TIMES 2023.07.24
https://times.abema.tv/articles/-/10088703?page=1#goog_rewarded
「“地球温暖化防止”運動の暴走」IEEI(国際環境経済研究所)赤祖父俊一、田中博
https://ieei.or.jp/2020/06/opinion20060201/
「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07
https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf
「地球温暖化と温室効果ガスの検証(1)~(16)」NeoMag 通信バックナンバー 2020.03.01~2021.06.01
https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter202003.html
◆書籍・文献
「The Frozen Climate Views of the IPCC: An Analysis of AR6」Marcel Crock, Andy May (著)
「不都合な真実 」アル・ゴア(著)、枝廣 淳子(訳)、 実業之日本社文庫
「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房
「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院
「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版
「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店
「地球温暖化狂騒曲・社会を壊す空騒ぎ」渡辺 正(著)、丸善出版